第10話 デート大作戦

 あの県大会以来、私の周囲の環境はガラッと変わった。


 彼方のファンクラブの子達からは、あの場で唯一彼方を信じていた人として尊敬の眼差しを向けられるようになった。クラスメイトや友人からはなんだか温かい眼差しが送られるようになり。


 彼方と一緒にいる時は恋愛大好きな高校生特有のノリで「おっ、名物夫婦じゃん」「嫁さん大事にしなよー」とか言われることもある。彼方はそのノリに乗って「式には呼んでやるから御祝儀用意しとけよー」とか適当に返してる。


 私としては周りから彼方と私の間には何か特別があると見られるのは嬉しい反面、彼方の反応を見る限りあまり意識はされてないみたいで残念でもある。


 それでも何か意識してもらえるようにしようと、海香ちゃんからのアドバイスでお弁当を作ってあげることにした。お弁当を作るようになって二週間、今では彼方のお母さんとも仲良くなり、彼方の好物や苦手なもの、味の好みまで知っている。


「胃袋を掴む作戦は順調ってわけだね」

「うん。彼方好みの味付けにも慣れてきたよ」


 深夜。明日の予習を終えた私は、ベッドに寝転がって海香ちゃんとスマホで通話をしていた。海香ちゃんは私の良き相談相手。忙しいのに私の悩みも真摯に聞いてくれて、私が一歩踏み出す勇気をくれる。


「でも、まだ彼方に意識してもらえてないんだ」

「……へぇ、そっか」


 謎の間があったけど海香ちゃんは頷いてくれた。


「だから後一歩、何かしたいんだけど。何がいいかな」

「それならデートに誘ってみたら?」

「で、デート!?」


 軽く意見を聞いてみたらかなり重い案件が返ってきた。驚きのあまり身体が起き上がっている。今度はベッドではなく壁を背にして海香ちゃんの話を聞くことに。


「いきなりデートってやばいでしょ」

「別になんてことないでしょ。デートって言っても普通に一緒に遊びに行くだけだし」

「あぁ、そっか」


 デートって言葉に惑わされたけど、友達同士で遊びに行くなんてよくある事だ。


「でもそれだと意識してもらえなくない?」


 練習のリフレッシュに遊びに行こうと誘ったら、多分彼方は断らない。でもそれだと普通に楽しんで終わりそうな気がする。彼方にリフレッシュしてもらえるならいい気もするけど、あくまで今の私の目的は彼方に意識してもらう事なのだ。


「そこで大事なのが場所なのですよ」


 海香ちゃんが芝居がかった声色で私の疑問に答えた。電話越しでも彼女が眼鏡をかけてないのに鼻元をクイッとしているのがわかる。相変わらずお茶目な子だ。


「まず二人きりで行くのは前提として、行き先を有名なデートスポットにするのですよ」

「例えば……ビーチとかプラネタリウム?」

「ザッツライト! そうする事で雰囲気を作り出し、周囲はカップルだらけなのも相まって、美鈴ちゃんがアピールすれば意識せざるを得なくなるのです!」


 恐らく今の海香ちゃんはバンッと決めポーズをしている。少しアホっぽい語りだったけど、確かに海香ちゃんの言う通りだと思う。


 流石は長年委員長にアピールし続けただけはある。恋愛経験ゼロの私にとっての心強い事この上ない。


「だったらどこがいいかな」

「そこは美鈴ちゃんが行きたいとこでいいでしょ。この辺には色々あるから選び放題だよ」

「うーん……」


 優柔不断な私にとって選択肢が多いことはマイナスなのだ。あっちかこっちかと永遠に迷い続けてしまう。とりあえずネットで色々検索したり地図アプリを眺めてみたりしたけど、これだというものは見つからなかった。


「迷ってるならいくつかの候補の中から彼方に選んでもらったら? 多分彼方ちゃんは迷わず決めるよ」

「それがいいかも。夜遅くまでごめんね」

「気にしなくていいよ。美鈴ちゃんにも彼方ちゃんにも卯月のことで色々お世話になったから。その恩返しってことで」

「ふふっ、そっか。なら存分に力を貸して貰うよ」

「ませときなさいな!」


 今度は確かにドンと胸を叩く音が聞こえた。本当に海香ちゃんがいてくれて良かった。心強い味方に感謝しながら、デートの行き先候補を三個ほどに絞った後にその日は床に就いた。

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