第18話 固有スキル
俺は
『お天気お姉さんの夜のあそこはずぶ濡れ予報』といういけない動画をこっそり見てしまって、その出だしが今と同じだったのだ。
俺にはマリエルが……違う、XXがいる。
たとえ、お誘いがあっても絶対に断らないとならない。
「どうする? 私の部屋に来ない?」
「お、お話しだけなら……」
断れなかった……
「かっわいい~! 最近の高校生って、もっと擦れてるかと思ったけど、素直でいいわ」
なんだか小学生みたいに頭を撫でられてる俺。お姉さんの服装はきれいに洗濯はされているがこっちに来たときのままなのか、異世界の服装じゃない。
ニットセーターの縦のラインが胸元の膨らみをボリューミーであると強調する……それに加え、フレアスカートから覗く生足に俺の理性が地震予報を出てしまう。
お姉さんのあとについて、部屋に行くとイケメン騎士たちが執事みたいな格好をさせられて侍っていた。いやいや、期待なんてしてないよ! 俺みたいな豚野郎がお姉さんと何かあるわけがない。妄想が過ぎた。
異世界恋愛に出てきそうな王子さまっぽい雰囲気の執事が俺たちにコーヒーのような飲み物を出してくれたので、会釈してもらう。
すすっていると、柏木さんが眉尻を下げた困り顔で訊ねてきた。テーブルに両肘をついて、ずいっと俺に迫るように。Vネックの襟から覗く谷間の迫力にコーヒーを唾液と一緒に
「桐島要くんだったけ? キミ……オタクだったの? こういう世界に詳しい?」
俺の容貌から察したのだろうか? 彼女の予想通りで俺はオタクだ。様々な異世界に詳しい。ラノベの中だけど……
「まあ、俺の知ってる範囲なら……」
「私さ、あのいけ好かない女にどうも訊く気になれなくってさ、困ってたんだよね~。助かるぅ」
おそらく意図的に女の武器を俺みたいなガキにも否応なく使ってくる。そんなことされなくても、ちゃんと答えるのに。俺は柏木さんに一通り、分かる範囲のことを説明させてもらった。すると……
「ステータスオープン! で、良かったんだよね?」
「はい」
柏木さんが唱えると中空に浮かぶステータス画面。俺にはなかったスロットとストレージという欄があった。
―――――――――――――――――――――――
柏木 莉奈【人間】
性質:
スキル(STD)
スロット:5
ストレージ:20
―――――――――――――――――――――――
まだ、スキルの欄は何も身に付けてないから、書いてないみたいだったけど。
「なんだろう、この【天変地異】って? そのまんまなのかなぁ? もしかして、天候が操れるとか? だったら、元の世界にいたときに使えれば、あんなことに巻き込まれなかったかもしれないのにね……」
はあ……と深いため息が漏れ、頬杖をついてしまう。異世界を知らない人にとっては享楽的に過ごしていても右も左も分からない場所はストレスフルなのかもしれない。
「かもしれません……」
俺は彼女に合わせて頷いた。
「そうだ! 使ってみていい? ちょっと付き合って」
「あ、はい。って、今ここで!?」
「うん!」
いきなり王宮内でヤバめな感じの固有スキルなのにぶっ放そうとするので適切な場所を騎士たちに訊ねた。王都の西へ行くと荒れ地があるとのことで移動して、試すことになった。
俺と騎士たちが見守るなか、楽しそうにする柏木さん。
「地震、雷、火事、親父みたいなもんよね~! 私はパパなんて恐くないけど、ふふっ」
まったく気負うとこなく、とてもお天気、のん気な感じだった。パパって、パパ活のパパじゃないと思いたい……
「いっくよぉ!!!」
【天変地異】(天刻)
騎士たちに頼んで用意してもらった杖を高くかざした柏木さん。フード付きのマントをまとったコスプレ美女感の強い格好していたので、勇者というより魔法使いっぽい。
俺が固有スキルから予想して彼女に伝えたら、そのままコスプレしてしまったようなもの。そんなことを考えていると柏木さんを中心に雲が集まってきて……
「や~ん! ぬ、濡れちゃうぅぅ……」
真っ暗になったかと思うとポツリ、ポツリと水滴が頬に当たったかと思うと、一気に大粒に変わって土砂降りになってしまった。
彼女のフードはおろか服まで雨が浸透して、髪も服もぴたりと肌に張り付き、水も滴るいい女みたいになってる……
なにか、とってもえっちだ。
お姉さんにドキドキしてしまう俺だったが、雨に濡れながらも辺りを見回すと二、三百メートル先くらいは雲一つなく晴れていて、ここだけ降っていた。
確かに『あそこだけずぶ濡れ』だな……
たまに莉奈お姉さんが台風レポートで悪戦苦闘してる姿を俺は思い出してしまった。頑張れ! お天気お姉さん!!!
