第43話 学園祭2

 俺は急報が入る前にアイナに土下座をして頼み込んでいた。


 “えっちさせてください“


 そんなわけない。


【童貞が頼みこめばヤらせてくれる女剣聖】


 というえっちな小説を夜想曲ノク○ーンでチラ見してしまった影響で馬鹿なことを考えてしまう。そんなこと頼み込んだところでプレートつきのブーツで頭を踏まれるだけだろう。俺はそもそもドMじゃないし。


 本当に頼みたいのはマリエルだけ……だけど彼女にだけはやってはいけない。自意識過剰かもしれないが、「はい、よろこんで!」とか本気で言い出しかねないから……


 部下に扇子を仰がせ、天幕内の椅子に腰掛け足を組んで優雅に座るアイナ。色々と残念な奴だが、年齢の割にやたら色っぽいのと実力は間違いない。


「アイナさまの華麗なる剣技をご指導願います」

「んん? 私の剣技を身につけたいだと? そんな付け焼き刃つけやきばでなんとかなるとは到底思えん。出直して来い」 


 アラストリアに土下座の文化があるのかは分からないが、少なくともアイナに対して平身低頭で接したはずなんだが、彼女に断られてしまった。もしや、何度も足を運ばないと弟子にしてくれないとかだろうか?


 しかし、戦いの最中にそんな無駄なことをしていたら、勝てるものも勝てない。分からず屋のアイナにごうを煮やしてしまいそうになったときだった。


 天幕の外にまで聞こえてしまったのか、白樺さんが中をのぞいてくれて、アイナを叱ってくれたのだ。


「アイナ、それはないんじゃないか? 桐島くんが必死に頼んでるんだ。せめて見せてあげることもできないものだろうか、俺からも頼む」

「の、憲治のりはるがそ、そ、そう言うなら、ちょっと見せてあげてもいいかな……」


 アイナは何を勘違いしたのか、ビキニアーマーの草摺くさずりをめくり、股に食い込んだアンダーを白樺さんに見せようとしていた。


「そうじゃないだろ、剣技だよ。剣技!」

「憲治の意地悪っ」


 あ~、白樺さんはアイナに頼んだらやらせてもらえそう。いや、頼まなくても向こうから来てるし。それでも鉄壁の白樺さんの貞操観念は俺の比じゃなさそう。もの凄く奥さんとか子どもを大切にしてるイメージがある。


 やっぱり残念なアイナだったけど、俺は白樺さんのおかげでアイナから家伝の剣技を学ぶ機会を得た。剣術スキルなら俺のストレージに適合するので好都合だったのだ。



 天幕から出たアイナと俺。白樺さんたちが見守る中、軽く手合わせするような感じ対面していた。それにしてもアイナの装備はエロい……こんな煩悩を刺激する剣聖はいやだ! っていつも思う。


 個人的には剣聖ではなく、女戦士ではないかといつも思うのだが、本人はどう思ってるるんだろうか?


