第14話 桜色のネイル
2015年の春。
花菜の息子瑛人は3歳になっていた。
(育児も少し楽になったきたし.....久々にネイルでもしようかな)
他に特に理由は無い。
100円ショップに立ち寄った時、桜柄や桜カラーのネイルが、ピンク色が好きな花菜の目に止まったのがきっかけではあるが。
この3年間、全くオシャレに縁がなく、島田に貢いでいた花菜からすれば100円のネイルが、ささやかな楽しみになるはずだった.....
ある日の夜中、子供を寝かしつけた後にそれは起こった。
島田は花菜からお金を受け取る際、花菜の桜色のネイルに気づいた。
「あれ?ネイルなんてしてたっけ?」
「そんなんです。100均で見つけたんですけど、100円とは思えないくらい可愛いですよね。」
「ふーん?なんで?」
「え.....たまたま100円ショップで見つけて.....可愛くて.....です。すいません。」
島田の雰囲気が一瞬で変わった事に花菜は気づいた。こういう時はひたすら謝るという事が花菜には染み付いてしまっていた。
「なんで謝るの?やましい事でもあるの?よく子供育てながらネイルなんてできるね?100円でそんなの売ってるわけないよね?」
「すいません.....最近は100円でも可愛いのが売ってて.....やましい事なんてないです....ごめんなさい。」
「だから何で謝るの?おどおどしやがって.....正直に男が出来たって言えよ!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
おどおどした態度と、ひたすら謝る花菜を見て、本当に浮気したと勘違いした島田だったが、急に人が変わったように優しくなった。
「花菜、怒ってないから手貸して、ネイルもう一回よく見せて。」
「.....はい。」
暴力や暴言の後、島田はいつも優しくなる。
今日はもう、殴られない.....花菜は内心ホッとしていた。
「可愛いね、よく似合ってる。今は100円でこんなの売ってるんだね。」
島田は花菜の人差し指を掴みながら言った。
「はい.....ありがとうございます。」
...........ベキッ!
突然、花菜の指から鈍い音がした。
「へ?」
花菜は一瞬何が起きたか分からなかった。
人差し指を、見ると指が見た事もない方向に折れ曲がっていた。
「痛い!痛い!何で!?何で!?」
余りの激痛に花菜の思考は止まり、全身から脂汗が吹き出す。
「うー、痛い...痛い...何で.....?」
花菜は部屋の隅に折れた人差し指を抑えながら背中をみせて丸まった。
「嘘付いても分かるんだよ!2度と他の男に色目なんて使うなよ?」
島田は指を抑える花菜を何度も蹴り続けた。
「もう、辞めて下さい.....瑛人連れて出て行きますから!」
「お前にそんな勇気ないだろ!」
「色々.....調べて、DVの慰謝料300万みたいです....結婚してなくても!」
「はあ?」
「私はもうどうなってもいいので.....会社にも
報告します!」
「あ?会社に言ったら殺すぞ!」
「どうぞ、殺して下さい!瑛人が見てますけど!子供の前で母親殺すの!?」
ハッとして島田が後ろを振り返ると、
いつのまにか寝室の扉が少し空いていた。
そこには二人の姿を怯えながら見つめる息子の瑛人の姿があった。
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