第2話 腹が減っては戦どころか生活ができない
カーテンの隙間から差す陽光にまぶしさを覚えて彼は目を覚ました。
いつの間に移動したのか車内のベッドに寝ていた。あの高さから落下した割には壊れた個所は見当たらない。
「神様? のお蔭かねぇ」
顔の前で十字を切って題目を唱えてみせた。
外に出て目に飛び込んできたのは石造りの建物と、明らかに外から持ち込まれたと思われる金属の破片などが入り混じった廃墟の街だった。所々はまだ煙を上げ、周囲には焼け焦げた匂いが漂う。降り立ったのは広場のような場所だった。崩れる前は大きな噴水だったのだろうオブジェがあり、足元はひび割れだらけだが白い石畳が敷き詰められている。
「君も落ちてきたのか」
ふと後ろから声がした。
慌てて両手を上げて振り返ると、グレーの迷彩姿が瓦礫の上に立っていた。ゴーグルとマスクを装備し、構えてはいないが口径の大きそうな銃器を携えている。
「落ちてきた、とはまさにその通りだな。アンタもかい?」
「あぁ。ベルニアという所で軍部に所属している……していたと言うべきかな。オーガストだ」
「俺はコーヘイ。所謂ところの民間人だ」
「了解した。この先に生き残った連中たちがキャンプを張っている」
「乗ってくかい?」
親指で愛車を指さす。
「動くのか?」
「特注でね」
「案内しよう」
10分ほど走らせた大きな屋敷跡が目的の場所だった。
車中でのオーガストとの会話で分かったのは、コーヘイ自身が3日程度眠っていたことと、思っていた通りみんな様々な世界からやってきている事くらいであった。あとはオーガストの車についての質問で終始してしまった。ただのキャンピングカーに驚き過ぎである。
キャンプで紹介された生き残りは総勢が50人ほどで『落ちてきた者たち』はコーヘイを含めて5人、残りは国の要職に就く貴族や兵士たち。なんでもこの災厄を事前に告知しておいたために民間人の多くはこの街を離れているのだそうだ。
「あれだけ落ちたのに、生き残りが5人だけか……」
オーガストに缶ビールを渡しながら。
「まぁ、そう言うな。ここに来る前に大いなる存在に願いを聞かれただろう? 生き残らなかった連中はそこで生存に関することを願わなかったんじゃないかと思っている。ほぉー、これは凄い!」
ゴーグルとマスクを外して缶ビールを流し込む姿は、ただ声が良いひげ面のおっさんである。
「これだけでは正直、日々を生きるだけで精一杯な気がしますね。しかし、貴殿の国のバッテリーは素晴らしい。」
イプシロンと名乗った半身がメカギミックの銀髪インテリ眼鏡戦士はビールではなく、ポータブル電源からコードをつなぎ給電していた。付属のソーラーパネルを何枚か展開させるだけで2時間でフル充電が可能な優れものである。
「敵は人間っぽい種族で、自分たちが一番偉いという主義のようですね」
オレンジジュースをチビチビとやっている気の弱そうなイエラキという青年は、20メートル近い巨人になることができるのだそうだ。というよりも今のサイズが仮の姿だという。特撮のレジェンドに比べると見劣りはするが、機動兵器と考えるなら十分なサイズ感である。光線も出るらしい。
「本っ当にムカつくわよね。ルールのない戦争なんて虐殺以外の何物でもないわ! あ、このチョコのはもうないの? あー、へこむわー」
怒りに任せてシュークリームを頬張るのはミズキという魔法少女である。ステッキ一振りで周囲を炎の海に変える事ができるという話だが、ステッキを失ってしまっている今はただの賑やかしだった。
「今、失礼なことを言われた気がしたわ」
「気のせいだな。ほれ、このイチゴのも美味いぞ」
「わーい」
屋敷の中にいてもやることがない異世界チームは少し離れた場所に、コーヘイのバンコンとオーガストの機動戦闘車を中心としたベースキャンプを張ることにした。
塀だけ残る石畳だけ残る屋敷跡。車両の頭を突き合わしてL字に停めた内側にバンコンからサイドオーニングを伸ばし、テーブルやいすを配置。簡易のミーティングスペースだ。その奥にオーガストの軍用テントとコーヘイの6人用テントをミズキ用に並べて設営した。シャワーなどはコーヘイ車両の後部ハッチを開けて使用できるし、少し狭いがトイレも簡易ウォシュレットで使用可能となっている。
状況が状況でなければ非常に整ったグランピング環境であった。
「あとは食料だよな。いくら設備があってもどこかで調達してこないと」
一夜明け、コーヘイが朝食の支度をしていると、
「コーヘイ殿、申し訳ありません。昨日からバッテリを借りっぱなしで……」
イプシロンが申し訳なさそうに返してきた。
「充電できたかい? また要るようになったら言ってくれよ」
車に戻そうとすると、元あった場所にはポータブルバッテリーがすでに置かれていた。
「? ……!」
慌てて冷蔵庫の中を覗く。
なんと、飲み散らかしたはずのビールやミズキに食い尽くされてしまったはずのシュークリームが元に戻っていた。
「これは……」
『壊れたら【元に戻る】』効果……!?』
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