第33話 亡き師にならう

 いやいや……俺、なんか夢でも見てんのか? あの鬼塚さんだぞ。普段はツンツンしてて、下手に誘って尻を蹴り飛ばされた男子もいるくらいなのに……


 だけど、そんな彼女がしおらしくなってるギャップにくらくらしてきてしまう。潤んだ目で見つめられると弱い。鬼塚さんがベッドの隣に座るように命令されてそれに従っていた。


 炒飯を作ってもらったときにちらっと見てしまったんだけど、棚の上に避妊具ゴムが堂々と置いてあったし、鬼塚さんって、イケメン嫌いだけど、やっぱり百戦錬磨なのかな?


 そんないけない思いがむくむく湧いてくる。し、鎮まれ!


 はぁ……はぁ……


 誘惑に負けそうになって、呼吸が荒くなる。俺だって、男の端くれなんだから。だけど、俺たちは付き合ってすらない。


 やっぱり順序ってものがある。


 それにその前に鬼塚さんに謝らないといけないことがあった。


「鬼塚さんっ、ごめん!」

「だよな……やっぱ、あたしみたいな奴、桐島と釣り合わねえよな……」

「違うから、そういうことじゃなくて俺、鬼塚さんに捻挫させておいてちゃんと謝ってないから!」


「んなこと、気にすんなよ。あたしも悪かったんだからよ。それに桐島からもらった布巻いておいたら、そんな痛まなかったんだ」

「そ、そう? なら良かったんだけど……」


 マジか!?


 プラシーボとかじゃないのか? 自分でやっておいてなんだけど、マリエルに教えてもらったルーンのおまじない。


 俺は聖女はもちろんのこと聖職者スキルを異世界にいたときから、獲得できたことはなかった。極々、簡単なものであっても。マリエルならいざ知らず、俺のでも、まじないの効果があったらうれしい。


 鬼塚さんは立ち上がり机の引き出しから、小洒落た箱を取り出してくる。ふう、距離が近かったから、このままいけばどうなることかと思ってしまったけど……


「桐島からもらった最初のプレゼントみてえなもんだ。大事に取っておいた」

「いや、そんな大層なものじゃないから……」


 険しい表情だった彼女が柔らかくうれしそうに笑った。その顔は莉奈さんそっくりで俺の胸に深く刺さった。


「姉貴もさ、あたしの誕生日とかイベントごとがある度にプレゼントをくれたんだよ。駆け出しの頃はそんなに給料もらってねえはずなのに……」


 ポーチやバッグ、かわいらしい服や小物……俺にうれしそうに一つ一つ見せてくれる。鬼塚さんは本当に莉奈さんのことが好きだったんだと分かった。


「なあ、桐島から見て、あたしってどうだ? 女として……」

「莉奈さん譲りでかわいいし、クラスが同じになったときはちょっと怖いかもって思ってたけど、そうじゃなかった。スゴく魅力的な女の子だと思う」


 俺は鬼塚さんに思ったままの率直な感想を述べた。深く頷いたあと、部屋を出て何かを持ってきた。


「えっ!?」


 顔を真っ赤にして、テーブルの前に差し出したのは……


 正方形のアルミっぽい包装に包まれた避妊具。


「じゃあ、慰めてくれねえかな……身体で……」


 俺は覚悟を決めた。


 立ち上がり、座っている鬼塚さんの脇を抱えて立たせる。


「おっ、おっ……ちょっ、ちょっ」


 俺の積極的なアプローチに戸惑う彼女だったが、俺はその手を緩めるない。そのまま側のパイプベッドに彼女を押し倒した。


 寝転んだ鬼塚さんに四つん這いで跨がってる。ビッチと噂される彼女だったが、身体が小刻みに震えている。


 そんな彼女に顎クイをしながら、言い放った。


「俺が本気出したら、美奈がどれだけイッても腰を止めない。朝まで犯され続ける覚悟があるなら今すぐ服を脱げ」


 普段、大人しくしてる俺から予想だにしない言葉に戸惑う鬼塚さん。なかなか、彼女が服を脱ぎ始めようとしないので、ブラウスの前立てを両手で掴んで……


 強引に左右に引き裂いた。


 ボタンがぶちぶちと鳴って、はじけ飛ぶ。ブラウスは袖を覆うだけでただの布切れみたいになって、素肌を隠すことを止めた。俺の目の前で露わになる白ギャルの肌とブラ。ピンク色の生地に黒いレースのついた派手なものだ。


「や、止めろって……そんな強引なのは……」

「優しくしてもらえるなんて、勘違いしてた?」


 鼻息を荒くして、制服のスカートの中に手を入れ、パンティの布に手をかけたときだった。衝動的な俺らしからぬ行動に彼女は俺の顔に手を当て、押し戻そうと拒絶する。


 ただの真似だった。白樺さんがアイナに告げたように。


「済まねえ……さっきのは冗談だ。聞き流せ」


 俺から目を背け、まるで何かを恐れるように胸の前で腕を寄せ、膝を曲げて丸く縮こまっていた。


 これでいいんだ。


 鬼塚さんは俺のことが好きなんじゃない。莉奈さんの影を俺の中に見てるんだ。鬼塚さんの仕草と持ってきた避妊具が一つだけだったから、実はビッチなんて噂、嘘なんじゃないかって。


