第20話 魔族
俺たちが遭遇したモンスター……
それはゴーレム。といっても人間より少し大きいとかのサイズではない。巨人……いや、ロボットと言っても過言でないくらいデカい。それこそお台場、横浜、福岡にある白い悪魔並みの大きさだろう。
「こいつ、動くぞ!」
冷静な白樺さんが焦って叫んだ。屈強な自衛隊員でも、生身でこんな馬鹿げた大きさのものを相手にしたのは映画の中の人だけだろう。
だけど、いくらコボルトに気を取られていたとはいえ、こんな巨大な奴が進んでいたら、もっと早くに気づいてもおかしくない。それに俺だけじゃなく、白樺さんたちもまったく気づいてなかった。
急に何かしらの方法でここまで送り込んで来たってことなのか? 隠蔽、召喚、偽装、さまざまなことが考えられたが、それより今は……
金属なのか? 石なのか? よく分からない素材でできたゴーレムは俺たちを
「白樺さん、どうすれば……」
それにしても、このでか物の動きはおかしい。
魔物は
それに踏みつけてくるものの、何か武器らしきものも持ってないし、内蔵されてる感じもない。油断は禁物だけど。
「こんなでかい奴と戦うことなんて、想定はしていない。だが、方法がないわけでもない」
「ホントに? 元カレがあんなのばっかり集めてて、浮気したから腹いせで全部捨ててやったのよ! 捨てるなんて生ぬるい、こいつは壊してやるんだから」
何気に凄い情報をぶっ込んでくる莉奈さんだったが俺にはなんとなく白樺さんが何をしようか、分かったので言ってみた。
「足ですね!」
「そうだ、ヒュダスペス河畔の戦いだ!」
大王VS象。
俺も詳しいわけでないが、そんなパワーワードな戦いだったので覚えている。
「莉奈さん、雨雲をお願いします!」
「あっ、えっと、うん!」
少し戸惑い気味の莉奈さんだったが、白樺さんは頷いていたので俺の見立てで間違いなさそうだった。俺も白樺さんもスクロールを封入したガンドをランチャーへと装填して、雨雲の到来を待つ。
【天変地異】(
莉奈さんが杖を大きく天に向かって振りかざすと蛍光色の八卦陣のエフェクトなんだろうか? ホログララムのようなものが浮かんだかと思ったら、よく晴れた雲一つなかった青空にみるみるうちに雨雲が集まりだして、一気に暗くなった。
最初に莉奈さんにお供したときは、二人でずぶ濡れになってしまったが扱い方に慣れたのか、ピンポイントでゴーレムだけにゲリラ豪雨も裸足で逃げ出すくらいの凄まじい勢いで水圧が掛かってる。
「お天気お姉さんを舐めないでね♡」
舌をぺろっと出して、ウィンクする莉奈お姉さん……プライベートでコスプレしてる感じでなんか凄くかわいい。
いや、いまはそれどころじゃない!
ゴーレムに当たった雨水が集まり、俺たちの足首まで濡らすが向こうもあの水圧じゃ簡単に動けるものでなかった。
「もういいだろう」
白樺さんが莉奈さんにアイコンタクトを送ると莉奈さんは固有スキルを解除する。すると、雲の切れ目から光が差し込んでいた。
「桐島くん! 左足を狙うぞ!」
「はいっ」
「俺も左足だからな」
えっ!?
こういうときってお互い別れて、両足を狙うものじゃないの? そんな疑問が湧いたが、戦いなら白樺さんの方がプロだ。素直に指示に従い、ガンドの底に貼りつけた小片のスクロールの効力を行使した。
すると勢いよくゴーレムの膝に向かって、俺と白樺さん、互いのランチャーから勢いよくガンドが飛び出し、膝を固めてゆく。
ブルー缶……
俺たちが放ったガンドは青色に着色されていた。白樺さんが色分けしてくれたおかげで一目で何系の魔法属性か分かる。
王宮魔導師たちが丹精込めてスクロールに刻まれた氷結魔法はゴーレムの右足を強固な氷で包まれていた。
だが、ゴーレムはお構いなしに動く手足をばたつかせる。しかし、そんなことをすればバランスを崩していくので……
「任せて!」
莉奈さんが俺たちに向かって叫ぶと、
【天変地異】(
雨雲のときとは違い、莉奈さんは両手で杖を大地に突き刺すと今度は乾ききってないぬかるんだ大地に八卦陣が現れ、地面を揺らした。
ガガガッと揺れたかと思うとゴーレム周辺の地面が割れ、固めたゴーレムの足裏に出来た断層により、巨体が大きく傾いたかと思ったら……
バサバサバサッ、バキッ、メキッ……
ドーーーーーン!!!
