第24話 王女からの依頼

 ジリリリリリリーン、ジリリリリリリーン……。


 異世界の牧歌的な風景に似つかわしくない黒電話の音が裏庭に響く。

 木陰に吊ったハンモックで昼寝をしているコーヘイのスマートウォッチの音だった。


「……へい、こちらコーヘイ」


『あら、どうしたらよいのかしら、このままお話をすれば良いんですの? あ、突然申し訳ございませんわ。私、イデアでございますわ』


 タブレットと同じように、コーヘイの持ってきていたスマートフォンとスマートウォッチもLRと同期させることに成功したので、緊急連絡用として王城にスマホを置くことにした。顔を見ながら通話ができるはずなのだが、こちらから見えるのはイデアの前で段取りをしているだろうキャロラインだった。


「これはこれは、ご無沙汰をしております。姫様に置かれましてはご機嫌麗しゅう。できればお持ちの『スマホ』を裏向けてお話しいただくと、麗しいご尊顔を拝謁できますれば……」


『もう! 意地悪ですわね!』


 すこし膨れたイデアの顔が映る。


『そんな堅苦しいお言葉遣いでしたかしら?』


「はははは。で? 何かあったのか?」


『実は、ちょっとしたお願いがございますの』



「……ということで、ちょいとお遣いに行くことになった」


 裏庭に異世界チームと土地開発部のフォルミ、メイド頭のアキュラ、そしていつの間にかできていた狩猟組合の支店長と物流組合の支店長、という郊外開発地域の幹部を集めた中でコーヘイが口を開いた。


「留守は私どもにお任せくださいませ。害獣の駆除や農作物などの面倒も見させていただきます」


 フォルミが代表して発言をして、それぞれの支店長たちも頭を下げる。

 瘦せた土地という事でコーヘイが奮発して召喚した『有機肥料』により、植えられた農作物たちは驚くべき速さで成長していた。その大きさや量なども桁違いでフォルミも「精霊様に愛された土地」と太鼓判を押すほどであった。


「で、その『神の国』ってのは?」


「LRの衛星写真によると……」


 イプシロンがタブレットに映し出された地上写真と街道情報を重ねた図を見せる。

 魔王国周辺の地図であろう。西に山に囲まれたアープス、山脈を挟んだ南北にそれぞれ海岸線と深い森が広がる。西に進むと未開の森、獣人の住む国、砂漠、そして靄がかかっているような表示の場所が『神の国』と言われる場所だという。


「これほど精巧な地図があるなんて……」


 自らそれぞれの説明をしたものの、その精度に驚きを隠せないフォルミと現地の民である。そもそも、地図自体が国の最高機密であり、それを目にするような機会など民間人には皆無といってよかった。


「LRの高性能カメラを使っても撮影できない地域がある、という事ですね。フフフ」


 その精度は地面に落ちたコインに穴を空ける程度には信頼性があった。


「楽しくなってきやがった」


「あたしたちみたいに異世界から来た人間が住んでる可能性は大アリね」


「平和的にいきたいものだけどね」


「未知の文明に触れる貴重な機会でありますな」


『(=゜ω゜)ノ』


 今日も異世界チームは平常運転である。


「そういえば、この世界は貨幣ってどうなってるんだ? 魔王国のは他の国でも使えるのか?」


「異国の市場などでは使い勝手は良くないと思われます。一番簡単なのは貴金属を店で買い取ってもらって現金を得るという方法がありますが」


 フォルミに続いて、


「間違ってもコーヘイ様の『日用雑貨』を気軽にお売りになることのないように、とキャロライン様から仰せつかっております。そんなこともあろうかと……」


 机の上で丸まる黒猫と同じくらいの袋を2つ。


「片方は金貨、もう片方が銀貨が入ってございます。金貨1枚は庶民4人家族が10日豪華な暮らしができる程度、銀貨は100枚で金貨1枚と交換できます」


 大きい買い物をするときは金貨、それ以外は銀貨で、という事か。


「助かるー。キャロラインさんによろしく言っておいてな」


「承知いたしました」


 かくしてコーヘイ達異世界チームは再びまだ見ぬ土地を目指して旅立つのでありました。


『(=゜ω゜)ノ』


 ナビはバッチリとのこと。

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