第21話 浄化
――――近所のファミレス。
「そういや、桐島。おまえ、鬼塚とやった、ってマジか?」
ブフォッ!!!
コーラを手に取り、口に含んだときだった。いきなり何を言い出すのかと思ったら、鬼塚さんとの踊場でのハプニングについて訊ねてくる。
俺から思いきりコーラシャワーを浴びた花山は「きったねえ!」と文句を言いつつ、大量にビニール袋に包まれたウエットティッシュをかき集め、黒汁を拭き取っていた。
俺はリリスとのことを訊かれると思い、万全の態勢で花山との質疑応答に誠意を持って応えようとしていた。だが、初手から変化球が投げつけられたことで思いきり転ぶ。
いや花山はサッカー部だからバナナシュートの方が正しいか? そういう下世話な話だけにバナナ……そんなハバナ!
今は異世界で起きたことより、こっちの世界でのハプニングの方がダメージがデカい……マジでデリートが使えたら、忘れたいよ。
帰宅後、しばらくして集合時間に合わせて、ファミレスに行くとお互いちょうどいいタイミングだったみいで、駐車場で手をあげる花山と合流。
まさか花山とファミレスに来ようなんて、転移前なら絶対にありえないことだった。最近、ふつうに花山と友だちしてる……
約束通り、ドリンクバーをおごってくれるようだが、以前ならカツアゲされて俺がおごらされそうな関係だったのに。
そんな花山に俺は必死で弁解していた。
「してない、してない。そもそも鬼塚さんが俺の相手なんてしてくれるはずかないだろ」
腕組みして、う~んと唸る花山。どうやら、俺の必勝の弁解も通じてない。だが、俺の名誉なんかより鬼塚さんの悪い噂が広まる方が問題だ。話した感じだと決して、見た目ほど悪ぶってる感じもない。
「あいつさ、俺や山崎みたなの毛嫌いしてるだろ。案外、デブ専という線もありえなくない」
「俺、まだ太ってる?」
「いんや、太ってない。むしろ、運動部でもないのにその身体つきはおかしい」
「じゃあ、デブ専じゃないじゃないか」
「そうだな。だが、以前のおまえを好きだったとか……」
「ないない」
まったく花山も女の子みたいに噂が好きで困る。
学校でハレンチ学園してたことを期待していたっぽいが、期待が外れたようでかなりがっかりしていた。
鬼塚さんの男性の好みなんて、到底俺に分かるやけない。だけど、彼女が俺に訊ねたかったこと、伝えたかったこと、それがどうしても気になってしまう。
屋上ではあんなことがあっただけに一緒にいると、また花山みたいに噂を聞きつけて、尾ひれはひれをつけ、あらぬ方向に拡散されかれねないのだから。
そんなことより、解せないのが彼女が大嶽山噴火について知っていたことだ。まさか家族が巻き込まれてたとか? だけど、俺が知ってる人たちの中で鬼塚姓は誰一人としていなかった。
とにかく機会を見つけて、鬼塚さんと話し合う時間を持たないとならないな……つっけんどんな態度を取ってるのに、屋上で一人になると彼女の見せたあの悲しそうな表情が、俺にあそこで何があったのか説明しろって訴えかけてくる。
話したからって、どうなるわけでもないかもしれない。だけど、唯一の生還者として話す必要はあるだろう。信じてもらえるか分からないけど。
俺から鬼塚さんとの艶っぽい話が聞けないとみると本題に切り込んでくる。
「それよか、早く話してくれ。そのリリスってロリっ子とシたことをよぉ!」
俺は一言もリリスとえっちしたなんて言ってないんだが……ホント好きだな、こういう話。
「俺の話よりも花山は西野さんとそういう仲なんだろ? そもそも俺なんかと会ってる場合じゃねえだろ」
「それとは違えんだよ。なんつうの? 別腹って奴なんだって」
やっぱりリア充だったか!
