アメリアの独白と冥府神。そして■王。
本日投稿6話目です。ご注意ください。ストックはこれで全部になります。
◆
私達の実家であるロムナ王家は嫌悪されている。だけど仕方ないことだろう。なにせ悪神ザラマンジアが祖なのは間違いないのだ。
そのためロムナ王家は辺境に位置することもあって、世界中の王家との縁が非常に薄い。現に国と国の婚姻外交なんてものとは縁がなく、世界では珍しく女王が即位した歴史があるのも、単に男が即位する伝統とか言ってられないほど血縁の枝が薄いからだ。
しかし、父王と母はロムナ王家の歴史では非常に珍しいことに相思相愛で、兄と三つ子の私達で四人も子をもうけている。そしてその愛が作用してしまったのだろうか。
私達は先祖返りのように強力な力を持って生まれ、そして……。
そんな私達が魔道学園にやって来たのは、手っ取り早く言うと婿を見つけるためだ。
一応だが善なる神の陣営で戦った頃まで遡れるロムナ王家を絶やさないため血脈は広い方がいい。だから自分達に最も適している場所を学園の契約魔法に判断してもらい、高等教育学校に通うことになったのだが……。
「クロエ、八分の一って何のことだと思う?」
「わっかんなーい。話の流れを考えたらあの人も祖が悪神なんだろうけど、八分の一ってことは私達よりずっと祖に近いんだよねー」
「そうよね」
投げやりなクロエが金の髪を揺らしながら肩を竦める。
そう、いきなりよく分からない状況に陥った。同じタイミングでマナーテルにやってきて、隣の男子寮に住むことになったらしい奇抜な格好をした青年。なんと表現したら……そう、やんちゃ少年という表現できるような黒髪黒目のジョージ君にロムナ王家のことを尋ねると、それを言ったら自分は八分の一であると言われたのだ。
「ルーナはどう思う?」
「私も分からない」
次にルーナに尋ねると、気弱な表現を止めている彼女はゆるゆると首を横に振った。そういった性格の面もあるため普段の気弱さは完全な演技とまでは言わないが、私達だけの時は落ち着いた顔になるのに、今は困惑気な表情をしている。
「少なくともロムナを知っていて妙な顔はしなかった」
「そうね」
ルーナの言葉に頷く。
おとぎ話で語られるロムナを知らない者はほぼいない。それは悪神の血を継いでいることも含まれており、私達の名乗りはそのまま嫌悪に繋がる。しかしジョージ君は、あ、そうなのね程度の表情しか見せなかった。やっぱり服装といい変わり者なのだろうか?
「……要観察?」
「だねー」
「ん」
どう接すればいいかさっぱり分からないジョージ君に対して保留の判断を下すと、クロエもルーナも同意した。
『見つけたぞおおおおおおおおおおおおおおお! 憎っくきザラマンジアの血脈ううううううううううう!』
「え!?」
今の声はなに!? 空間が歪む!?
「ここは!?」
寮の部屋じゃない!? 真っ黒な地面に真っ黒な空、紫の太陽!? 聞いたことがある! かつて悪神側に付いた冥府神ネザドーの領域!?
「なにこれ!?」
「ちょっとまずいかも!」
クロエとルーナもいる!
『おおおおおおおおおおおお!』
黒い地から上半身だけ出て叫んでいる巨人! 頭はヤギの頭蓋骨で腕が二本に黒い体色! 実家にある絵と同じ! 間違いない! 悪神を裏切った祖であるザラマンジアに敗れた冥府神ネザドー! 全身が爛れているのは恐らく敗れてできた傷だ!
伝承の能力は取り込んだ万を超える死者の霊の使役!
その前に倒す!
