闇ヲ喰ラウ・・・

@takeda44

第1話

 「うっ、ここはどこ?」両手足を縛られた少年はうっすらと意識を取り戻していく。

 広く薄暗い部屋の中はさっきまで居た妖精のショーが行われていたテントの中とは思えない空気を感じた。

 その中央に自分が倒れていることに気づくのにどれだけ時間を要しただろう。

 そして隣にも、いや、この部屋中のいたるところに人の居る気配が溢れていた。

 はっきりとは映らないが何か黒い物体がもがいている様子が伺えた。

 嗅覚に異変を感じたのはすぐの事だった。

 血なまぐさい。

 それに潮の香も混じっている。

「ここはどこなんだ?」少年は同じような事を口にした。

「ママッ、ママッ」そう叫んでも居そうな気配はしない。

 隣の子に語りかける。

「おいっ、起きて。お願い。おいっ、おいっ」

 なんども語りかけてはみるものの、反応はない。

 薄暗さのせいもあって逆方向を向いている隣の子の表情を窺えない。


 少年は横に転がって隣の子を乗り越え反対側に移動した。

衝撃だった。

 その子は女の子で目玉が無く顔に2つ穴が開いていた。

 そこには乾ききっていない血がこびりついている。

 少年は大声で叫んだのだろう。

 大きく開いた口を閉じることが出来ない。

 恐怖で涙も止まらない。

「なんで、なんで」声にならない言葉が頭の中を響き渡らせる。

 少年はその女の子を見ていられず反対側へと体を回した。

 そこにも自分より若そうな男の子が倒れている。

「おいっ、おいっ」少年は必死に語りかける。

 が、それは声になっていなかった。

 涙も鼻水もよだれすらもぬぐえない状況に少年は恐怖でしかなかった。

 凄いストレスを感じる環境、身体拘束、少年に理解を与えることは無かった。

 遠くのほうが突然光り大きな黒い影が映った、

その灯りで想像以上の人の数が床に寝転がってあるのを知った。

「あぐっ、あぐっ」

 少年は心の中で助かった。

 そう思えたのは一瞬だったことを悟った。

 髪がゴワゴワでひげを蓄えた太った体の顔を見上げた少年はどう見ても助けに来た人とは思えない事を察知したのだ。

 再び涙が溢れだし、少年は左目に何か刺されたのを最後に意識を失った。


【遊園地】 

 今日はママと一緒に遊園地に行く。

 夢から飛び起きたスナイキーはキッチンに向かって走りだし「ママ、ママ」と駆け寄る。

「ねぇ、ママ、今日は遊園地に連れっててくれるんだよね?嘘じゃないよね?」

「はいはい、わかってますよ。約束したもんね。」

 とても優しい口調で息子に語りかける母親は、マリアン・ミッチェル・シュライザー。

「今、遊園地に持っていくお昼のサンドウィッチを作ってますから、朝ご飯はもう少しまっててね。」

「はい、ママ」

 そう言ってスナイキーは洗面台へと歩いて行った。

 シュライザー家は母子家庭で一人息子のスナイキーと二人でアパートに暮らしていた。

 遊園地の招待状が届いたのは、10日前の事だった。

 送り主は遊園地「オスカー・ドリーム・ランド」一同となっていた。

 シュライザー家は決して裕福とは言えず、マリアンの稼ぎでは、スナイキーを学校へやるのが精いっぱいの家計で過ごしていた。

 とてもではないけれど、遊園地へ連れて行ってあげることは難しいと言えた。

 そこに届いた招待状。

 マリアンはオスカー・ドリーム・ランドは聞いたことのなかった施設だったのだけれど、スナイキーが喜ぶならと、招待を受けることを決めた。


当日

「ママ、支度出来たよー。朝ご飯いらないから早く行こうよ」スナイキーはママを急かす事しか頭にない。

「駄目よ。朝ご飯はしっかりと食べないと、いい大人になれないわよ」

 マリアンはスナイキーにそう言い聞かせ、「いつもと変わらないけど」と卵とベーコンとパンを食卓に出した。

 こんがりベーコンの香が漂って食欲を掻き立てられたスナイキーは椅子に腰かけてママの作った朝ご飯を食べた。

「よく噛んで食べてね。」そう言ってミルクを添えてスナイキーの向かい側に座りマリアンも食事を済ませた。

「ねぇ、ママまだー?」スナイキーはまたママを再び急かし始める。

「はいはい、すぐ支度するわ。もう少し待っててね」

 マリアンもかわいい一人息子と一緒に遊園地へ出かけられることにとても心浮きだっていた。

 化粧台を前に「はぁー、遊園地なんて何年振りかしら・・・あれはまだ主人が生きていてスナイキーが生まれたばかりの時に3人で行ったのが最後ね」マリアンは小さい声で一人呟いた。

