第3話 謝罪
――――翌朝。
ふぁぁぁーーーっ。良く寝れた!
「なっ!?」
俺が目を覚ますとベッドの傍らに正座している女の子がいた。セミロングでカッパー系と明るめの髪色、耳にピアスをしていて、目鼻立ちはそこそこ良くて男子が十人いたら七人くらいはかわいいと判断すると踏んだ。
勝手な俺基準のちょいギャル七割美少女は……
「お願い……許して。山崎くんとは寂しくて、つい心を許してしまっただけなの……本当に好きなのは要ちゃんだけだから」
眠い眼をこする俺に必死に訴えているんだが、何のことだか良く覚えていない。派手さの割になんか完全には垢抜けてない感じ。あれか? 高校デビューしたけど馴染んでないとか。
俺が上半身を起こし、布団をかぶったまま女の子の方を向いて誰なのか思い出そうとするんだが思い当たる節の子がいないんだよなぁ。
そもそも俺に女っ気なんてないはず。
だけど、彼女が話す人物のことは知ってる。山崎って、フルネームは山崎祐介。確か……医者の息子かなんかで、結構イケメンだったよな。
親の脛かじって、やりたい放題のヤリチンとか噂もあったが、表向きは俺みたいな陰キャにもキチンと挨拶くれて人当たりが良かったことを憶えてる。まあ、点数稼ぎだったのかもな。
「山崎くんから要ちゃんは『あいつはもう死んだんだ。現実を受け止めろよ』って言われて……それに要ちゃんのお父さん、お母さんもお墓を作っちゃってそれを見たら、もう気持ちが折れて待ち続けられなくなってしまったの……本当にごめんなさい」
待て待て、勝手に人を殺すなよ……それにしても、
――――要ちゃん……
なんて呼んでくるが俺はこの子と親しかったのか? だけど、まったく誰なんだか分かんねえ。話し終わるとそのまま土下座し始めた。何なんだ、この女の子……
話を聞いていると、まるで俺がこの女の子と付き合ってたみたい。それで彼女は浮気したと。
だけど、俺は彼女に関する記憶が全くない。
「許すも何もキミ……誰? なんで勝手に家に上がり込んでんのさ。それ、犯罪だって」
「要ちゃん……」
俺の言葉が分からなかったのか、ボロボロと大粒の涙を流し始めたんだが、わけの分からないことを朝っぱらから赤の他人に延々語られて、大泣きされてもただの迷惑でしかない。
「いや、泣かれても困るから。とりあえず、これ以上居座ったら警察に連絡入れる」
「そんな……そんな……演技してないで、ちゃんと答えて。要ちゃんに酷いことしたんだから叱って……」
自分の行いを悔いてるみたいなんだけど、俺に心当たりがないから、始末に困る。
本当に誰なんだ? 妙に馴れ馴れしいし、泣いて謝られても何のことだか分からない。そのとき俺にあることが脳裏に浮かんだ。
「ああ、分かった!」
「分かってくれたの?」
最近、ストレスやらなんかで病んでる子も多いみたいだし、きっとこの子もおかしくなったのかもしれないな。かわいそうに……
「キミ、精神が不安定な子でしょ。ちゃんと病院に行って、お薬もらわないとダメだからね」
「……もう帰る」
「良かった、ずっと居座られてて、困ってたから!」
すごすごと引き上げていく女の子。そういやウチの学校の制服着てたな……同級生か?
とりあえず、清々した。
寝間着のまま階段を下り、リビングにいるであろう母さんに抗議する声を上げた。
「母さん、勝手に他人を家にあげないでくれよ。ホント困るから!」
だけど、居ない。母さんとあの女の子が話してる声が聞こえてくる。
「ごめんなさいね。香織ちゃん……あの子、行方不明になってる間によっぽどショックなことがあったみたいで記憶が欠けてて、不安定なのよ……申し訳ないんだけど、そっとしててあげないかしら」
「はい……ご迷惑をお掛けしました」
母さんとさっきの女の子は玄関のドアを半開きにして話してたらしい。女の子が去ったあと、母親から本当に香織ちゃんを忘れてしまったの? とか言われたが知らねえもんは知らねえんだから、仕方ねえ。
――――学校。
両親は俺の失踪届を取り下げ、俺の戸籍は元に戻った。それと同時に死亡保険金の返還をしなくちゃいけないらしんだけど……俺の密葬とか、墓地、墓石の購入でそこそこ使っちまったらしい。
化粧して、ストライプのシャツにタイト目なスカート、そこに良さげな生地のカーディガンを羽織った授業参観のママなコーディネートの母さんが心配していた。
高校生にもなって保護者同伴で学校来るなんて、かなり恥ずかしい。ただでさえ、久し振りの登校なのに他の生徒がひそひそ話してるのが鬱陶しかった。
マジ、こっち見んなって!
だが、復学の手続きやらあるから、断るに断れなかった。いろいろ面倒な手続き済ませ、俺は晴れて復学することになった。
「じゃあ、帰るね。何かあったら、すぐに連絡入れるのよ」
「ああ、もう行方不明にならねえから」
バイトの申請も母さんにお願いしておいたので許可が下りたら、少しでも働いて墓代だけでも返したい。墓穴を掘るなんて言うけど、自分で墓代を払うはめになるなんてな。
陰キャで過ごしてた学校だけど、久しぶりに行くとなるとなんだか懐かしい。
しかし、悠長に懐かしんでる暇なんて、俺にはない。ガッと背後からラリアット気味に首に腕が当たり巻かれる。
「桐島! おまえ、どこ行ってたんだよ」
「あ、いや、ちょっと異世界に……」
ツーブロックの髪型に上部を金に染めた陽キャが絡んできて、そいつから目線を反らすようにして答えた。はっきり言って、いつもうざ絡みされて、嫌悪感しか感じない。
体育じゃ運動が不得意な俺が失敗するのをグループの男子どもと嘲笑していた。こいつはサッカー部で一年にも拘わらず、レギュラーになっており、クラスでもトップカーストの花山。
だが、以前と何か違っていた。
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