 もっと彼女はピュアなんじゃないかと。


 屋上で俺に跨がってしまったとき以上に気まずい雰囲気が流れていた。まさか、童貞からあんなオラついた台詞と行動が出てくるとは思ってなかったと思う。


「これって本当に鬼塚さんの物?」


 テーブルに置かれた避妊具を指で押しながら、彼女の目の前に移動させて訊ねた。こういうものって、人の目につくところに置いておくようなものじゃない。


「ばっ、馬鹿野郎っ!? そいつはお袋んのだよっ!」


 鬼塚さんは顔を真っ赤にして、パーンと引ったくるように棚に置いてあった避妊具を取り上げる。


「お袋……あたしが学校に行ってるときにさ、そのなんつうのかな……いたしてるっつうか……彼氏と……」


 聞いてもいない、というか聞けないような家庭内のことを鬼塚さんは俺に教えてくれていた。


「一応、バッティングしないように配慮はしてくれてるんだ」

「まあな……お袋も女だし、世話になってる以上、付き合うななんて言えるわけねえし」


 莉奈さんはお父さんに、鬼塚さんはお母さんに引き取られたっていう複雑な家庭環境……俺なんかが立ち入れるようなことじゃない。


「あたしはそんな母親の子どもだ。軽蔑するか、桐島は?」

「ううん、鬼塚さんはそうじゃないなら、気にしない」


 だけど、そんなことで俺は彼女を軽蔑なんてしない!


「さっきはあんなことして、ごめん……鬼塚さんは俺のことが好きっていうより、俺の中に莉奈さんの面影を追っているようにしか見えなかった。強引に迫ったら諦めてくれるかなって」


「桐島にはなんでも分かっちまうんだな……なんかさ、おまえの言う通り、一緒にいてると姉貴が側にいてくれてるみたいに感じんだよ」


 もう身体は元に戻ってる。


 けど、莉奈さんを大好きだった鬼塚さんと彼女を大事にしていた莉奈さんの魂が俺の中に残ってて、互いに惹かれ合ってるのかもしれない。


 同意があったとはいえ、あんなに強引に迫ったのに鬼塚さんは……


「なあ、ちょっとだけ甘えさせてくれ……」


 あっ? いや、これ……どういう状況?


 ゆっくりと俺の膝へと頭を傾けてくる。


「あ、え!?」


 これって、膝枕なんじゃ……


「姉貴……」


 本能的なことなんだろうか、俺に身を委ねた鬼塚さんは莉奈さんに思いを馳せている。


「会いたいよぉ……姉貴ぃぃ……あたしを置いてくなんて……戻ってきてよぉ……うっ、うっ」


 忙しい両親に代わって、莉奈さんが彼女の面倒を見ていたことを教えてくれた。それが両親の離婚で……それでも仕事などの合間を縫って、二人で出かけてたりしていたらしい。


 髪を撫でていくと……


「桐島に撫でられると、不思議と姉貴に撫でられてるように感じる……」


 莉奈さんを喪った寂しい想いから、感情をあふれさせ泣いてしまったけど、優しく撫でていると安心して鬼塚さんは眠ってしまった。


 さっきは違い、優しく柔らかな身体を抱え、彼女をベッドに寝かせる。俺が破いてしまったブラウスはそのまま。仕方ないけど、明日にでも弁償しよう……


 布団を肩までかけて風邪を引かないようにして、布団の上から彼女のお腹を優しくぽんぽんする。俺が寝つけないときは母親によくしてもらったものだ。


「おやすみ、美奈」


 莉奈さんなら、そう彼女にそうするであろうと思われたことをした。メモを残して、彼女が机の上に置き忘れていた鍵を借り、アパートのドアの鍵を閉めたあと、ドアについたポストの中へ入れておく。



 一人寂しく家までの暗がりの道を歩き思う。


 鬼塚さん……きつめの顔してるけど、莉奈さん譲りの美少女なんだよな。特に寝顔とかかわいかった。でも、彼女は俺を好きなんじゃない。俺の中で生きている莉奈さんのことを思ってるに過ぎないんだ。


 俺だって、鬼塚さんとえっちしたいと思う性欲はある。スゴく魅力的だから。ギャルなのにたくさん恥じらう彼女の仕草に心を鷲掴みにされそうになってる。


 でも、莉奈さんの力を借りてると思うとアンフェアに思えて、彼女とする気になれなかった。それに鬼塚さんから、俺に対する想いもちゃんと聞いていないし……


 こんな馬鹿野郎だから、俺は童貞なんだろうな。


 鬼塚さんといるときは【幻肢痛】が出ていない。痛いというより、身体が訴えてくる……そう表現した方が正しいだろう。


「要……」


 パッと俺を呼ぶような声がしたので振り返ったんだが、そこに誰もいない。あいつはもう、この世にいないんだ。ただの気のせいだろう。夜道を歩き、家路についたのだった。



――――翌日。 


 朝、登校しようと玄関を出たら偶然、インターホンを押そうとする女の子と出くわす。


「桐島、昨日はいろいろと世話に……」


 鬼塚さんが何か包みを持って、俺の家に来ていたのだ。だが彼女の視線が俺から外れ、スーッと横を向く。


「要……」

「香月……なんでおまえまでここに……」

「美奈こそ」


 どうしてこうなった?


 俺の家の前にはどう考えてもタイプのまったく違う美少女二人が俺を出迎えに来ていた。


―――――――――あとがき――――――――――

明けましておめでとうございます。今年もヨロシコです!


作者、性懲りもなく冷やし中華みたいに新連載を始めました。


【ネトラレうれしい! 許婚のモラハラ幼馴染が寝取られたけど、間男の告白を蹴った美少女たちが、俺と幼馴染が別れた途端に恋心を露わにしてくるんだが。】


脳死しない笑えるNTRざまぁラブコメですので読んでいただけるとうれしいです!


表紙リンク↓

https://kakuyomu.jp/works/16817330667920018002

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