第14話 ストーカー

――――教室。


「だあっ! なんだよ、あそこで桐島の固有ユニークスキルが開花して、ユリエルごとまとめて無双するんじゃねえのかよ……」


 花山の嘆息に他の級友たちも合わせて、残念そうな表情を浮かべていた。一応、ユリエルは敵じゃないぞ、腹は立つけど。


 男子とは別に不満そうな顔をしている女の子がいる。ぷるぷると震え、今にも爆発寸前。


「うるさい! 要がせっかく話してくれたのに……嫌なら帰れ!」


 香月さんはそんな男子たちの態度に怒っていたが、まだ昼休みなのでこいつらも帰るに帰れないだろう……



 昼休みの終わりを告げるチャイムがなってしまったので放課後、話を再開しようと思ったのだが、人数が増えていた。


「やっほーっ! 雅、来てやったぞ」

「おおっ、夏穂かほ座れよ」


 今まではほとんどが男子で香月さんが紅一点みたいだったのだが、花山とやけに親しそうに話す、程よく日に焼けて、小麦色の肌とショートカットの似合ういかにも健康優良美少女が現れた。


「ちっ、リア充爆発しろよ」

「しね~わ! おまえらも早く彼女作れ」

「「「「うっせ~! できたら作ってる」」」」


「えっと? 確か三組の西野さんだったかな?」

「おっ、知ってるんだ。うれしいなぁ~。それにしても桐野くん、痩せてスゴいイケメンになってるね~!」


 スカートが短く、ふくらはぎまでの靴下で健康的な生足をこれでもかと見せつける人懐っこそうな美少女が俺の肩をバンバン叩くのだが、どうも情報が間違っている。


「俺、桐島なんだけど……」

「ごめん、ごめん、桐原くん」

「こいつ、俺以上に馬鹿だけど、かわいいんだよ。許してやってくれ」


 ね~っ、と二人で笑顔になり頭を傾けて、仲の良いことを周りにアピールしたのだが……

 

「「「「花山、許すまじ! 桐島に……彼女、寝取らちまえ」」」」


 怨念とも、呪詛とも、とれる言葉を花山に対して男子たちは瘴気を漂わせながら、吐いていた。いやいや、俺は人の彼女なんて寝取る気なんてさらさらないからな!


「ん~、桐山くんなら良いかも」

「「なっ!?」」


 俺と花山は西野さんのヤバすぎる発言に互いに顔を見合わせ驚く。そして、花山は全身虚脱したかのように力なく、涙目で西野さんにすがりついていた。


「か……夏穂ぉぉ……冗談だよなぁ……」

「うん、冗談、冗談」


 そんな花山たちに呆れていると香月さんは、俺の肩をつんつんして教えてくれた。


「夏穂、馬鹿だけどいい子」


 ストレートすぎる……


 大丈夫だよな、貞操面とか、貞操面とか。せっかく花山とちゃんと話ができるようになったんだ。壊したくない、この関係。


 西野さんが花山の頭を撫でていると機嫌を直したのか、すっかり立ち直っていた。


「ところでよ、白樺さんはTUEEEけど、桐島はそれより強くなれたのかよ?」


「異世界に行ったからって、しばらくの間カーストが逆転するなんてことなかったよ。マリエルからは勇者って呼ばれてたけど、全然強くなれなくていつも死にそうになってた」


 俺は召喚された勇者たちの顛末をざっくりだがみんなに告げていた。だけど、それを目の当たりにしていない彼らには深刻には受け止められていない。


 やっぱり人が直接、死ぬってことを見ないと実感なんて湧かないよな。俺は異世界じゃ、辛くて受け止められなくて、白樺さんたちが力尽きたときの記憶をデリートしていたから……


「じゃあ、なんで他の勇者はみんな死んでおまえだけ、生き残って帰ってこれたんだ?」


「それは俺の固有ユニークスキルのお陰だよ」

「固有スキル? 【幻肢痛ファントム・ペイン】つう中二病全開なネーミングだったか?」

「ああ」


 意外とちゃんと覚えてる……


「その【幻肢痛】と帰ってこれた理由ってなんなんだよ。もったいぶんねえで早く話してくれよ」

「ちょっと説明が必要なんだけど、RPGなんかで敵に回復役ヒーラーが居たりしたら、花山も真っ先に攻撃するよな?」


「たりめーっだ! それがセオリーだろうよ」

「そうなんだ、送られた異世界も真っ先に回復術士が集中的に攻撃されて、全力で護っても殺されて、俺たちは回復手段が限られてしまった」


「あ~! なるほど、それで桐島が固有スキルの秘められたら力で回復術ヒールとか、自動回復オートヒールみてえなことができたんだな」

「ううん、それだと良かったんたけど……」

「違うのか? なんか顔色悪いぞ、大丈夫か?」


 俺は話そうか、話すまいか迷った。だけど花山たちは、案外真剣に聞いてくれているし、正直に、ありのままに起こったことを話そうとした。



 * * *



――――王宮。


 俺は白樺さんにピンチを救ってもらい、持ち部屋へと案内されていた。


 すげ~っ!


