第48話 遺族

 学園祭が大成功に終わったあと、三連休を利用し俺たちは那珂野県なかのけんにある大嶽山にハイキングに向かっていた。


「いや~、俺たちがクラス対抗の出し物の最優秀賞を取っちまうなんてなぁ! やっぱ、俺の見立ては間違ってなかっぜ!」

「雅がドヤることじゃない。すべて要の功績」


 香月さんが真顔で花山の勘違いを正すと、涙目になって花山は「俺も頑張ったよな? な? な?」と俺に訊ねてくる。


「もちろんだよ、花山が認めてくれなかったら、今の俺はないよ」

「おお、さすがソウルブラザーってもんよ!」


 いつからソウルブラザーになったのか分からないが、そう思われるのはやぶさかではなかった。


 特急の指定席に乗り、現地まで向かう車内では女子たちがかしましいながらも、尊いお姿を魅せてくれていたので、長時間の移動も苦にはならない。なぜ、俺たちが大嶽山へハイキングへ行こうとなったかには、理由があった。



――――少し前の学校でのこと。


「要、見て」


 香月さんがスマホを見せてくれた。基本的に感情を顔に出すタイプではないので、付き合いの短い人だったら、表情から心情を読みとるのは難しいだろう。けど、俺には分かる。香月さんは喜んでいるんだと。


 そこには……


 画面に燦然と輝く一位の文字!!!


 しかも週間総合ときてる……香月さんがヤマガタコイモのPNで書いた書いた異世界作品がカクヨミ週間総合一位になっていたのだ。


「おめでとう、香月さん!」

「要から誉められるのが一番うれしい」


 あまりそういったことを自慢するタイプではないがオレには一番最初に伝えておきたかったらしい。俺に誉められて、普段、無表情に近い彼女がほんのり頬を染めると心にグッと来るものがある。


 無表情であれば、あるほど些細な変化がかわいいから!


「おう、朝からラブコメしてるな。恋せよ、少年っ!」

「どこの女教師だよ。それに花山と歳は変わんねえし、俺が少年ならおまえも少年だろ」

「いや俺、恋してっし」


 花山はぽりぽりとこめかみを掻いて、大人であることを軽くアピールしていた。これが大人の余裕って奴なのかよ!


 やだよ、これだからリア充は!


「ラブコメじゃない、異世界ファンタジー」


 香月さんから唐突に出た異世界ファンタジーというワードに顎を上げ、天を仰いだ花山だったが、付き合いが長いだけあって、何のことか理解していた。


「ああ、カクヨミに投稿した奴か……ん? よくわかんねえけど、もしかしてスゲーことになってる?」

「「なってる!」」


 俺と香月さんは見合わせ、ハモりながら花山に答えた。順風満帆じゅんぷうまんぱんかと思えた香月さんの執筆活動だったが彼女はまたスマホをいじりながら、俺に告げた。


「そんなことより要に大事な話がある」


 カクヨミで週間総合一位になるより、大事なお知らせ? 一体なんのことだろう? やや深刻な顔色から窺えることは、さっきのような喜ばしい話ではなさそうであると思わせた。


 まさか、うわさ辛辣しんらつ感想なのか? 人気の出た作家の宿命かと思い、フリックされて出た画像を見つめた。


「これ見て」


 俺の予想通り応援コメントについてみたいだったけど、これは見てないな……俺も暇があれば、チェックしてるけど見たことがないもの。


「気になって、スクショ撮っておいた」


 どうもコメントに個人情報が入っていたみたいで運営から削除されてしまったらしい。


 よく見ると……


―――――――――――――――――――――――

□ 異世界に散った勇者に捧ぐ鎮魂歌

  第4話 白根一佐


 初めまして白樺鈴音と申します。ヤマガタコイモ先生の作品をいつも楽しく拝読させて頂いております。突然のことで申し訳ございませんが、内容のことで気になった点があり、個人的にご質問したいことがございます。


 お手数ですが、下記のメールアドレスまでご返信願えないでしょうか。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。


 shirakaba-jgsdf@cmail.com


 10時間前 @birch

―――――――――――――――――――――――


 という内容のスクショだった。


 ただ、気になる点というのが、こちらとしても気になる……


 もちろん、白根一佐というのは白樺さんをモデルにしてる。まさか苗字からして、白樺さんの親族、遺族って線が濃厚過ぎるぞ!


