第20話
コンコン
公式戦の前日の夜、僕が自室で九条をどう料理したらより効果的に貶めることができるか……と思案しているとドアが控え目にノックされる。
「上野くん?入ってもいい」
「いいよ。どうぞ」
腰掛けていたベッドから立ち上がりドアを開き、西野さんを招き入れた。
「ごめん。文字通り何にもない質素な部屋だけど。適当に座っちゃって」
妹の延命用の魔石に僕のお金は全部回されていたので家具など揃える余裕がなかった。
西野さんはどこか浮かない顔をしていた。俯いたままで部屋に入ってから中々口を開かないので僕側から話を切り出す。
「それでどうかしたの?」
「いや、その……どうしても気になっちゃって……。上野くんと橋下さんの関係が」
「……」
「朝に上野くんに全部が終わったら話すって言われたから終わるまで待とうと思ったんだけど、全部ってなに?とか終わるってどういうこと?それと二人の関係を考えていたら不安になってどうしても眠れなくて……」
猛烈に申し訳なくなった。彼らの被害者という同じ立場でありながら、少し隠し事をしすぎた。ただ、それでも話すことはできない。計画には寸分の狂いもあってはならないから。別に西野さんを信頼していないとかそういうことではない。人の口に戸は立てられないので話はどこから洩れるか分からないというだけだ。実際、魔法を使用すればかけられるが、あまり西野さんには魔法をかけたくない。
だからこそ今の僕ができる最適な行動を行う。
「明日だ」
「えっ?」
「明日で全部ケリをつける。だからそれまで待ってほしい」
彼女の透き通った瞳に真剣な眼差しを向けている僕が煌めく。
彼女は分かったと頷き、信じているから。明日頑張ってねと言い残し部屋を出て行った。
「じゃあお休み」
僕はそう短く返し、瞑想をして明日に向けて最高のコンディションを整えた。
そして翌日、授業に九条は現れなかった。分身を九条の部屋に飛ばして様子を覗いてみると、奴は狂ったように僕への怨嗟の言葉を紙に書き連ねていた。
具体的に言うと僕への殺意だったが……。どこか見てて愉快だった。
良かった。体調を崩して授業に出られていないのならば、今日の放課後の公式戦も取り止めとなり西野さんとの約束を果たせなくなるところだった。
そしていつもより遥かに長く感じられる隣で加奈が天くん天くん言ってくる憂鬱な授業をこなすと放課後が来た。
校舎から徒歩二分の闘技場——といってもローマのコロッセオのようなものではなく、体育館に観客席が付いたようなものだが、に向かう。
ここでは殺傷能力のある真剣そして魔法の使用は禁じられている。つまり刃をつぶした剣による単純な剣術比べということだ。
使用する剣などどれでも構わないので適当に体に合った剣を入り口で選んで中に入ると猛烈な熱気に襲われた。
満席になった座席のせいだ。色々な人間から最早ひかれている九条が集めたわけではない。僕が魔法で集めた。僕の復讐のフィナーレを飾ることになるだろう試合の目撃者とするために。
しばらく待っていると物凄い形相の九条が入ってきた。剣を握る手がもはや震えていた。
「よく来たな、上野。逃げなかったことは褒めてやる。だけどな来たことを後悔させてやるよ。……徹底的に、完膚無きまでに潰す」
「……話はそれだけか?つまらない御託はいいからとっとと始めようぜ」
僕が審判を務める教師を見つめると審判の方は頷いた。
「それではただいまより、二年の上野天、そして同じく二年の九条彗人による公式戦を行います。両者ともにフェアな戦いを心掛けるように。——それでは試合開始!」
試合の幕はそうして開かれた——。
———————————————
GW中は更新頑張ります。そろそろ第一章終わりますしね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます