第25話 愛する者の所へ【香織目線】
――――一ヶ月後。
「入院患者に対する不当な拘束や暴行があったというのは本当ですか?」
「拘束は自傷など行為を防ぐためであり、収まればすぐに解いております」
記者が挙手し、白衣の男性に向かって質問……というより詰問に近いような強い口調で言い放つ。負けじと白衣の男性も反論。
「では息子さんが患者にみだらな行為をしていたというのは?」
「みだら……というのは具体的に?」
「質問を質問で返すのは止めていただきたいのですが……」
たまたま、スマホで動画を漁ってると
当然、他の級友たちも……
「うわ~っ、山崎の家の病院ヤバかったんだ……」
「私、お腹が痛いって言ってるのに胸ばっか触ってこようとしてたんだよ。やっぱりって感じ」
それぞれ、スマホを見ながら口々に山崎の病院の悪評を裏づけることを言い合っていた。昼休みとあって花山たちが集まってくるが、今日ばかりは俺の異世界語りどころじゃない。
「桐島、見てるか?」
「ああ、山崎の病院のことだろ?」
頷く花山。普段なら山崎の女ったらしを茶化すところだろうが沈痛な面持ちになってしまっていた。病院の不手際であのメンヘラが亡くなってしまったんだから……
結局、山崎は人の目を恐れるようになってしまっていた。うちの高校を自主退学し、メンヘラの亡霊に取り付かれたかのように自宅に引きこもってしまったらしい。怪我したって風の噂で聞いたけど。
まあ、経営が傾いたとはいえ、医者の家だからニートでも大丈夫なんじゃないだろうか……もう外に出歩いて、女の子を取っ替え引っ替えして、遊ぶこともないだろうしな。
* * *
――――死亡前のこと。
困り果ててしまったのか、目に隈をつくっていた彼がまるで謝罪するかのように頭を下げ、頼み込んできた。
「香織……俺の親の経営する病院にサナトリウムがあるんだ。頼むからそこに入院して欲しい。もう、見てられねえから……」
あ~、変な噂されるから面倒くさくなって、そんなこと言ってるんだ……
どうせ、また私の身体目的でしょ?
休学して、家に引きこもってると山崎くんが訪ねてきて私に頭を下げてきた。本当に来て欲しいのは要ちゃんなのに……
クラスの女子たちが口さがなく、手のひらを返したように山崎くんのことを悪く言っていたけど、自業自得なところもあるんだろうね。
「娘をよろしくお願いします」
「はい……」
「えっ!?」
そんな!? 私に相談もなく勝手に決めてしまうなんて……だけど、鍛えられた看護師っぽい人たちにがっちり動きを抑えられ、介護用の車に乗せられてしまった。
心療内科には通っていたものの、私は心が不安定ということで、山崎くんのお父さんの紹介でうちの親の同意もあって、私は半ば強制的にサナトリウムに入院させられることになってしまった……
お母さんも私の手首や腕を見て、卒倒してしまって病院に担ぎ込まれてた。でも、教室で要ちゃんが私のこと、ちゃんと見てくれてたんだよ。痛いけど要ちゃんのためなら、痛くなんだけどな。
要ちゃんが見てくれるのは、こんなときだけ……
――――サナトリウム。
何よ、ここ……
私が連れ来られたのは、まるで牢獄。病室は個室だけど、ベッドと洗面台しかない。窓には鉄格子はめられていた……鏡すらないまったく生活感のない殺風景な部屋。
ドアの横の窓から山崎くんが語りかけてくるんだけど、
「しばらくここで治療してくれ。今のキミはいろいろと危険すぎる……」
「出して! なんで私がこんな仕打ちを受けないとならないの!?」
彼に抗議した。まるで要ちゃんに合わせないために私を閉じ込めたようなものだから。
「学校であんなことがあったのに、治さないと無理だろ」
「山崎くんは自分の保身に走りたいだけでしょ! 女子たちに私を捨てたって、陰口を言われて嫌なだけ……」
「どうとでも思ってくれていい。だけど、キミの両親も同意してることだから」
捨て台詞のように吐き捨て、私の前から去っていった。両親や山崎くんから、無理やり要ちゃんから引き離されたかわいそうな私。サナトリウムの名を借りた閉鎖病棟に監禁されたようなものだった。
うっ、うっ、ううぉぉぉーーっ!
「押さえろ!」
「拘束服を持ってこい!」
鍛えあげられた看護師たちが廊下を走っていった。壁をドンドン蹴る音が響いる。
そんなことがサナトリウムでは日常茶飯事だっけど、与えられる抗うつ剤や抗不安薬を飲むとそのときだけ、幸せな気分になる。
「あ~っ、あ~っ、要ちゃん見て! お星さまが出てる。きれいだね!」
隣にいる要ちゃんと楽しくお話できてる。
「ありがとう、要ちゃん……こんなところまで来てくれて」
要ちゃんはよく頑張ってるね、と微笑み私の髪を撫でてくれた。それだけでなんだか、どうでもよくなってくる。優しく口づけしてくれた彼。あのとき止まった時間が戻ったような気がした。
「要ちゃ~ん、熱い……熱いよぉぉ……」
頷いた要ちゃんにベッドに押し倒され……抱かれて、幸せな刻を過ごしたはずなんだけど、朝、起きると隣に彼の姿がなかった。
両親と山崎くんが私たちの仲を引き裂いたんだ!!!
