バンコン異世界アウトドア ~万能キャンピングカーでレッツ大逆転!~
たちばなやしおり
第1話 空から降ってくるのは女の子だけでいい
大雨、夜の山道。運転するのにこれほど悪いシチュエーションはない。
なんでも晴れた昼間の10倍くらい危険度が増すのだそうだ。
「はー、やだやだ」
木下航平は日が暮れてからもう何度目かわからない「やだやだ」を口にした。
10年以上務めた飲食の会社に辞表をたたきつけ、貯めた資金で購入した豪華なバン型キャンピングカー(バンコン)の初キャンプが、よりにもよってこんな天気だなんて。
「おー、よく光ってらっしゃる!」
九十九折をゆるゆると下りながら、夜空に走る豪快な稲光に歓声を上げた。基本的に能天気で朗らかという性質が、このような状況でも悲観的にならずに済んでいる。得な性分である。何よりもう仕事に出て、無駄にかみついてくるアルバイトや理不尽なクレームをつける自称・お客様の相手などしなくてもよいのだ。これほど清々しいことはない。
とりあえずはこれまでのストレスを解消すべく、1か月くらい放浪の旅を楽しむことにしていた。
バックミラーに視線を移してはニヤニヤしてしまう。すべてがお気に入りの空間である。
運転席のすぐ後ろにエアコンと冷凍冷蔵庫が上下に配置され、その並びに縦向きの二段ベッド。後部の入り口のすぐ右にテーブルを挟んで対面のシートが1つ、2段ベッドをシートに変形させると4人がテーブルを囲むことができる。その後ろはマルチルームとなっていて、ラップ式のトイレと洗面台、シャワーなどが設置。そして屋根一面の太陽光発電パネルでできた電気はサブバッテリーと大容量のポータブル電源に充電され、通常の家電も問題なく使用できるようになっていた。天井周りの収納にも日用品や食材がびっしりと入っており、旅の準備は完璧である。唯一、何も入れる物がないのにシートをかけたまま引っ張っている、軽トラックの荷台を半分にしたくらいのカーゴトレーラーはちょっと奮発しすぎたかなと思わないではない。
「寒くなったら薪ストーブと薪を積むのもよろしいな」
次のオートキャンプ場や今夜の晩御飯に思いを巡らせていた、その時。
稲光が光った瞬間、視界がまぶしい光に包まれた。
思わず目をつぶる。
……どれくらい時間が経過したのか。
ここはどこにいるのだろう。目を開けているはずなのに明るいのか暗いのか定かではない。
「なんだ? ここは」
自分の声がエコーがかったように響く。
『…………』
声が聞こえた気がした。
『聞こえるか? 人の子よ』
男のような女のような声だった。
「ここはどこだ? あんたは誰だ?」
『時間がない。お前はこれから別の世界に行くことになる。望みを言うがよい』
声は航平の問いかけに耳にも貸さず言いたいことだけを言う。
「あー、んだよ、人の話は聞けってお袋に言われなかったか? ……折角、高い金出して買ったんだから、壊れても治るようにしてくれ! あと、アウトドアに必要なグッズをカーゴトレーラーに満載だ! それから……」
『すまぬ、人の子よ。希望は捨てぬようにな……」
「だから! 人の話を聞けって!!!」
そうして再び意識が遠くなった。
激しい振動と轟音。シートに押し付けられる感触で意識を取り戻した。
眼前に広がるのは地図……ではなく、ものすごい高いところから見下ろすどこかの地表だった。飛行機から見下ろすよりも小さく見えるので高度1万とか1万5000メートルというところか、を『落下』している。
「ちょ、どういうことよ!?」
異世界召喚とは王城とか神殿みたいなところに呼び出されるのが定番じゃないのか?
訳が分からなかった。分からなかったが、何故か頭は冷静だった。
左右を見渡すと自分のように落下している物体が幾つも見えた。建物、戦闘機、船や都市ガスのタンクのようなものまで。
眼下には白い建物と鮮やかなオレンジ色した街並み、その向こうに見えるのは有名なテーマパークにあるような大きな洋風の城。
「こんなのが街に落ちたら大惨事じゃ……!」
と、その時この非道な意図に気づいた気がした。いや、この感覚は間違いなく、だ。
「これやらかしたヤツ、ぜってー許さん!」
やがて地表が近づき、激しい衝撃に彼は再び気を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます