第3話 「生き残ること」と「生きること」は違う
「なるほど。【元に戻る】か」
オーガストが焚き火を眺めながらコーヒーメーカーで淹れたての良い香りのする液体を口に運んだ。顔に似合わずミルクと砂糖多めのカフェオレである。
「俺は【怪我と病気をしない身体】と【尽きない兵装弾薬】だ。酷いところと聞いていたからな、まずは生き残ることを優先した。なんとなりゃ雑草でも食うつもりだったがゾッとしねぇな」
そう言ってガハハと笑う。
「私も同じ理由で【壊れない身体】と【尽きない弾薬】ですからね。壊れないのは良いですが機械部分の充電が尽きるところでした」
イプシロンはブラックだった。身体にはあまり必要ないが本能的な欲求と脳に対してのリラックス効果があるのだとか。
「僕は大気圏内では元の大きさになるのに制限があるのですがそれをなくしていただきました。【活動限界解除】と一日一回の制限をなくす【回数解除】です」
イエラキは猫舌なのか氷を入れたアイスコーヒーを希望した。大きい状態では大気圏の突入も可能であるがゆえのペナルティなのだろうか。
「アタシも【無限魔力】と【効果増大】をお願いしたんだけどステッキが負荷に耐え切れなかったみたいなのよねー。ホント災難だわ」
伝説のなんとかウルフもかくや、という超絶魔術の能力もステッキがなければポンコツである。
「今……」
「クリームパン食べるか?」
「ぃやっほーー」
とはいえ膨大な魔力のお蔭か通常の魔法レベルであれば使用できるというのだから大したものである。
「あと【カーゴに必要なものを満載】って言ったんだけど、空のままなんだよな」
すこしションボリしながらコーヘイ。
「はははは。願いが大雑把すぎたんだろうさ。【元に戻る】だけでも十分反則みたいなもんだ、気を落とすなよ。さー、俺んじゃないが、もう一杯飲め飲め!」
取り急ぎ、便宜上のリーダーをオーガスト、サポートをイプシロンに。街の復興を巨大化したイエラキと土魔法でゴーレムを生成できるミズキが手伝う、コーヘイは生活面のサポートをしつつ数が増やせるものを調べるという当面の役割分担が決まった。
「……まー、予想通りだな」
翌日、半ば呆れながらのオーガストたちの前には車載されていたほとんどの備品が『余剰分』として積み上げられた。食材はもちろん、寝袋やテント、ティッシュペーパーや何故か紛れていた生理用品、電子レンジや70リットルの軽油まで。これはオーガストの機動戦闘車も同じような燃料で動くので非常に喜んでいた。
反対にタイヤやシート、室外機を伴うエアコンや屋根に設置されたソーラーパネルなどは朝になると元の場所に設置されていた。
これは「載せた物」と「乗せた物」の違いだろうと皆で結論付けた。
「『ポータブル電源』や電化製品に関しては私たちに管理させていただいてもよろしいでしょうか? あちら側の人間たちとの重要な交渉材料になります……といっても現状は我々に頼らねば復興は難しい状況ですのであまり必要性はないかもですがね」
「んなら、アレだ。消耗品はお嬢に任せちまったほうが良いな」
「そ、そうね。それがありがたいわ」
とある映画監督に、工業製品としては究極のレベルにまで到達しているといわしめた日本製の女性用アイテムを含めた日用雑貨はミズキの管轄に。イエラキは物理的な復興を手伝うので現場の管理などがその役目となった。
食材などで温度管理が必要なものはミズキに手ごろな倉庫などに氷魔法をかけてもらって対応する。
「しかし、俺も武装がないというのは心許ないんだけどな」
「まったく、護身用の銃すら持っていないというのは、余程平和な場所だったんだな、コーヘイの世界というのは」
「世界っていうよりも、俺の国が、だよ。死因の多くが病死だからな」
「病で死ねるというのはうらやましい限りだ。ま、これでも持っておけ」
オートマチックの銃を渡され、軽いレクチャーを受けた。
「狩りをするのに拳銃ってのもな。弓くらいが俺には丁度いいな。あと、害獣用の電気柵とかさ」
「職人たちがが戻ってきたら作ってもらいましょうか」
「で、朝になったらカーゴトレーラーにこれが乗っていた……ということですね」
テーブルの上には上下に車輪のついた複合式の弓と矢のセットとソーラー式の害獣用電柵が。
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