 むしろ、見ている男がアイナに欲情しないように努めるのが修行みたいになってると思う。俺自身は彼女に殺されそうになってるし、凶暴であることは熟知していた。


 アイナにベタ惚れされても白樺さんはまったくというか、袖にし過ぎず、上手く操縦しているのを見ると大人ってスゴいと思う反面、ちょっとズルいとも感じる。


「憲治の頼みだ。どうせ無理だと思うが見せてやろう、ザカリエス流の奥義を!」


 見せてもらった。最初はとんでもなく上から目線で……部下兼弟子が用意した小道具に向かって家伝の剣技スキルを撃ち放つ。


【浸透波動斬】


 甲冑など硬いものを透過して、肉体のみにダメージを与えるなんとも不思議な技。弟子たちが用意した小道具は金属の板を二枚用意して、その間に獣の死骸を吊している。


 アイナがスキルを放った途端、一枚目の金属の板を透過したのか、板は無傷で獣が真っ二つになって、パンッと二枚目の金属の板が軽く音を立てた。


 俺にはどういう原理でそうなるのかさっぱり理解できなかった。きょとんと目を丸くする俺に向かって、アイナは勝ち誇ったかのようにドヤ顔をしながら、言い放とうしていた。


「要には難し過ぎたな。まあ、私も十年の歳月を要した奥義だ。そうやすやすと会得できる……も……の……」


 俺が見よう見真似で入れ替えた獣に向かって放つと一切の音を立てずに獣を両断出来ていた。


「アイナ、これでいい?」


 俺は見せてもらった通り、スキルを【出藍之誉エクシード】でコピーしていたのだが、正しいかどうかの判断はスキルの持ち主である彼女しかできない。ただ、俺の放った【浸透波動斬】モドキを目の当たりにした彼女から言葉がでることはない。


 どうやら、わなわなと震えるばかりで修行が進まなでいたのでもう一度、訊ねた。


「ねえ、アイナったら。教えてくれなきゃ、できてるか分からないって」

「次だ、次! おまえには習得不可能な奥義を見せてやる」


 そう言ったあと小高い丘に向かって、撃ちはなった奥義。スキル自体は目で追うことすら、難しく丘を真っ二つにするぐらいの凄まじい威力だった。


 問題はその名前。


天翔龍煌あまかけるりゅうのきらめき


 俺はアイナが叫んだスキル名にあ然としてしまった……まあ、間違いなく動きも本家というか、赤髪に頬に十字傷の優男と同様。


 絶対にこれバクっただろ! よその家の奥義をしれっと自分のところに入れるな!


 アイナの家がパクッたのをさらに俺がパクる。本当なら劣化コピーも甚だしいのだけれど、アイナのスキルよりも威力、精度ともに上回っていたように思う。


「馬鹿な……物心ついたころより学んだ家伝の剣術をすべて会得しただと!?」


 俺のステータスには……


―――――――――――――――――――――――

桐島 要【人間】


固有ユニークスキル【幻肢痛ファントムペイン

※パージ開放済み

性質:受動パッシブ


固有スキル【出藍之誉エクシード

※【模倣ミミック】より進化済み

性質:能動アクティブ


スキル(STD)

スロット:5

ストレージ:10

九字鬼火 デリート 修羅手武霊苦スラッシュブレイク

自衛隊徒手格闘

免許皆伝(ザカリエス流聖剣技15手)

―――――――――――――――――――――――


 あれ? ストレージ内のスキルが減ってる……その代わり、免許皆伝と出ていた。


 15手というのが気になって見てみるとフォルダのように開いた。ちゃんと基礎スキルとして身体強化系のものがあり、他にも黒曜剣もあった。


 どうも免許皆伝にまで至るとスキルごとに一つずつ使用していたストレージが複数のスキルがまとめられる得点があるらしい。アイナはすでに家を継いだ宗家であり、剣聖号をユリエルから与えられていた。


 しかも【出藍之誉】の効果でアイナより威力が高かったので、彼女は思わずうなだれてしまった。


「あはは……我が家三百年の歴史が一時間で習得されてしまうなんて……しかも無能の要に……」

「しっかりしろ、アイナ。俺がついてるからな」


「憲治ぅぅーーっ! 私はもう不要なのか? お払い箱なのか? ゴミスキルしか持たない剣聖なのか? うわーーーん」



 やってしまった……



 アイナは相当ショックだったようで、白樺さんに泣きつき、よしよしと頭を撫でられあやしてもらっていた。だけど、不思議なのが俺……固有スキルがいつの間にか二つに増えてる。一体いつどこで習得したのか不思議で仕方ない。


 実は【睡眠】のチートスキル持ちで寝ている間にスキルをばんばん覚えるとかだったりして……


 それだったら、楽でいいんだがそうじゃなさそう。


 一応、アイナからすべて教えてもらったのでお礼を言おうとすると彼女は白樺さんから抱えられていて、さっきまでギャン泣きしていたのに泣き止み、「えへへ、えへへ」と気持ちの悪い笑みを浮かべていた。


「アイナ、白樺さん、おかげで俺も剣技スキルを覚えられました。ありがとうございます!」

 

