第42話 学園祭1

――――学園祭初日。


 登校すると……


「二人ともなにしてるの?」


 誰もいない教室の澄んだ空気を吸って、緊張感を緩和かんわさせようと少し早めに来たのだが、かばんを机のハンガーにかけようしてると、先客の香月さんと花山が腰を深く折り、頭を下げたまま動かない。


 花山がやらかす・・・・なら、分かる。


「申し訳ねえ!」

「ごめんなさい」


 だけど、香月さんまでってのが分からない。加えて昨日、ちゃんと俺に断りを入れてくれたから、カクヨミに投稿することに俺から何か言うこともない。むしろ感謝したいところだ。


「なんのことで謝ってるのか分かんないし、とにかく頭をあげてよ」


 俺は困惑して二人声をかけたのだけど、


「吉乃はあげてもいいが俺は桐島に合わす顔がないんだ、あげられねえよ」

みやびが暴走した原因を作ったのは私。私もあげられない」


 これである……


「何に謝ってるの?」


 仕方なくしゃがんで二人の顔を上目遣いで見てみた。目をつむり、それこそ炎上した会社の代表が反省し誠心誠意、謝罪しているかのような雰囲気がある。


 だけど、謝罪されている側の俺とはずいぶんと差がある。そう、なにについて謝罪されているのかさっぱり分からないのだ。


「おわっ!?」

「えっ!?」


 花山は俺の気配に勘づいたのか薄目で俺を見ると驚く。それに釣られた香月さんも……びっくりした二人は大きく仰け反って、ようやく頭をあげてくれた。近くにあったまだ来ていない級友の椅子を借りて、座ってもらい二人から事情を訊く。


「なるほどねえ……それで花山は俺にいじめというか、ちょっかいを出してきてたのか」


「おまえが戻ってきて、ちゃんと謝ろう、謝ろうって思ってたんだ。だけど、今のいい関係が崩れるかと思って先延ばしにしてたら言い出せなくなった……」


 拳を握り、机の上に両肘をついてまた、頭をさげる。「いいから」と言っても「いや、俺が悪い」と言った具合で本当に悪いと思ってるらしかった。


 もちろん、俺も今の花山は友だちだと思うし、馬鹿だがいい奴だから、これからもずっと、高校を卒業しても友だちでいたい。


「もう気にすんなって。終わったことだし、花山も香月さんを守ろうとしてたんだろ」

「ありがとう、桐島」


 俺は花山に手を差し出すと、ぎゅっと握り返してくれた。ごつごつとしたデカい手は熱を帯びて、厚い友誼ゆうぎを結びたいという意志にあふれているように感じる。


 一方の当事者というか、俺は被害者だろうと思う香月さんは……


「雅が要をいじめてしまったのは私の責任。だから、要の言うこと全部聞く」


 そんな真顔で“池の水、全部抜く“みたいに言われても困る……そもそも、香月さんがいくらかわいいからと言っても、嫌がってるのに遊びに誘う方が一番いけない。


「香月さんもいいから。俺がもっと体幹が強ければ、押され負けなかったんだし」

「ぷっ、なんだよ、それ。相撲取りかよ?」

「デブのときより、今の方が体幹は強いと思うぞ」

「んじゃ、ちっと俺と取ってみるか?」


 異世界にいたときは白樺さんとよく稽古というか遊んでもらった。最初のころははっきり言って、巨岩を押してるみたいで微動びどうだにしなかったから。


 だけど、少しずつ強くなる内にわずかに押せて、それを感じた白樺さんが誉めてくれたのが、とにかくうれしかった。


「雅はすぐに調子に乗る。今は学祭中」


 「いいね! やろう」と言いかけたところで香月さんから、止められる。そうだよな、暴れるとせっかくの装飾や装備、小道具を壊しかねない。


「ああ、分かったから、そんな怒んなって」

「怒ってない」


 香月さんと花山のやり取りを聞いていると本当に幼馴染なんだな、って思う。そういや俺にも……いや、そんな子いないか。いくら彼女がいないからって、そんな妄想まで出てきてしまうなんて、学園祭当日だからかな?


