第10話 シングルマザー
浩哉は会社の会議を欠席して、公園のベンチにいた。
今の会社に入社して7年、会議を欠席するのは浩哉にとって初めての事だった。
17時、いつものように花菜から電話がかかって来る。
「もしもし、お疲れ様です。今どちらにいますか?」
「お疲れ様!いつもの公園にいるよ!」
「昨日はごめんなさい、突然変な話しになってしまって.....私の家の事情なんてどうでもいい話しですよね。」
「シングルマザーって話しね。
どうでもよくはないけど、話したくなければ無理に話さなくていいよ。」
「話したくないというか、あまり人に知られたくはないですね.....」
「そっか、知られたくないって事はあんまりいい話しではないんだろうね」
「恥ずかしいし、普通の事じゃないので
全然人に話した事ないんです。なので、チーフに、初めて言いました!」
「俺も実はバツイチだし、知り合いもシングルマザーだし全然普通だと思うけど。少なくとも恥ずかしいなんて事はないよ。」
「チーフ再婚だったんですね!私の場合はバツイチではなくてそもそも結婚した事もないので.....。」
「色々大変だったんだね。知られたくないなら、もちろん誰にも言わないよ。」
「もちろんです!特に他のパートさんには絶対言わないで下さいね!」
内心、浩哉はシングルマザーである事なんてどうでもよくて、むしろ誰にも話せなかった事を自分にだけ教えてくれた事が嬉しかった。
(むしろ結婚した事が無いのにシングルマザー、ってところが気になるんだけど.....)
花菜は穏やかで大人しいタイプの女性だったが、少し影がありミステリアスな雰囲気を醸し出していた。
シングルマザーである事、結婚歴が無い事、それ以外にも花菜には人には言えない過去がある事を浩哉は感じ取っていた。
「皆それぞれ色々あるのが当たり前だから、あんまり気にしなくて大丈夫だよ。いずれにせよ旦那じゃなくても今の彼氏に悪いし、長時間話すのは控えようね。」
「彼氏なんて.....今いないし。これからも絶対にできる事ないので。気にしないで大丈夫ですよ。」
「彼氏いないの?花菜みたいに素敵な人、俺が独身だったら絶対ほっとかないけど。これからも絶対できないって.....どういう事?」
浩哉は昨日に引き続き、冗談っぽく口説いた。
「!!本当やめて下さい!絶対出来ないっていうのは.....私男性不信なんで、そもそも男性に近づかないようにしてるので。」
「そっか、男性不信だったんだ.....そしたら本当は嫌だけど、頑張って俺と電話で話してくれてるってこと?」
「チーフと話すのは嫌じゃないですよ.....チーフは女性っぽいところもあるし、優しいので大丈夫なんだと思います。」
「なんで男性不信になったの?俺も色々あってあんまり男同士でいるのが得意じゃないんだよね。だから少しは気持ちが分かるかも。」
「そうなんですか?でも、これ以上色々知ったら、私の事絶対嫌いになりますから、話せないです。」
「そんなに簡単に嫌いになんてならないよ。あ!もしかして花菜、性転換手術受けた元男性.....とか?」
「.....私が男だったら嫌いになるんですか?」
「う〜ん、もし男だったら嫌いにはならないけど、もう電話もあんまりしなくていいかも、さっきもいったけど、俺も男の人苦手なんで。」
花菜からは中々返事がない。
「あれ?もしかして当たっちゃった?」
「残念ですけど、私はもとから女性です。子供も私のお腹から生まれた子供なんで。」
「そっか、ごめんごめん。そしたら嫌いにならないと思うよ。もし良ければ話してみない?」
「.....嫌いになりませんか?」
「大丈夫。」
「もし嫌われても、仕事辞めるだけなんで。
話すんで.....ちょっと心を落ち着かせていいですか?」
「分かった、ありがとう。ゆっくりでいいよ。」
花菜は大きく深呼吸したり、ため息をついたりし出した。
かなり落ち着かない様子なので浩哉は焦った。
「嫌だったら本当に無理に話さなくて大丈夫だよ?興味本意で聞いてごめんね.....」
「大丈夫です。落ち着きましたから。そしたら聞いてもらえますか?」
花菜は11年前、2011年の出来事をゆっくりと話し始めた。
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