第6話
「とにかく、いつまでも謝ることすらできない息子に代わって謝ろう。君たちの命を危険にさらしてしまいすまなかった」
学園長はそう深々と僕たちに頭を下げた。九条も学園長のその言葉に込められた圧力に屈して屈辱の色とともに僕たちに頭を下げた。
「……すまなかった……」
「それで彗人の処分については何か希望はあるかい?」
へー、僕たちに訊いてくれるんだ。それがそのまま通るかは知らないけど。じゃあ、僕と同じ目もしくはそれ以上の目ににあってもら……、いやそれは自分でやりたい。それなら、僕は九条が逃げられないようにする。
「それなら、九条くんに毎日授業を受けさせてやってくれませんか?下手に停学とかにするよりもその方が彼にとってもいいと思うんです」
僕は先ほどの思考解析で九条が一週間の停学処分を食らっているのも知っていた。ただ、それで学園に出てこない間に苦しまれてもつまらない。しっかりと僕は見届けたい。ただ、この言葉だけで誘導できるのかは僕にも分からないので念の為、思考誘導の魔法の起動を準備しておく。
「……それだと反省文くらいになってしまうがいいのかい?」
「ええ」
「西野さんもそれでいいのかい?」
「はい、上野くんがいいなら」
彼女には予め一部復讐の話など嘘を交えながらではあるが、僕の家庭の話などを話して説得しておいたため、どんなことになろうとも僕に賛成すると約束してくれた。
それは僕への好意を利用しているような形での説得だったので少し心苦しかったが、その代わりと言っては何だが一応復讐に西野さんの案も取り込んでいる。それが復讐かどうかは怪しいところだが、それで許してほしいところだ。
「そうか……。二人ともありがとう……。それなら私からの話は終わりと言いたいんだが、橋下さんが来ないと話を終わらせられないんだ。橋下さんはまだ来ないのか……?」
その言葉の答えを示すように、タイミングよくドアが開いた。
「失礼します。学園長!」
「橋下さんはどうした?」
「その……上野くんと西野さんが生還されたと話をしたら倒れてしまい……、今保健室なのですがどうしましょうか?」
へぇ、加奈倒れたんだ、僕たちが帰ってきたショックで。どれだけ僕たちが帰ってきたことがショックなんだよ……。死んだと信じすぎだろ……。というか面倒くさ。わざわざ僕が出向いて呪ってあげないといけないのか。
「そうだったら今日はもう終わりにしよう。二人とも今日は疲れたでしょう。詳しい話は明日以降にしよう。もう帰って休みなさい。……そして彗人、しっかり部屋で反省しなさい。二人が優しかったからこれで済んだんだからな。そこら辺の感謝も忘れないように」
優しいか……。死にかけたというのに見捨てた人間を庇ってるんだから表向きはそうとしか取れないか。是非とも感謝してほしいね、僕たちの優しさに。僕は思わずほくそ笑みそうになるがそれを心にしまい込む。
「分かりました。それでは失礼します」
「失礼します」
「……はい」
そうして学園長室から離れたところで九条が僕の肩を掴み、少し苛立ったような、それでいて少し怯えているような声をかけてきた。
「おい、どういうことだよ、上野。お前なんであんなことを」
「あんなこと?それはどういうことだ?」
僕はさも何も思い当たることなどない様な顔を浮かべてみせる。
「お前、まさか何も覚えていないのか?」
バーカ。そんな訳ないだろ。どんなことがあったら忘れるんだよ。
「冗談だよ。……言われたかった?」
「……ッ、別にそういうわけでは……」
流石にこの場で僕のことを挑発するのは良くないと思ったのか九条は珍しく少し弱腰だった。別に証拠とかないだろと勢い付いてもらっても構わなかったんだがな。向かえる最後は同じなんだから。
「そんな簡単に潰れてもらっちゃ困るんだよ」
「……どういうことだよ!」
僕は西野さんに聞こえないように静かに九条の耳元で囁く。
「待ってろよ、復讐を。精々震えて眠れ」
「……お前ごときが復讐?笑わせてくれるなよ、無能」
九条の声はプライドからか強がっていたが少し震えていて、何より九条自身が恐怖の現れとしてその場で立ちすくんでしまっていた。言葉に殺意を込めすぎたか……。
九条をその場に置き去りにして少し並んで歩いていると突然西野さんに声がかけられた。
「奏多!」
「えっ、お父さん?」
「よかった。無事だったのか。お父さん、先生から死んだって聞かされて、もう……」
僕は親子の運命の再会?を邪魔するつもりはないのでとっとと消える。
「じゃあ西野さんまた明日」
「あっ、うん、じゃあね……」
——そして夜が来た。カーテンを開けているため、寮の僕の部屋に月の光が仄かに差し込んでいる。
「ふぅ、それじゃあ一仕事しますか」
僕は自分に
「
僕は次の瞬間、加奈の部屋にいた。保健室ではないのは僕たちが部屋に帰ったあとで彼女も目を覚まして事情を聴かれた後に九条と僕たちの話を踏まえて特にお咎めなしで彼女の部屋に戻されたと聞いていたからだ。
(っ、びっくりした。何でこんな時間まで起きてるんだよ……。時計見ろよ。もう午前二時だぞ……)
加奈は何故か窓を開け放ちただただ外を眺めて立ちすくんでいた。
僕は思考解析を使い、加奈の心を読む。
(ねぇ、どういうことなの?なんで二人とも生きているの?そしてなんで本当になっているの?分からないよ。怖いよ……もう助けてよ——くん)
ごめん。無理。
彼女の願いなど聞く価値もないので彼女にも九条と同じようにまず悪夢で苦しめる。
「
僕には残念ながらベッドに運んであげるとかいう温情はないので、さっさとそこらへんで眠ってもらい早速悪夢を見せ始めた。
僕は彼女に見せる悪夢についてあっちの世界でずっと悩んでいた。男と女では思考回路も何もかも違うからだ。
ただ、あっちの世界に行ってから二年目の時に、魔王軍の幹部がとある街を襲い、全員に悪夢を見せた。その時、夢の中で女性全員をメスのオークに変えて嫌いな男、もしくは知らない男たちに犯させた。僕と仲間が現場に到着して目覚めさせた後、女性と男性はしばらくお互いに近づけなかったという話。そこから僕は彼女に対するうってつけの復讐方法を思い付いた。
それは同じように夢の中で徹底的に尊厳を奪い、男性恐怖症にするということ。あっちの世界では僕が全員の記憶を消したおかけで元通りになったが、こっちではそうはいかない。
二人の男と同時に関係を持ち、片方を捨てた。そもそも二人の男と関係を持てるということは尻が軽いということ。そんな異常な、有害物質はこの世から排斥するべきだ。楽しかったのかどうかは知らないが何かしら愉快だったからこんなことしたんだろ。この悪夢はあっちの世界では例外がなかったもの。間違いなく彼女を嵌められる。
さぁ、少しずつ苦しんでくれ。仲間割れも見せてくれ。そして精々足掻いて僕の鬱憤を晴らさせてくれ。楽には終わらせないからな。
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