レベル上げ

 綾人が泣き疲れて寝落ちしてしまった次の日から、ダンジョンアタックは予定通り始まった。


 そして、声を取り戻したアレクは無敵だった。


 そう、魔法が使えるようになったのだ。


 今は綾人のレベル上げ中で、アレクへの経験値がほぼ入らず、レベルとしてはあまり上がらない中、アレクはせっせと無詠唱で魔法が発動されるように練習している。


 そして、ダンジョンアタックを再開して1ヶ月経った今、既に中級魔法までは無詠唱で問題なく発動出来るようになっていて、今は上級魔法も無詠唱で発動出来るよう訓練中だ。


 護衛対象を守りきれなかったのがよっぽど悔しかったのかプライドに障ったのか、鬼気迫る勢いで魔法に磨きをかけている。


 ……うん。そんな喉に呪いをかけられるような事、今後はあまり無いと思うけどね……。


 それから、何気に索敵スキルもレベル(3)から(4)に上がっている。


 アレクの主人公属性が暴走気味である。


 ……考えてみれば、"女神の愛子"の称号がある時点で、最早主人公か。と納得した。


 そして、称号といえば綾人の称号欄の内容がちょっと変わった。


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称号:器用貧乏、女神の愛子への接触により注視対象(愛子を使うなんていい性格してるな……)

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 ……相変わらず辛辣なんだけど、少しだけ言葉が柔らかくなっている気がするのだ。


 以前は"警戒対象"だったのが、今は"注視対象"になってるし。


 まぁ、称号欄の筈なのに相変わらずメッセージ欄にしか見えないのも凄いけど。


「そろそろ帰りましょうかアヤト様」


 いつの間にか、近くにいた魔物が根こそぎ魔石に変わっていた。


 20階フロアボスは死んだようだ。


 アレクは風魔法を使って素早く魔石を回収し、鞄に仕舞う。


「そうだね。じゃ、掴まって」


 アレクはそっと綾人を抱きしめる。


 ……手だけでも触れさえしてれば良いんだけど。


 恥ずかしいような嬉しいような思いを誤魔化すように、魔法を発動する。


『転移』


 一瞬後には20階のフロアボスの部屋から2人の姿は消え、1階の出入り口近くの目立たない場所に移動していた。


 ――このダンジョンは全部で23階だ。


 そして、20階の通常フロアまでは、初心者向けの優しいダンジョンなのだが、5階層毎にあるフロアボス部屋の20階のフロアボス部屋から23階層までは初級・中級を抜かして、上級レベルのダンジョンになっている。


 魔法を使えるようになったアレクは最初の2泊3日で、20階までのフロアを制覇し(1階から5階迄は移動出来るが、6階から10階までのフロアに進むには5階のフロアボスを倒さないと次の階層には行けない)、そこからは20階のフロアボス部屋でひたすらレベリングである。


 フロアボス部屋は倒されてからきっかり1時間で、ボスが復活する。


 ボスが復活してはアレクと綾人でボス部屋へ入り、綾人に風の防御結界を張ると、アレクがフロアボスを倒す。


 初めてフロアボスに相対した時は流石のアレクも手こずっていたが、今は弱点も攻撃パターンも把握し、10分もせずアレク1人で倒してしまえる。


 ……なんだこの作業ゲーム。


 因みに、初心者向けダンジョンの為、20階層以降に挑戦する人は少なく、この1ヶ月ちょっと、このボス部屋は綾人とアレクの貸切状態になっている。


 そして、この作業ゲーのおかげで、綾人も既に61レベルまで上がっていて、レベルが上がった恩恵で、転移も使えるようになった。


 転移のおかげで、ダンジョンでの寝泊まりが必要なくなり、移動時間も短縮できて、体も宿でゆっくり休めるから転移魔法万万歳である。


 ただ、転移が使える者はやはり少なく、無属性レベルが(4)以上じゃないと使えないレアな魔法のようなので、使う時は細心の注意を払っている。その一環として、日本語で発動させているのだ。


 ……だから決して厨二病みたいな呪文が嫌だから敢えて日本語を使っているとかではないのだ。


「さ、アヤト様帰りましょう」


 無事にダンジョンの1階に着いた為、アレクが綾人から離れる。


 ――寂しいな。


 アレクの体温が離れていく事に寂しさを感じていた。


 ……いやいや、何男に抱きしめられて、離れて寂しいとか思っちゃってるんだ?


 あのダンジョンアタック再開の前日、アレクの胸の中で泣いてから、どうにもおかしいのだ。


 アレクが気になってしょうがないし、触れられると嬉しくなってしまうし、気がついたらアレクの事を考えていたり、見ていたりするし……。


 ……乙女か!!


 それに、自分の中のストッパーが外れてしまったのか、アレクがくっついてくると離れ難く、何だかんだ自分に理由を付けてそのままくっついている事が増えた。


 綾人は家族との距離が遠く、幼い頃に両親に甘える経験が少なかった為か、歴代の彼女達に飽きられる程には、本当はくっついているのが好きなのだ。


 まぁ、あまり褒められたものではないという事を彼女達から学んでいたので、抑えてはいたのだが。。。


 今まで一線を引いて踏み込みもせず、踏み込ませもしていなかった筈なのに、気が付けば自分の気持ちを話していたり、少し踏み込んだ話を聞こうとしたりと


 なんだかちょっとまずいのだ。


 いつの間にかこの1ヶ月ちょっとで、もうアレクが居るのが当たり前になりつつある。


 それに、たまにアレクから雇い主へと向ける視線とは別の、どちらかと言えば欲情に近いような熱い視線を向けられているようにも感じるのは、気のせいだろうか。


 奴隷生活で発散出来ないから溜まってるだけなのか、はたまた自分を好いてくれていたり……?


 いや、気のせいだろう。


 アレクも婚約者がいたなら、普通に女性が好きだろうし、俺も男性と付き合うとかは考えたことはないや。


 でも、アレクとだったら……どうなんだろう?


 ……いやいや、あんなイケメン、奴隷じゃなければ相手なんて選びたい放題だろう。


 ちょっとあまり見ない顔の異国風な俺を好き……なんてあるわけないな。


 ただ、毎日事あるごとににずっと側にいると言われ、あの第三王子の護衛もあれから全く現れずにいると、本当にずっと側にいてくれるのかと思ってしまいそうになる。


 もうあと2週間もすれば、奴隷紋除去が出来る契約の3ヶ月になる。


 ……このまま黙っていたら


 このままずっと俺の側に居てくれないだろうか。

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