「変身!」
「変身!」
「変身!」
祖の力を最大稼働させて人としての姿から変じる。
クロエは黄色い外骨格の体。雷のような鋭い突起が肩や肘、足回りから伸びて、そこから紫電をまき散らしている。そして顔にある丸い一つ目からも、僅かな光が漏れている。
ルーナは青い外骨格の体。背中や膝から氷柱のような突起が伸び出て、辺り一帯の温度を急速に冷却する。それは顔の角ばった二つの瞳も同じで、目尻から冷気が漏れ出ていた。
そして私。赤い外骨格は炎の揺らめきから形作ったかのように不規則で、ルーナの霊的な氷に負けないほどの熱量を生み出し、両目とその間にある全部で三つの歪んだ目が炎に照らされた目を認識する。
このキチン質のような外骨格こそが、祖である悪神から受け継いでしまった神なる力を行使するための姿。
『ザラマンジアあああああああああ! この恨みいいいいいいいいいいいいいい!』
ネザドーが叫ぶ。どうやら祖を思い出して怒りが頂点に達したようだ。
『子々孫々を根絶やしにしてくれるううううう!』
祖への恨みなんかに付き合えるものか!
え!?
なにこれ!? 私達から小さな石像!?
◆
当然だが、当人ではなく子孫への八つ当たりなど理不尽極まる。だからこそ起動した。諸々の理不尽を消し去るために。
アメリア達の背後から飛び出し、彼女達を守るように並び立つのは、ニッコリと笑う膝ほどの高さの子供のような石像。それが六。
だがアメリア達はその名を知らない。それもまた当然。
名をお地蔵様。アトランティア世界において弱小と蔑まれるパンゲア神格の内の一部であるジパング神格に含まれており、この世界での知名度もなきに等しい。ある意味では正しい。最早パンゲアにおける神格は陽炎以下に成り果て、未だ強力な力を保持するアトランティア神格に及ぶところではない。
ただし。
それは人に道を譲ったからだ。
「オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ」
お地蔵様が唱えた自らの真言と共に光が溢れる。
それと同時にお地蔵さまは消え失せ……。
「ぽっと出な木っ端の冥府神如きがぁ! 善として生きようと足掻いてる奴らの邪魔をするんじゃねえええ!」
代わりに譲治が青筋を浮かべながら冥府に怒鳴り込んできた。
譲治に対して保留の判断を下したアメリアだが、つい先ほどが初対面なのだから当たり前だ。寧ろその逆である譲治がおかしいのだ。
しかし纏わりつく悪意、嫌悪、祖なる悪神の力。それらに抗い悪ではなく善として生きていこうとするアメリア達の生き方は好ましすぎた。
だからこそ冥府の底だろうが、袖振り合うも他生の縁と言いながら例え命を賭す局面だろうと飛び込んできただろう。
数分の出会いでもそれで十分だった。彼は思考がどれだけぶっ飛んでいても、善には善なのだから。
そして悪にはどこまでも死だった。
「我が身こそ人の想い! 人の願い! その依り代! その化身!」
その叫びと共に譲治の体がぐにゃりと崩れる。
黒き泥となる。
大きくなる。
十に分割される。
「アヴァターラ変身!」
そして……かつての祈りが形作られる。
冥府に力が満ちた。
「「「「「「「「「「我ら十王の力を知るがいい!」」」」」」」」」」
現れたるは巨大なる官吏服を纏った神の姿。
異なる世界において常世を支配していた最盛期の者達が。
十王。
秦広王が。
初江王が。
宋帝王が。
五官王が。
変成王が。
泰山王が。
平等王が。
都市王が。
五道輪廻王が。
なにより……。
可愛らしいお地蔵様と侮るなかれ。正しき名を地蔵菩薩。
弥勒菩薩が現れる五十六億七千万年後の間、六道にいる全ての者を救う高位の神格の一柱なのだ。しかし別の側面がある。その姿、名こそが。
見上げるほどの身の丈に真っ赤な顔、天に逆らう豊かな髭、頭に冠、官吏服、そして手には笏。
地球の数十倍の地を収める紛れもなき最高位の神格。
ヤマ、閻魔羅闍、閻羅王、その名は数あれど、日本の誰しもがその名を言うだろ。
「この閻魔の前で罪なき者を冥府に連れていくだと!?」
閻魔大王が。
アトランティア世界の冥府に現れた。
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