 アダルティな雰囲気をちらっと覗き見しただけだったから、分からなかったが俺とは待遇がまったく違った。


 一言で言えば、豚小屋とホテルのスイート。だけど、雑魚モンスターすら自力で倒せなかったんだ。こんなんじゃ、ユリエルに文句を言ったところで実力を付けろと返されてしまうだろう。


 白樺さんは一人掛けのソファーに座ると接客女中パーラーメイドが何も言わずに飲み物を運んでくる。俺とマリエルは三人掛けのソファーに並んで座った。


 さっき負傷した利き腕で用意された紅茶っぽい飲み物のカップ手に取りすする。


 うまい!


 マリエルの回復ヒールによって俺の腕はすっかり元通りになっている。一体、彼女のどこが無能なのか、分からなくなった。


「あのうさぎの魔物だけど、マリエルだけを狙ったように見えたけど……」


 俺は疑問に湧いたことを訊ねると……


「お姉さまは狂暴化と申しておりましたが、私の見立てでは違います。より理知的と申しましょうか……優先順位をつけて襲いかかってくるようになったのです」


「単純に無差別に暴れられのも厄介だが、統率を取って攻め込まれるのはもっと厄介だな……以前は?」


「はい、魔族の住まう魔界に瘴気が満ち溢れた頃から、次第に彼らが、魔物がおかしくなっていったのです。以前は知能の高い魔族とは良好とは言えないものの、人間と全面的に衝突することなどなかったのです」


 それで対処に困って、俺たちを喚んだってわけか……


 優先度で言ったら、マリエルよりユリエルが優先される……白樺さんたちはユリエルの警護に着くはず。だったら、マリエルを守るのは、


 俺しかいない!


「白樺さん、お願いします。俺を鍛えてください! 俺しかマリエルを守れる人間がいないんです」

「鍛えるのはやぶさかじゃない。だけど、俺もここのことがよく分からない。一緒にトレーニングしようじゃないか!」


「はい、ありがとうございます」

「良かったですね、要さま!」


 俺と白樺さんが握手して、マリエルが笑顔になったところで、



 バーン!!!



 と立派なドアが乱暴に開け放たれ、黒いビキニアーマーっぽい危ない格好をした女性が触れるものすべてを壊そうとする勢いで入ってくる。


 すると白樺さんに向かって、身につけた鉄甲を投げつけきた。


 危ねっ!


 白樺さんはさっと躱すが奥の机がへこんでしまっている。


憲治のりはる! この私の受けた屈辱……晴らさでおくべきかっ! 決闘を申し渡す」

 

 あれっ? この人、白樺さんにあの夜、迫ってた人じゃないか? 二人の間に一体、何があったんだよ!



 * * *



 カツ、カツ、カツッ!


 決闘の話をしようとしていると廊下を踏み鳴らす、大きな足音が迫ってくる。二組の教室の窓から熊のような大柄な男が覗いていた。


「やべっ! 生指の権藤じゃねえか!?」

「花山、先生をつけろ、先生を! って、またおまえらか……って、増えてるよな?」

「済んませ~ん。すぐ下校しますんで。おら、おまえら、ずらかっぞ」


 なんだかんだ花山に文句を言いつつも仲の良い級友たちは花山の呼びかけに応じて、撤収準備をすぐさま済ませ、俺の話を聞きにきた全員で権藤先生に一礼して、教室をあとにした。


「おっ、おまえら、なにしてたのか、言って帰れよ。俺にも教えろって」

「「「「もう、遅いんで帰りま~す」」」」


 統率の取れた俺たちに呆気に取られる先生。先生を横目に下校する俺たち。


 花山と西野さんは寄り道して帰るらしく、俺は香月さんと一緒に帰っていたのだが、その途中だった。


「要、用事があるの。今日はここでお別れ。お話し楽しかった」

「あ、うん、あんなもので良ければ……って……」


 別れ際、不意にハグしてくる香月さん。いやこれ、誰かに見られたらどうすんだよ……辺りをキョロキョロと見回し、挙動不審になった俺の心なんてお構いなしのマイペースな彼女。


