第44話 聖女死す1

 金髪の鬼塚さんが真紅のビキニアーマーを装備し、直視してしまうと前屈みになってしまいそうなくらい魅力的だった。


 文旦ぶんたん


 ビキニアーマーは四国の海風をたっぷり浴び、たわわに実った柑橘系の果実を保護している。鬼塚さんは着やせするタイプなのか、俺がボタンを引きちぎったときよりも谷間が強調されているように思えた。


 草摺くさずり脇楯わきたてから覗くアンダービキニもえちえち過ぎて、よく先生方が許可したなぁと思うくらいだ。もちろん、うちのクラスは撮影許可は出してない。


 そんな女騎士な鬼塚さんがすがるように俺の手を持ち訊ねてくる。恥ずかしがりながらの上目遣いの破壊力は通常兵器最強のサーモバリック燃料気化爆弾を凌駕りょうがすると思う!


「桐島っ! あのさ……そのさ……おまえ、誰かと回る相手とかいたりするのか?」

「いや、いないけど」

「じゃあさ、あたしと回ってくれ!」


 断る理由なんてない……いや、俺に彼女の申し出を断ることなんて出来ない!


「構わないけど、俺と回っても楽しいかどうか……」


 ただ、鬼塚さんに喜んでもらえるか分からなくて、ネガなことをぼそぼそとつぶやいてしまう。童貞をこじらせて、素直にお願いしますと言えないのが悲しい……そんな俺を全肯定してくれるような言葉が聞こえた気がした。


「い~んだよ……おまえが側にいてくれりゃ……」

「なんか言った?」

「いや、あたしの独り言だ」

「そう?」


 さすがにそのまま回るとコスプレ痴女……コートを羽織るも、それはそれで逆にコートを開いてしまったりしたら痴女そのものなってしまうように思えた。


 勇者と女騎士。


 二人で寄り添って廊下を歩いてると、鬼塚さんを見た男子が誉める。


「あの子、かわいい……」

「写真撮らせてほしい……」


 だけど、彼女が「ああん?」と軽く凄んだら、そそくさと壁の端によって、立ち去っていった。今度は女子三人が並んで歩いていてすれ違う。そのとき漏れ聞こえた。


「男の子カッコいい」

「コスプレイケメン~♪」

「なんか~、二人の世界って感じ~」


 そんな声を聞いて、鬼塚さんの方を見ると頬を赤らめていて、湯立ってしまうんじゃないかと思ってしまう。俺も他人ごとじゃなく気恥ずかしくて、たまらなかった。


 コスプレしてても周りもお祭り気分で浮かれた生徒がほとんどなので違和感がないとまでは言えないが、そこまで奇異の目で見られることはなかった。むしろ、好意的意見が多かった。


 莉奈さん譲りの目鼻立ちの良さにツンがデレた鬼塚さんが隣にいてくれるから……


「鬼塚さんって、かわいいよね」

「は、はぁぁぁーーっ!? ば、ばかっ、い、いま……そんなこと言うときかよ……」


 俺の率直な感想をぶつけると顔を真っ赤にして照れてしまった。


「そういうところだよ」

「桐島は意地悪だ……あたしを弄ぶんだから」

「そうかなぁ? さっきは鬼塚さんに弄ばされたよ、俺の胸が」


 いきなり後ろから揉んできて、柔らかい胸を背中に押しつけるんだから、変な気持ちになってしまいしうだったから。


「だって、おまえが触っていいなんて言うからさ、それに金子や香月までべたべた触れるの見たら、もやもやしちまったんだ……」

「ごめん……」


 俺は鬼塚さんの気持ちを受け止めていいのか、分からず謝ってしまった。


「なんで桐島が謝んだよ……優し過ぎるんだ、おまえは……好きでもない子を構ってくれて」


 かわいそうだから、気になったから……最初は鬼塚さんに対する想いはそれだけだった。だけど、鬼塚さんが莉奈さんの妹って分かったときは莉奈さんの代わりに見守りたい、という気持ちに変わった。


 俺も彼女もそれからちょっとずつお互いの存在が大きくなってきてる。マリエルや香月さんのことがなければ、俺は……


 好意を寄せられることはとてもうれしい。


 だけど、誰かを選ばないと……選ばれなかった女の子はどうなる? 誰も傷つけたくないのに。


 葛藤の中、鬼塚さんが明るく声をかけ、指差した先には、


「なあ! あれ、食べないか?」


 発泡トレーに乗ったたこ焼き。カップルがベンチに座り、互いに爪楊枝を持って食べさせ合いをしている。


 それこそ、リア充消えろーーーっ!


 と天誅でたこ焼きソースをデスソースに替えたくなるような仲睦まじい光景。


「たぶん、四組だったと思う。行ってみよう」


 四組へ行くと数人がたこ焼き器の前に順番待ちで並んでいてた。


「おっ! 桐島じゃん!」


 声かけてきたのは名前までは分からないが、花山の部活仲間で俺の話を聞きにきてくれてる男子だった。


「桐島と鬼塚さんは付き合ってたのかよ?」

「俺が鬼塚さんみたいなかわいい子と付き合ってるわけないよ」

「やだやだ、イケメンの謙遜けんそんは……」


 鬼塚さん……やっぱり他の組の男子にも人気あるな。


 呆れる男子だったけど、ふと鬼塚さんを見ると浮かない表情をしていて、まずい返答をしてしまったことを後悔する。


「でも今はデートだから!」

「うおっ!? 言い切りやがった、くそっ、仕方ねえ! そんなリア充はたこ焼き食って喉につまらせろっ!」


 言葉とは裏腹にこっそり三個ほどおまけしてくれていた。三百円を支払ったあと、また鬼塚さんを見るとぷるぷる震えていた。


「大丈夫? しんどいの? 熱でもあるの?」

「あたしは……あたしは……桐島にお熱なんだよっ!」


 ばんっと両肩を叩かれたのでたこ焼きがこぼれそうになるので掬うようにして落下を阻止した。


「桐島、ちょっと行きたいとこがあるんだ。ついてきてくんねえか?」

「うん……」


 鬼塚さんは俺の手を掴んで、もう片方の手で人ごみをかき分けながら、進んでいく。男勝りって感じに。階段を下り、一階に降りたかと思うとその歩みを止めることなく、体育館の渡り廊下まで来ていた。


 文化系クラブの演劇か、なにか見たいものがあったのかも、なんて思ってると出入り口の前で急に道を逸れてしまう。


「鬼塚さん、体育館はあっちなんだけど」

「いや、間違っちゃいない」


 体育館裏に来てしまっていた。


「桐島、おまえは本当に香月と付き合ってねえのか?」


 ここで、鬼塚さんが問い詰めるってことは……


「見てたんだね、俺と香月さんが一緒にいるところを……」

「ああ、それだけじゃない! 香月がおまえの靴箱に手紙を入れるところもだ」


「うん、確かに香月さんは俺に告白してくれた」


 鬼塚さんを見ると呆然となりそうになりながも、ギリギリのところで精神を保っているように思えた。


「あたしは見ちまったんだ……桐島と香月が抱き合ってるところを……でも、おまえが泣いてたことが分かんねんだ。気持ちが通じ合ったなら、普通告白してきた方だろ、泣くのは」


「そうだね、だけど告白って言っても恋愛や交際だけとは限らないとしたら?」

「は? じゃあ、香月の奴は桐島に負い目を感じて、告白してきたってのか?」


 鬼塚さんはまさかって、感じの顔をしていた。ラブレターと勘違いし、男女が抱き合ってる場面に出くわしたら、恋愛の告白が成就じょうじゅしたと思われても仕方ない。


「そうなんだ。香月さんはずっと悩んでたっぽい。彼女はとんでもない才能の固まりで亡くなったお父さんの仕事を引き継いでいたらしいから」

「香月の奴も親父がいなかったんだよな……あいつと話す機会を減らしちまった」


 香月さんが俺にはっきりとした恋愛感情を持ってるのかは分からない。だけど鬼塚さんが俺に莉奈さんの雰囲気を見いだすのと同じく、香月さんが俺の異世界語りに彼女のお父さんの面影を見てるのは似ている。


