第二章

第26話

 九条と加奈に関することに対してケリをつけてから早くも二週間が経った。


 九条は授業に出られてはいるが、僕のかけた呪いにより女子の半径二メートルには入れずに、教室の隅っこの席に座り授業を受けていて、女子がただ近くにいるというだけでいつまでも震えていた。更に僕に対して抱かせている恐怖からか僕からの視線を感じただけでうずくまり、呻いていた。一生怯えてろ。


 また加奈に関しては僕が再発させた男性恐怖症により授業に出ることも叶っていなかった。……何故か夜な夜な僕の部屋の前に来ては永遠にウロチョロウロチョロとしているのが気になるところだが。一度思考解析にかけてみたが「——くん、助けて……助けて……」と出るばかりで全く意味が分からなかった。



 そんな奴らを横目に僕と西野さんは先輩二人と今日も妹の延命のためにダンジョンに潜っていた。


 ただ、今日のダンジョンは少し妙だった。


 上手いこと魔法が発動しなかった。いや、魔法自体は発動する。ただ例えば付近百メートルに探査サーチを使おうとしても半径八十メートルほどにいる敵しか探査できなかった。とにかく、何かが不安定だった。


 嫌な予感がする。といっても具体的に何かが起きるわけでもなく、無事に今日の探索が終わろうとした時だった。


 突然ダンジョンが揺れ出した。


「キャッ!何?地震!?」


 いや、違う。ダンジョン内は地球とは違うまた別の空間だから地震という概念が存在しない。


「まさか……?いや、迷っている暇はない。急いで戻るぞ!もしこれがダンジョン暴走だとしたら大変なことにn」


 有原先輩のその声で全員が動き出そうとした瞬間だった。突然、ダンジョンの床がとある模様を示して輝き出した。


(強制転移魔法陣!?)


 僕は咄嗟に僕と西野さん、そして先輩二人の合計四人を対象にダンジョン外への転移を使おうとした。


 だが、魔法は起動しなかった。


(クソッ、何だよ!嫌な予感当たるなよ!)


 僕は近くにいた西野さんを抱き寄せ、来たる衝撃に備えた……。



 次に目が覚めた時には僕を含めた四人ともダンジョンの床に倒れていた。


 強制転移の反動で怠い体を起こし、自分の体に状態異常回復魔法をかけようとして、魔法が使えないことに再び気付かされた。不便だな……。


 他の三人が目を覚ますまでの時間で重い頭を使い、僕は今僕たちが置かれた状況を確認した。


 今いるのは縦横十メートル、高さ三メートルほどの空間。進める道は前方にある一つのみ。


 背後の壁や天井を壊して脱出できないかと軽く殴ってみたが、ビクともしなかった。流石に強化魔法を使わないと厳しいか……。


 ということは進めるのはこの道のみと……。


 そこまで整理し終えたところで、西野さんたちが目を覚ました。


「ん?ここは……どこ?」

「分からないけど多分、転移でどこかに飛ばされたその先」


 その僕の言葉にキョロキョロと辺りを見回していた有原先輩がため息を漏らす。


「……なんでよりによってダンジョン暴走に巻き込まれるんだよ……」

「別にそうと決まったわけじゃないでしょ、私たちが変な罠を踏んだのかもしれないし」

「……考えてみろ早紀。ダンジョンが突然揺れ始めて何処かに飛ばされるなんてそれ以外何がある?」

「……」


 ——ダンジョン暴走。それはダンジョンがなんらかの理由で魔力を失うと、ダンジョン内にいた人が強制的にダンジョン内のどこかに転移させられてしまうこと。また、そのダンジョンからは雑魚モンスターが消え、ボスモンスター一匹に統合される。簡単に言うと雑魚モンスターがいなくなる代わりにボスモンスターが大幅な強化を食らうということだ。脱出方法はボスを倒すのみ。


 以上が今までにも数十回ほど起きているダンジョン暴走の数少ない生還者の証言だ。


 ちなみに僕は一度もダンジョン暴走に見舞われたことはない。異世界には魔力が溢れていたのでこんなことは起こり得なかったから。


 僕の隣で先輩の口から出たダンジョン暴走という単語に不安そうな顔を浮かべている西野さんに僕がいるから大丈夫と声をかけて安心させていると話し合いを終えた先輩が僕たちに声をかけてきた。


「まぁ、こんなところで言い争っていても仕方ない、取り敢えず進もうか……」


 そのかなり気の重そうな有原先輩の声で僕たちはダンジョンを進み始めた……。




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