第20話 レベルアップという考え方

 久しぶりに夢を見た。

 外だ。どこかのキャンピング場かもしれない。

 焚き火を見ながら誰かと話しつつ、もう一人の自分がその光景を見ているという不思議な視点だった。相手は女性で、でも顔は不思議と分からない。何かを話しているが内容は全く頭に入ってこない。なんとなく今の暮らしが楽しいかというような話だったような気がする。


「新しくするならキャンピングカー? それともカーゴ?」


「あー、キャンピングカーは気に入ってるからなー。宝くじ当たったらカーゴをもっと豪華なのにしてもいいな」


「そうだねー……」 


 こんな風に女性と二人でキャンプに出る日など来るのかな、などとつまらない事を考えてみる。

 空を見上げるとまぶしい太陽が輝いていた。


『まぶしい』


 もう日が昇ってしまったか。久しぶりに寝坊したかも、寝ぼけた意識のままそんなことを考えた。しかし、身体はまだ十分な休息を摂っていないという信号を出す。

 違和感を覚えてコーヘイは目を覚ました。

 先ほど感じたまぶしさはどこにもなく、テントの中はまだ暗闇に包まれていた。


「なんだよ、まったく……」


 枕もとのLEDランタンを灯して上半身を起こすと、テントの外に気配を感じた。


「コーヘイ殿、起きているでありますか?」


 声の主はカリスだった。


「良いぞ、どうした?」


「お邪魔するのです」


 紺色のジャージのハーフパンツに白のTシャツ、ピンクパールの長い髪はザックリとした三つ編みで一つにまとめられていた。普段とは少し違う雰囲気に少し身構えてしまった。


「どうしたんだ、こんな早くに?」


「あ……あの、えーっと」


 と、入り口部分でモジモジしている。

 コーヘイは軽く息をついて立ち上がると、


「まー座れよ。コーヒーでも入れるわ」


「き、恐縮です」


 折り畳みのベンチに腰を下ろす。

 コーヘイはポットから湯を注ぎインスタントコーヒーをさっと作る。

 保温マグを渡しながら、


「で、どうしたんだ?」


  できるだけ、落ち着いた声を意識してベッドに腰掛ける。


「あの、胸がどきどきして……」


 マグに口をつけ、


「コーヘイ殿のセイでありますからね」


 これは……。


「なにがだよ」


「教えてほしいんです」


「俺が?」


「コーヘイ殿でなくてはダメなんです」


 もしかすると……。


「……表の四角い箱が何なのか! ぜーったい新しいコーヘイ殿の新しい何かですよね!!!」


 だーよーなー。って、それよりも!


「おい、表の箱ってなんだよ!」


 少しでも浮ついた気持ちになった自分に突っ込みを入れながら外に飛んで出る。

 すでにみんなは勢揃いしており、コーヘイの登場を待ちわびていた。


「よーぉ、コーヘイ。お前さん、また何かやらかしたのか?」


「見たところ、前までのカーゴが変形したように思えますがね」


「もう別に驚かないわよ」


「まー。コーヘイだし」


 好き放題言ってくれている。

 とはいえ、コーヘイも初めて見るシロモノなのでみんなと内覧することにした。 


 『白い四角い箱』と形容するのが一番しっくりくる形状である。

 左右には開閉はできないが小さな窓があり、左前方に出入口があった。内部は白っぽい壁と天井、床は黒くゴムのような素材になっている。温かい色合いの灯りが天井から照らされ、その広さはゴツいオーガストとイプシロンが背伸びをして立っても、二人並んで寝転がっても余裕な高さと幅、長さがあった。さらに後部がリアハッチのように外へと倒れ、そこから物資の搬入などができるようである。


「俺の世界のお話の中には『レベルアップ』という概念があるんだが」


「それは我々の『称号』が変わっていっている、あの現象と同じような物なんでしょうか?」


「みんなの中にも何かしらの変化があるんじゃないかと思うんだがな、と」


「そういえば……」


 心優しき巨人のイエラキが、


「夢の中で雷の光線と癒しの光のどっちが大事か聞かれて、癒しの光と答えてから効果が上がった気がするんだよね」


 コーヘイのカーゴとイエラキの回復はその使用回数が格段に多く、ゲームや漫画の知識的な話でいうと使用頻度の習熟度では確かにレベルアップする基準を越えている。


「すると何か? 俺たちの装備も使ってりゃグレードが上がったりするってことか?」


「可能性はあるわよね」


 俄然、戦闘民族たちのテンションが上がる。


「俺ぁな、一個増えてほしいのがあるんだよな」


「私もそうなんです」


「「非殺傷武器」」


 仲良く握手した。


 無限に撃てるマシンガンと途切れぬレーザーライフルはこの世界では過剰兵装過ぎるのだ。無駄な殺生などせずに済むならそれに越したことはない。


「という訳でカリス嬢にゃ申し訳ないんだが、しばらく頑張ってみたいんでな。同僚を助け出すってのはちょいと後にしてもらってもいいだろうかな?」


「もちろんでありますよ!」


 それよりむしろ彼女は新しいカーゴの使い道の方が気がかりであった。

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