第23話 ミズキさんとLR

 ドーーン。


 良く晴れた日の午後、遠くで爆発音。格子状にラインの引かれた地面の一角に丸い穴が開く。


「むむむ、なかなかやるじゃないの」


 中空高い場所に浮遊しながら、ミズキが腕を組み難しい顔をしている。


「それならー、……ここだ!」


 手を頭上にかざすと巨大な火の玉が現れ、地面に放たれる。


 ドーーン。


 先ほど空いた穴の横が丸く燃えて黒い跡が残る。

 すぐさま、轟音と共にさらにその隣に丸く穴が開いた。

 並んだ5つの穴を超々高度からのレーザー照射が直線を描いて結ぶ。


「また負けたー。もう、今日はやめだわ。明日こそはおぼえてらっしゃい!」


 悪態をつきながらミズキは畑の予定地を後にし、ふらふらと家へと飛んでいく。

 長らく耕作放棄されていた地表は硬く荒れた状態になってしまっていた。

 一度、掘り返すのが早いという結論に至ったコーヘイが考えたのが、地球でいわゆる『五目並べ』を地面で直接やってもらおうというものだった。

 これにハマったのが思考実験に飢えていたミズキ。とはいえ魔法使いを極めた頭脳相手にはあっという間に誰も勝てなくなってしまい、早々に企画倒れかと思われた。そんな時に名乗りを上げたのが衛星軌道上の新しい仲間、LRだった。

 そうして、ここに世界で最も物騒な『地上掃射用レーザー対爆炎魔法の五目並べ勝負』が日々繰り広げられることとなったのである。


「お疲れ様であります」


 裏庭のベースキャンプではエプロン姿のカリスが『パンケーキ』を焼いているところだった。テーブルの『タブレット』には、


『(=゜ω゜)ノ』


 と、大きく表示されている。


「はいはい、お疲れ様」


 と指で軽く弾く。


 先日、カリスとイプシロンがコーヘイから提供された、『タブレット』といういろいろと映る板のような物をなにやらいじくりまわして、LRと交信できるようになりました、と見せられたのがこの『顔文字』という表示。はるか天空高くにいる存在と意思の疎通ができているのだ。

 『科学』を信じるなんて、と思ったこともあったが理論体系が違うことにより起こりうる事象は異なるのだという事を目の当たりにした今では、コーヘイの大好きな『ふわっと』という表現にも慣れてきていた。


「他のみんなは?」


「コーヘイ殿とイエラキ殿は街まで買い物に行かれました。下の購買所ではまだ扱っていないものなのだそうで。オーガスト殿とイプシロン殿はハンター組合に行かれたのではないかと。いつぞやの報酬計算ができたと組合の方がいらっしゃっていましたから」


「はー、平和ねー」


 ディレクターチェアーに深く腰を下ろして一息つく。


「畑の方はどうなんでありますか?」


 分厚く焼かれたパンケーキが三枚重ねられ、ドーム型のアイスクリームとメープルシロップがトッピングされた状態でミズキの前に置かれる。


「やーん、カリス大好きー。……あー、はふふぁふぇふぁふぉろふおぉろええあんじやないああ」


「食べ終わってからで大丈夫でありますよ。しかし、畑の整地が終わってしまうと『五目並べ』ができなくなってしまいますね」


『Σ(゜Д゜)』


「ふぉんふぉら!」


 失念していた。折角知った娯楽が終わってしまうなんて。


「ふぇーん。ふぁりふー」


「あー、よしよし。食べるか泣くかどっちかにしてほしいでありますが、少し寂しい気がしますね」


『(T_T)』


「なーに騒いでるんだよ、お前らはよ」


 両手に袋を下げたコーヘイとイエラキが顔を出す。


「そろそろ畑もいい感じだろ? 苗を買って来たんだー。良いぞーこれは」


 ジャガイモ、トマト、キュウリなどの野菜のほかに果樹の苗もいくつか選んできていた。


「ちょっと、聞いてよ。『五目並べ』ができなくなるのー。LRと遊べなくなるー」


『(ノД`)・゜・。』


「そんなことで騒ぐんじゃありません」


「だってー」


「LR。アプリケーションっていうヤツの中、見てみろ」


『(*'ω'*)』


 白と黒の丸い表示のゲーム画面が開く。

 時間つぶし用にいろいろなゲームを入れておいたのだ。一人でやってもつまらないのでほとんどやったことはないが、AIの親玉のような物とつながっているのだ、そこそこ遊べるに違いなかった。


「はあぁぁぁ。カガク凄い!……でも、これなんか違うくない?」


 白い表示の両側に黒を置くと黒くなるのだ。


「コーヘイ、これ……」


「あー、これはリバーシといってだな……」


 しばらく後に二つは商品化されチェントロの街に広まることとなるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る