「はは……はは……もう、あたしはおかしいんだよ。桐島が他の女と喋ってるだけで胸が苦しいんだ……こんな馬鹿な真似して、おまえにも香月にも笑われてしまうかもしれねえ。だけど、止められなかった」


「待って! まだ、話が……」


 袖で涙を荒っぽい拭ったかと思ったら、彼女は走り去ってしまった。追いかけなきゃと思ったがもう戻らないと次の異世界語りの時間が迫っていて、無理だった。


 俺の手には冷めたたこ焼きだけが残ってる。


 たこ焼きを急いでかきこんだら、教室に戻り公演を始めると、しばらくして鬼塚さんが後ろのドアから、こそっと入ってきていた。その目元を腫らして……



 * * *



――――王都アラストブルク。


 コンウェルに守備隊を残し、急いで王都へ戻った俺たち。


 ハイオークにギガンテス、果てはゴーレムのような大型モンスターが城門に取りつき、先端を尖らせた丸太やハンマーや斧で破壊しようとしていた。


「マリエル、行ってくるね」

「はい、要さま。どうかご武運を」


 心配そうに俺を見つめる彼女に挨拶を済ませ、三人の勇者とアイナ、リリス、それにマリエルで各々、役割を分担し、城壁を囲う魔物たちを排除しようとしていた。


 本当に俺は強くなったのか!?


 それを今から証明するっ!


「こっちに来やがれ、醜い化け物どもがーーっ!」


 腹の中に空気をいっぱい詰め込んで集まってるモンスターに向かって叫んでやった。すると、俺の周りにはモンスターが集まり、あっと言う間に取り囲まれて、退路を断たれた。


「壮観だな~!」


 俺の二倍はあろうかというモンスターがだ液を口角の間から垂れ流す。薄気味悪い唸り声とギラついた視線が俺を差して、今すぐにでも襲いかかってきそうな雰囲気を醸し出していた。


 固有スキルのみだった俺なら【幻肢痛ファントムペイン】を使う間もなく、無数の魔物ども四肢がバラバラにされてることだろう。


 コンウェルで大木の枝を払う大鉈をもらってきたので、脇に構えた。身体強化系のバフ全部乗せに、剣技スキルの……


円舞曲ロンド


 を組み合わせ、ハンマー投げのようなステップを踏み、回転しながら力任せに薙払った。俺が切り抜けたあとは竜巻か、つむじ風が通ったかのようにモンスターたちがバラバラに弾け飛んで、原形を留めていない。


 アイナから盗……学んだ剣技スキルの数々は魔物相手でもまったくそのキレを失うことなく、圧倒していった。


「うおおおおーーーっ!」

「援軍バンザーイ! 勇者さまバンザーイ!」


 城壁を守備していた兵士たちから歓喜の声があがる。俺がほとんど片付けてしまっていた。魔物たちをすべて排除すると城門が開き、俺たちは招き入れられた。


「見所はあると思っていたけど、ここまで強くなるなんてな……俺も頑張らないと」

「う~ん、要くん、やるーーぅ! お姉さん、惚れちゃかも」


 白樺さんは俺の成長に驚き、莉奈さんは俺の腕に抱きついていた。


「要くん……タトゥーなんて入れてたの?」

「あ、いや……なんでしょうね? これ……」


 リリスを助けたのは憶えているけど、その先の記憶はデリートでかなり消えてしまったらしい。どういう経緯でか、俺の腕は変わっていた。


「む~っ! む~っ!」

「マリエルちゃん! 別に取ろうってわけじゃないから。ほら、あなたも要くんに甘えるチャンスよ」


 頬を膨らましたマリエルはかわいい。俺は両手に花状態で入城していた。



 しばらく俺の部屋で休んでいるとユリエルからコンウェルと王都の救出について、功績を称えるための謁見を行いたいので玉座の間へと集合するように伝えられた。


 ユリエルの前に並んだ俺たち。アイナの率いる騎士たちは跪いていた。


「勇者さまがご帰還なされました」


 五人いた勇者も三人になり、寂しい限り。元々、俺はカウントされてないから、実質二人ってことか。マリエル、アイナが俺の功績を推してくれたのでこの場に呼ばれたが、それがなければ俺は蚊帳かやの外だっただろう。