 雨降って、地固まる。


 俺たちはすれ違いがあったけど、こうやって仲良くできてる。それだけで十分。


 まだ、七時か…… 


 ちらほらと廊下を歩く音はするけど、うちのクラスにはまだ俺たちくらい。俺がスマホを取り出し時間を確認していると、香月さんはなにかに思い出したように席を離れ、彼女の鞄からなにか取り出し戻ってきた。


「昨日、カクヨミに投稿した」

「どうだった?」

「うん、初めてにしては読まれたと思う」


 香月さんはスマホを操作したあと、俺に向けて見せる。


「なっ!?」


 一話投稿で星が百もついてる……しかもフォローが五百人って、すご過ぎないか? しかもジャンル別の日間ランキングの十位以内に食い込んでくるなんて、控え目にいって創作お化けですかね。


 感想も二十件くらい着てて、概ね好評だし。


「要……ランキング、PV、フォロー、星ってなに?」


 やだっ!? この子、怖い……


 無自覚無双してる。


「なんか凄いのか?」


 俺は香月さんと花山に知ったかのことだったけど、カクヨミの知識を伝えた。


「「ふ~ん」」


 二人に正確に伝わったのか伝わってないのか、よく分からなかったが、とにかく凄いということは伝えておいた。小説を書くということで香月さんには俺がどう戦って、魔族たちとの戦争を和平に導いたのかは伝えてある。


 花山はネタバレ厳禁派なので、彼には口外はしてないけど。だけど、カクヨミの投稿があんなことになってしまうなんて、今の俺たちには知るよしもなかった。


 時間が余ってるので、読ませてもらうと本当に高校生か? と思えるほどクオリティの高い文章でそれでいて読みやすいという、昨今のク○ラノベとは一線を画すものがあった。


 香月さんのPN作者名ヤマガタコイモと検索し、自分のスマホでみんなで話しながら、読んでいると……鬼塚さんが教室のドアを開けた瞬間、俺たちの姿を見てハッとして身動きが止まる。


「おっ、おまえら早えーよ。まだ、他の奴ら来てねーじゃん」


 花山がお互いさまとばかりに突っ込みをいれた。


「そういう鬼塚も早えーな。まさか桐島に愛妻弁当作ってきて、こっそり机ん中に入れとこうとか思ってたんじゃねえだろうな?」

「ん、まあな……って、なに言わせてんだよ、馬鹿! ああ、花山は馬鹿だったな、済まん」


 ノリ突っ込みで返しつつ、花山への罵倒も忘れない鬼塚さんだった。花山の指摘通りに鬼塚さんはランチパックが入っていそうな紙バッグを手に提げていた。


 花山にバレてしまったことで、あっさり終了してしまった隠密行動。諦めた鬼塚さんは俺の机の上に大きめランチパックを広げた。


 一応、俺は朝早かったり予定のある日は家に来てもらうのは申し訳ないので鬼塚さんと香月さんには一言メッセージを送っている。付き合ってはいない。そう俺たちは友だちなんだ、たぶん……


「さあ、もうバレちまったことだし、桐島食べてくれよ」

「ありがとう、鬼塚さん。でもいつも悪いから、お弁当代だけでも」

「いらねえって、あたしが勝手にしてるんだ」


 俺が財布からお金を渡そうとしていると鬼塚さんは遠慮していた。すると俺より先に花山がラップにくるまれたサンドイッチを取り、口を開けて今まさに食べようとしている。


「あたしは桐島に作ってきたんだ。なんでおまえまでフツーにしれっと食ってんだよ!」

「いや、腹空いてたから助かる」


 その間にも香月さんはラップ取ったあと、自分で食べるわけでもなく……あーん♪ と口を開けるよう俺に促し、サンドイッチを俺の口元に寄せてくる。


「要、おいしいか分からないけど、食べてみて」

「香月、そりゃあたしの台詞だ! 人のサンドイッチ使ってやるな。それに旨いに決まってんだろうが!」


 人のふんどしならぬ、サンドイッチで相撲を取られたことで鬼塚さんは憤慨ふんがいしていた。


「鬼塚さん、いただくね」

「あ、うん……口に合うかわかんねえけど……」


 香月さんが手に持ってるのは玉子サンド。まだ、作り立てなのだろうか、口をつけなくても温かさが残っているように思える。大きく口を開いて頬張るとふんわりとした玉子の優しい口当たりが広がる。


 そこにパンチの効いた胡椒とマヨネーズの酸味が合わさり、パンと良くマッチしていた。


「スゴく美味しいよ!」

「美味しい」

「「え!?」」


 俺が半分以上食べた玉子サンドの残りを香月さんが食べて、感想を述べていた。思わず、俺と鬼塚さんは驚いていたが、花山はただ呆れていた。


 間接キスは飲み物なら分かる。食べさしはどうなんだろうか?


「今度はあたしの番だ!」


 あたしのターン! ドロー、【BLTサンド】。


 と鬼塚さんが思ったかは分からない。ただ、勢いよくランチパックから取り上げ、俺へ口をつけるように促してくる。


「桐島、もちろんあたしのも食べてくれるよな?」


 サンドイッチ片手に潤んだ瞳で訴えかけてこられて、断れるはずもなかった。


「うん! まだまだ、食べたりなかったんだよ、ありがとう」


 実は花山ほど、腹は減ってない。だけど、ここで断ったら、鬼塚さんを悲しい気持ちにさせてしまうのは分かってた。


「ホントか!?」


 俺の言葉を聞いた瞬間に鬼塚さんは地震でエレベーターが止まり、閉じ込めから解放されたような笑顔を見せてくれていた。


 ああ、本当にかわいい。


 普段、強がっているというか、ツンツンしてる彼女が俺だけに見せてくれる涙目の笑顔がたまらなかった。


「んふぁ!? こっちもうまさが鬼かがってる!」


 鬼塚さんだけに……詰まらん。


 俺のギャグはベーコンの油がたっぷりだったので残念ながら滑ったが彼女のサンドの旨さは鬼!


 BLTサンドはシャキッとしたレタスとジューシーで甘いトマトがパンに瑞々しさを与え、カリッとして塩気の効いたベーコンが絶妙に合う。


 腹が膨れてるのも忘れそうな旨さを堪能たんのうしていると、あと一口ってところで……


 あーん♪ パクリと鬼塚さんは俺の食べさしを頬張りながら、香月さんに勝ち誇ったようなドヤ顔のちょっといやらしい目つきを向ける。すると香月さんは……


「美奈、意地汚い。まだ残ってるのに」

「おまいう!?」


 ランチパックに残った手をつけてないサンドイッチを指差しながら、鬼塚さんのマナーを注意する香月さん。なかなか、鬼塚さんには動ずることなく冷静な香月さんは手ごわい相手みたい。


 怒った鬼塚さんとは対照的に冷静な香月さんは彼女を誉めた。


「美奈、いいお嫁になる」

「そういうこっちゃねえ! 香月に誉められてもうれしかねえよ」


 と言いつつも、嬉しそうな表情の鬼塚さんだった。「てめえらは代金払えっ!」と言われた二人、俺も出すと言って、三人で材料費だけでも渡しておいた。


「大体、花山は西野がいんだろ。あいつに作ってもらえよ」

「無理だ。夏穂のは彩りがすべて灰燼かいじんに帰しちまう」


 花山から出た意外な言葉に驚いた。“灰燼に帰す“……よくそんな難しい言葉、知ってたな。



 俺たちが朝ごパン・・を食べ終わるころにはクラスメートたちが集まりだし、それぞれの衣装に着替え始めていた。


 女子は更衣室で着替えてる。教室で着替え終わった男子が集まり、円陣を作り、互いの肩に腕を組んだ。騎士や冒険者、傭兵、ドワーフに扮しているので、なかなか異世界感があってよき。


 聖騎士に仮装したクラス委員の中野くんが熱い眼差しで俺に伝える。


「桐島、頼んだぞ! なにかあれば俺たちに言ってくれ」

「分かった、ありがとう、みんな」

「話の途中でトイレに行きたくなったら、すぐに言ってくれ! 俺が代わりに行ってきてやるから」


 それって俺の尿意もタンクの水も減りませんよね?


