第29話 開国のあと

 長い鎖国政策が終わり、アメリカ、ロシア以外にも、イギリス、フランスとも和親条約が結ばれ、諸外国との交易が始まろうとしている。


 先進諸国と平和条約を結び、特定の国からの侵略は回避できた。


 心労から阿部正弘が倒れ、変わった堀田正睦、井伊直弼らによって日米修好通商条約が結ばれる。

 税制の改正が出来ない関税自主権の放棄、国内における外国人を裁く領事裁判権の放棄など、日本側に不利な条件も盛り込まれた。


 交易と侵略を履き違える者や、不平等条約に不満を唱える者らは、幕府に対し反感を表す。更にこの国の元首である天皇の勅許を得ないまま、外国と条約を結んだのだ。幕府内の官僚からもこれに不満を持つ者も出る。


 尊王攘夷の思想は、ここから起こったと言える。


 この後、鎖国政策が終わると、武士の中で尊王攘夷、勤王佐幕、勤王倒幕、開国倒幕などの思想が現れ、考え方の異なる者達の醜い争いが繰り広げられる。


 藩内でも思想が異なる者同士が争い、排除、暗殺などの粛清が行われてしまう。悲劇と言うより他ない。


 攘夷論を危険視した幕府は、外国に侵略の口実を与える事を恐れ、薩摩藩、長州藩の危険人物を捕らえ、処断する。加えて、彼らの藩主の謹慎、家老を死罪にするなどの粛清を行う。大老になった井伊直弼が断行した安政の大獄である。


 その井伊直弼も桜田門外の変で殺害され、幕府の権威が失墜する。幕府は越前藩の松平春嶽しゅんがく薩摩藩の島津斉彬なりあきらなどの有力大名と結託して公武合体政策を進める。皇女和宮が徳川十四代将軍家茂いえもちに降嫁することで体勢の強化を図った。


 だが、孝明天皇や公卿らは長州藩の攘夷派から後ろ盾もあり、幕府に攘夷決行の期日を迫る。


 上洛した家茂は開国論、攘夷論に板挟みとなり、苦しい立場に追い込まれる。心労のため、その後いくばくも経たない内に薨去してしまう。


 将軍の死により公武一和の考えが衰退する。


 一方で藩内を尊王攘夷論にまとめた薩摩、長州藩は幕府の方針を無視し、日本に現れたイギリス艦艇に砲撃を加える。


 その報復として薩英戦争、馬関戦争が繰り広げられる。戦後イギリスは少ない火力にも関わらず善戦した両藩に感心し、長崎の商人グラバーを通じて友好関係を築いてゆく。


 勢いづいた長州藩は尊王攘夷の主導者の立場を取るべく、都を目指す。


 密かに上洛した勤王志士は岩倉具視ともみを抱き込み、公卿三条実美さねとみとともに攘夷決行を画策する目論見を立てる。


 攘夷論者の孝明天皇ではあるが、志士らの過激な行動に危機感を覚え、薩摩藩に禁裏警護を名目に上洛を促す。


 斉彬亡きあとに藩政を執る島津久光は藩兵2千ほど引き連れて都に入る。帝に拝謁し、宸襟を悩ます不逞の輩を排除すると息巻く。


 京都守護職で会津藩主の松平容保かたもりは幕権を取り戻すため、薩摩藩と同盟を結ぶ。長州藩の台頭を快く思わない薩摩にとっても好都合になった。


 文久3年(1863年)8月18日

薩会同盟をした両藩はこの日、禁裏6門を封鎖して、それぞれに藩兵を配備する。攘夷派公卿らの参内を阻止。朝議を開き、攘夷派公卿15名の禁足(武家の閉門蟄居にあたる)にして、長州の者を都から排除した。

八・一八の政変である。


 翌年、事態の巻き返しを謀り、都に出兵した長州藩は蛤御門で薩摩藩と激しい戦闘となる。(禁門の変)


 禁裏の御門に向かって発砲した廉で長州藩は朝敵の汚名を着せられる。


 幕府はこの機に長州藩を改易すべく、長州征伐を断行する。佐幕派の寄せ集めてできた連合藩での指揮は低く、決定的な打撃を加えることができないまま、泥沼化してしまう。


 その最中に坂本竜馬の活躍により、薩長同盟が結ばれる。時勢に遅れをとるまいと土佐、肥前などの藩も加わり一大勢力を形成する。


 その後、鳥羽伏見、江戸、会津と各地の戦いで幕府軍を退け、五稜郭を舞台にした箱館戦争をもって幕藩体制に終止符をうつ。


 明治天皇を国家元首とし、三条実美らの公卿・薩長土肥の士族からなる明治政府が誕生し、この国を動かしてゆく。


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