お休み期間
あと2週間という所で、一度強制的なお休みに入った。
初心者向けダンジョン故に20階以降へのフロアに挑戦する者が少なく、放置して置くとダンジョンの魔物が増えスタンピートを起こす為、大体1~3ヶ月に1度騎士団が訓練も兼ね20階層以降に入るのだが、それと被ったのだ。
別に騎士団以外もダンジョンに入っても良いが、同じフロアには行かないようにするのが不文律となっているらしい。
その為、俺たちも3日程休む事になった。
なんだか3日もまとまった休みを取るのは久しぶりだ。
……あれ? もしかして結構社畜癖ついてる?
っていうか、アレクの労働環境、休みなし……。
奴隷だから当たり前なのかもしれないけど、休みを与えるべきだろうか?
なんせ、今日から3日間は差し迫ってやる事もなく、ついいつもの癖でブラブラ散策するだけなのにアレクを連れてきてしまっていた。
「アレク、つい連れて来ちゃったけど大丈夫だった?」
「? ええ勿論。アヤト様が行く所には何処へでもついて行きますよ」
微笑んで答えられる。
……イケメンオーラが眩しいです。
「アレクは休みとかいらない?」
「休み? アヤト様に仕えることが喜びですので、休んでお側に居られないくらいでしたら、要りませんね」
「そ、そうか」
その回答に綾人は嬉しくなった。
――"あれ? 俺洗脳しちゃった? 社畜作っちゃった?"と一瞬頭を過ったが、気のせいと思い込み全力でスルーしたのは言うまでもない。
「噴水広場に行こう! あそこよく大道芸やってるし、見に行こうアレク」
「はい。まいりましょう」
いつもはアレクが差し出す手を、今日は何となく嬉しくて綾人から差し出した。
アレクは少し驚いていたが、綾人の手を掴み返してきたので、そのまま引っ張るように噴水広場まで向かった。
ここの世界の大道芸は魔法ありの為、綾人にとってはスケールが大きく見応えがあるのだ。
いつもは買い出しの途中で見かける事はあっても、ゆっくり見る時間は無かったが、今日は急ぐ予定もない為、たっぷり見ることが出来ると向かっていると
「アレクセイ様!」
アレクに向かって話しかける綺麗な女性がいた。
……全く忍べていない。
思わず綾人が立ち止まってしまったら、いかにもお忍びなんです! というような付き人を複数人連れた女性が目の前にやってきた。
服はそこまで良いものじゃないが、帽子で隠したつもりになっている顔立ちも、綺麗な姿勢に淑やかに歩く所作も、絶対平民や商人じゃないと感じさせるものだった。
素早く鑑定する。
------------------------------
名前:エリーメイル・ボルタ
年齢:26
職業:ボルタ侯爵家令嬢(元第三王子婚約者)
------------------------------
……あらー。婚約者は年上だったんだ。
綾人は、まさか直接アレクの婚約相手と会うとは思わず、半分思考が停止している。
「アヤト様、大道芸を見るのでしょう。行きましょう」
と、アレクは元? 婚約者に見向きも反応もせず、立ち止まった綾人の手を引き、今度はアレクが先導するように、まるで何事も無かったかのように歩き出す。
その反応に綾人も呆気に取られたが、元婚約者も呆気に取られたようでアレクに連れられている綾人とだんだん距離が離れていく。
が、すぐに追いついてきて
「アレクセイ様ですよね?」
「お待ちになって」
「アレクセイ様」
「婚約者のエリーです」
「わかりますよね?」
と、しつこく話かけながらついてくる。
綾人もどうすれば良いのか分からず、アレクに引っ張られるままになっていたが、アレクはため息を吐くと、
「主人、申し訳ございません。先程のお休みの話ですが少しお休みをいただいてもよろしいですか?」
「う、うん」
アレクは初めて元婚約者の方へ向き直ると、
「エリー、主人を送ってからきますのでそこの喫茶店で護衛と共に待っていてください」
「お、俺は別にここでも」
「いいえ、すみませんが宿でお待ちください」
そう言うと一旦女性達とはわかれ、俺は宿に連れて行かれ、念の為に外出はしないよう言い含められ、アレクは再び出て行ってしまった。
――"エリー"と愛称呼びだった。
しかも、そのエリーの前では俺の事を"主人"と呼んでいた。
先程の楽しい気持ちが萎み、悶々としてくる。
綾人は落ち着かない中、ベットで枕を抱き抱え、ひたすらアレクを待った。
***
――バタン。
綾人はいつのまにかベットで寝ていたみたいだ。
気になって仕方ないから、直球で聞く事にしようと決めていたので、寝室を出て帰ってきたばかりのアレクに問いかける。
「アレク、お帰り、あの、あの女性は?」
「帰りましたよ。それより遅くなって申し訳ございませんでした。夕飯まだでしたら今からいただいてきますよ?」
「うん。あーそうじゃなくて、あの女性との関係は?」
「ただの昔馴染みですよ」
――アレクに嘘をつかれた。
「でも、さっき婚約者って言ってたけど」
「奴隷の私に婚約者なんているわけないでしょう?」
「そ、そうだね」
「それより、ご飯いただいてきますのでもう少々お待ちください」
――また誤魔化された。
そして、その日からアレクが側に居ないことが増えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます