殿下の画策

 あれから私は王子妃教育の為に、毎日登城することになった。


 王子妃教育と言ってもまだ4歳なので、王妃様からこの国の歴史や王家の色々、貴族とはみたいなお話を聞いたり、ジンハック公爵夫人から基礎のマナーを教えてもらっている。


 前の世界で16年侯爵令嬢をやっていたのだから、そんな話は頭や身体に染み付いている。


「ベルティーユ様はまだ4歳なのに素晴らしいですわ。私が一度お話したことを全て完璧に理解して覚えていらっしゃいます。どこかのどなたとは大違いですわ」


 私に王家に必要なマナーを教えてくれているジンハック公爵夫人は楽しそうに微笑む。


 確か前の世界ではジンハック家は中立だった気がするが、この世界では王妃派なのかな? 王妃様と近いようだ。


「シンシア、ベルちゃんはウィルがご神託を受けて選んだ妃なのよ」


 ご神託?


「左様でございましたか。殿下が神様からご神託を受け取られるようになってから我が国はあらゆる災難を回避できるようになりましたものね。神様が選んだお妃様なら優秀であたりまえですわね」


 ふたりは顔を見合わせてほほほと微笑み合う。


 ご神託ということにしたのか。


 殿下は起こる事がわかっているので先に手を打てる。


 いくつか神託どおりの事が起きれば、周りは信用するから、ご神託だと言えば大概の事が思い通りになる。アデライド様とジェフリー様の婚約もご神託にしたのかな。


 王子妃教育の後、タイミングが合えば殿下とお茶をすることになっているが、殿下は9歳なのに、ご神託と称し、色々な改革を始めているので結構忙しい。


 今日は久しぶりに殿下と会った。


「相変わらずお忙しそうですね」


「あぁ、側妃派を王妃派に寝返らさないといけないからな」


「そういえば、ジンハック公爵家は前の世界では中立派でしたよね。今は王妃派ですか?」


「うん。中立派は側妃派より取り込みやすいからね。元々夫人は母上と学園で友人だったし、ご神託と称して公爵を前の世界でグリーデン公爵が勤めていた財務の管理者に抜擢した。あの人は真面目で堅物だから賄賂も受け取らないし、国の財務を管理するにはぴったりだよ。それに今回のベルの王子妃教育に夫人が教育係になったから、周りは王妃派と認識しているだろうな」


「ご神託とは前の世界の記憶ですか? それとも本当にご神託?」


「記憶に決まっているじゃないか。それに、あんな神様に神託なんて出せる訳ないよ。一度死んで神とはどういう存在かよくわかった。人間は神という存在を勘違いしている。あれは文官みたいなもんだ。だから本当は教会なんていらないから潰そうかと思ったんだけど。まぁ、みんなの心の拠り所に残しておくことにしたんだ」


 殿下は9歳とは思えない口調で9歳らしからぬ事をズバズバ言う。


「前の世界では父上は側妃とアデライドにベッタリだったけど、今の世界では、私がご神託を聞く王子で、そのご神託でこの国に危機を何度も回避しているから、結構こちらよりなんだ。それに3年前の天災の時に母上を大事にしないから神が怒っていると言ったら父上はそれを本気にして、それから母上を大事にするようになったよ」


 国王陛下もご神託には勝てないようだ。


「しかし、陛下が王妃様を大事にするようになったら側妃様から文句がでないのですか?」


 殿下はふふふと笑う。


「側妃はヒステリーを起こして暴れているよ。侍女やメイドを気に入らないと何人もクビにしている。今はジンハック公爵が財務を取り仕切っているから、前の世界みたいに湯水のように買い物もできないしね。父上の耳にも側妃の愚行は入ってきているし、父上も嫌気がさしてきているようだ」


 私の記憶が戻るまでの間に殿下は色々画策したんだな。


 元々腹黒だったのが毒で動けなくて鬱々していたのだろう。今は身体も元気だし、腹黒全開だわね。


「アデライド様はどうしているのですか?」


 ちょっと気になったので聞いてみた。


「アデライドは前よりは我儘さはましだけど、努力は嫌いな怠け者だ。母親の影響かいやなことがあるとメイドに当たっているよ。父上にも疎まれつつあるようだ」


 きっと私に言ってること以外にも殿下は色々裏で手を回して側妃母子が孤立するように仕向けているんだろうな。

 私はけっして殿下は敵にまわさないと誓った。


「そうだベル、私達は婚約したんだからそろそろ殿下はやめてくれないかな?」


 へ?


「ウィルと呼んでくれないか?」


「ウィル様?」


「そう。それでいい。さぁ、チョコレートいっぱい食べて。これには毒は入ってないからね」


 殿下……じゃなかった、ウィル様は黒い笑顔でクスクス笑っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る