第22話 お邪魔しまぁす
昼食に監督が持って来た鉄板で作った焼きそばを食べた後、ビーチから少し離れた場所にある船着場に訪れていた。
スキューバダイビングができるということなのだが、海香ちゃん曰くそんな準備をしているとは聞いていないらしい。
この場には、私と彼方と委員長と海香ちゃんの仲良しグループに加えて保護者兼船の運転手として監督が来ていた。
上着を羽織って歩いてたどり着いた船着場には、十五人くらいは乗れそうな中型船が停まっていた。
「意外とでかいな。もっと連れて来てよかったんじゃねぇか?」
「もう既に五人乗ってるのと、船は広く使いたいと持ち主が御所望だ。これ以上は連れて来られん」
監督は彼方の指摘に答えてから船に向かって声をかけた。「はぁーい」と聞こえて来たのは意外にも女の子の声。あれ、この間延びした声どこかで聞いたことがあるような。
そう思った瞬間、麦わら帽子をかぶって白いワンピースを潮風ではためかせる少女が甲板から顔を出した。
「あ、あなたは!」
「おまえは!」
彼女の顔を見た瞬間、私と彼方は同時にその少女の正体を解明した。私たちが予想通りの反応をしたからか、彼女は満足そうに笑って船から飛び降りてきた。
「よぉす。三原咲希でぇす」
見事に着地した三原さんは、キラリとアイドルのような目元でピースするポーズをとった。しかし、そのゆったりとした声と緩慢な動きのせいで色気とか可愛さとかはなかった。
「なんでお前がここにいるんだよ」
「たまたまぁ親戚の家にぃ遊びに来てただけだよぉ。それで彼方さぁん達も来てるって聞いたからぁ、ダイビングぅでもぉさせてあげよぉかなぁってぇ」
肩を掴んで尋問する彼方に揺すられながら、三原さんはここに居る理由を伝えた。
すると船の方からドタドタと慌ただしい音が聞こえてきて、そちらを向くとハーフパンツにTシャツと動きやすい格好をした小柄な金髪少女が船から彼方と三原さんに向かって飛び込んでいた。
「おどりゃあ! さきっちに何しとんじゃボケェ!」
小柄な体からは想像できないほどの鬼神の如き気迫に、離れた場所にいる私も気圧されてしまった。
そして少女はそのまま彼方に飛びかかったが、彼方は少女を強い体幹でガッチリと受け止めた。
まるで大人が子供を高い高いしたような体勢になってしまった両者はどうすればいいか分からないようで、しばらくの間見つめ合っていた。
「……はよ下さんかい」
「いや、お前が飛び込んできたんだろ」
「お前ちゃうわ。ウチには
「へーへー、分かりました」
彼方が木野さんを地面に下ろすと、彼女はすぐさま三原さんに駆け寄って、彼方と三原さんの間を塞ぐように立ちはだかった。
「次にさきっちに手荒な真似したらウチが許さんで」
「手荒って、肩揺らしただけじゃん」
「さきっちの身体は繊細なんやねん!」
「はぁい落ち着こぉねぇ、はるちゃん。私はだいじょぉぶだから」
今にも噛みつきそうな木野さんを三原さんが頭を撫でて落ち着かせる。すると木野さんは飼い主を目の前にした犬のように甘えた顔と態度になった。
「さきっちがそう言うんなら……」
「それと、急に飛びかかったらぁ危ないよぉ」
「そ、そうやな。すまん!」
木野さんは三原さんに注意されると、さっきまでの敵意はどこへやら、素直に謝った。あまりの従順さに流石の彼方も少し引いていた。
「はるちゃーん、急に飛び出してどうしたのー」
「どうせ先走っただけだ。心配はいらん」
船から騒ぎを聞きつけた女の子二人が顔を出した。一人は高身長でメガネをかけていて、アロハシャツを着てサングラスをかけたロングヘアの美人さん。
もう一人は茶髪のミディアムヘアの可愛い系の子で、他三人は服を着てるのに何故か水着を着ていた。
「ちょーど二人も来たし、みんな船に上がってじこしょーかいしよぉよ」
情報量が多すぎて混乱して来たので、三原さんの言う通りにみんなで船に上がることにした。
船に上がると、さっき顔を出していた女の子二人と髭を蓄えたおじさんが運転席に座っていた。
「あれはわたしぃの親戚のおじさぁん。寡黙だけどやさしぃから困ったらあの人を頼ってねぇ。じゃあ二人は自己紹介お願いねぇ」
三原さんに言われてまず前に出たのは高身長の美人さん。木野さんと違って品のある雰囲気で、一礼してから自己紹介を始めた。
「私の名前は
姫野さんが自己紹介をしてから一歩下がり、入れ替わるように水着の子が出て来た。
「私の名前は
奇抜な格好とは裏腹にかなり落ち着いていて、優しい少女の雰囲気を漂わせている。自己紹介が終わると船が発進し、それぞれが思い思いの場所に座る。
委員長と海香ちゃんは運転席の近くの影で休んでいて、監督は三原さんのおじさんと世間話をしている。
そして三原さんと三人の女の子は同じ場所にいて、その前に私と彼方が座っている。風を切って進んでいく船の上は気持ちいいのだけど、私たちの間には少し微妙な雰囲気が漂っていた。
三原さんが満面の笑みで水着の鳳さんの肩を抱いているのだ。鳳さんは顔を真っ赤にしていて緊張しているのだけど、それでも他の二人は三原さんは放っておいている。
一体どういうことだと指摘すべきかどうか私は彼方と目で会話をする。その結果、彼方がこのことを聞くことになった。
「三原、お前なにやってんだ?」
「ん? なにがぁ?」
「いや、なにって……鳳さんのそれだよ」
「あ、それねぇ」
三原さんは鳳さんの名前を出されてようやく気がついたようだ。三原さんの反応といい、他二人の様子を見る限りこの状態が自然なのかもしれない。いや、それがおかしいのだけど。
「水着のエリカが可愛くて気に入ったからぁ、そのままでいてもらってるんだよぉ」
「えっ、なんそれ……」
彼方と私がヤバめな返答に驚いて鳳さんの方を向くと、彼女はさらに顔を赤くして頷いた。
「さきっちはいつもこんなんやで」
「セクハラ大魔神よ」
「もぉ、ひどいこと言うなぁ」
三原さんはセクハラと指摘されながらも、顔を真っ赤にする鳳さんを愛でている。そして突然手を止めたかと思ったら、姫野さんの方を向いた。
「ひめちゃん。喉渇いたぁ」
「わかったわよ。はい」
姫野さんはクーラーボックスから取り出したスポーツドリンクを三原さんに渡そうしたが、三原さんは受け取ろうとしない。
「はるちゃん、のませてー」
「しゃあないな。ひめっち、それ渡して」
木野さんは姫野さんから受け取ったスポーツドリンクにカバンから取り出したストローを刺して、口を開けて待っている三原さんに差し出した。
「……はべらせてんなぁ」
わがまま放題で三人の女の子に世話してもらってる三原さんに、それに慣れて準備万端の三人を見て、彼方は何とも言えない顔でそう呟いた。
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