 花山いわく、基本男には塩対応だが、懐かれると猫みたいに甘えてくる。なんてこと言ってたけど。親しいあいつが言うんだから間違いないと思い、香月さんの頭を撫でてあげると、



「ふぁっ!?」



 いつも低いトーンの口調なのにそれこそ、猫が驚いて鳴いたような声をあげると鞄を胸に抱えて、逃げるように去っていってしまった。


 しまった!


 余計なこと、してしまったのかもしれない。明日、彼女に謝らないと。そうだよな、彼氏でもない奴が髪に触れたり、頭撫でたりしたらダメだよな。俺と香月さんの身長差がちょうど彼女の頭を撫でやすい位置だったから……ついやってしまった。



 女の子との距離感の測り方って本当に難しいと頭を掻きながら、帰宅していると俺の家の玄関で待ち伏せされていた。


「なんで要ちゃんはあんな泥棒猫は撫でるくせに私を見てくれないの? 絶対におかしい。私はちゃんと山崎くんと別れて、要ちゃんとやり直そうとしてるんだよ。ねえ、お願い……意地悪しないで」


「意地悪もなにも俺はキミなんて知らないから。それに香月さんとは付き合っていないけど、それを勘違いして手をあげるなんて、最低な女の子、俺は知らない」


 拳をぎゅっと握りしめ、口を結んで歯がゆそうな表情を浮かべたメンヘラな女の子……


「思い出させてあげる」


 何かを決意したかのように俺に歩み寄ってきて、目をつむり俺の口元に彼女の唇を近づけてくる。


「なにするんだよっ!」


 俺は強く彼女の両肩を掴んで、距離を取った。


「どうして? とうして、そんなに私を避けるの? 分からない……分からないよ。もう、要ちゃんは本当に私のこと忘れちゃったの?」


 異世界でのトラウマから、彼女の口づけを全力で拒絶した。ただでさえ、記憶にまったくない女の子からのただならぬ好意に強い恐怖と嫌悪を覚える。


 思い出すだけでもはばかられる現魔王との口づけ……


 香月さんの頬へのキスは不覚を取ったがあのとき以来、安易に唇への口づけはしてはならないと悟った。もちろん、人間ならあんなことが起こるはずないだろうけど。



 俺が彼女を押しのけたことで、何かしらのスイッチが入ってしまったようで……


 パサッ、パサッ!


 ブレザー、ベストを芝生に投げ捨てるように脱ぎ始めた。


「なにやってるんだよ! 頭おかしいのかっ!」


 とうとう、パンティに手をかけ、片足を上げて制服の上に放り投げて、全裸になってしまっている。


「要ちゃん! 見て! 私の身体、ちゃんと処女なんだよ。要ちゃんのために取っておいたんだから! 誰にも許してない綺麗なまんま……だから、お願い……お願いだから、思い出してよ。また、昔みたいに優しく髪を撫でて……」


 あまりの変態ぶりに俺は恐ろしくなって、腕を掴まれながらも鍵を開けて、急いで家の中に入りドアアームで施錠した。隙間から「要ちゃ~ん」と呼びかけながらガンガン手を差し入れきて、マジでヤバい。


「もしもし、警察ですか? 俺の家の前に全裸になってる怪しい女の子がいるんです! すぐに来てもらえますか?」


 新品になったスマホを使い、慌てて警察へと通報する。名前と住所等を伝えるとほどなくして、一台のパトカーが訪れた。


 部屋の窓から覗いていると彼女は毛布をかぶせられ、車内へと連れていかれる。一人が彼女から事情を聞いて、もう一人が俺や騒ぎを聞きつけた近所の人たちに事情を訊ねていた。聴き終わると彼らは全裸になったメンヘラ女の子を連れて、去っていった。


―――――――――あとがき――――――――――

新作書きました。

【勇者学院の没落令嬢を性欲処理メイドとして飼い、最期にざまぁされる悪役御曹司に俺は転生した。普通に接したら、彼女が毎日逆夜這いに来て困る……。】

石鹸枠の悪役に転生したラブコメです。


https://kakuyomu.jp/works/16817330665423914887


よかったら見てくださ~い。

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