「桐島く~ん、なにか、【稲妻が使えます】って通知が来てるんだけど、どうしよう?」
「使いましょう! って!?」
ピカッと暗雲の間に閃光が見えたかと思ったら、俺の目の前に凄まじい轟音とともに七支刀のように光の筋が分岐した稲妻が落ちた。
「ひぃぃーーーっ!!!」
俺は腰を抜かして、尻餅をついてしまう。まるでお姉さんをえっちな目で見てしまった天罰かのように……
ただ全然知識はないけど、無自覚で馬鹿げた魔法力を秘めたような柏木さんに振り回されながらも、彼女の固有スキルについて知れてよかった。
さすがに国中を雨にさせるような力ないようだけど、局地的に地震を起こして大地を
素人考察になるが、白樺さんと組んで共同戦線を張れば、モンスターたちにそう易々と負けないだろう。一通り柏木さんの固有スキルについて見させてもらい俺なりの考察を述べた。
――――莉奈の部屋。
「私って、なんていうのかな? 機械とか、パソコンとか苦手で、スマホがやっと使える感じなんだよね。ホントお姉さん、キミみたいに詳しい子がいてくれて助かったよ」
部屋に戻ってきて、くつろぎながら、談笑していると一人の執事風の騎士が柏木さんの耳元で口添えした。
「ごめんね、彼女さんが嫉妬しちゃったみたい。悪いことしちゃったかな?」
彼女? 誰のことだ?
「あ、いえ」
こちらにはXXはいないのに、なんて思ってると執事と一緒にこちらに向かってきた。
「マリエル!?」
「要さま……」
マリエルが待っていたようで……いつもと違い、どことなしか不機嫌で頬を膨らませているような気がした。
「もしかして、マリエル。嫉妬している?」
「はい! 要さまがいくら勇者とはいえ、柏木さまに鼻の下を伸ばしてるなんて、悲しいです。要さまは私の……」
うるるっと、ちょっと涙目になったマリエルを柏木さんは見逃さず、声をかけた。
「マリエル、私はあなたから彼を取る気なんてないからね。心配させちゃったみたいでごめんなさい。でも若いって本当にいいわ~っ! 私にも……」
そう言いかけて、彼女は何かを言いつぐんだ。
「あ~っ、こっちに来てせいせいする! あのク
なにか元いた世界の愚痴をこぼしてる間に俺はマリエルに謝罪していた。
「ごめん……次にここに来るときは、マリエルも一緒だからね」
「はいっ!」
満面の笑みを浮かべながら、元気良く返事してくれた。誤解から機嫌を損ねてしまってたみたいだけど、解けたことで気持ちよさそうに鼻歌を口ずさんでる。マリエルを見てるだけで俺まで元気になっていた。
「そうそう、柏木さんってのは他人行儀だから、莉奈でいいよ。テレビでも莉奈お姉さんなんて呼ばれてたから」
「分かりました、じゃあお言葉に甘えさしてもらって……莉奈さん」
「う~んっ、いいっ!」
すごく嬉しそうにしてくれてた。しかし、転移初日とはすごい変わりようでびっくりするばかりだ。莉奈さんに挨拶を済ませ、もう一人の勇者である
マリエルが答えてくれた。
「えっ、出て行った?」
「はい……大嶽さまは修業できる場所はないかとお訊ねになり、数名の従者を連れてダンジョンへ潜られたようです」
そうか……
せっかく、交流が持てればって思ってたんだけど……それじゃ仕方ない。俺たちが楽しく談笑し終え、部屋を出ようと立ち上がったときだった。ドアの向こうが騒がしい。
「お待ちください! 勝手に入られては困ります」
「勇者さまを取り押さえろ!」
「邪魔すんじゃねえよ!」
ドアが乱暴に開いたかと思うと、騎士たちが吹っ飛んで倒れながらも莉奈さんに謝罪していた。
「申し訳ございません、船橋さまが無理やり……」
「たり~い、なんでどいつもこいつも楽して、戦おうとしねえんだ? スキルなんざ、すぐに覚えられるだろ?」
まるで俺たちの会話を盗み聞きしてたのかのよう。
「あなたね、常識というものがないの? せめて、ノックして入るくらいしなさいよ」
「あいにく、育ちが悪いもんで、な!」
船橋さんが踊り子のような薄着の二人の女の子の肩を抱きながら、現れた。まるでどこかのマフィアみたいな感じで……莉奈さんの話など取り合わずに自己主張を始めた。
「おまえら、見てみろ! これが俺のステータスだっ!」
―――――――――――――――――――――――
船橋 浩平【人間】
性質:
スキル(STD)
スロット:5
ストレージ:10
九字鬼火 黒曜剣
―――――――――――――――――――――――
な!?
俺は船橋さんのステータスを見て、驚いてしまう。なんでストレージに六つもスキルが記載されてるんだ?
「どうだ! 恐れいったか? 柏木莉奈、俺の女になるなら今の内だぞ、こいつらみたいにたっぷりかわいがってやるからなぁ~」
舌なめずりしながら、連れてきた女の子たちのお尻を撫でる。顔を赤くした彼女たちだったがまんざらでもなさそうだった。
でも、莉奈さんはため息をついて、ただただ船橋さんに呆れてた。
そんなことよりもスキルだ。
マリエルによると習得にはそれなりの時間がかかり、たとえ修練や学習しても才能がないと覚えられるものじゃないらしいのに。
「ああん? そうか、そうか、不思議に思ったか? なら、勇者同士のよしみって奴だ。特別に教えてやろう!」
「別にいいわよ。そんなの」
「まあ、聞けよ。俺はなぁーーーっ」
船橋さんは自慢げに話し始めたが、俺にはすでに察しがついていた。そう今まで見たスキルを会得できるらしいってことを。
「あほくさ。こんな奴相手にしてないで、行こっ要くん」
「えっ!? えっ!? あ、はい……」
柏木さんは船橋さんが話し終わる前に俺と腕を組むと来た道を引き返していた。
「あっ、ダメです、柏木さまっ! 要さまは私の……」
「じゃ、マリエルちゃんもそっち組んじゃお!」
「えっ!? あ、はい」
期せずして、俺は船橋さんと同じように左右の腕を現実世界と異世界の美女二人に組んでもらって歩いていた。
いいのか? こんなの夢じゃねえよな?
後ろからドンッと音がしたので振り返ると壁を船橋さんが思いきり殴っている姿が見え、そして俺たちを眉根にしわを寄せ睨んでいた。
部屋を出て、庭園でお茶でも飲み直そうと歩いていると、窓から外の様子がうかがえる。
コモドオオトカゲを赤くしたような魔物を馬車の荷台に載せて、大嶽くんが戻ってきていた。城下の街は彼がレッドドラゴンを討伐したということで歓声に湧いている。
「ありがとう! 勇者さまーーっ!」
そんな歓声が響いてくるが、大嶽くんはまるで瞑想しているかのように反応がなかった。勇者ならこれくらいできて当然と言いたいのか、それともただ修業するためだったのか。
どちらにせよ、彼が実力者であることは間違いなさそうだ。あんな強そうなモンスターを倒してくるなんて……かたや、俺は雑魚なワーラビットすら倒せていない。
――――翌日。
俺は焦っていた。
他の勇者たちの実力を目の当たりにして、雑魚モンスター相手にすら苦戦する自分の不甲斐なさに。マリエルによると死線を潜ることにより、稀にスキルを獲得する者もいると聞いて、森に来ていた。
俺が対峙していたのは……
グラディウスを構えていたコボルト。手慣れた冒険者なら労せず倒せるような相手らしいが、俺にはかなり手ごわそうに思えた。
だが、白樺さんに鍛えてもらったし、今日は心強い武器もある! 負けるわけがないっ!
