第38話 デリート
俺とのキスのあと、リリスの怪我は見事に消え去っていた。
「ぷは~っ、復活っ!!!」
「へ?」
むしろ、怪我する前より血色はもちろんのこと肌艶まで良くなってやがる……マジで心配したんだからな、ほんと俺の心配返せよ。
「はあ、まんまと妾の演技に引っかかりおって、くっくっくっ。これで立場がどちらが上なのか、分かったであろう、うんうん」
ドヤ顔で腰に手当てながら、頷くメスガキ。俺は自分の顔に指を差して、メスガキの顔を見る。
「なっ!? まだ、分かっておらんのか!?」
その程度で下克上されてたまるかよ。
「そんなことよりだ、もう勝手にどっか行くんじゃねえぞ」
「ち、違うのじゃ~、ミーシャがあの天幕の中に入ってしまったから……」
ご主人さまらしく、メス奴隷を叱ってやった。眉尻を下げて、困り顔で言い訳。リリスもミーシャがいなくなって心配して探しに行ったら、あいつらに拘束されてしまったらしい。
ミーシャの見てきた映像は見るに耐えないものだった。
「分かってないのはリリスの方だぞ。白樺さんと俺と一緒にいたんだ、なんで戻ってきて助けを求めないんだよ」
馬鹿正直に俺の言いつけ守りやがって……
「今度、あんなことに巻き込まれたら、遠慮なくイナンナでもスキルでもぶちかましてやれよ」
「分かったのじゃ……」
いい子いい子と頭を撫でると「子ども扱いするな~」っと怒るメスガキ。必死で俺の手を振り払おうとしていた。だが、頭撫でれるのも罰の一環だから!
「心配させまくったんだから、頭ぐらい撫でさせろよ」
「うぬ~っ、仕方ないのじゃ。じゃが今日だけじゃぞ」
言葉とは裏腹に猫みてえに目を細めて嬉しそうにしやがって……
(それより、アレなんとかしないと……)
完全にモザイク入れないとダメな奴。今までクソ野郎だったとしても、同じ勇者だった人間だ。せめて埋めてやるくらいはしないとな。首はもうないから、誰だか分かんなくなちゃってるけど。
もう俺は“さん“なんて敬称をつけずに船橋って呼んでしまってた。そもそも敬称で呼ぶに値するような奴じゃなかったんだ。
本人が部下たちに自慢気に語っていた元の世界にいたときの悪行の数々……
どちらにせよ、語っていたことが事実なら、元いた世界でも死刑になっててもおかしくないような男。臓物ぶちまけて、異世界で野垂れ死んでも因果応報としか言いようがない。
だけど、やっぱり結果的にだが俺は奴を見殺しにしたような罪悪感に苛まれてしまう。苦しい心の内を誰かに聞いてもらいたくて、白樺さんに訊ねていた。
「白樺さんは仲間を亡くしたこと、ってありますか?」
「殉職ってことかな? 危なかったときはあるが、第一空挺団でそんな事故を起こしてしまったら、俺は懲戒ものだよ」
苦笑いしながら、俺の質問に答える。そうだよな、日本で最精鋭と言われる空の神兵がそんな簡単に殉職なんてないよな。
「でも、亡くなった人たちはいっぱい……」
「そうだな、災害派遣のときはこれでもかって見せられたよ。それこそ大嶽山の何倍、何十倍もね」
どこか虚空を見つめながら、大変な状況だったことを教えてくれた。白樺さんは入隊間もない頃に東北であった大きな地震の災害派遣に参加していたらしい。
そこで目にしたものは壮絶なもので遺体安置所になってしまった体育館には一人運び終えたかと思ったら、また次から次へと運ばれてきて、増える一方だったと。
「戦争でなくとも人は死ぬんだ。もうそのときほど、現実って奴を痛いほど見せ付けられたね」
馬車に積んであったスコップを使い、二人で墓穴を掘る。異世界のスコップで扱いにくいが白樺さんは「塹壕掘りで馴れてる」といい、深くしていった。
「もう、いいだろう」
「ええ……」
ちょうど天幕があったので、それを引き裂いて遺体を包む。すでに死後硬直が進んでいて、人肌の柔らかさなんて皆無だった。
元いた世界だろうが、異世界だろうが人の命がこうも簡単に奪われるなんて。船橋は因果応報だと思った。だけど、震災や噴火での事故は決して、悪い人とは思えない人たちが巻き込まれてたんだ。
考えたところで俺に答えなんて出せるわけがなかった。
「学校の勉強には答えが用意されている。だけどな、桐島くん……人生に答えなんて、ないんだ。俺だって常に悩んでるよ」
ぽんと俺の肩に手を置く白樺さん。その手は大きく、どうすれば最善になるのか、失敗なんてしたくないと思う俺を勇気づけてくれいるようだった。
えいっ!
船橋の持ってた剣を地面に突き刺し、墓標代わりに……白樺さんは手を合わせていたが、俺は合わせなかった。
水を汲み終えた馬車を走らせながら、リリスといかがわしい行為に至ってしまった経緯を必死で説明していた。
「いやいや、そういうことじゃなくてですねえ……」
「でも桐島くん……俺も子どもの親としてだな、ああいうの見ちゃうと、キミの信頼が……」
白樺さんの言わんとしてることは分かる。俺だって元いた世界で俺ぐらいの年齢の男の子が幼女とディープキスしてたら、事件性、犯罪性を疑う……
当のリリスは荷馬車の後ろに座って、足をぶらんぶらんさせながら、ミーシャを撫でて上機嫌。俺の不名誉などどこ吹く風だった。
「リリス、ちょっとくらい俺が無実だってこと、証明しろよ」
「要は真っ黒々スケベなのじゃ!」
「なんだよ、それ……」
もう二度とリリスとキスなんてしねえからな!
腹立たしいのが、都合に合わせてロリと年寄りなことを使い分けてくること。処世術と言ってしまえばその通りなのだが、俺が怒ったりするとロリに徹して、叱ってる俺の方が罪悪感を感じてしまうのだ。
はっきり言って、キスしたのもメスガキが、かわそうだと思ったからであって、別に欲情なんかしてないんだからねっ! である。
白樺さんにお説教をもらいながら、コンウェルの街へと戻ってきた。
俺たちを出迎えてくれたマリエル。
「要さま、お疲れさまでした!」
「あ、いや……」
白樺さんは気を使ってくれたのかリリスを連れて、樽の水をを街の人たちに配ってくると告げて、その場を離れた。
俺は彼女に報告する必要があった。
アラストリア王国にとって、初の勇者の戦死者のことを。王国はせっかく召喚した人格的には最低野郎でも貴重な戦力を失ったことには違いない。
街の広場に臨時で設置された天幕の中で二人きりになり、詳細を伝えていた。
リリスがミーシャを預けてくれたので、マリエルに船橋の非道と末路を見せるのは迷ったが、彼女は王女だから情報は多くでも知っておいた方が良いと思い、見てもらった。
「ごめん……俺がついていながら、なにもできなかった」
「要さまはなにも悪くありません! すべて船橋さまの問題です。たとえ、船橋さまが魔族を討ち滅ぼしたとしても、次は
俺の手を取って精いっぱい励ましてくれる。そんなマリエルの白く美しい手の甲に雫が落ちた。
「ああ……ああ……ありがとう、ありがとう……」
俺の気持ちに一つ一つ頷き、微笑んでくれていた。男が女の子の前で泣くなんて、はっきり言って恥だ、情けない。だけど、マリエルのかけてくれた温かみのある言葉に救われた気がした。
俺はこの子を、マリエルを、死んでも守り抜きたい、そう思った。ガキみたいに慟哭する俺を包み込んでくれる彼女。
俺はもし、マリエルになにかあれば、この先生きていけるのだろうか? そう思えるほど、彼女の存在が俺の心の中を支配していっているようだった。
俺は常にマリエルが慕ってくれていることに感謝していた。だけど、その気持ちに恋愛感情で応えることはなかった。いや、できなかった。
XXの存在……
だから、過剰なまでにマリエルの護衛といったことに躍起になっている節を自分でも薄々、感じていた。そう、勇者としての指命を果たすことでマリエルの気持ちに応えようとしていた。
マリエルに俺の気持ちを伝えてしまったら、XXを裏切ることになってしまうから……
それでもマリエルの笑顔を守りたい。
そのために生き残らなければならなかった。そのために咄嗟の思いつきで、結合した船橋の腕。喉からでかかってるのに重たく閉じた顎……辿々しい口調で無理やり口を開いた。
「マリエル……俺、スキルが使えるようになった……」
「要さま、おめでとうございます!」
「あ、ああ……」
俺に船橋の腕と結合したことにより、スキルのストレージとスロットが使えるようになったが、ミーシャの映像の通り、あの女の子を絞め殺した穢れた手……
うれしくともなんともなかった。
左腕を見るたびに船橋が乱暴した女の子とその恋人の末路が夢に出てきてうなされてしまいそうだ。
「マリエル……この本に書いてあることって本当?」
マリエルの前に差し出したのは【振戦と記憶】というタイトルの本。魔導院から借りているものだ。
「はい……でも要さま、まさかデリートを覚えて、お使いになるというおつもりなのでしょうか?」
「ああ、本当なら使いたい。どうやら、俺はこのままだとおかしくなってしまうかもしれないから」
バラバラになった船橋……
白樺さんたちは「仕方なかったんだ」と俺の肩に触れ、慰めてくれたが王立魔導院にあった本の通り、俺がやったわけでもないのにぶるぶると震えきて、罪悪感で押しつぶされそうになる。
「私が手を握っています。どうぞ、お辛いならお心のままに……」
「ありがとう。俺はこの世界を平和にしたい。だから……進むよ」
俺の顔を心配そうに見つめる彼女に手を握ってもらい、二人で一緒に本を開いた。
すると……
―――――――――――――――――――――――
【デリート】の習得が可能です。習得しますか?
はい ←
いいえ
―――――――――――――――――――――――
もちろん、俺の答えは「はい」だった。そして、すぐさまスキルを行使する。
【記憶をデリートしますか?】
はい ←
いいえ
はいを選択し、【デリート!】と声高に叫んだ。
その刹那。
はっ!? あれ? 何も思い出せなかった。
「俺、なに悩んでたんだ?」
「大丈夫です、もう終わったんです」
満面の笑みを俺に向けてくれる俺の聖女さま。
「で、ではがんばった要さまに……お祝いを要さまにお渡ししないと……」
ち、近い……マリエルの吐息の温もりと湿り気が頬に伝わるくらい接近していた。
「マリエル……お祝いって、な、何なのかな? そんなに近づかないと渡せないものなのかなぁ~?」
それとなく、訊ねてみるのだけども、彼女は何も手には持っていなさそう。それだけじゃなく、衣装から取り出そうとする気配すらない。
マリエルが瞳を閉じたときだった。まさかまた、浄化してくれようとしてるのか!?
「マリエル!? 浄化はもう大丈夫だか……ん」
目を閉じたマリエルの柔らかな唇が触れていた。俺の唇が彼女の唇に押される。しあわせな時間はふっと霧のように消えてしまう。
目を開けたマリエルは頬を紅潮させながら、俺に教えてくれた。
「キスでも浄化でもありません……祝福です」
「しゅ、祝福ぅ!?」
「は、はい……要さまの新たなスキルに」
もじもじと手を彼女の股辺りでこすり合わしていると……
「要さまさえ、よろしければ……もっと祝福を差し上げたいのですが……」
いやいやいや、マリエル!?
今度は二の腕で豊満過ぎるたわわをもじもじせると、ぷるぷると俺の目の前で躍っていた。
これは祝福っていうより、眼福じゃん!!!
「マ、マリエル……それ以上は……もう、いっぱい祝福してもらったから、ね」
俺のズボンが天幕張りそう……
「まだまだ、要さまには足りていないと思います。今までいっぱい冷遇されてきたんですから」
マットの上に座る俺に彼女は四つん這いで迫ってくる。後ずさりするものの、谷間が強調されて、
いっぱいというよりおっぱいですね……
聖女さまに欲情する変態勇者には成り下がってはいけない。俺が必死に理性を保とうとしていると、
「大変なのじゃ……」
リリスが天幕の出入り口の布をめくり、青い顔をして入ってくる。サッとマリエルは恥ずかしそうに俺から身を引いた。いけないと思いつつも、離れていくマリエルを見ると寂しい……
顔の青いリリスに俺は冗談を言ってみた。別にマリエルといかがわしいことを邪魔されて怒ってるわけじゃないけど。
「なんだよ、おねしょでもしたのかよ?」
「妾が真剣な話をしようとしておるのに、何故いつもいつも要は馬鹿なことばかり言うのじゃーーっ、もう知らぬ!」
「悪かった、悪かったって。飴やるから機嫌直せよ」
「なぬっ!? 何故、それを言わぬか!」
丸いべっこう飴に棒を差したロリポップ風のもの。水を運んだお礼に街の人がくれたのだ。ちゅぱちゅぱと音を立て、ロリポップを舐めるロリ。
はあ~っ、単純な奴で良かった。
「んまぁぁーい! おっと、飴を舐めて、悦に浸っておる場合でなかったわ。要もマリエルもこれを見るのじゃ!」
――――みゃ~ん!
「ん?」
「はい?」
とうやら、リリスは反省したようで俺の役に立ちたいと思い、ミーシャを斥候へ出していたらしい。
リリスに促され、ミーシャの探ってきた映像に俺たちは驚愕していた。俺たちが話している間にどこかに行ってしまったと思ったら、リリスのところに戻っていたらしい。
「なんだと!?」
ミーシャを抱えていた手がわなわなと震えてくる。俺はすぐさまマリエルにも見て欲しくて、ミーシャを彼女に預ける……映像を見たマリエルも俺と同様に驚き、思わず声を上げた。
「「ええっ!?」」
「なんであいつが……スカウトされてんだよ」
リリスと同じように山羊みたいな角と赤いバニースーツを着用したサキュバスみたいなどえろい女魔族から顎を撫でられ、あいつが勧誘されていた。
―――――――――あとがき――――――――――
作者、性懲りもなく冷やし中華みたいに新連載を始めました。
【ネトラレうれしい! 許婚のモラハラ幼馴染が寝取られたけど、間男の告白を蹴った美少女たちが、俺と幼馴染が別れた途端に恋心を露わにしてくるんだが。】
脳死しない笑えるNTRざまぁラブコメですので読んでいただけるとうれしいです!
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