第14話 コーヘイ、英気を養う

「着いてみたらあっけないもんだな」


「もっと、こう、巨大生物との激闘なんていう物を期待したんですがねぇ」


 と、城の中庭にキャンプを設営しながら笑いあう戦闘部隊は本日も物騒である。

 使われていない平屋の兵舎と井戸のそばという絶好のテントサイトを提供されたのは、彼らの存在自体が超国家機密であるが故の事で、それはすなわち城から外に出ることが叶わないことを意味していた。


「それはそうと、俺たちはいつまでここに居ることになってるんだね? 隊長殿」


 ディナーの主役になる牛肉ブロックに塩コショウを振りながらコーヘイ。


「俺としちゃぁ、今夜にでもお姉ちゃんたちのいる店に脱出したいと思うんだがな」


「どうも謁見をしなくてはならないようです」


「謁見? 国王とはビーチフラッグスやった仲だろ?」


「こちらにも、まぁ、当然ですが指導者といいますか王族がいる訳ですよ。ただ……」


「ただ?」


「あの一件から街を守ったおかげで、現在お眠りあそばされているそうなん、だ」


 イエラキが投げ、少しそれた缶ビールをキャッチする。


「ほぅ、強力な防御結界を張ったわけか。さしずめ大司教か聖女ってところだな……なんだよ」


 オーガストが驚いたような顔をして見せる。


「お前さん、平民だとか言いながらたまに凄いこと知ってるな。その通り、聖女プラテネス第一王女殿下だそうだ」


「俺の国はな、何にも起こらない代わりに『もし起きたらどうなるか』なんていう話が山ほど書かれとるのだよ」


「起こっていない現象をどうやって?」


「想像して書く。おかしいところは経験したことのある奴が修正する」


「まさか! 手の内を見せてどうするんだ。間違いはそのままにしておけば良いだろうに」


 戦いの世界から来た4人は揃ってうなづいた。


「あー、なんていうか。そうだな『仮想シミュレーション』っていえば伝わるか? 実際には起こっていない状況を仮想的に体験できる、ってやつだな」


 頭に????というマークを浮かべる魔女っ娘をひとまず置いて、


「それを一般的な生活とか違う場所での違う状況をシミュレートして、それを文字に起こした物を『読み物』というんだが、あんたらの世界にゃ『娯楽』とかはなかったのか?」


「そういったものは私の世界では一部の特権階級の物でしたね。平民は明日食べる物にさえ困っていましたし、文字を読める者も多くはいませんでしたから」


「まずは生きることを目指していた生活だったからなぁ。そういう意味ではこの世界はとても魅力的だよね」


「だからこそ中途半端にこの穏やかな生活にちょっかい出してくるアープスとかいう連中が許せんのだよな」


 この地に穏やかな生活を取り戻すことが、いつのまにか自分たちのためになっていた。

 そのためにも……。


「ドワーフのお姉ちゃんたちの救出作戦をどうするか、だな」


「そうなんでありまスぅ」


 様々な異世界のアイテムに触れ興奮しすぎたカリスは冷えたタオルをおでこに乗せて伸びていた。


「ま、今日明日でどうこうなる話でもないし、とりあえずはここに腰を落ち着けて『英気を養う』だ」


「なんだそりゃ?」


「美味いもん飲んで食っていつでも動けるようにしとけ、ってことさ」


「素晴らしい言葉だ」


 さすがに王城に到着したという事でお祝いも兼ねて、洗うのが面倒なのであまり使っていなかった大型バーベキューグリルを使う事を決心したコーヘイであった。


 そも「バーベキューとは」という話になると、日本で行われているのは焼肉だ、いやさ蓋が付いているだけでは変わらない、などと割とこだわりのある論戦が繰り広げられる調理法であるが、元々の語源でいうならば『数時間以上じっくりと火を通した丸焼肉』という事になる。硬くて食べにくい部位を、火力の上がらない安い炭で蓋をして低温で長時間蒸し焼きにすることで非常に柔らかく食べやすくなるという、アメリカの開拓時代の知恵である。


「おお! 今、俺の役職が変わった!」


「なんだ? 使える奴か?」


「ピットマスター(バーベキュー専門調理人)だ! 今宵の肉は一味違うぞ!」


 こちらに来て一番の肉を味わい、のちにイデアからとても羨ましがられてしまう一行でありました。

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