「メールアドレスに連絡とかは?」

「していない」


 女の子に見ず知らずの相手と連絡を取らすなんて危険すぎる。高校生の俺でもそうではあるんだけど、香月さんが取るより俺の方がいいよな。そもそも白樺さんと縁故があるのは俺なんだから。


「じゃあ、俺がこの人と連絡を取ってみるよ。香月さんのマネージャーみたいな感じで」

「そうしてもらえると助かる」


 マネージャーより原案と言った方が正しいけど、この際どうでもいいだろう。固い文章なんて書けないけど、誠意を持って書けば、失礼はないはず……


 メールアプリを使い、送信っと!


【白樺様 ヤマガタコイモのマネージャーをしております、桐島要と申します。お問い合わせ頂き、ありがとうございました。ヤマガタに成り代わりまして、私がご返させて頂きます】


 よし、これでいいだろう!


 普段はほとんどLINEだから、メールで送信したのって久々だな。


 しばらくして、返信が届く。


【お書きになられた内容よりお察し致しましたところ、ヤマガタ先生は主人が行方不明になる前後のことをご存知ではないかと思いました。もし、ご存知であれば、私に詳細をお聞かせ願えないでしょうか】


 一つだけ、白樺さんの家族であるかどうかのテストをさせてもらう。


清音すがね花音かのん


 正解だった。読み仮名も正しい。といった具合で俺は知るうる限りのことを白樺さんのご遺族に伝えた。


【大嶽山に献花に伺おうと思っております。よろしければヤマガタ先生と桐島様もいらっしゃいませんか】


 とお誘いを受けてしまった。俺の一存では決められないので、放課後みんなに伝えた。


「桐島、あたしも連れて行ってくれ! 姉貴に花の一つでも供えたいんだよ」


 机に手をつき、勢い良く立ち上がったのは鬼塚さんだった。


「みんなも行くのぉ~? 花山くんと桐島くんが行くなら、私も立候補する~!」


 金子さんがにこにこしながら、俺たちのところにやってくる。


「じゃあ、あとは夏穂くらいか……って、俺、今月ピンチだったーーーっ!!!」


 花山はせっかくの旅行に行けずに、頭を抱えてがくっと膝を落としてうなだれてしまう。


「雅はそうだろうと思った」


 普段の行動を香月さんに読まれてしまっていた花山。そんな彼を見かねた香月さんはドンと机の上に封筒を差し出した。


「十万円ある。これを使えばいい」 


 花山が封筒を取り、札束勘定を始める。「マジかよ……」とつぶやきながら、数えるごとに手が段々と震えていった。


「ちゃんと十万きっちりある……」

「当たり前。昨日、ATMから引き下ろしてきたから」


 高校生にとって十万円は大金。アルバイト一ヶ月にも相当する額だ。


「でもこんな大金どうやって? まさか香月さんのお小遣いとか?」

「違う。カクヨミのインセンティブが入った」


 インセンティブってのはカクヨミに投稿された作品のページ毎に広告がつき、読者がページをめくる度にPVがカウントされる。そのカウントされたPVの量に応じた額が作者側にも広告収入として、得られる仕組みだ。


 だいたい、文字数で変動はあるものの、1PVにつき、0.05円くらい。つまり、200万以上も読まれたってことだった。


 うむむ……ヤマガタコイモ先生、恐るべし!


「みんなの分も出す」

「「「あざーーーっす!!!」」」


 任せておきなさい的に軽く拳で胸を打った香月さんに俺たちは全員で運動部員っぽく深く頭をさげてお礼していた。



――――特急の車内。


 高校生の分際でゆったりシートの指定席でくつろげる理由もコイモ先生さまさまなのだ。


 ただのハイキングではなく、これは追悼のためのハイキング。参加者は男子は俺、花山。女子は香月さん、鬼塚さん、西野さん、金子さんの六人だった。


 車内は満員になっていなっておらず、かなり余裕があった。始発に近い時間だったのでそれも当然かもしれない。朝早いのに四列シートに座る女子チームの金子さんと西野さんはテンションがかなり高い。


「おっぱいターッチ! うぬ、おぬし……胸を上げたのう……これは彼氏殿の育乳のおかげか?」


 ふにっ、ふにっ。


 金子さんは男子なら誰しも憧れるような欲望丸出しで西野さんの豊満なバストを鷲掴みにしていた。女の子同士だから許される尊い行為。


 だが、金子さんは妙にオヤジ臭い。


「なにを、なにを……貴様こそ、朝、昼、晩と牛乳を飲み、見事にバストアップを成し遂げたと聞き及んでおるぞ」


 西野さんもノリが良いというか金子さんに合わせて、お互いに育乳にせいを出していた。恍惚とした二人を見ると俺の性のミルクも出てしまいそうでとてもヤバい!


