第45話 聖女死す2
薄暗く、天井からは水滴が落ちる。俺は衛兵たちに連れられ、地下牢のような場所に連れて来られた。
衛兵たちの後ろにいる人物……
「なんでおまえまで着いてきてるんだよ!」
「黙れ! 無能がっ、ユリエルさまの
かはっ!?
わざわざ勇者に処罰を加えるのに王女が直々に見にくることを指摘すると衛兵の一人が不敬を理由に槍の石突きで
俺を突いた衛兵を睨むとたじろいで、後ずさりする……なんで無能を怖れる? 虎の威を借りるってやつか。
「さあ、聞き分けのない無能勇者には私が直々に罰を与えあげますわ、感謝しなさい!」
ただの無能だったのが、一応勇者扱いはしてくれるらしい。勇者が減った分、俺も当てにせざるを得ないのかも。それでもこの仕打ちだ。やはり俺はこいつから見たら家畜同然なんだろう。
ユリエルの従者が俺の上半身の服を脱がした。俺に罰を与えることに興奮したのか、ユリエルの息づかいが妙に荒くなっていく。
「はあぁ……はあぁ……たまりませんわ、この身体に傷を刻めるなんて!」
いやらしく俺の胸を指でなぞる。
痛っ!
かと思うと爪を立て、つねる。つねられた皮膚からは血が
ユリエルの従者が壁からある物を取り、ユリエルに
受け取ると俺の前で目見麗しい顔が邪悪にして醜悪な笑みを浮かべていた。止めてくれ、双子ってだけで俺の天使さまがそんな顔になるんじゃないかと思ってしまうじゃないか……
ユリエルは俺の後ろに回った。
なにか背中を指かなにかでなぞったあと、パシンッ! と乾いた音が石壁の狭い部屋に鳴り響いた。ユリエルは鞭を持って、吊された手かせをはめられた俺の背中を叩いたのだ。
「ぎゃあっ!」
背中に走る激痛。
「あはっ! いい声で鳴きますわね! ぞくぞくしちゃって、あそこが濡れてしまいそう」
勝手に濡れてろ! クソ聖女!!!
拷問官などに任せずに自らの手で鞭打つなんて、こいつはどんだけ、ドS王女なんだよっ!!!
「まったく変態王女さまだな……」
余計なことは言わない方がいいのかもしれない。だが、ここまで
「その減らず口がどこまで持つのか、見ものですわ! さあ、もっともっと私にあなたの悲鳴を聞かせてちょうだい!」
嬉々として、俺の背中や胸を打つ。目についた場所は筋となった見事なミミズ腫れになっている。
「あぎゃっ!」
声を出すたびに王女らしからぬ、きゃははっと下品な笑いが漏れた。
「うぐっ!」
悔しいので無言で耐えようと思っても、拷問なんて初めてだから、ユリエルにいいように
ユリエルは俺に何度も何度も鞭を打ちつける。【幻肢痛】(パージ)を使えば、傷は癒えるかもしれないが、結局また打たれるから同じだ。
「マリエル、マリエル……口が開けば、そればかり……少しは人の気というものを知りなさいっ!」
当たり前のことだろう。誰がおまえなんかに気を許すかよ。意味不明なことを言われながら、俺は鞭を打たれ続けていた。
だけど……今の俺ならこの程度の
見てるかぁ~、ミーシャ?
ユリエルたちの
白樺さん、柏木さん、アイナはマリエルにほぼ傾きかけている。
ミーシャの見たこの映像を王立魔導院の技術で民衆に見せられれば、ユリエルの
バイテロ以上に勇者を拷問する動画なんて、おまえの株価が地獄にまで下落してしまうだろうよ。
無抵抗で鞭を打たれる俺をあざ笑う厭らしの聖女さま。鞭を左手に、右手に扇子を持って俺の頬をぐりぐりしてくる。
「ほんと、無様ね。それでも勇者なの?」
「そもそも、ユリエルは勇者扱いしてなかったじゃねえか! それが今さら、どういう風の吹き回しってんだよ」
「使えるものは使う、それがあなたのようなゴミみたいなものでもね」
俺を汚物でも見るかのような蔑んだ目で見てくる。最後には唾を俺の顔へと吐いた。
「仮にも王女なのに唾を吐くとかあり得ねえよ」
「私はあなたには何をしても良いと思っています」
その言葉に理性を失いそうになった。マリエルが悲しむからしないが、襲ってやろうかと……
「情けない勇者に免じて、この辺にしておいてあげますわ、感謝なさい!」
できるわけねーだろ、タコォ!