「ああ、それは頼まないから大丈夫だ」


 協力的なのか、分からないが彼らなりに一緒に学園祭を盛り上げようとしてくれてるのはひしひしと感じる。


 劇やミュージカルではないのでコスプレしたクラスメートたちの役割は受付とか、観客整理や掃除など。逆にそういった雑務的な役割が異世界っぽくて評判になってる。


 たとえば、受付はギルドの受付嬢でエルフ耳の眼鏡っ娘とか。


「やっほ~、お疲れ。桐島くん」

「金子さんもね!」


 軟質素材のエルフ耳を生やし、金髪のかつらとエメラルドのカラコンをした金子さんはそれっぽくて良く似合っていた。


 いよいよ最初の公演十分前となり、騎士に扮した級友が前のドアに衛兵よろしく剣を二人でクロスさせた封鎖を解く。香月さんの演出だけど、やっぱり知ってるだけあって心をくすぐるものがあった。


 用意された席に座ったお客さんたち。ほとんどが生徒だけど大人も混じってる。席数は五十ほど。他のクラスで出されてる軽食をテイクアウトで持ち込みながら、聞くというスタイルにしている。


 いつもと違い、練習していた級友たちは俺の語りに合わせて効果音を入れたり、BGMを流したり、結構本格的に仕上げてくれていた。


 一人も来なかったら、どうしようと思ったが少なかったら、級友たちと世間話しながら暇を潰そうとか思ってたんだけど……


 杞憂きゆうに終わる、というか別の問題が発生する。


「ひーーん! 桐島く~んっ!!! 整理券がもうないですぅ~」

「は?」


 金子さんが涙目になりながら、訴えかけてくる。講演開始より二、三分あるので玉座風の席を離れて、ドア際から廊下を覗くと整理券をもらえなかった人たちがずらりと並んでいた……


 すげえ……


 我ながら驚いてしまう。


「金子さん、できた物から配っていって」

「うん」


 急遽、中野くんが慌ただしく紙とハサミを手に手書きした案内に判子を押していった。


「ごめんなさ~い、もう午後の講演しか空いてないんです~」

「え~! あ、でもエルフちゃんかわいいから、それに免じて許しててあげる」

「ありがとうございますぅ」


 一応、ないだろうと思いつつもいっぱいになることを想定して二百枚の整理券を用意していた。だけど、教室が満員なのはおろか、それまで捌けてしまうなんて……


 満席になって立ち見まで発生した教室で俺は最初のあいさつを始める。それを見守る警備と人員整理のクラスメートたち。


「みんな、俺の話を聞きにきてくれてありがとう。では初めて聞きに来てくれた人のためにあらすじをサッと伝えるね」


 クラスメートに語るのと違って、少し緊張したが周りに異世界の衣装や種族にコスプレしたクラスメートたちがいつも通り、耳を傾けくれる姿勢を取ってくれたおかげで俺の緊張はほぐれてゆき、五分もしない内に聞き手を煽れるくらいに饒舌じょうぜつになっていた。


「俺はユリエルにとにかく冷遇されてて、勇者扱いされてなかった……だけど、あいつには天罰がくだったんだ」

「「「ユリエルざまぁ!!!」」」


 花山の所属するサッカー部から運動部に口コミが広がり、生活指導の先生もまた聞きにきてくれていた。

 


 * * *



 コンウェルの街で支援活動を行っていると、早馬が飛ぶように駆けてくる。アラストリアの旗を掲げているので、王都防衛に当たってる騎士だろう。


「急報! 急報!」


 街の人たちの治癒に当たっているマリエルの側で警護兼サポートをしていると早馬の騎士が息を切らしながら、重い甲冑をガシャガシャならしながら走り込んでくる。


 バイザーを上げた騎士の顔色は青く、まさに血相を変えていた。甲冑の膝を強く地面に打ちつけながら跪く。


「ご報告いたします」

「このままお話ください」

「は!」


 マリエルは完治しきってない患者の面倒を見ながら、話を聞くつもりらしい。


「王都アラストブルクに魔王軍が侵攻、なんとか第一城壁で持ちこたえておりますが、一部は王都内に侵入。近衛騎士団と交戦中です!」


 白樺さんたちもマリエルの下に駆けつけ、騎士の急報を聞く。


「しまった! コンウェルは陽動、本隊はアラストブルクだったかっ!?」


 白樺さんが迂闊うかつさを悔いたのか、思わず吐露していたのだった。


―――――――――あとがき――――――――――

作者、性懲りもなく冷やし中華みたいに新連載を始めました。


【ネトラレうれしい! 許婚のモラハラ幼馴染が寝取られたけど、間男の告白を蹴った美少女たちが、俺と幼馴染が別れた途端に恋心を露わにしてくるんだが。】


脳死しない笑えるNTRざまぁラブコメですので読んでいただけるとうれしいです!


表紙リンク↓

https://kakuyomu.jp/works/16817330667920018002

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