第27話 アメリカの実力

 18世紀の終わりから、日本との交易のために幾度か使節を送ったロシアであったが、新興国家のアメリカに一足先に乗り込まれしまった。

 ペリーは幕府を恫喝し、半ば強引に国書を渡し、翌年の再来日までに開国の準備をさせるなど手際よく物事を進め日本を立ち去った。


(露)

プチャーチンを乗せた船が父島に到着した。本国からの指令書を持った船も既に到着している。指令書を受け取ったプチャーチンは険しい表情になる。

「提督、如何なる事が記されているのでしょうか?」

「我らは下田港を目指しているが、本国からの指令は長崎にて交渉を行うよう指示している」

「そ、それは何故にございますか?長崎に行ったところでまた、あそこの奉行なる者が江戸にお伺いを立てると言うに決まっています」

「だから長崎には行くつもりは無かったのだが、ロシアの心象を悪くしたく無いとの考えらしい ———」

 プチャーチンは本国からの指令に従う旨を乗組員に通達した。


 これはシーボルトからの進言が大きくものを言っている。強硬な手段で浦賀に乗り込むペリーと、従来通りに日本が許可する長崎を目指すプチャーチンとでは、その後の結果に大きな差が生じる。


(露)1853年8月22日

ペリーに遅れること1ヵ月半後、プチャーチンは旗艦パルラダ号と合流した2隻を合わせた4隻の艦隊を率いて長崎に到着した。


 奉行所に遣いを立て、長崎奉行宛ての書簡、国書を受け取るよう願い出るが、国書の受け取りについては幕府に伺いを立てると返答される。


 プチャーチンらはここ長崎で数か月の間、待たされる羽目になる。


 幕府からの返答が届き、奉行所に来るよう指示があった。

「幕府からはどのような返答があったかお聞かせ願いたい」

「去る7月の終わり、江戸城にて将軍が薨去しました。そのため、今は国書の受け取りができない。時期を改めて頂けないかと」

 温厚なプチャーチンが怒りを露わにする。

「我らが日本に来る事はオランダ商館を通じて、幕府に知らせている。将軍のお隠れには哀悼の意を表すが、本件とは関わりあるまい。それなれば、お悔やみとともに国書を携えて我らが江戸に出向く」

 長崎奉行は慌てて、プチャーチンを宥める。再度幕府に問い合わせている間にまたもや悲運が訪れる。


 ロシアはイギリス、フランスとの戦闘に突入した。クリミア戦争である。

聖地エルサレムを巡ったロシアとオスマン帝国(現トルコ)の争いだった。


 ロシアは奇襲攻撃をかけ、オスマン帝国の艦艇だけでなく、沿岸部の商業施設までも破壊した。


 イギリス、フランスは自国の施設に被害を受け、危機感を覚えた両国が結束を計り参戦を表明した。


 連合軍の参戦により事態は一変し、ロシア側の戦況が悪化する。本国からプチャーチンに海上支援のため、黒海に出向くよう指令が下る。プチャーチンの艦隊は翌年の再来日を伝え、長崎を出航する。


 安政元年(1854年)2月

ペリーは約束どおり、7隻の軍艦を引き連れて再び浦賀に来日した。日本側の全権大使林復斎とペリー提督の間で1カ月間の協議が行われた。


 全12か条におよぶ日米和親条約が締結され、日米合意は正式なものとなる。3代将軍徳川家光以来200年以上続いてきた鎖国は解かれた。


<条約の内容(Wikipedia引用)>

第1条

日米両国・両国民の間には、人・場所の例外なく、今後永久に和親が結ばれる。

第2条

下田と箱館を開港する(条約港の設定)。この2港において薪水、食料、石炭、その他の必要な物資の供給を受けることができる。

物品の値段は日本役人がきめ、その支払いは金貨または銀貨で行う。

第3条

米国船舶が座礁または難破した場合、乗組員は下田または箱館に移送され、身柄の受け取りの米国人に引き渡される。

避難者の所有する物品はすべて返還され、救助と扶養の際に生じた出費の弁済の必要は無い(日本船が米国で遭難した場合も同じ)。

第4条

米国人遭難者およびその他の市民は、他の国においてと同様に自由であり、日本においても監禁されることはないが、公正な法律には従う必要がある。

第5条

下田および箱館に一時的に居留する米国人は、長崎におけるオランダ人および中国人とは異なり、その行動を制限されることはない。

行動可能な範囲は、下田においては7里以内、箱館は別途定める。

第6条

他に必要な物品や取り決めに関しては、両当事国間で慎重に審議する。

第7条

両港において、金貨・銀貨での購買、および物品同士の交換を行うことができる。

交換できなかった物品はすべて持ち帰ることができる。

第8条

物品の調達は日本の役人が斡旋する。

第9条

米国に片務的最恵国待遇を与える。(日本が他国と米国以上の条約を結んだ場合、自動的に米国にもその条約が適用される)

第10条

遭難・悪天候を除き、下田および箱館以外の港への来航を禁じる。

第11条

両国政府のいずれかが必要とみなす場合には、本条約調印の日より18か月以降経過した後に、米国政府は下田に領事を置くことができる。

第12条

両国はこの条約を遵守する義務がある。

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