噂のあの子

「それで変な噂って…?」

「うん、もしかしたら百は怒るかもしれないんだけど…」

私が怒る?それは一体どんな内容なんだろうと

不安になりながら彼を見つめていると、決心がついたのか話し始めた。

「実はね……町で魔法が使える子が現れたって…」

「魔法が…?町でって事は平民の子よね?そんな事あるのねぇ…」

ほぅ…と感心したように話を聞く私を見て玲央様はまるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして

私の方を見ていた。

「玲央様?どうかなさいましたか?」

「あっ!いや…百が平民の子に魔法が見つかったって知ったらもっと怒ると思ったから…魔法は貴族の物なのに…!って」

「え?そんな事思う訳ないじゃ無いですか」

「へ……?」

「だって魔法が使える事に貴族も平民も無いでしょう?」

「そ、そりゃあそうだけど……もしかして、倒れた時に頭打ったりした…?」

「し、失礼ですね!私は至って正常ですよ!」

「でも……いつもなら絶対そんな事言わないし……」

「私も成長したんです!それよりその噂の事もっと詳しく教えてくださいませんか?」

「まぁ……百がそういうなら……分かった」

そして玲央様から聞いた話はこうだった。

なんでも最近町中で小さな爆発が起こったり、突然水が溢れたり、物が浮いたり そんな不思議な事が起こっているらしい。

しかも、それは全て同じ人物が起こしたらしい。

「なるほど、それで学園に入学することになるのね…」

「百?どうかした?」

「あ、いいえ。続けて?」

「うん、それでね…」

玲央様の話をまとめると、ここ最近町で魔法が使える子が現れた。

その子は、まだ魔法の使い方に慣れておらず、トラブルを起こしている。

最初は皆不思議がっていたが、最近は慣れてきて、逆に感謝している人までいるとか……

しかし、このままでは良くないと言う者が現れ始めた。

この問題を重くとらえた町長が、この子を学園に入学させようと決めた。

そしてその話が私たちの所まで流れその噂が広まったと言う感じだろうか。

話の内容的にこの子がヒロインの女の子で間違いは無いと思うが、ゲームで

そんな話あっただろうか…?私の記憶が間違っている?

ゲームでは魔法の暴走の話なんて聞いた記憶がないけれど…

「うーん……」

「百、大丈夫?やっぱりどこか具合悪いんじゃ……」

「あ、いえ!少し考え事をしていただけですから」

「本当に?」

「本当ですよ!」

「それなら良いけど……」

心配そうな顔で私のことを見る玲央様に思わず笑みがこぼれる。

だって玲央様ったらおっきなワンちゃんの様で可愛いんですもの。

「ふふっ、玲央様、私はどこも悪くありませんよ」

「ほんと?それなら良いけど……」

「ほんとうですよ、だからそんな泣きそうな顔しないの」

よしよしと頭を撫でてあげれば、彼は嬉しそうに目を細める。

本当にワンちゃん見たい…ふふっ、可愛い。

「ねぇ、百はさ、その子の事どうするの?」

「そうですね、出来れば仲良くなりたいですね」

「……は?」

「ですから、彼女と友達になりたいんですよ」

「え?なんで?」

「だって、彼女一人で学園に来るのでしょう?きっと心細いだろうし、私だけでも味方になってあげたいんですの」

「いや、あの、えっと……何でそこまで……」

玲央様は、理解出来ないと言った様子だ。確かに普通の貴族令嬢ならばこんなことは絶対に思わない。でも、

「だって彼女は普通の子なんですよ?それに困っている人が居たら助けてあげる。それが当たり前ですもの」

「百……」

「私は彼女の力になりたいのです、だって私は……」

そこで言葉を止めると彼は首を傾げながら私のことをじっと見つめてきた。

「私は?」

「……」

言いかけた言葉を呑み込み、私は微笑む。

「……秘密、ですよ」

そう言って誤魔化すと、彼は残念そうにため息をつく。

「まぁ…百が本気なのは分かったし、俺も協力するよ」

「ありがとうございます、玲央様」

そうして私たちは、ヒロインの子と仲良しになる作戦を立てることになった。

しかし、この時の私たちは知らなかったのだ……

まさか、あんな事になるなんて……

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