第21話 異世界チーム、異世界デビュー

「はー、凄いもんだ」


 良く晴れた昼下がり。

 大通りをオーガストの戦闘車両とコーヘイのバンコンがゆるゆると進む。

 行きかう人々はまるで気が付かないかのように、しかし全員が器用に避けていく。

 自称・超絶美少女魔術師のミズキが作成した認識疎外の護符の効果であった。


「もうちょっと急いだほうが良いわ。時間切れになっちゃう」


 実は諜報活動員だったと自ら白状したキャロラインが目の色を変えて原理の教えを乞うていた、「発動中は近くにいる人間の記憶の中からもその存在を消してしまう」という魔法はその絶大な効果と引き換えに継続時間が限られていた。


「イエース、マーム。あー、ここに入ればいいんだな」


 大通りを西に向いて曲がる。

 人通りが少なくなったので速度を上げると、すぐに建物がまばらになり農耕地域へと入ったことが分かった。チェントロに滞在するにしても2台の車両は目立ちすぎるので、オーガストたちは市街地に用意された物件を断り多少不便だがある程度自由の利く郊外の滞在場所を希望した。ついでにいうならコーヘイがやりたがった『家庭菜園』というものに興味があったのも理由のひとつである。

 少し小高い丘の上に建つ、ちょうど中が見えない程度の高さがある生垣にかこまれた大きなログハウスのような建物。戦闘車両を眺めの良い市街地側に停車させ、コーヘイのバンコンは裏庭にベースキャンプを張った。


「良い所じゃないか」


 物置と井戸があり、人が通れる幅の生垣の切れ間からは畑に出られるようになっている。


「しかしなぁ、郊外とは言ったが市街地までそこそこあるぞ」


「そんなに飲みに行きたいのかよ」


「それもあるが買い物をどうするかっていうのと、物資をこれからも王城に分けてやるんだろう?」


「なんとかする、とカルブンクルス王は仰っていましたがね」


 その日の午後になって丘から見下ろす道沿いに数軒の建物が立ち始め、男女二人の訪問があった。


「王命により参りました、フォルミと申します」


 真面目そうな青年だった。緑がかった銀髪は植物の精霊の加護による物で、それ故に農業関連の開発などを任されているのだとか。


「こちらに出張所を置かせていただきまして、王城との連絡係、周囲の警戒、身の回りのお世話をさせていただくなどの人員の駐留と、何かしらを扱う店などをさせていただくこととなります」


「こちらはキャロライン様からの紹介状でございます。お掃除や洗濯などの身の回りのお世話をさせていただきます」


 アキュラと名乗ったメイドの責任者である彼女もまたキャロラインの部下なのだろう。連絡が密に取れるというのは便利でありがたいことである。


「昼と夜、1日2往復で馬車を運行させる予定としております。街に出る際はそれをご利用いただければと思います」


「それはありがたいね。買い物とかできるし」


「あと、市街地とは逆方向にしばらく進まれますと西の城門がございます。城壁の外の森や荒れ地などには魔物や凶暴な野生動物がおります。狩られたものの買取なども行いますのでお気軽にお声掛けくださいませ」


 丘を降りていく二人を見送りながら、


「腕が鳴るなぁ、イプシロンの」


「ですね。明日あたりサクッと行ってきましょうか」


「私も―」


「僕はコーヘイ達と『家庭菜園』をやるよ」


「美味しい野菜を作るのであります」


 かくして異世界人の異世界での生活が始まった……が。


「なんで村みたいになってんだよ」


 1週間ほどで小屋が立ち始め、2週間目で酒場と狩猟組合の支部ができた。


「いやぁ、なんでだろうなぁ」


「不思議なこともあるものですね」


「……全部アンタたちのせいじゃないの。『丘の上のダンナたち』って目立ち過ぎじゃない?」


 ともあれ、楽しそうで何よりである。

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