第三章 海にレッツゴー

第19話 水着ショー

 青い空、白い雲、輝く砂浜、エメラルドグリーンの海、燦々と照り輝く太陽。私たちは先輩たちのお別れ会ということで沖縄にやってきていた。長い移動を終えて到着したのは海香ちゃんが業界で知り合ったという世界的大物俳優のプライベートビーチ。


 今日のために海香ちゃんがダメもとでかけあってみたら、なんと快く受け入れてくれたそうだ。


「キャー! 卯月かわいいーっ!」

「ふふ、海香もかわいいよ」


 みんなが水着に着替えて思い思いの行動を始める中、あつあつカップルのお二人はお互いの水着を堪能している。


 海香ちゃんは私と一緒に選んだ水色のワンピースタイプの水着。露出は控えめながら、海香ちゃんの可愛らしさと活発さが表れていてよく似合っている。


 委員長は黒色のハイネックビキニ。普段から運動しているから、しっかりとした胸のふくらみに、引き締まったお腹でメリハリがはっきりした綺麗なボディラインを作り出している。大人な雰囲気が漂う委員長の魅力が見事に引き出されている。


 やっぱり二人はどっちも魅力的でお似合いだなと思う。それに対して私はちんちくりんで、今更ながら自分の水着姿に自信がなくなってきた。


「ん? なんか浮かない顔してるね」

「折角の可愛い水着姿がパワーダウンだよー? スマイルスマイル!」


 マイナス感情を抱いている事を勘付いた二人が心配して声をかけてくれた。


「えっと、やっぱり私の水着なんて……」

「何言ってるの! 私が見繕ったんだから絶対似合ってるよ」


 今日に向けて海香ちゃんと一緒に水着を買ったのだ。私が買ったのは桃色のフリルデザインの水着。最初に「セクシーにアピールしちゃう?」と聞かれたけどそれは遠慮した。


「水着が問題じゃなくて……」


 水着が良くても素材が私だとダメな気がする。美容には気を遣ってるし、今日に備えてダイエットしてきたけど不安になってしまう。元気付けてくれてる海香ちゃんにそう伝えようとした時だった。


「ごめん! 待たせた!」


 背後から彼方の声が聞こえてきた。彼方も新しい水着を買ったらしく、慣れない着替えに手間取っていたらしい。


 反射的に振り返ると、太陽は違う方向にあるはずなのに凄まじい輝きが目に入ってきたように錯覚した。


 彼方が着ていたのは赤のオフショルダービキニ。柄はシンプルだけど、それは彼方の綺麗な身体を強調するための完璧な選択だ。


 普段の練習で薄く褐色がかった肌は太陽の光できらりと輝き、堂々と膨らんだ胸と鍛え上げられて引き締まった身体は高身長も相まって、健康的でありながら問答無用で悩殺してくるほどセクシーだ。


 当然彼方が好きな私は耐えられるはずもなく、真夏の太陽で温まっていた身体はさらに熱を持ちオーバーヒート。彼方を見つめたまま私はフリーズしてしまった。


「おやおや、彼方ちゃんはセクシィに攻めたのですねぇ」

「折角の沖縄だしチャレンジしてみたんだ」

「なるほどねー。どうやらそれは大成功みたいですなぁ」


 海香ちゃんが彼方と話しながら私を横目に見た。海香ちゃんはフリーズしている私を見て苦笑すると、彼方の方に向き直して話し始めた。どうやら私が復活するまでの時間稼ぎしてくれるようだ。海香ちゃんには恋愛においてお世話になりっぱなしだ。


「成功って、似合ってるってことか?」

「そゆこと。まぁ卯月には負けるけどね」

「いきなり惚気かよ。海香はブレないな」


 委員長の肩を抱いてフフンと鼻を鳴らす海香ちゃんに彼方は呆れながら笑った。


「海香ったら。どっちが可愛いとかじゃなくてみんな違ってみんな良いんだよ?」

「そーだけど、私にとっては卯月が一番なの」

「もー……私も海香が一番だよ」

「ありがとー! うづきー!」


 委員長と海香ちゃんが一番を確かめ合って笑顔で抱き合う。あまりにアツアツすぎる二人の惚気に彼方も圧倒されている。


 そして私も惚気る二人を見て冷静さを取り戻せた。それを海香ちゃんが確認し、ウインクでそろそろ行くよという合図を送ってきた。


「ともあれ彼方。そろそろお目当ての美鈴ちゃんと顔合わせといきましょーか」

「お、お目当てってそんな……」

「誤魔化しても無駄だよー? 美鈴ちゃんとのデートの時に美鈴ちゃんの水着が見たいって言ったことも、彼方がお別れ会の行き先に海をリクエストしたことも知ってるんだから」

「んなっ!?」

「では、どうぞー」


 狼狽える彼方を無視して、海香ちゃんはまるでショーの司会のように手を伸ばしながら後退し、彼方に水着姿の私を公開した。


「ど、どうかな……?」


 彼方が見たいって言ってくれたから頑張ってみたけど、期待させてた分思ったより可愛くないんじゃないか、やっぱり貧相な私には水着は無茶だったんじゃないか、そんなふうに怯えながら私は顔を上げた。


「えあっ、かわっ……!?」


 そこには少し前までの私と同じようにオーバーヒートしてしまった彼方がいた。


 それを見た瞬間、私の胸の中の感情が爆発した。彼方が私と同じくらい取り乱してくれてる。それはきっと私と同じ感情を持ってるってことで、デートに誘う前に見せた独占欲といい、私の中でふつふつと自信が湧いてくる。


 だけどそう思ってしまったら冷静ではいられなくて、余計に興奮して心臓をドキドキと高鳴らせたまま彼方の返答を待つ事しかできなかった。


「彼方。感想聞かれてるよ」


 委員長が私を見つめたままフリーズしてる彼方の頬をつついて催促する。すると彼方は再起動し、頭を掻きながら私に近づいた。


「その……すごく可愛いと思う」

「あ、ありがとう……」


 お互いに目を合わせないまま、夏休みに沖縄の海に来た高校生とは思えないほど小さな声で感想とそのお礼を伝え合った。


「はい、大変良くできました。それじゃあ気を取り直して海に行きましょー!」


 いろんな感情が渦巻いてお互いに声をかけられない状況を、海香ちゃんの元気の良い声が切り裂く。


 その声には半分くらい見てられないという感情が含まれていた気がするけど、まぁさっきの私たちを見たらそうなるのも致し方ない。


「ちょっと待って。みんなちゃんと日焼け止め塗った?」


 イルカの形のフロートを抱えて走り出した海香ちゃんを委員長が止める。流石委員長だ。こういう所によく気が回る。


「あっ、忘れてた」

「ほらやっぱり。浮かれてる時はだいたいそんななんだから」


 委員長は海香ちゃんに手招きすると、パラソルの下に置いてあるカバンから日焼け止めを取り出した。


 そして駆け寄ってきた海香ちゃんに慣れた手つきで日焼け止めを塗っていく。流石幼馴染で恋人といったところで、委員長は海香ちゃんのお世話に慣れている。


 そんな二人を微笑ましく見守っていたら、私の背後から間抜けな声が聞こえてきた。


「あっ、私も忘れてた」

「そうなんだ。なら早く戻って……」

「ならこれ使いなよ」


 私が彼方に帰陣を促そうとした時、委員長がそれを遮って彼方に日焼け止めを投げた。


「えっ、もう塗ったの?」

「もちろん。隅々までやったよ。万が一海香の身体に傷がついたら嫌だからね」


 もう海に向かって駆け出している海香を見ながら、委員長はそう言った。いや、いくらなんでもはやすぎるでしょ。もしかしてこれも委員長の意外な才能なのでは?


「彼方は特に肌の露出が多いから塗り残しがないようにね。背中とか塗りにくいところは美鈴に手伝ってもらって。それじゃ」


 委員長はそれを言うだけ言って海香ちゃんを追いかけて行ってしまった。


 えっ、しれっととんでもない大役を任された気がするんだけど。


 恐る恐る彼方を見上げると、彼方も私を見下ろして目が合う。


「えっと、それじゃあよろしく頼む」

「あっ、うん」


 好きな人の肌に触って日焼け止めを塗る。まさかの高難易度ミッションが私に課された。

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