「たくっ、馬鹿やってんじゃねえぞ。何がおっぱいタッチだ。小学生かよ」


 そんな二人に呆れながら、頬杖をついて窓際の席で外の風景を鬼塚さんは見ていた。


「おやおや? 最近、妙に桐島くんと仲を深めて期待に胸を大きく膨らませている女子がおるぞよ」

「まったくだ。我は前を、貴様は後ろから攻めるがよい」


 二人はターゲットを鬼塚さんに変え、前後から襲いかかっていた。


「おまえら止めろぉぉーー! は、はぁぁーーん……」


 鬼塚さんは前後から二人に責められ、仰け反りながら甘ったるい声をあげてしまっている。ダメだ……この三人を見ていると俺の煩悩が限界突破しそうだった。



 駅を降り立ったあと、村営バスに揺られて大滝村へとたどり着いた。ここは大嶽山の麓の村で登山の基地ベース的な場所と言っても過言でない。


 俺たちは村にあるロッジに泊まる予定でみんなは荷物を置いて、旅の疲れを癒やしていた。


「ごめん、俺ちょっと寄りたいところがあるんだ」


 始発に出たのは俺のわがまま。みんなはもう少し遅くでても合流時間に十分間に合ったのだ。



 大嶽神社の里宮。その側には大嶽教という神道しんとう系修験道の教団の建物がある。



 彼はここで育ったみたい……



 小さな頃からひたすら修業に明け暮れていたと。


「水臭いって」

「えっ!?」


 後ろから肩に触れられた。


 もしかして!


 そう思って振り返って見たら、花山だった。休んでたんじゃねえのかよ……俺が大嶽くんを倒してしまったんだ、そんな都合の良いことなんて起こるはずなんてなかった。


 彼とはあまり話す機会がなかったが、最期に色々と教えてくれた。決して口数が多い方じゃなかったが、生い立ちや俺たちと袂を分かった理由を教えてくれていた。


 息を引き取る前に彼から「生きて戻ったなら、これを社殿に……」と託された念珠。


 花山と荘厳な境内を歩き、念珠を社殿へと戻しておいた。


「俺たちと袂を分かった大嶽くんが育った場所なんだよ、ここは」

「そうか、ここに来っとなんつーか、パワースポットっぽい感じがやたらしてくんな」

「花山も? 俺もだよ」


 境内の外から「六根清浄っ!」と声を張り上げ、錫杖を地面に打ちつける音が聞こえてくる。ちょうど山で修業を終えた修験者が戻ってきたのだろう。


 おやっ?


 神社の向こうにもう一つ社殿があった。気になって行ってみると……


 護国神社!?


 あ! なるほど、大嶽くんの固有スキル【顕現リアル】の英霊はここからだったのか……片寄りはそういうことね。日本人以外もいたけど。村のインフォメーションから大嶽神社の奥宮は噴火によって無くなってしまったようだ。



 花山と一緒に神社を出たあと、ロッジに戻ると、見慣れない二人が木製の椅子に座っていた。テーブルには紅茶やコーヒーが並び、ロッジの外にも笑い声が聞こえ、ガールズトークに花を咲かせていたっぽい。


 どうも俺たちに用があるとのことで香月さんたちが対応してくれたらしい。


 予定より三十分より早いかったのだが、お待たせしてしまったことを謝罪すると、「こちらが早くきてしまったので、申し訳ありません」とお互いに謝っていたので、クスりと笑みが漏れた。


 椅子から立ち上がった彼女たちは自己紹介を始める。年上の女性は二十代後半くらい、年下の女の子は俺たちと同年代のように思えた。


「どうも初めまして、白樺憲治の妻、鈴音すずねと申します」

「娘の花音かのんです」


 俺は死に際を見届け、白樺さんの固有スキルを受け継いだ。そんな恩人の遺族と対面したのだった。


―――――――――あとがき――――――――――

作者、性懲りもなく冷やし中華みたいに新連載を始めました。


【ネトラレうれしい! 許婚のモラハラ幼馴染が寝取られたけど、間男の告白を蹴った美少女たちが、俺と幼馴染が別れた途端に恋心を露わにしてくるんだが。】


脳死しない笑えるNTRざまぁラブコメですので読んでいただけるとうれしいです!


表紙リンク↓

https://kakuyomu.jp/works/16817330667920018002

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