第94話 海パン
再びこの世界に戻ってきた私はリーブと合流して、もう一度街の外へと繰り出した。
今日の私たちは、街を出た瞬間から警戒してPKからの攻撃に備えた。私もリーブも
「一日遅れちゃったけど、ポイント集め頑張ろうね」
「そうだね。私たちのクランはほかのクランに比べて人が少ないから、私たちが頑張らないといけないもんね。でも初日じゃないから、町付近の人が減っていてやりやすくなっていてポイントを稼ぎやすくなってるし、悪いことだけじゃないよ」
「それもそうだね。じゃあポイント集め頑張ろう!おー!」
私は手を突き上げた。ノリを知っているリーブは私に合わせて手を突き上げてくれた。
「まずは海パンゴブリン(仮)で肩慣らししようか」
「通常ゴブリンと違いはないだろうから、肩慣らしにもならないだろうけど、まあ最初の相手としては丁度いいんじゃない……噂をしていたら丁度現れたね」
私の運の良さのおかげか、町の外に出てすぐのところに目的の海パンゴブリンはいた。
覇気なども感じられないから、“極悪の厄災”を経験している私たちからしたら準備運動にもならない相手だね。
「最初は私に任せて!」
先陣を切って海パンゴブリンに近付いたけど、どうやって倒そうかな?技を使わずとも倒せる相手なのは確実だけど、普通に倒しても勿体ないよね。
「やれるものならやってみな」
そう言ってみたものの、ゴブリンは何かを言うわけではないし、そもそもこっちから襲いに行っているわけで、どちらかという悪者はこっちなんだよね。まあイベント専用に倒されるためだけに生み出されたモンスターだから、倒されることこそが使命だから気にする必要はないよね。
私を敵と認識した海パンゴブリンは、汚いこん棒を振りかぶりながらこちらへと走ってきた。海パンにこん棒という違和感だらけの恰好を、遠くから見たら少し吹き出しそうになったけど、近くに来たら醜くて汚いだけだった。
やっぱりゴブリンはどんな格好でも汚いことに変わりはないね。
私は隙だらけのゴブリンのこん棒による攻撃を素手で受け止めた。
レベルによる肉体の差もあるだろうけどすごく軽い攻撃だったなぁ。こんな軽い攻撃だったら現実世界でも受け止められるよ。私はこん棒ごとゴブリンのことを投げ飛ばした。受け身を取らなかったゴブリンは頭から地面に落ちてポリゴンとなって消えていった。
「やっぱりアップにもならなかったよ」
「まあゴブリンだからね。ここにいても雑魚モンスターしかいないだろうから、森の奥に行く?」
「……そうだね。森の奥のほうが強いモンスターが多いはずだから、私たちの実力には合っているよね」
私たちは強いモンスターを求めて森の奥へと向かった。その道中で何匹かのモンスターとエンカウントしたけど、どれも海パンゴブリンに毛が生えた程度の実力しかなくて、不完全燃焼が続いていた。
そんな私たちの前にやっと歯ごたえのありそうなモンスターが現れてくれた。私たちの前にいるモンスターは、赤黒い皮膚に筋骨隆々の肉体、額から伸びるツノ、そして違和感だらけの海パン、俗にいうオーガがイベント仕様になった海パンオーガ(仮)だ。
「少し歯ごたえがありそうかな?」
「どうする?サキがやる?」
「まだ森は始まったばかりだし、ここはリーブに譲るよ」
「ありがとう!私が相手してあげるから、来なよ海パンオーガ」
やっぱり海パンって名前につくとすごくダサくなっちゃうなぁ。
リーブが煽るように手招きしたせいでオーガが怒っちゃったよ。ただでさえ赤い顔がゆでだこみたいに真っ赤に染まっているね。見た感じ、【狂化】のようなスキルを使って力を上げてるみたいだね。
でもリーブととオーガとでは地力が圧倒的に違うから、いくらドーピングしようと追いつけるはずがないんだけどね。
「私からしたらいくら力が強くなろうと、理性がなくなるのは弱体化だよ。まあその力の強さだけは評価してあげてもいいよ」
オーガのパンチをリーブは簡単に避けた。
たしかにリーブの言う通り、スキルを使って強化されたオーガの攻撃は地面に大きなクレーターを作っているから、私たちにとっても脅威になり得る力だね。まあその力と引き換えに、理性をなくして攻撃が当たらなくなるのは本末転倒だけどね。
それに感情に合わせてスキルを発動させるのもよくないよね。スキルは不利な状況をひっくり返せる可能性がものなんだから、使うときはしっかり見極めないといけないよね。もしオーガにそんな知性があるのなら、私たちにとっても簡単ではない相手になってくるよ。
「一辺倒の攻撃で終わりならつまらないし、終わらせるね」
リーブは蛇腹刀をうねらせながらオーガの首に巻き付けて、そのまま締め上げ、刈り取った。首から上を失ったオーガの身体は膝から崩れ落ちた。
「ふう、だいぶ体も温まってきたから、次はサキに任せるよ」
「まかせて!」
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