木々が生い茂る林に巨体が仰向けに倒れて、辺りに轟音と砂煙が舞い散っていた。
まるで巨人ゴリアテが倒れたみたいだ!
見たことないけど……
白樺さんが莉奈さんのところに寄って感心しながら告げた。
「凄いな……柏木さんの固有スキルは……」
「えっへん、本気出せば、こんなもんかな。なんてね! 白樺さんたちの指示がなかったら、何も分からずに踏み潰されちゃってたかも」
二人でゴーレムをひっくり返したことを笑っていたが白樺さんは警戒を怠らず、倒れたゴーレムから動きがないか、ずっと張り詰めた空気を解くことはない。
「アレクサンダー大王は象の足を斧で叩き切ってたんだが、その必要はなさそうだな」
白樺さんは見事に大の字に倒れ、微動だにしない巨大なゴーレムを見て、ちょっと残念そうにしている。やっぱり倒し方の美学みたいなのがあるんだろうか?
「今からでもぶった切る?」
莉奈さんが笑顔で提案してくる。本当に壊す気だったんだ……莉奈さんの元カレって、どれほど恨み買ってたんだろう。いやそんなことより、まさか、ゴーレムの足が切れたら、俺の腕みたいに……
結合可能アイテム【ゴーレムの足】
とかって、アラートが鳴ったりしないよな? いやさすがに、それはないよな。でも試してみないと分からない。俺が怖いもの見たたさで莉奈さんにお願いしますと言いかけたときだった。
「止めるのじゃっ!!!」
ゴーレムが喋ったにしては、おかしな声が響いた。
俺たち四人はキョロキョロと辺りを見回しても、声の主らしき人物は見当たらない。だが、ゆっくりとゴーレムの胸元があの白いロボットのように開いた。
俺たち四人にピーンッと張り詰めた緊張感が走る。俺も白樺さんもランチャーにガンドを装填し、莉奈さんもマリエルも身構えていた。
ハッチのようなところから何がふらふらと這い出てくる。ゴーレムの腹部に身体全部が出たかと思ったら、バランスを崩してそのまま、二、三メートルの高さから子どもぐらい人が落下しようとしていた。
「危ないっ!」
俺は足が吊るんじゃないかというくらい全力疾走した。だけど、朝練やコボルトとの戦闘の疲れなんて吹き飛んだように走れる。
ボスッと上から落ちてきた人をしっかり腕に抱いたが勢いが強く、そのまま受け取った人とともに倒れてしまう。
「痛てて……」
俺たちを襲ってきた魔物に乗ってた人を助けるなんてお人好しにもほどがあるのかもしれない。だけどあのまま落下していたら、大怪我してたのは間違いないだろう。
しかし、どうしてこうなった?
倒れた俺の口元には幼女とおぼしき女の子の股間が当たっていた。もちろん、布越しだが……
「なななっ!? この無礼な奴はなんなのじゃ!」
俺の口元で暴れるので始末に困る。
「助けた人にその言いぐさはなんなんですか!」
マリエルが幼女の態度の悪さに怒った。いつも優しい彼女だが、理不尽に対しては、しっかり憤りを感じて行動できる。俺はそんな彼女を素晴らしいと思っていた。
幼女は、すくっと俺の胸から立ち上がると黒い
「痴れ者どもに直々におしえてやろう!