ああっ! 怖い、怖い、怖いぃぃ……お薬が切れてくるとガタガタと身体が震えてきて、怖くなる。このまま、また要ちゃんに会えずに終わってしまうんじゃないかって……そう思うと身体が何かに支配されたように動いていた。
「誰だぁぁぉーーーっ! 私を閉じ込めたのはぁぁーーっ! 出せっ、出せよぉぉ!!!」
思いきり、壁やドアにぶつかる。ぶつかるたびに私の魂が外に出ていくようでこのまま、当たっていれば要ちゃんに会えるような気がする。
暴れると看護師たちが駆けつけてきて、すぐに私の身体は壁に押しつけられて、手枷などの拘束具で動きを制限されてしまった。
「このメンヘラがっ! 俺らの迷惑かけるんじゃねえ!」
「キモい腕見せんな!」
力じゃ、敵わない。
罵声を浴びせかけられながら、私はこの牢獄を抜け出して、要ちゃんの元へ帰ることを決意した。
――――山崎の来訪日。
月に一度、山崎くんが私の様子を見にくる。今日がその日だった。
「投薬量が少ないんじゃないか? もっと薬付けにして、証拠を消して欲しい」
「さすがにそれは……」
「誰に雇われてるんだよ! 俺の父親だろ? 首にされたくなかったら、従えって」
「済みません……」
廊下から足音とともに聞き慣れた声が聞こえてくる。私は身をかがめて、ドアの横の窓の下に身体を潜めた。
「いないっ!?」
「なんだと!?」
施錠されてた鍵をガチャガチャと音を立ててることで看護師が相当焦ってることが手に取るように分かった。
ドアが開いた刹那、私は突き立てる。
隠し持っていたスプーンが私に侮蔑の言葉を浴びせた看護師の眼球を捉えた! ぐにゅっと刺さる感触。
「目っ、目がぁぁぁーーーっ!」
スプーンが刺さった片目を押さえて、跪いてしまった。それを見た山崎くんは腰が抜けたのか、尻もちをついて転んでた。看護師がいつも携帯してるハサミと鍵を奪いとって……
「久しぶり、山崎くん。会いにきてくれたんだぁ……ふふっ」
「香織っ!? やめろ、こんなことしたら、どうなるか分かってるだろ? なあぁぁ……」
スプーンが眼窩に刺さって血を流す看護師を見て、恐怖した山崎くんのズボンの前立てどんどん湿っていく。
「あはっ! 私、こんなダメな物に気持ち良くなってたんだね! でも、もういらないから!」
格好良かったはずの山崎くんは情けないくらいに涙目になっていたが、恐怖で身体が思うように動かないのか、下半身不随になったようにお尻を床につけて後ずさりするだけだった。
「こんなものなければ、私は要ちゃんと上手く行ってたのよ!!!」
ズボンを脱がして、彼のモノをハサミで……
泡を吹いて、倒れた山崎くん。なんで私……こんな男に身体を許しちゃったのかな?
ようやく、サナトリウムから脱出できた私。
心が晴れやかになり、足が羽根のように軽かった。山手にあるサナトリウムから寝間着のまま、駆け出していた。あともう少しのところで、
あはーっ! この先に要ちゃんの家が……
なのになんなよ、私の想いを阻む棒は! こんな無粋な真似をしてくれるなんて許せない。始めからくぐれば、良かったんじゃない。要ちゃんの笑顔を早く、早く見たい!
カンカンカンカン♪
私の行く手を阻む開かない柵をこじ開け、中に入ったときだった。
ファーーーーーーンッ!!!
大きな警笛なような音が聞こえた瞬間……
キキキキキーーーーーッ!
巨大な物体が私の身体を大きく跳ね飛ばした。全身の骨が折れられたような衝撃と肉が歪む。
「人身事故だーーっ!」
薄れゆく意識の中で最期に聞こえたのが、そんな言葉だった。赤く染まった瞳で捉えたのは車輪に轢かれて、下半身のなくなったありえない光景。
ああ、私……死ぬのかなぁ……
要ちゃんは私のお葬式に来てくれるのかな? 悲しんでくれるのかな? もし、次があるなら……
* * *
再び意識を取り戻したときだった。青い目に金色の髪? 外国人が私の顔を見て、微笑んでる……私の傍らにもいる。こっちは女の人。確かに私は死んだ。死んだはずなのに、不思議と意識がちゃんとある……
ここはどこなの?
―――――――――あとがき――――――――――
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。ただ、あまり面白くなかったのか、読者さまからいただくコメントの割にフォローも、ご評価も芳しくありません。
カクヨムコンの読者選考が終わるまでは公開させていただきますが、★1000にも届かず、選考に落ちた場合はひっそりと閉じさせてもらおうと思います。
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