 アイナが告げるとユリエルは立ち上がり、白樺さんと柏木さんをねぎらう。彼女は自ら歩みでて、白樺さんたちの手を一人一人取って、感謝の言葉を述べた。


「あなた方の活躍により王都はもとより、コンウェルの危機が救われました。臣民に成り代わり、深くお礼申しあげます」


 腐ってもマリエルの姉だけあって、見目も仕草も彼女そっくりで思わず見とれてしまう。性格以外は素晴らしいと言わざるを得ない……


 そんなユリエルが俺のところに来た。まともに面と向かうのはこれが初めてかもしれない。


 俺の功績を伝え聞いて、いままでのことを反省し、待遇を改善するなら、彼女の仕打ちは水に流そうと思っていた。


「なにをやっていらっしゃいますの!」


 パシン!


 俺はユリエルから平手打ちを食らった。


「えっ?」


 俺はユリエルから頬を叩かれるようなことをしたのか?


 【幻肢痛ファントムペイン】があったとしても、ただの女の子の平手打ちでも痛みを感じることには違いはない。痛みよりも彼女の仕打ち……侮辱ぶじょくに近いと言えた。


 ユリエルは玉座から立ち上がり、廷臣ていしんたちが居並ぶ中で跪いていた俺をったのだから。


「本当に信じられませんわ。勇者を見殺しにしておめおめと逃げ帰るだけでなく離反を招く……呆れてものを言うのも失せてしまいそう。彼の代わりにあなたが死ねば良かったです」


 見殺し?


 いつ俺が勇者を見殺しにしたんだ?


「白樺さまはあなたを庇い、到着したときには船橋さまが死亡していたと証言されていますが、あなたが彼の固有スキルを妬んで殺害したということも……」


 あのときの詳細な記憶はない。デリートしてしまったから……何も言い返せない俺を見かねたマリエルが擁護ようごしてくれた。


「お姉さま! それはあんまりです! 要さまは精いっぱい戦われたのです。それに船橋さまは民衆へ酷いことを……」


 マリエルはあの男の非道を訴えるが……


「マリエル、あなたは黙ってなさい。何も分かっていないのですから。民草がいくらいようとも勇者一人の価値には到底及ばないのです。一人や二人の犠牲で多くの者が救われるなら、彼らだって文句は言えないと思いますわ。そうですわよね、皆さま?」


 ユリエルの返す正論にアイナたちは唇を噛んで、頷いているだけ。俺にだってわかる、悔しいがユリエルの言ってることは間違っちゃいない。


「二人も優秀な戦力が減り、そこの穀潰しが生きて私と同じ空気を吸ってるという事実だけで吐き気を催してしまいそう」


 扇子を広げ俺を睨み、不快感を露わにしていた。


「ユリエルっ! それは……」

「そうじゃないわよっ! あんた何……」


 白樺さんと柏木さんがユリエルの間違いを正そうとしてくれたのだけど、俺は止めた。反論したいのはやまやまだが、黙っておく。そもそも俺はユリエルのために戦うんじゃない、マリエルに命を捧げてんだからな!


「マリエル、ありがとう。残念だけど、ユリエルの言うことは正しい。俺は船橋を助けられなかったんだから」

「要さま……」


 マリエルの俺を擁護してくれる優しさだけで十分だった。リリスも無事だったし。


「気に食わないなら、罰でもなんでも与えりゃいいだろ! どうせ、俺は無能なんだからよぉ!」

「よくぞ、仰いました。あなたに相応しい罰を与えましょう」


 ユリエルは持っていた扇子をたたみ、扉の方を差しながら、衛兵たちに伝える。


「連れてゆきなさい」

「は!」


 俺は衛兵たちに拘束され、どこかへと連れていかれようとしていた。


―――――――――あとがき――――――――――

作者、性懲りもなく冷やし中華みたいに新連載を始めました。


【ネトラレうれしい! 許婚のモラハラ幼馴染が寝取られたけど、間男の告白を蹴った美少女たちが、俺と幼馴染が別れた途端に恋心を露わにしてくるんだが。】


脳死しない笑えるNTRざまぁラブコメですので読んでいただけるとうれしいです!


表紙リンク↓

https://kakuyomu.jp/works/16817330667920018002

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