第89話 ヤドカリ
迫り来るハサミに対してサキは、両腕をクロスして衝撃を受け止めようとした。しかし巨大なハサミによる薙ぎ払いはかなりの衝撃で、吹き飛ばされた彼女は脳震盪を起こして少しの間立てなかった。
「……ごめんリーブ!」
「逆にサキは大丈夫?」
「ダメージはそこまでだったから大丈夫だよ。でもあの貝殻思っていた以上に硬かったからリーブも気を付けて!」
彼女の刀はかなりの切れ味であり、切りづらい紙だろうと触れただけで切れるほどの物だ。しかしそんな刀でも全く歯が立たなかった貝殻の鎧は、今の彼女たちの力では突破出来ない。
そのため彼女たちが狙うのは貝殻から出ている胴体の部分だ。しかし胴体は真正面から狙うしかなく、ハサミの餌食になる可能性が高いため、難しい戦闘となるだろう。
「ハサミをどうにかしないと私たちに勝ち目はないよね」
「……どうしようか、あのハサミの重量的に私の蛇腹刀では止められないから……サキに頼むしかないんだけど……」
「うーん、でも私でも止められるか分からないんだよね」
「……取り敢えずやってみる?」
彼女たちが対策を練り終える前にヤドカリは動き出した。そのサイズからは想像出来ないほど機敏に動くヤドカリは勢いに任せてハサミを横に薙ぎ払った。砂を舞い上がらせながら振り抜かれるハサミはさっきの恨みなのか、偶然なのかは分からないが、サキを狙っていた。
いくらハサミによるダメージがそこまで高くないとは言え、体力が減っているサキがもう一度受ければ危険な所まで体力が減るだろう。そのためリーブはサキを庇うように立った。
「春風流一刀!」
しかしサキは彼女のことをヤドカリの攻撃範囲から押し出した。そしてサキは目の前まで迫り来るハサミをギリギリで避けるように跳んだ。ハサミを振り終えたヤドカリは隙だらけだった。そんなヤドカリの腕の付け根を狙い、サキは刀を振り下ろした。
流石に貝殻程とは言えないが、ヤドカリ本体も強固な外骨格であった。彼女は外骨格を突破出来ないと分かると、刀に【炎聖】を纏わせて無理矢理破壊した。
「ハサミが取れたから後は楽勝だね!」
「それでも私の刀じゃあ役に立たないけどね」
結局最初から最後までサキ一人でヤドカリを倒した。
苦労して倒したヤドカリのドロップアイテムは渋いものばかりであり、二人ともなんとも言えない表情になった。
「もうヤドカリとはやりたくないね」
「私もだよ。まあ私は何も出来なかったけど……」
彼女の自虐的な発言でさらに空気が悪くなってしまった。
「大丈夫だよ!!リーブにはリーブだけの出来ることがあるんだからぁ」
そう言ってサキは彼女に抱きついた。美少女と言って過言のない彼女に抱きつかれたリーブは一気に頬を真っ赤に染め上げ、きゅうという言葉と共に倒れた。
「リーブぅぅ!!!」
なんとも言えない茶番劇であった。そんな二人の茶番劇にはモンスターたちも手を出せずにいた。
茶番劇を一通り終えた二人に誰が先に攻撃を仕掛けるかモンスター同士で譲り合いをしていた。そして一番最初に攻撃を仕掛けることになったのは、魚人だった。
「さかなー」
「なんかその言葉は著作権とかに引っかかりそうだから止めておこうね」
「なんでぇ?モンスターの名前を言っただけなのに」
「一応あれは魚じゃなくて魚人だからね」
そしてチンアナゴのモンスターが砂浜なら飛び出してきた。
「ちんあなg――」
「もっとダメになったよ!?どうしてこんなにピンポイントで出てくるのかな!?」
リーブはサキの言葉を遮るように大声で叫んだ。彼女の頑張りもあり、サキの声は周りには届いていないだろう。
「じゃあ早く倒して街に戻ろうか」
「急なローテンション!?」
サキは一瞬でチンアナゴとの距離を詰めると輪切りにして倒した。
そのまま流れるように魚人との距離を詰めると首を水の流れのように綺麗な太刀筋で首を刎ねた。その時間たった五秒のことだった。
「ふう……帰ろうか」
「テンションの上げ下げが激しすぎぃ!」
「リーブのテンションの方がおかしいと思うよ」
二人は仲良く街へと帰って行った。そんな二人の百合を邪魔出来る度胸のあるモンスターはここには居なかった。
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