「頭が高いも何もリリスと名乗ったおまえの背が低いだけじゃん」
「なっ!?」
俺の言葉に驚いた幼女。
俺は普段、相手に敬意というものを持って接しようと考えている。だが、それは相手がこちらにも同じように抱いている場合のみ。
ユリエルには腹立たしいが、あのまま噴煙と噴石……果ては火砕流まで発生するなかに置かれたら、死んでただろう。それに……隣にいてくれるかわいいマリエルを見て思った。無能もたまには役に立つ。
幼女は、はっきり告げた言葉が腹に据えかねたのか、一丁前に地団駄を踏んでいた。俺たちの目の前に姿を現したのはローティーンより下のやたら尊大な女の子だった。しかし、どう見ても人間とは思えない。
頭には山羊のような角が生え、髪は紫、服装はバニースーツにスカートっぽい布を張りつけた妙な出で立ちだったし。
「マリエル、この子知ってる?」
「いえ、全然」
諸外国の王族にも詳しそうなマリエルに訊ねても、首を横に振って、誰なのかしら? みたいに訝しんでいた。
「なんじゃと!? 妾を知らぬだと……馬鹿な……」
うなだれる彼女に俺は追い打ちをかけるつもりはなかったが、安全保障上訊ねておかねばならないことを問いただす。
「つか、おまえ人間じゃないよな?」
「ちっ、ちがうぞい。妾は人間なのだ」
「人間は角なんて生やしてねえよ」
「これはアクセサリーなのじゃ」
「お~、かわいいティアラだな」
俺が誉めると、にぱーっと笑顔になるくそガキ。
「おっ、そなたも分かるか、妾のかわいさが!」
「んなわけあるかっ!」
そんな見え透いた嘘を俺が真に受けたとでも? 幼女相手に大人気ないと思いつつも、しっかり大人というものを分からせる。そんな俺たちを見つめていたマリエルが口を開いた。
「なんだか、昔の魔族のように人間と融和していたのを思い出してしまいます。今、なんと言ったらよいのでしょう? とにかく、好戦的でこんな風に穏やかに会話もできません」
なるほど、そうだったのか……
「あのさ、お父さん、お母さんに断りなく、変なおもちゃで遊んだら、ダメって言われてなかった? 子どもは早く家に帰って、家で遊んでなよ」
「うぬ~、うぬ~! どこまで妾を愚弄する気かっ! こう見えても百歳は越えておるわ」
腰に手を当て、偉そうに胸を張る。いちいち、一挙手一投足が癪に触る奴だな!
「その割には子どもっぽいよな。とくに胸とか」
「おぬしこそ、他の者はそこはかとなく強者感が漂っておるというのに……クソザコ臭がぷんぷんしてくるのはどういうことなのじゃ?」
くっくっくっと口に手を当て目を細め、俺をあざ笑う。確かに俺は弱い! だが、恩着せがましい真似はしたくないが、こいつは絶対に分からす!
「妾もあと百年もすれば、おぬし好みのボインボインのビッチになっておるがのう」
「いや、ビッチは好みじゃねえし、それに百年後は死んでるな」
「なっ!? 人間とは儚いのう……とくにおまえ」
腕組みして、うんうんとうなったあと、ビッと人差し指を俺に向ける。
「そうなんだよ、人の命は儚く短いんだよ、ってうるせーっ」
あまりにもリリスがああ言えばこう言い返してきて煽るので、俺は業を煮やしてしまう。
そんなときだ。
突然、ビューッと強い風が吹いてきて……
――――ひゃんっ!
と、魔族らしからぬ、かわいらしい声が上がる。突風ですかすかのバニースーツの胸元がぺろんとめくれたのだ。負けてる……小学生の頃のXXに完敗。山じゃなく丘にすら届かない。
露わになった洗濯板を慌てて隠す、メスガキ。
白樺さんとゴーレムの検分をしていた莉奈さんがにたりと悪そうに微笑んだ。俺を見かねてざまぁ風を吹かせくれたらしい。
「ゆるさん……ゆるさん……ゆるさんぞ!」
「不可抗力だ、許せ」
俺たちが同レベルの仕様もない喧嘩をしているとマリエルが重い口を開いた。
「魔族ということでしたら、
「「えっ!?」」
彼女の口から出た勧善懲悪委員会って、一体。いや、それもあるがリリス……こいつは本当に何者なんだろうか?
* * *
――――二組の教室。
「なんか変なの出てきたな……」
「ああ……」
俺は香月さんがお花を摘みに行くときを見計らい、花山に小声で耳打ちした。
「実はさ、俺……リリスを孕ました」
「なっ!? んだと……」
花山は立ち上がると俺の胸ぐらをいきなり掴んで椅子から引き上げた。
「なんだよ! いきなり。苦しいだろ」
「済まん! ちょっと興奮し過ぎちまった。マリエルさんじゃなくてか?」
「ああ、俺もあんなことになるなんて思わなかった」
今度は花山が俺に耳打ちしてくる。
「吉乃には内緒だ。あとで二人でファミレスで話そう」
「えっ!?」
「なんでも好きなドリンクバー奢ってやるから」
安っ……
しかも選ぶもくそも、どれ飲んでも、どんだけ飲んでも値段変わらねえから。なんだか、俺たちをずっと見つめてくる視線のようなものを感じたが……気のせいだろうか?
かくして、俺と花山は帰宅後、ファミレスに集合していた。
―――――――――あとがき――――――――――
新作書きました。
【勇者学院の没落令嬢を性欲処理メイドとして飼い、最期にざまぁされる悪役御曹司に俺は転生した。普通に接したら、彼女が毎日逆夜這いに来て困る……。】
https://kakuyomu.jp/works/16817330665423914887
石鹸枠の悪役に転生したラブコメです。寝取られで脳死してしまった読者さまを癒せるかと思います。よかったら見てくださ~い。
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