「えへへ……こっちこそ、ありがとう……おかげで憲治にお姫さま抱っこをしてもらえた。だかな……夜道と就寝には気をつけろよ。首根っこを掻いて、技を盗んだ対価を支払わせてやるからな!」


 こえ~よ……


 白樺さんは当然のことしたまでと首を横に振った。一方のアイナは白樺さんにデレデレになりつつも、俺がスキルをパクったことを根に持ってそう。


 街の人たちの治療を終えたあと、マリエルがアイナとの特訓を見ててくれて……


「要さまの本気、スゴいです! お姉さまはお認めになられませんでしたが、私は信じておりました」


 満面の笑顔で向かってくる足取りは徐々に速くなって、俺の胸に飛び込んできてくれた。彼女を受け止めるとふわっと柔らかい肌が触れ、温もりが伝わる。


 お互いの鼓動を確かめあうように抱きしめたあと、両肩を持ち彼女の美しい瞳を見つめながら、感謝の思いを伝えた。


「これもマリエルのおかげたよ。キミがいなかったら、俺は強くなれなかった。ありがとう」


 俺の言葉に「はい」と柔らかい表情で微笑むマリエル。彼女の後ろから差す逆光から天使か、女神か……神性を帯びた存在なんじゃないかと思わせるものがある。


 たとえそんな存在でなくても、マリエルはかわいい。それだけで俺には十分だ!


 これで俺はようやく勇者としてのスタートラインを切れたかのように思えた。



 * * *



 パチパチパチパチパチパチパチ!!!


 異世界語りを終え、立ち上がりお辞儀をするとスタンディングオベーションが起こるほど、お客さんたちは聞き入ってくれたらしい。


「あ~マリエルたん、かわええ……」

「意外~! 異世界って、もっとつまらないかとおもったけど、面白かったぁ!」


 全体的に男の子が多かったが、仲の良い友達に連れてこらたようで女の子も楽しめたと言ってくれて素直にうれしかった。


「桐島、お疲れ~。良かったぜ~!」

「お客は桐島が話してるとき、異世界にいたな!」


 なんて級友たちから誉められた! みんなは俺を誉めて伸ばすタイプか!? ちょっと陽キャぶって、お互いに午前の成功を祝って「イェーーイ!」って言いながら、グータッチしてた。


 午前中の公演を終え、俺はお休みに入る。

 

 俺が休憩してる間は香月さんと花山が交代で設定等の解説をして、来てくれた人たちをもてなしてくれていた。


「お疲れ、あとは俺たちがやっとくから、桐島はゆっくり休憩してこいよ」

「ありがとう、中野くん」


 小休止をはさみながら、ずっと話していた。こうなるとさすがに外の空気を吸いたくなってきたところで声を掛けてもらったので助かる。


「桐島、俺らと回んね?」

「うんうん、桐たんならいいよ」


 花山と西野さんが声をかけてくれたが……


「ありがとう。俺は回りたい人がいるから大丈夫。二人で楽しんできてよ」

「そっか、そんじゃ邪魔したな。楽しめよ、桐島」

「ああ、花山も西野さんもね」


 俺に手をぶんぶんと大きく振って、目的の場所に向かった二人。俺も負けじと手を振り返す。本当にお似合いのカップルだ。


 回りたい人……二人の手前、意地を張ったわけじゃないけど、邪魔したくなくて言ってしまった。教室の中を覗いても香月さんは黒板を使って、質問に回答してる。


 他のみんなは忙しいみたいだし、こりゃぼっちだな、って諦めてたら……


 ビキニアーマーを身につけた女騎士の姿が!


 たわわを揺らしながら、俺の姿をみつけると向かってきたのだった。


―――――――――あとがき――――――――――

新作書きました。


【勇者学院の没落令嬢を性欲処理メイドとして飼い、最期にざまぁされる悪役御曹司に俺は転生した。普通に接したら、彼女が毎日逆夜這いに来て困る……。】


https://kakuyomu.jp/works/16817330665423914887


石鹸枠の悪役に転生したラブコメです。寝取られで脳死してしまった読者さまを癒せるかと思います。よかったら見てくださ~い。

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