第13話 これからの身の振り方を考える
「しかし、この『自動車』という物は本当に快適でありますな」
「こっちは凄く快適。あっちはずーっとガタガタして乗り心地サイアクだしうるさいの」
ドワーフ娘と戦闘車両に飽きた魔法少女が初めて乗るバンコンの感想を述べる。代わりにヴィロスがあちらに移動したため、二人掛けソファにイデアとキャロライン、一人席にミズキとカリスがそれぞれテーブルを挟んで向かい合わせで座る。食事が食べられなくなるからスナック菓子は1袋までというキャロラインが決めた厳しい戒律がありながらもドリンク飲み放題の車内は和気あいあいとした女子会の様相を呈していた。もっとも、主な話題は「魔素のマナ変換の効率化」「上位精霊の存在と魔力量の関係性」「異世界の文明レベルについての意見交換」などといった色気を毛ほどにも感じさせない物であったが。
「しかもこの『ツナギ』がまた素晴らしいのであります」
上半身部分を腰に巻き付け袖で縛り、白Tシャツ姿で伸びをする姿はまるでロボットや戦闘機などを整備していそうなメカニック娘である。
「素晴らしい技術でありあすよ。燃える水を何種類かに分離して、さらにそれをもう一度混ぜ合わせた物から作られているなんて」
「ドワーフの鑑定眼はそこまでお判りになりますのね」
「含有量の分かる者、その物の持ち主が見える者、自分のように材料と製造工程が分かる者、その内容は様々と聞いております」
「へー、俺も名前とかどういう物かと値段とか急に分かるようになったんだけど、それも鑑定眼って奴なのか?」
コーヘイがミラー越しに、なんとなくつぶやいた言葉に車内の空気が少し変わった。
「コーヘイ殿……あ、いや、異世界の方ならそうなのかも……」
「ん? どうしたんだ?」
「鑑定眼はドワーフ族固有の能力ということになっておりますの」
「そうなのか……なるほどなー」
実は人物の能力なども一部認識できるという事は内緒にしておこうと思った。
「ねぇコーヘイ、何かの職業というか、そういうのに『なった』みたいな感覚ない? 私はこっちに来てから『魔法使い』から『魔術師』っていうのになったみたいなんだけど」
「おー、あるある。はじめ『キャンパー』って奴で、今は『森林警備員』っていう自覚? みたいな感じ」
キャンパーというクラスを意識したころに弓の精度や獲物の居場所の把握ができるようになり、最近になって周りの草花の名前や効果が分かるようになったのだ。
「……あまり外でいうお話ではありませんわね。お二人とも、このことは皆様方だけの秘密にされるのがよろしいかと思いますわ」
森くを抜けるとそこは小高い丘の上。彼方に大きな湖と高い塀に囲まれる街並みが傾きかけた太陽に照らされていた。
魔王国の経済の中心、大陸でも有数の規模を誇る中央都市『チェントロ』。
「そういえば、コーヘイ殿たちはこれからどうするんでありますか?」
特に何も考えてはいなかったが、最近、人に喜んでもらえることに気持ちよさを感じていた。元々、人から当てにされるのは嫌いではなかったし、この異世界で何かの役に立てることがあればやってみたいという気持ちもある。
「私からのお願い……と申しますか、希望を言ってもよろしいでしょうか?」
「あんまり難しいのは勘弁してくれよ」
「カリスさんのお力も借りなければならないのですが、コーヘイ殿の異世界の文明を魔王国に広めたいと思うのですわ。衣類もそうですし、何よりも……その、お食事を……」
魔王国の王女は俯き顔を赤らめる。
「はははは。何がどれくらいできるか分からないけど、頑張ってみるさ」
「それには自分も大賛成であります。……それをやるにはアープスに残っているドワーフたちに手伝ってもらうのが早いのでありますが」
「じゃぁ、まずはお仲間奪還作戦ね!」
物騒なことには俄然やる気を出す爆裂娘が歓声を上げた。
「よしよし、とりあえずは街についてから作戦会議をするということで。今夜はこの辺で野営だろ? 晩御飯は何にするんだ?」
「「「「カレーライス」」」」
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