俺が話してやった替わりに二人の営みについて訊こうかと思ったが悲しくなるだけだと思い、喉からでかかった言葉を飲み込んだ。
「分かった、分かった。でも花山の期待するような話じゃなくても怒るなよ」
テーブルから身を乗り出して、うんうんと頷く花山。
「俺は異世界でリリスを孕ませてしまった……だが、俺はれっきとした童貞だと胸を張って言える」
「は? 意味が分かんねえ! 桐島のきりたんぽが活躍してねえのにどうやって、そんなことができんだよ。もしかして、人工授精とかか? 詳しく教えろよ」
「いや、違う。そうじゃないんだ……」
あれは……
のちに代替わりして魔王となるリリスとのアクシデントが起こったときだった。
* * *
マリエルが話すには人間から神になったイースを奉るイース教の異端、異教、魔女、魔族狩りを専門とするのが勧善懲悪委員会らしい。マリエルもイース教王庁から聖女認定されてると教えてくれた。
「端的に言うと宗教警察って奴だな」
すたっとゴーレムの身体から飛び降りた白樺さんが言った。マリエルのはきはきとした良く通る声は上にいた白樺さんにちゃんと聞こえていたらしい。
「亡命するのじゃ」
「亡命? 家出の間違いじゃねえか?」
「うるさい、うるさい! 亡命するから妾を保護するのじゃ~っ」
俺の胸をぽかぽか叩いてくるロリ。
何故、俺に当たる?
「お姉さまが許すわけがありません……たとえ、リリスさまが対話に応じられるお方だとしても、魔族だと知られれば、身柄は引き渡され酷たらしい方法で拷問ののち、処刑されてしまうでしょう」
宗教警察、KOEEE……自粛警察がかわいく思えてくる。
リリスは恐ろしくなったのか、さっきまでの尊大な態度は鳴りをひそめ、涙目になってふるふると震えながら俺の服の袖を掴んでいる。
やっぱりこいつはただのメスガキと一瞬、思ったがマリエルが淡々と話す拷問と処刑方法に俺も漏らしそうになった。
「私もそのようなことのないよう残忍な拷問、処刑を止めるよう申しいれていますが、お姉さまはなんとも思っていないようです……」
思わず、人道上なんて元いた世界の観念を持ち出そうとしたが、やられたらやり返す……それがこの異世界の常識なんだと思い、口を噤んだ。
俺は馬鹿だ……
とにかく腹が立ち、こいつも馬鹿な奴だが、幼い見た目で震えながら、怯える姿を見てしまうと庇護欲を刺激されてしまう。
「なあ、マリエル。こいつを保護してやりたい。責任は俺が取るから、いいかな?」
「分かりました。お姉さまには内緒にしておこうと思います」
「ありがとう」
こんないたいけな少女が酷い目に遭うなんて、かわいそうだ。だが……そんな恩を仇で返してくるのがこのメスガキ。
「ホントか!? 妾の偉大さが分かったようだな。よかろう、そこの下郎。妾の侍従として使ってやろう。くるしゅうない、よきにはからえ」
ちょっと人が下手にでりゃ、すぐに調子に乗る!
俺のこめかみに青筋が入ってくるほどのマウントを取ってくるメスガキに立場というものを分からせないとならない!
「分かった。マリエル、馬を数匹、用意してくれないかな?」
「はい……要さま、なにをされるのですか?」
「この馬鹿を八つ裂きの刑にしたい」
「わーっ、冗談なのじゃ! 悪かったのじゃ」
はあ……本当に反省してるのかよ。
しかし、連れて行くにしても、このデカ物を放置していくのか?
「おい、こいつを片づけられないのか?」
「なんだ、そんなの容易いぞ。イナンナ! 元に戻るのじゃ」
リリスが叫ぶとすーっと巨体がゆっくりと像が薄くなり霧散していった。
「あれって召喚魔法だったのか!?」
「そうじゃ、妾の強大な魔力量が分かったであろう、誉めて良いぞ」
腰に手を当て、ない胸を無理やり張ったリリス、こいつにない袖は振れないと同じで、揺れないおっぱいは、おっぱいではないと教えてやりたい。
「あ、マリエル。こいつ、俺の奴隷扱いで保護するから」
「はい!」
「なっ!? 妾を奴隷となっ!」
「いやだったら、俺たちはおまえを置いて帰る」
ぶーっと頬を膨らませて、どんと地面に胡座をかいて拗ねるメスガキ。マリエルたちに声をかけ、
「お待たせしました帰りましょう」
「いいのか?」
白樺さんはリリスを見ていたが、あんなわがままの相手をいつまでもしていたら、野宿になってしまう。
俺たちが撤収を始めても座ったまま。
だが、俺たちの姿が見えなくなって、不安になったのか、リリスは木の陰に隠れながらあとをつけてきていた。
結局、てってけてーっみたいな足音をさせながら、王宮までついてきたロリ……途中、奴隷みたいな貫頭衣を着させようするとブチ切れたので、仕方なく首輪をさせる。
「何故、妾がこんなものをせねば、ならんのじゃ~っ」
「おまえ、ホントに立場分かってる? 見つかったら、ヤバいんだぞ」
せっかくマリエルが衛兵にとりなしてくれたのに、台無しにしかねない。角と服装をフード付きの外套で隠し、リリスと共につつがなく王宮へ入った。
白樺さんと柏木さんと分かれると、俺とマリエルは地下の部屋へ。
「なんじゃっ!? この豚小屋はっ?」
「俺と大差ないんだから、文句言うな。住む場所があるだけマシだろ。それとも王都の外で過ごすか?」
さすがに同じ部屋とはいかなかったので俺の隣の空き部屋を内見した奴隷モドキがまた、愚痴を漏らす。
「おまえは本当に勇者なのか? 扱いが違いすぎんか?」
「うるせー! 俺はまだ本気出してねえだけだ。あと、おまえじゃない。桐島要だ」
「ぷぷっ、本気だしても大したことなさそう」
目を細めて、あざ笑う。
悔しいが痛いところ突いてきやがる……
「もういい。そこで黙って寝ろ。奴隷みたいな首輪はつけさせてもらったが、期待なんてしてねえから」
図星だったのでバンとドアを強く閉めて、リリスと分かれた。マリエルと俺の部屋に戻ったが……
ベッドの縁で隣に座る彼女の顔が険しくなっていた。何かマズいことでもしちゃったか? そう思った瞬間、マリエルが口を開いた。
「要さまは、いつも一生懸命頑張られてます! でも、あの子もお姉さまも……ちゃんと見ていない。そんなことって」
俺に対して怒ってるわけじゃなくて、周りがちゃんと見ていないことに憤りを感じてくれていた。怒ったかと思えば、マリエルが今にも美しいブルーの瞳が潤んでくる。
「別にあいつらの評価なんて気にしてない。マリエルが見てくれてる。それだけで俺は頑張れるから!」
「はい!」
俺の言葉でまぶたに溜まった涙を拭い、曇り空になってしまった表情は、ぱっと晴れて笑顔を見せてくれる。潤んだ瞳のマリエルもかわいくて堪らないが、やっぱり彼女は笑顔が似合う!
マリエルの優しさに包まれ、豚小屋なんて言われようが彼女がいてくれるだけで、どんな高級なスイートルームですら、敵わないだろう。そう思ってたときだった。
トントン、トントン。
ドアがノックされ……
「要さま、マリエルさま、アローネにございます。入室させてもらって構わないでしょうか?」
「どうぞ!」
長い黒髪に眼鏡をかけた女性が入ってきて、俺たちに一礼した。
「はじめまして、私マリエルさまのお着きの侍女のアローネと申します。どうぞ、よろしくお願い申しあげます」
美しい姿勢でお辞儀し、丁寧な挨拶をした彼女に俺も名前を名乗ると……マリエルの耳元でささやいた。
「要さま、申し訳ありません。所用のため、離れさせてもらいますね。また、明日」
「うん、いろいろありがとう。おかげで元気でたよ」
笑顔で手を振るマリエルと深々と俺に礼をするアローネ。二人は俺の部屋を離れた。今日は色んなことがありすぎて、俺の意識はベッドに横になった瞬間、そこで途切れた。
翌朝、起きると身体が重い……
昨日はそれほどハードなトレーニングしてないはずって、おいおいおい!
まさかマリエルが夜這いに来てたのか!?
「マリエル、そんなダメだ。キミの気持ちはスゴく嬉しい。だけど、俺にはXXがっ!」
って、何してくれてんだよ、こいつはよぉ!!!
唇に当たる生暖かい感触。どう考えてもキスされてた。
「くっくっくっ! 妾がお主の唇を奪ってやったわ! これで妾は孕むことができるっ」
何を言い出すのかと思ったら、そんなな○う小説の
「朝っぱら俺に無断でキスするなんて恥を知れっ、このビッチ姫が!」
マリエルなら許せる、いやダメなんだけど……
「はあ……ホント、変な奴隷を拾ってきちまった。あのな、いまどき小学生でもキスで妊娠するなんて戯言、信じないぞ」
「う、うぬぅ……妾を馬鹿にしたことを覚えていろよぉーーーっ」
捨て台詞を吐いて、俺の部屋から飛び出していった。ふぁ~っ、と起きたと思ったら、眠くなって大きな欠伸がでる。日がまだ昇り切ってない。トレーニングまで時間があるので、リリスを放っておいて、二度寝することにした。
キスで妊娠なんかすりゃ、大変だ。まあ、少子化問題はすぐに解決してしまいそうだが。俺はそんな風に高をくくっていた。
だが……
――――数日後。
ふい~っ!
今日もいいトレーニングができましたっと。部屋に帰って休憩しようと思ったら、リリスが俺の部屋に入ってきていた。
また勝手に入って来やがっ……
「久しぶりじゃのう、要」
俺が見たリリスの姿の変化に腰を抜かしてしまった。しばらく顔を見ないと思ったら、ありえない。
「馬鹿な、そんなはずはない。俺はそんなこと何一つしていない。いくら合法ロリだって、絶対に手なんて出していないんだ。俺は悪くない、俺は悪くない……」
「見ろ、この妾の腹を。おぬしのやや子を孕んだのじゃ!」
幼女体型のリリスがぼて腹になるなんて、俺は頭を抱えて、床にうなだれた。勝ち誇ったように高笑いをあげるリリス。
「要さまっ!」
マリエル!?
ドアの向こうから彼女の声が聞こえてくる。マズい。こんなリリスの姿を見たら、彼女がなんて思うのか、分からないぞっ!
「要さまっ! たいへんです、あの子の正体が判明いたしました」
バーンとマリエルらしからぬ、荒っぽい開け方で中に入ってくると、ニチャァ~っと笑ったリリスを無視しして、俺に真っ直ぐ向かってくる。
「マリエル、これは違うんだ」
俺が弁解しようと思ったら……
マ……マリエル!?
ん……
彼女の見目麗しい顔が目の前に近づいてきたかと思ったら、唇に柔らかなものが当たる感触がある。ずっと触れていたい、ダメなのにそんな思いにさせられてしまう。吐息混じりで瞳を閉じた彼女に俺は口づけされていた。
まるで俺の周りの世界のすべての刻が止まったような感覚。清らかなマリエルの唇に俺はさっきまでの恐ろしい光景が洗い流される思いがした。
ゆっくりと離れる俺とマリエルの唇。
まるでリリスに犯されてしまった俺の唇を優しく癒すように慰めるマリエルの献身的なキス……
少し頬を赤らめた彼女が口を開いた。
「魔族に犯され、穢れてしまった要さまのお口を浄化いたしました。これでもう大丈夫だと思います」
「マリエル、今の……キスだよね?」
「浄化です」
「キスだったよね?」
「浄化です、浄化です、浄化です、浄化です、浄化です……断じて浄化です」
マリエルが壊れかけたので俺はそれ以上、追求するのを止めた。
「ありがとう、マリエル。キミのおかげで心が洗われたような気がする」
「はい……」
少しだったのが白く透き通るような肌を真っ赤にさせて、照れるかわいいマリエルだった。
そこから落ち着いた彼女はリリスのぼて腹を指差し、堂々と言い放つ。
「ご安心ください。リリスさんのお腹の中に要さまの赤ちゃんなんていません」
「えっ!? どういうこと?」
俺はわけが分からなかった。まさか、マリエルがリリスのお腹をノコギリで……
―――――――――あとがき――――――――――
新作書きました。
【勇者学院の没落令嬢を性欲処理メイドとして飼い、最期にざまぁされる悪役御曹司に俺は転生した。普通に接したら、彼女が毎日逆夜這いに来て困る……。】
https://kakuyomu.jp/works/16817330665423914887
石鹸枠の悪役に転生したラブコメです。寝取られで脳死してしまった読者さまを癒せるかと思います。よかったら見てくださ~い。
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