って言いかけ、口を
――――王宮内の自室。
「おらよっ」
「てこずらせやがって」
部屋に俺の身体は衛兵たちによって運ばれ、投げ捨てるようにベッドに叩きつけられた。まったく人をなんだと思ってやがんだ! 痛いのは痛いんだけど、パージして結合すれば直ぐに治るだろう、そう思っていると……
トントン、トントン。
「要さまっ! マリエルです」
「どうぞ、鍵開いてるから」
バーンと勢いよく飛び込んできたマリエル。上体を起こした俺に抱きついてきて、支えきれずに一緒にベッドに転がった。
うれしい……うれしいけど、でも痛い。
「どーしたんだよ、急に……」
マリエルは俺の傷を見て、大粒の涙をこぼし頬を伝う。それが俺の傷だらけの
涙目ながら、マリエルは頬を赤らめ恥ずかしそうに、でもはっきり強い意志を持って伝えてくれる。
「要さま……ご存じでしょうか? 聖女の治癒の力は手をかざすよりも、舌で舐めた方が癒やしの効果は格段にあがることを……」
何それ、その豆知識……
マリエルの言葉にきょとんとしてしまい、しばらくの沈黙が続いたあと、彼女は俺の上に四つん這いになり……
「マリエル!? ちょっ、なにを……」
本当に舐めてくるので驚いてしまってた。
俺に謎の知識を披露してくれたマリエルのぷるぷるに潤んだ麗しい唇から、舌がぺろっと覗くと傷に触れる。
すると激しい痛みがスーッと消えてゆく。
マリエルの俺への癒やし方が少しずつえっちな方向に振れていっているような気がするんだが、気のせいなんだろうか?
マリエルは俺の傷を犬や猫の
俺は大事なあれを舐められたら、興奮するものだと思っていた。だけど、それは間違った理解だった。マリエルが上半身についた傷口を上目遣いで舐める度に彼女を抱きしめたくなる衝動に駆られる。
「くっ、くすぐったいよ……」
「お姉さまが要さまを傷つけるなら、私はあなたを癒やします。お姉さまが頭を叩くなら、私は撫でてあげます」
マリエル……
彼女が俺に告げてくれた言葉に涙が出そうになった。ユリエルに虐げられたことなんて、彼女の言葉一つで本当にどうでもよくなった。
だが、彼女の前では俺は笑っていたい。
傷も心も俺を癒やしてくれる。マリエルに傷を舐められると癒やしの奇跡が起こったのか、かなり早いペースで腫れと血が滲んでいた傷が塞がってゆく。確かに効果は手のひら以上なのかもしれない。
他の人にもサービス……もとい癒やしを与えていると考えたら、もやもやしてくる。悶々とする俺の表情を読み取ったのか、マリエルは……
「誰にでもこんなこと、しません。要さまだけ……」
上目遣いで俺の傷を舐めながら、唯一宣言をしてくるので、俺の目と心はマリエルしか見えなくなりそうになった。
もう深夜だというのにマリエルに傷を舐められ続けた俺。
「マ、マリエル……もう傷はぜんぶ癒えてると思うんだけど……」
なにか危ないスイッチが入ってしまったみたいでマリエルは恍惚とした表情で俺の言葉なんて利かずに身体を舐め続けた。親猫が子猫に愛情を注ぐかのように……
そうだ、勘違いしてはいけない。
それはえっちとは対局にある母性愛!
聖女ならぬ、聖母の愛。
マリエルが添い寝しながら、背中を舐めて癒やす。それより下にいかないように警戒を怠らないように……
スーッ……スーッ……
「ありがとう、マリエル」
舐め疲れたマリエルは眠ってしまっていた。彼女に毛布をかけようとするとギュッと抱きしめられた。
「要さまぁぁ~好きぃぃ、大好きぃぃ……」
「なっ!? ちょ、ちょ、マリエル!?」
まだ、夢の中でも俺を癒やそうとしてくれいるのか耳や頬ををぺろぺろ舐めだしてきて、変な気分になってしまいそうだった。
これならまた、ユリエルに鞭を打たれるのもありかも……と危ない道に目覚めそうになった。
―――――――――あとがき――――――――――
新作書きました。
【勇者学院の没落令嬢を性欲処理メイドとして飼い、最期にざまぁされる悪役御曹司に俺は転生した。普通に接したら、彼女が毎日逆夜這いに来て困る……。】
https://kakuyomu.jp/works/16817330665423914887
石鹸枠の悪役に転生したラブコメです。寝取られで脳死してしまった読者さまを癒せるかと思います。よかったら見てくださ~い。
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