第12話 新しい仲間
「いやー、本当に助かったのであります」
非常に衰弱した状態だったものの、イエラキの癒しの光とコーヘイの栄養ドリンクで見違えるほど回復したドワーフの娘はカリスと名乗った。アープスで魔道具の研究をさせられていのだという。
もっと樽のような体形の種族というイメージを持っていたコーヘイにとっては意外だった。身長はイデアと変わらず、ガッチリとした体躯は格闘技をやっているようなそれである。ピンクがかった長い髪を無造作に大きく三つ編みでまとめているあたり性格がうかがい知れた。
「自分、魔道具の精密加工を得意としておりまして、その腕を買われて皇立魔道研究所に雇われて行ったんでありますが、もう扱いが戦争捕虜のような状態でして」
カハハと笑うがなかなかの経験をしていた。
「2年と1004回の作業の後、えらい事実を知ってしまいまして、まずは自分がここから脱出して助けを呼ぼうと」
「なんだ? その1004回ってのは?」
「あー、2年目以降はアープス民の同僚たちと隔離されて独房のようなところと作業場で生活しておりましたもので、月日の感覚がなくなっております」
「延べで6年半はアープスにいたことになりますわ。つまり、4年間は独房生活でしてよ」
アープスに行った月からイデアが逆算し驚きの声を上げる。
「まー自分たちは地下や洞窟が苦にならないタチですから、10年もすれば状況も変わるかなと思っておりまして」
長命種特有ののんびりした生活設計である。これに楽観主義が加わると怖いものはない。
「そうそう、そこで魔結晶の研究もやっておりましたが、これは軽く説明しますと魔物の血液を凝縮させて結晶化させるのですが、実はより強い物を作るのに……」
「魔族やほかの種族を使っていた、ですわね」
苦々しく口にする。
「ご存じでしたか、姫様」
そこまで一気に話をしたドワーフ娘のお腹が元気よく鳴いた。
「たははは、面目ありません。あちらでは碌なものを口にしておりませんで。もし可能であれば何か……」
と、あたりを改めて見回してコーヘイ達の快適アウトドア環境が目に入ったのだろう。
「何でありますか! あの! おそらくは乗り物は! それに! この!」
「まー、落ち着けって。飯食ってからでも逃げやしないから」
はわわわー、という感嘆の声をコーヘイは初めて実際に聞いた。カレーのレトルトとパックご飯を温める間、様々なギアたちをまじまじと見つめては歓声を上げるドワーフの技師の姿が。体調に問題はもうなさそうだった。
「はー、皆さんもご苦労なさったんですな。しかし……これならまっとうに召喚して助力を乞うた方がアールヴとしては驚異だったのではありませぬか?」
「そこだけはアープスに感謝をしているところですわ」
「これからは自分も微力ながらお手伝いさせていただきます。残る同僚もおります故」
「分からんことがひとつあるんだが」
「自分で分かることであれば」
「何でアンタたちみんなで逃げようってならなかったんだね? その気になればイケただろうに」
「いやー、自分たちは初めに2年間アープス人とも一緒に仕事をしておりまして、非常に仲良くしていただいたのです。独房に移動する際に分けられて、彼女たちも別の作業場で労働をすることになりまして」
少し遠くを見つめて。
「最近は面会する機会もなくなっておりましたが、初めの頃はお互いに辛い作業だけど頑張ろうね、などと励ましあっていたのでありますよ。彼女たちがいるので自分たちだけが脱出するわけにはいかなかったのであります」
オーガストはイプシロンとうなづきあう。
「お嬢さん、恐らくですがそのアープス人たちは過酷な作業などはしておりませんよ」
カリスが驚いた顔で二人の軍人を見た。
「多分、アンタたちが逃げ出さないための人質役としてアープス側から選ばれた人間だな。面会の日以外はキレイは服着て日の下で楽しく暮らしているさ」
「まさか……」
ひざを抱えて顔をうずめる。何度も大きく息をして、鼻をすする音が聞こえた。
「良かった! では、自分たち以外に辛い目をしている人はいなかったという事でありますな」
目を真っ赤にして、
「安心したら小腹が減りましたが、何かもう少しありませぬか?」
賑やかな仲間がまた一行に加わったのでありました。
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