第96話 白鯨

 白鯨の周りに5つの魔法陣が発生した。その魔法陣からは巨大な水の塊が生み出され、私たちのことを狙って超高速で飛んで来た。


 攻撃の威力が分からなかったから避けてみたけど、着弾点を見た感じ、受け止めようとしてたら一撃で負けていた可能性が高いね。


 魔法の着弾点は大きなクレーターが出来ていて、沼地のようにドロドロになっていた。


「このまま魔法で牽制され続けたら、この平原が沼地になって、私たちの勝ち目が無くなっちゃうね」


「うん。早期決着をつけるか、魔法を打たせないようにするか……サキはどっちがいい?」


「もちろん早期決着でしょ!」


 見た目通りの相手ならタフだろうし、魔法を打たせないようにした所で、ジリ貧で持久力の差で負けるだろうからね。


「春風流龍砲ドラゴンブラスト改」


 私の炎聖を纏った飛ぶ斬撃は白鯨の表皮を削る程度で終わってしまい、肉質はほぼ削ることは出来なかった。その傷もすぐに回復してしまい、私の攻撃は一切通じていなかった。


「だいぶ厳しい相手だね。私の攻撃で皮しか切れないなんて、かなり筋肉が強靭なんだろうね」


「サキの攻撃でダメージを与えられないとなると、私でも無理っぽいな。どうする?逃げるのは無理だろうから、わざとデスして早く戻る?それとも最後まで戦い抜く?」


「聞かないでも分かるでしょ」


「まあね」


 私が目の前の敵に何もせず死ぬなんてありえないよ。そんなことしたら春風の先祖様に顔向け出来ないもんね。

 それに何もせず死ぬなんてつまらな過ぎるしね。


「攻撃来るよ!」


「私が切るよ」


 切ろうとしたけど、今度の攻撃は切れるような攻撃じゃなかった。

 白鯨の攻撃は、さっきの水の塊によって地面が沼のようになっているところから、巨大な水の柱を生み出す攻撃だった。その攻撃に当たることは無かったけど、その吹き出る水が地面に降り注ぎ、また沼地が増えてしまった。


「うーん、思っていた以上に強敵だね。このままだとすぐに沼地で埋め尽くされちゃうよ」


「……サキを白鯨まで飛ばしてあげるから仕留めてって言ったらどうする?」


「近付けたら負けるつもりは無いよ。でもどうやって?」


「古典的なこれだよ」


 リーブはバレーのレシーブのように腕を組んだ。私はすぐに理解してそこへ向けて走り出し、そして踏み込んだ。


 レベルによって強くなっている私たちの力によって投げ飛ばされた私の身体は、空を悠然と飛ぶ白鯨の背中まで届いた。


 白鯨の背中はツルツルとしていて踏ん張ってその場にいるのがやっとだ。しかも私が背中にいるのを気付いているのか、白鯨の動きが少し荒々しくなって、何度も落ちそうになった。


「荒々しいね。召喚:マルコ!」


 "ただの鳥"のマルコを召喚した。この子は私を乗せながらだと、かなり飛行スピードが遅くなる。そのため白鯨の攻撃を避けられなくなるから呼んでいなかった。

 今になって召喚した理由は、マルコに頼んで白鯨の背中の全貌を調べてもらうためだ。下から見た感じ腹側には弱点らしきものは無かったから、背中にあるんじゃないかなと思ったからね。


「グァグァ!」


 マルコは背中の全貌を1度に確かめるためにかなりの高度まで飛んで行った。


「マルコ気を付けて!魔法の攻撃が来るよ」


 最初に水の塊を生み出した魔法陣がまた発生していた。しかも今度は8つだ。この量の攻撃を今のマルコが避けられるかは五分五分だね。頼光を召喚すれば弱点を探さなくても、この白鯨を倒せるだろうけど、それじゃあ面白くないし、成長出来ないからね。今はマルコのことを信じるしかないよ。


 マルコは思っていた以上に空中戦が強かった。巨大な水の塊による物量攻撃は、安全圏がほぼないほど白鯨の背中の上を覆っていた。しかしマルコはそのほぼない安全圏をすり抜けるように飛び、背中を見渡し切ってくれた。


「よくやったよマルコ!!」


「グァグァ!」


 私はマルコの頭から背中にかけてを撫でてあげた。マルコは撫でられて嬉しそうに声を上げてくれた。


 マルコが言うには、背中に弱点らしきものはなく、あったのは潮吹き用の噴気孔だけだったらしい。


「うーん、噴気孔かぁ……そこが狙い目かな?」


 私はツルツルで踏み込みにくい背中をゆっくりと進みながら、噴気孔を目指した。自身の背中を攻撃するのが嫌なのか、背中の筋肉を突破することは出来ないと思っているのか、分からないが白鯨が私のことを邪魔することは無かった。


 やっとの思いで辿り着いた噴気孔は強靭な筋肉によって閉じられていた。しかし実際のクジラが持つ噴気孔は呼吸のために存在しているものだから、いつか開くはず……まあモンスターだから呼吸しなくても大丈夫って可能性もあるけど、そうなったら私は素直に負けを認めようかな。


 その後、私は一人で噴気孔が開くのを待っていたが、なかなか開くことは無かった。


「うーん、やっぱり呼吸が必要ないのかなぁ?でも、ならなんで噴気孔が存在するんだろうってなるしなぁ……あっ!」


 私の中で1つの仮説が立った。


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