やった!!!
俺でもモンスターを倒せる。自信を高め、喜びに打ち振るえていたときだった。
バシュッ!
俺の目の前に細めの丸太のようなものが転がっている。
違うっ!
一緒に持ってたガンドグレネードも転がってた。起こったことが信じられなくて、確かめてみたら……
肘から先がばっさり無くなっている。断面なんて骨付きのハムみたいなのから、ただひたすら血が滴り、流れ落ちていた。
「うわあああああーーーーーーっ!!!」
痛みも酷いが腕が無くなったという事実が怖くて、叫び声をあげて身体が震え上がる。俺の右手を飛ばしたコボルトはギギギッと声をあげて小躍りしながら、あざ笑っているようだった。
「お、俺の腕がぁぁぁーーっ」
くそっ! くそっ! くそっ!
油断した! 悔恨の思いばかり浮かんでくるが、こいつだけは倒す! 痛みよりも俺の腕を飛ばした雑魚モンスターに怒りがこみ上げ、ガンドの詰まった小さな筒を弾帯から左手で取り、コボルトのどてっ腹に押し当てた。
閃光とともにガンドの詰まった筒がひしゃげたかと思ったら、魔法が展開。
ボフッとくぐもった音がしたかと思ったら、俺の腕を落としたコボルトの腹には大きな風穴が開いて、そのまま倒れた。
俺の腕を奪った相手を倒した疲労と安堵でへたりこんでしまう。激しく動いたわけでもないのにはぁ、はぁと息が切れてきてしまう。滴った血が水溜まりになっていたことにようやく気づいて、
止血しなきゃ……
そう思うだけで身体は何一つ動いていせない。
何の罰ゲームなんなだよ!
花山にいじられていたことなんて、児戯にしかならない。
こんなところで留まってちゃいけない。早く王宮に戻ってマリエルに治療してもらわないと……だが怒りが収まると冷静になって、彼女の言葉を思い出してしまう。
『たとえ神の
あああ……
ただでさえ、無能なのにこれから片腕でこのハードモードの異世界で生き抜いていかないとならないなんて……
「うおおおぉぉぉぉぉーーーっ」
あまりの悲しみに叫びにも似た
絶望的状況にもう諦めようとしてしまった。
XX、マリエル。
俺はもうダメかもしれない。希望が見いだせない悲観的な状況に大の字に倒れた。そのとき中空が赤く光った。
なんなんだ!?
何かのアラートみたいに赤い光が点滅して止まらない。もしかと思い、ステータスを開いたら……
―――――――――――――――――――――――
【
―――――――――――――――――――――――
なんて表示されてる。
むくっと身体を起こして、千切れた俺の腕を見ると蛍光色の文字で、
結合可能アイテム【桐島要の腕】
と出てた……
俺の腕がアイテム? 結合可能? 意味がまったく分からない! もしかして、俺の腕が元に戻るってのか? そう思ったときだった。ステータスには、
【結合しますか?】
はい ←
いいえ
と選択を迫る文言が……そんな選択、考えるまでもない。最初から決まってる!
―――――――――あとがき――――――――――
新作書きました。
【勇者学院の没落令嬢を性欲処理メイドとして飼い、最期にざまぁされる悪役御曹司に俺は転生した。普通に接したら、彼女が毎日逆夜這いに来て困る……。】
https://kakuyomu.jp/works/16817330665423914887
石鹸枠の悪役に転生したラブコメです。寝取られで脳死してしまった読者さまを癒せるかと思います。よかったら見てくださ~い。
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