「アナタ、どうか天国から見守っていてくださいね。」そう最後に呟くと、マリアンは「スナイキー、それじゃ行こっか?」と声をかけた。

 スナイキーはこれ以上無いと言わんばかりの笑顔をママに浴びせて手を取った。


 自宅アパートを出て20分程歩くと、電車の走る駅【ノアン】に着いた。

 そこから4時間程電車に揺れて目的地のある【ルミーナ】という場所に着いた頃には時刻は11時を回っていた。

「あら、オスカー遊園地に着くころにはもうお昼ねぇ」マリアンは息子の手をしっかりと握って目的地へと歩いてゆく。

 マリアンはこのルミーナという町に来るのは初めてで、ノアンの駅周辺に比べると栄えてはおらず、どこか寂しさを感じるまでにいた。

 道中森に囲まれていてとても空気がおいしいと感じていた。

 地図の通りに進んではいるものの、一向に遊園地の気配を感じないマリアンはちょっと不安になりつつあった。

 人の行き来はおろか、車も通らない事に気が付いた矢先、小さくはあるものの、【オスカー・ドリーム・ランド】の名前が入った看板を見つけ、安堵した。

 スナイキーは「ねぇ、ママ。まだつかないの?」と尋ねて来たので、「もうすぐ着くわよ。まだ歩ける?」と聞き返した。

 スナイキーは「うん、大丈夫。だって歩かなきゃ、遊園地にたどり着かないもん」とママに迷惑をかけじと笑顔で答える。


 やっと遊園地らしきものが視界に入ってきたのは15分程経ってからだろう。

 とても豪華とは言えない小さな観覧車が見えてくるとスナイキーは大はしゃぎで「ママ、ママ、急いで。早く、早く」と急かす。

 ママの手から離れたスナイキーはどんどん先へと走っていく。「待って、スナイキー、走っては危ないですよ。」そう言ったもののマリアンも心躍り始めていた。

 スナイキーの後を追って小走りで駆けていくと入り口でスナイキーが手を振って待っていた。

 先に声を発したのはマリアンだった。

「もう、ママを置いていくなんてよっぽどね。ちょっと待って、今招待状を係りの人に見せるから」そう言うと、鞄から取り出した招待状を2枚係員に手渡す。

 背の高いひょろりとした色白の男性がニコリと笑って、「どうぞ、ごゆっくり楽しんで来てください」と返しのチケットを手渡してきた。

「ありがとうー」スナイキーは大きな声で係員に告げると、ママの手を取り早く、メリーゴーランドに乗ろうと引っ張り歩く。

「もうお昼よ。ごはん先にたべませんか?ママの特製手作りサンドウィッチよ」そんな言葉に聞く耳を持たないスナイキーはこれ     また、小さくて薄汚れたメリーゴーランドの前に立ちはだかる。

「ねぇ、ママ。これ乗りたい。これ乗りたい」大はしゃぎのスナイキーを見て負けましたと言わんばかりの表情で「じゃー、乗ろうか」当たりを見渡すと少ない人影があるものの、このメリーゴーランドには人は寄っていなかった。

 係員に乗る旨を告げると即発車と案内され、二人は仲良く一頭の馬を跨いだ。

 場にそぐわない程の大きな音楽が流れるとともに上下、前へと動き出したメリーゴーランドはマリアンにはちょっと恥ずかしい感じがした。

 そんなことを露も知らずスナイキーは嬉しそうに手すりにしがみついていた。

 5分くらいだっただろうか。

 メリーゴーランドを楽しそうに堪能したスナイキーにお昼ご飯にしましょうとその場を離れ、芝生の生える木の陰にシートを敷いて2人は腰を下ろした。

「ママ、次はアレ乗ろうよ」そう指をさした先にはこれまた小さな古びたジェットコースターらしきものがあった。

「スナイキー、ママは遠慮するわ。だってジェットコースターにはのれないんだもん。ママ、高いところも苦手なの」そう告げる   とスナイキーはどこか寂しそうなでも「うん、わかった。僕一人で乗るよ。ママは下で見てて」と笑顔を向けた。

「ママの作ったサンドウィッチとってもおいしいね。もっと頂戴」スナイキーがマリアン特製手作りサンドウィッチをもりもり頬 張ってくれたおかげで、持ってきたお昼ご飯は全て完売。

 にっこり微笑むマリアンにとびっきりの笑顔を返すスナイキーがとても愛おしかった。

 食休みを終えると2人はジェットコースターの所へと向かう。

ここには家族らしき3組が並んでいて、どうやらどこの家庭も親は下で待っているとのことを会話していた。

 マリアンもスナイキーに行ってらっしゃいと手を振り見送ると発車していったジェットコースターには見向きもせず、パンフレッ トを見つめていた。

「小さい割にはそこそこの乗り物があるみたいねぇ」一人呟きながら近くを見渡していると、フクロウの着ぐるみを来たマスコットが風船を4人の子供達に手渡していた。

 フクロウの着ぐるみといってもとてもカラフルでお顔を見なければフクロウとはわからない程派手な色をしていた。

 ジェットコースターが戻ってくる気配を感じたマリアンは振り返り息子を待つ為、ゲートへと近づいて行った。

 スナイキーは「ママ、ジェットコースター最高だったよ」涙の跡が残る笑顔でマリアンに駆け寄ってきた。

「あらあら、それはよかったわね」マリアンも嬉しそうに答えると、「お次は何に致しますか?」そう息子に尋ねた。

「えっとねー」スナイキーは悩みながらあたりを見回す。

 マリアンはアイスクリームの看板を指さし、「アイスでも食べてゆっくり次をさがしませんか?」と提案するとスナイキーは大喜びで「うん」とだけ返事した。

 テクテクとアイスクリーム売り場に近寄っていくと5種類ほどのアイスの中からスナイキーは赤いストロベリーを選んだ。

 続いてマリアンは白のバニラを選ぶと二人はベンチに腰かけてアイスを食べていた。

 その脇から近寄ってきたのはマリアンがさっき見たカラフルなフクロウの着ぐるみを着たマスコットだった。

「こんにちはー」かわいらしい声をかけてきたのは中に女の人が入っていると2人にもわかった。

「やあ」とスナイキーは返すとフクロウが手にしていた風船をくれた。

「このあとのご予定は?」と訊かれると有無を言わさずに「よかったら、かわいい妖精達のショーが始まるんだけど、観に来ない?」と誘って来た。

 スナイキーは「ママ、妖精だって。僕観たい観たい」とマリアンの腕を掴んで引っ張るので、「わかりました。観に行ってみましょう」と答えざるを得なかった程だ。

 フクロウに案内されショーがある場所は赤と白の縞々のテントの中だった。

 一歩足を踏み入れると薄暗い中には腰を掛けるだけのベンチが並んでいて、小さなステージもまた暗く佇んでいた。

 数組の親子がまばらにベンチに腰掛けていてショーが始まるのを待っていた。

 マリアンもスナイキーを隣に座らせてショーの始まりを待っていると、突然ステージが明るくなり、妖精の着ぐるみを着たあまり上手とも言えないショーを眺めていた。

背後に忍び寄る黒い影に気づくことなく。

 ショーが始まってから10分以上経っていただろうか、突然強い眠気を感じたマリアンはふと隣を見るとスナイキーが居ないことに気が付いた。

 どこへふらふら行ってしまったのか心配はしたものの眠気に勝てず、立ち上がるどころか、そのままベンチに横になってしまった。

 マリアンはそのまま目を覚ますことは無かった・・・。



【AAA】


「トリプルエーって知ってるかい?」突然振られた言葉に「ちょっと、やめてよ。その言葉は発しちゃダメってことぐらいわかってるでしょ。」

 イーヴは席の前に座っている彼氏のドキに囁いた。

 続けて「お願いだから大声も出さないでね」と付け加えた。

 それには訳がある、ドキは何か否定的な事を言われるとすぐさま、大声で「なんでだよー」と切り返してくるのだ。

 その癖を知っていたイーヴは先に彼を制止したのだった。

 ドキは「わかってるよー」とニヤニヤしながらイーヴを見つめる。

「なあ、俺たち付き合ってそろそろ半年経つだろ。その・・・そろそろいいんじゃねーか?まだ手繋いだことしかないなんて、友 達になんて言っていいのか。そのつまり…」ドキは言葉を濁しながらもギラついた目で見続ける。

 話をすり替えられた気分でイーヴは「今日はもう帰るね。それに私達出会ってまだ3か月よ。大げさに言わないで。」ドキの目論見はみえみえだった。

 とっとと一発ヤッて次の娘に行きたい。そう顔に書いてあった。

 イライラしつつもそっと辺りを見渡してさっきの言葉に反応した人物がいないか確認して喫茶店を後にした。


 部屋に戻ったイーヴはすぐさま服を脱ぎ捨てシャワーを浴びた。

「あー、なんであんな奴と付き合ってるんだろ。私。」

 そう呟いて冷蔵庫からビールを取るとプルタブを勢いよく開ける。

 プシュッと音をたてて泡が飛び出してくる。

「AAA(トリプルエー)」小さい声でそう呟くと頭の中をいくつもの思いが駆け巡ってくる。

 アヴァン・アダム・アプリシャス

 彼の頭文字をとってAAA(トリプルエー)。

 秘密結社である。

 ネットには数多くの悪事が書かれていて、その中でも悪魔崇拝でありカニバリ(人食い)だという記事が多く見受けられる。

 しかし、それだけ書かれているにも関わらず、表舞台で論議されることは少ない。

 いわば、都市伝説的な話として闇に葬られている。

 以前、AAAを追っているという記者がとある無人島での集会の存在を知りSNSで発信した矢先に、失踪するという出来事があった。

 その直後そのSNSで発信した内容は消され、これまた闇の中へと葬り去られていった。

 そんなことが起きていたことすら知りもしない人たちが一体どれだけいるだろうか?

 イーヴは考えたくもなかったが、口からでた言葉は「全人類に等しい」これに尽きる。

 例え数百人知ったところで、この地球上の人類の中では空気より軽いものだろうとわかっていた。

 とめどなく溢れ出てくる空想に思考を支配されていることに気が付いたイーヴは寝るという選択肢に救われ眠りにつくことが出来た。


 目が覚めたのはドキからの電話のコール音だった。

「ンッー、ンー 今何時?」一人呟いたイーヴは時計を見て慌てて飛び起きた。

「やばっ、今日はサボれない講義なんだった」そう言って、電話を受け「ドキ、ありがとう、今起きたからすぐ支度して行く」と  一方的に言い放って電話を切った。

 いつもなら30分かかる身支度を15分で終わらせ、パンを加えたまま外へ飛び出した時刻は10時30分を回っていた。

「クソッ、全力で走らなきゃ間に合わない時間」と独り言を吐いて「んふっ」と心の中で汚い言葉を発したことを反省しつつキャ ンパスの方角へ猛ダッシュする。


 イーヴは息を切らしながら大学のキャンパスのゲートへとたどり着き、ゲート前で待っているドキに手を振った。

「ハーイ、急ぐわよ」とだけ声を掛け彼の横を走り抜けていった。

 ドキは「待ってくれよ。俺30分待ってたんだぜ」泣きそうな声を発しながらイーヴの後を追いかける。

 2人が着席するとすぐさま講師のリチャード・スミスが入ってきた。

 彼は環境問題に熱心に取り組む団体の一人でもあり、多方面に渡って人脈を持つ私が慕う人物の一人であった。

 講義を終えるとすぐさまドキが近寄ってくるのを他所に、リチャードに声を掛ける。

「ハーイ、リチャード。今日時間があればまた特別講義してほしいんだけど」イーヴは彼に言い寄ると「もちろんだ、君は本当に 勉強熱心だね」と褒めてくれた。

 もちろんこれは周囲の人たちに気づかれない為のファイク会話であることをドキは知らない。

「イーブ、まだ勉強足りないのかい。これ以上何を学ぶというんだ。それより僕達二人の事をもっと真剣に考えてくれよ」続けて「なあ、頼むぜイーヴ。」と声を張り上げた。

 まわりの子たちがクスクスと笑う声が響くなかイーブは「はいはい、わかってますよー」と気のない返事をしてリチャードを見送っていた。

 イーヴはドキを連れてランチへと歩いていくと、前方からマギー・アンドレワというそれはそれは美しい女性が声を掛けてきて、「イヴ、あなた随分とリチャードと仲親しいようだけど、どういうことかしら?」とまるで喧嘩腰に言われ、「わたし、あな たを許さない」語気を荒げて去っていくマギーの背を「???」な気持ちで見送っていた。

 ドキにしては声密やかに「イーヴ、おまえアイツに何したんだ?この学校でアイツににらまれたら終わりだぞ。」と言われると「あら、あなたってそんなヒソヒソ話できるんだ」とだけ返し、そそくさと歩き出した。


 時刻は17時を過ぎた頃、「ドキ、大事な話があるの。今から話せる?」と尋ねた。

 ドキは「ああ。」とだけ、答えたその顔には期待に満ち溢れているのが手に取るように分かった。

 イーヴは決心していた。

「ドキ、あのね。今日話があるって言ったのは、実は…」言葉を止めたイーヴにドキは無理やりKissをした。

「ちょっ、ちょっとやめてよ」ドキの胸を押しのける。が、それはか弱き女性の力。

 一方ドキはと言うと、マッチョな体系でスポーツはラグビーをしていた。

 ドキは押された胸で体当たりするがごとく、壁へと押し返されて再びKissされた。

「やめて、大声出すよ」言ったとたん平手打ちが飛んできて吹き飛ばされたイーヴは地面に倒れこんだ。

 膝上丈のスカートが少しまくれ上がり、綺麗な白い太ももが露わになったイーヴを見てドキは興奮を抑えられず、そのまま上に乗り上げた・・・。



 イーヴは泣きながらもう1時間以上シャワーを浴び続けていた。

 顔は平手打ちされたところが赤く腫れあがっていて、要所要所汚れた服とズタズタに切り刻まれた心が今のイーヴの顔を作っている。

 これは現実に起きてしまった。

 一向にシャワールームから出られずに居たイーヴを救ったのは玄関でチャイムを鳴らして声を張り上げたリチャードだった。


 彼女はハッとして我に返り、新しい服に着替えてリチャードの待つ玄関前へと歩き出した。

「リチャード、ごめんなさい。今日は会えないの。予定が入ってしまって…」今にも消え入りそうな声で玄関越しに伝えると「な にかあったのかい?」と尋ねてみたものの様子がおかしいことを悟ったリチャードは、強気にドアノブを上げ下げ繰り返し、「顔だけでも見せてくれないか?」と言い寄ってみた。

 イーヴはその場で泣き出し、やがてその様子が伺え知ることは容易なほどの鳴き声が響いていた。

 リチャードは「すまない」とだけ声をかけ、裏へと周りイーヴの部屋がある2階のテラスによじ登り、ガラス窓を割ってイーヴの部屋へと侵入した。

 すぐさま泣き崩れているイーヴに駆け寄ると、顔の傷に気づき「一体何があったんだ。答えてくれ。頼むイーヴ。お願いだから正直に私に話してくれ」と語りかけた。

 イーヴはしばらく彼の胸に顔をうずめ泣くのを辞めなかった。

 どれくらいの時間が経ったのか二人にはわからないけれど、落ち着きを取り戻したイーヴは今日起こった出来事を話し始めた。

 リチャードの顔はみるみると赤く怒りに染まり、それでも彼は紳士に彼女をそっと抱き寄せた。

「なんてことを。君をこんなにまで傷つけたドキを絶対に私は許さない。」そうイーヴに話すとイーヴを抱きかかえてベッドへと 連れて行った。

 リチャードはイーヴが眠るまで傍で手を握りしめ、彼女が眠りについたのを見計らって、部屋を後にした。



 イーヴは目を覚ます。

 ゆっくり瞳を開いて体が硬くなっていてあちこち痛むのを感じると昨日の出来事が夢でない事を思い出した。

 今日は学校へ行く気などありもせず、冷蔵庫の缶ビールを取り出してゴクッ、ゴクッと一気に飲み干した。

 頭痛に手を当てながら反対の手でTVのスイッチを入れるとそこから信じられない言葉が飛び出してきた。

 それはハッキリと聞き取れた、リチャード・スミス容疑者の身柄を警察は確保している。というものだった。

 TVの映像に目を向けると右上にはリチャードの顔写真が映っていて、背景はドキの自宅前が映し出されていた。

 何が起きているのか理解するまでに5分はかかっただろうか。

 部屋の中をウロウロしながら、頭の中の「??????????」を一つずつ消していってはさらに増えていく謎に頭が混乱し 始めていた時、一つの考えがニュースから流れて来た事件の概要と一致する。

 リチャードは昨日家に来てくれて私は彼に抱えられてベッドへと身を預けた。

 ずっと隣にいてくれてた記憶がうっすらと残っているが、目が覚めると彼はいなかった。

 きっと私が眠りについたのを見計らってこの部屋を去った。

 その後は…イーヴは思考を止め、「考えたくない。そんなの嫌」泣き崩れるしかなかった。

 その後もニュースはリチャードの事を流し続けていた。

 それもそうだろう。

 彼は学校の講師で、その教え子の一人を銃で射殺したのだから。

 泣きやんだイーヴはTVに向かって発狂するしかなかった。


 イーヴはいつの間にか意識を失っていたのか、ドアをノックする音で意識を取り戻しつつあった。

 そのさなか、ドーンと激しく何かがぶつかる音とともに大男たちが部屋になだれ込んできた。

 大男達はひっきりなしに「だいじょうぶですかー、警察です。」と連呼していた。

「いたぞー」そう言った警官とは別の警官が「ずいぶん部屋が荒らされてるな」と語ったのでその言葉で意識を完全に取り戻した  イーヴは「部屋は私が暴れたせいよ」と説明した。

 納得した警察官達はイーヴを事情聴取の為、警察署への同行を求めた。

 彼女は、警官が呼んだ救急車で一度病院へと運ばれ治療を受けたのちノアン警察署へと足を運んだ。

 イーヴは昨日起こった出来事を覚えている限り全て話した。

 相手はノアン警察の女性警官ローラだった。

 ローラはイーヴの話を聞いた後に何故、すぐ警察を呼ばなかったのか尋ねて来た。

 イーヴはただただパニック状態になっていて警察という言葉すら頭をよぎることは無かったと泣きながら伝えた。

 そしてリチャードに会わせてほしいと懇願するとローラは嫌らし気に「彼とはどんな関係?どこまでいってるの?」と尋ねて来た。

 私は一瞬何を言われているのかわからず「はあ?」

 言ってやっと理解した。

 ローラは私とリチャードが恋人関係にあり、それも肉体関係にまで達していると踏んでいるというのはお見通しな推察を私に詰め寄っているのは明白で、私はあきれた顔で、彼は私の講師でしかありません。

 とだけ答えておいた。

 ローラは続けて、「では何故リチャードはあなたの部屋を夜に尋ねて来たのかしら」と勝ち誇ったかのようにアゴを少し上げて言い寄る。

「彼は…」と言いかけて、ローラを納得させるだけの情報をここで言い切ることが出来ない事を悟り、「ただ、勉強をしたくて彼 を家に呼んでいた」と告げると満面の笑みでローラはその場を離れていった。

 今いる小部屋が取調室だと気づいたイーヴは気を害しているとローラの代わりに来た男の警官に告げた。

 その警官は「我慢してください。」としか言わなかった。

 私は再度リチャードに会わせてくれるようにその警官に頼むも無駄だということも知っていた。

 諦めた私は、大声で弁護士に連絡したいとの思いを告げると、別の大柄な警官が近づいてきて、もう帰って大丈夫ですと言った のはこのノアン警察署の副所長だったと後で知った。


 部屋に戻ると玄関前にまだ警官が一人立っていて、私をみて近寄ってきた。

「色々あったようで、お察しします。大丈夫ですか?今晩玄関外に一人警官が立ってますので、どうか安心して眠ってください」 と話しかけてくれた。

 リチャードの逮捕はあまりにも想定外過ぎてこの先の事を考えると破滅でしかなかった。


 私とリチャードの関係は悪魔崇拝・カニバルな秘密結社AAAの情報を交換するとても秘密裡な関係だった。

 そこには恋愛感情など無く、彼は彼でとても紳士に接してくれる尊敬できる人物だった。

 特別講義と呼んだのは、他の人達には一生関わることなど無いだろうが故の事で、安易に口に出せない、このAAA(トリプルエー)の真偽を二人で話合うのが目的だったのだ。

 リチャードは前にも言った通り、環境問題に取り組んでいる団体で ゼプラウスの幹部の一人でもあったのだ。

 そんな彼の人脈から得られる情報はかなりなもので、中には私のようにAAAに興味を持つ人物も数名いるとのことを聞いていた。

 今私は現実問題として彼を失ったに等しい。

 太くて硬かった情報源のリチャードと接触できないのは、人生が真っ暗になるだけの衝撃を私に与えたのだ。

「ドキ、あんな奴死んでくれてせいせいする。でもよりによってリチャードが犯人なんて…」彼女の瞳からまた涙が溢れ出す。

 嘆いても仕方ない。

 イーヴは正気に戻ると次なる作戦を練る為ベッドに潜った。

 リチャードは以前、AAAに興味を持つ一人を名前で呼んだことがあった。

「だれだったっけ…思い出せ、イーヴ」自分にそう言い聞かせてはお腹の肉をつねってみたり、頭をポンポン叩いてみる。

 その時の会話の中へと思考を張り巡らせているうちにあるキーワードが思い浮かびあがった。

 この町から電車で4時間くらいのところにある何とかって駅の町の奥に遊園地があって、「そう、確かカオスがどうの…。あっ、  オスカー・ドリーム・ランドって名前だった気がする。」

 私がリチャードに「オスカー?その話まるでカオスね」と受け返したことまで思い出した。

「そう、そこにゼプラウスの団員の人が一人働いてるんだったわ。確か、えーと…ブラムって言ってたような」ベッドから飛び起 きてメモに走り書きすると、今日は寝ることにした。


 朝目覚めると、ふと最初に玄関前の事が気になりだしたので、玄関を開けて覗いてみると案の定、警官は地面にお尻をつけて頭を下げて眠っていた。

「ちょっと、風邪ひかないでよ」と心の中ではいったものの、そっと玄関を閉めて部屋に戻った。

 昨日眠る前に書いたメモを見て、「うんうん、よしっ」と頷き朝食を摂る。


 窓はまだリチャードが割って入ってきたときのままで穴が開いて割れたガラスが散らかっている。

 隙間風とともに子供達の元気な声が響いていた。

「やあ、スナイキー。」そうとだけ聞き取れた名前の主は3つ隣の部屋のシュライザーさんのところの息子さんとわかった。

 とても微笑ましい優しさ溢れる母親のマリアンはこのアパートでは有名でいつもニコニコしていて、すれ違えばきちんと挨拶してくれる、理想の母親像とは言ったもんだなと思うことがある程、人柄の良い人物で、その息子は活気あふれるスナイキーくんだった。

 なんどか遊んだであげたこともある位の仲で、スナイキーは小生意気にも私に向かって「僕が大きくなったら、イヴおねえちゃんと結婚してあげるからね」と言われて本気で照れてしまったのを思い出した。

「おませな子ね」そう呟いて遠くから見送ったイーヴは、散らかっている部屋の中を片付け始めた。

 学校は当分行かない事に決め、休学届けもすんなり受理してくれた校長に感謝して「私は前に進む」と誓ったのだ、自分自身に。


 電車に乗るのは久しぶりな事だった。

 そもそも私の母エヴァが私をこのノアンの町の学校へ送る際に母と電車で来て以来なのでもう2年以上電車には縁のない生活をしてきた。

 去年の暮れに母が訪ねて来てくれて、お見送りでノアン駅構内まできたものの電車に乗り込むことはなかったのだから。

 それに、私は今日初めて行くルミーナとは真逆方向にあるオルキータという町に生まれ育ったのだ。

 オルキータはノアンからだと5時間電車に乗り続けて、オルンダという駅で船に乗ってカルパッツ島というちょっと大きい島の中にある。

 いくつもの町からなるカルパッツ島、そこから2100km程さらに船で行くとなんとも怪しげなプリシェス島と呼ばれている無  人島があって、どうやらAAAの創設者であるアバン・アダム・アプリシャスが保有する島だとうわさされている。

 その島の地下に世界中から誘拐してきた子供達が閉じ込められているとの事で、そこで悪魔儀式が行われるのだとか。

 あくまでも噂の域を出ないものだから、触らぬ神に祟りなしとは良く言ったものね。

 アプリシャスが大富豪というのもあって、表ざたになることはこれまで一度もなかった。

 いつか私が上陸してこの目で見てすべての真実をさらけ出してやるんだから。

 そう思っている人たちが一体どれほどいるのやら・・・

 正直今、完全孤立状態の状況に置かれて寂しい気はする。

 でも今日行こうとしているルミーナって町に仲間がいることを心から願うわ。

「神様、どうかお導きを。」


 電車に乗って3時間半はたっただろうか。

 人気も徐々に薄れてきて田舎に来たって感じが強くする風景に正直言うと、怖気ずいてしまいそう。

「はぁー」溜息に声が乗ってしまったのだろう。

「どうかされましたか?」ひょっこりと前の席にいたのであろう白い髭を蓄えたおじいさんが声を掛けてくれた。

「あ、いえ。なんでもないです。あははっ」と最後は笑って胡麻化してみたものの、道中先はまだ長いと思い、「おじさんはこの 近くに住む人?」と尋ねた。

「ホプキンスじゃ、ホッホッ。わしの家はこの先のほうにあるルミーナという町じゃ」

 そういったおじいさんの顔をマジマジと見てしまったイーヴだった。

「それじゃ、ホプキンスさんはおうちに帰るところなんですね。私は今日初めてルミーナに行くところなんです。そう、オスカー・ドリーム・ランドってご存じですか?」にこやかに聞いた筈だった。

 が、一瞬でその名前を聞いたホプキンスは顔を曇らせてしまい黙り込んだのだった。

 しばらく気まずい空気の中、先に口を開いたのはホプキンスだった。

「お嬢さん…」「イーヴです」イーヴは重い空気の中名前を名乗り次の言葉を待った。

「イーヴ、あの遊園地には近づかんほうがいい。あそこに入った家族が行方不明になる事はあまり知られていない。これは脅しで はない。行くのはやめなさい。」

 イーヴはゴクリと唾を飲み込み、「良ければその話詳しく教えてくれませんか?」と尋ねてみた。

 ホプキンスはやがて苦笑いになり、「困った子だの…」とぼやいた。

「時間があるなら…家へ寄って行きなさい。少しなら話くらいできるだろう?ホッホッ」と明るいトーンの笑顔に変わったのを見てイ ーヴはついていくことにした。

 30分もしないうちに電車はルミーナ駅に着いた。

 ホプキンスは「では付いて来なさい」というと振り向くことなくスタスタと歩き出した。

 改札口を出ると駅前の広場には車が3台程止まっていた。

 ホプキンスはやっと立ち止まると、青い乗用車に向かって手を振った。

 やがてその青い車が目の前まできて止まると、ドアを開けて後部座席へと乗り込んだ。

 おいでと手でジェスチャーをするホプキンスに続いて「失礼します」とだけ言って乗り込むイーヴ。

 運転席を見るとホプキンスよりはどう見ても若い女性が車のハンドルを握っていた。

「ホッホッ、わしの妻のレオナじゃ」そう言ってホプキンスはイーヴの事を妻に話し出した。

 笑い声が2人とも特徴的で、奥さんのほうはどこか上品な響きのある笑い声をしていた。

 イーヴはここに来てやっと安堵の溜息をそっと漏らした。


 車はそのまま40分程オスカー・ドリーム・ランドのある東の逆の西へと走り赤い屋根の白い小綺麗なお家の前で止まった。

 車を降りたイーヴは深呼吸をすると「はぁー、なんておいしい空気」と声を出した。

  ホプキンスは「ホッホッホッ、そうじゃろ、そうじゃろ」と相槌を打って家の中へと手招きした。

 イーヴは「お邪魔します。」と同時に辺りをキョロキョロと見渡す。

 玄関を入って驚いたのは、部屋の至る所にフクロウの置物が飾ってあったことだった。

 イーヴは続けて「このフクロウの置物って、集めてるんですか?」ちょっと探りを入れるかの如くさりげなく尋ねた。

 ホプキンスは「ホッホッ、これはワシの戦利品なんじゃ」そう答えたホプキンスを一瞬(もしや、この人味方なのかも…)と心の中で思った。

が、もっと様子を探ることにしたイーヴは、詳しく聞きたいと申し出た。

 ちょうどその時後ろの玄関が開きレオナが袋を抱えて入ってきて「すまんのぉ」とホプキンスは妻レオナに声をかけその袋の1つを受け取った。

「まぁまぁ、おじいさんったら。戦利品だなんて、まるで自分が戦士みたいな言い方去れますけど、どれも勝手に持ってきてしまったものではなかったですか?」

「おぃおぃ、レオナや。そんな言い方をせんでも、ホホホ」ちょっと肩を落としたホプキンスの声はトーンも下がり気味なのがイーヴ には可愛く映った。

 レオナから受け取った袋の中から飲み物を取り出し、イーヴに差し出した。

「よかったら飲んで、ホラッ、立ってないでそこに腰かけて休んでくれ」

 ホプキンスはソファーを指さし座るよう促した。

 イーブは言葉に甘えて飲み物を受け取り、腰かけた。

「勝手に持ってきたって言ってたけど、どこから持ってきたんです?」イーブはどちらに語りかけるでもなくそっと投げかけてみた。

 声を出したのはホプキンスで「実はのぉ、お前さんがおっしゃったオスカー・ドリーム・ランドで行方不明になったと思われる 家族の家には必ずと言っていい程このフクロウの置物が置いてあったんじゃ。最初はそんなこと知りもせずに、なぜか気になって  気になって仕方なく、んー、その、借りてきたのじゃ。ホッホッ」最後は気弱になるホプキンスさんに「ホプキンスさんってなんのお仕事されてるんですか?」と矢継ぎ早に質問するイーブ。

 ホプキンスは「今は隠居の身じゃが、ワシは刑事をしとった」と教えてくれた。

 イーブは心の中に光が射しこまれた気分になり、「実は…」とまで言って濁したイーヴの表情を推察したのかホプキンスが「お 前さん、何か探り事をしておるんじゃろ。ホッホッ」とニコッと笑顔を向けてくれた。

 イーヴは重い口を開いた。

「うん、そうなの。オスカー・ドリーム・ランドに行こうとしているのもその探り事の仲間がそこにいる可能性があるからなの」 と伝えると「名はなんというんじゃ、その者は?」「私の記憶が正しければ、ブラムって人なんだけど。そう、ゼプラウスって環 境問題に取り組んでる団体の一員なんだけど」はっきりとはしてない情報で罰がわるそうな顔をするイーブを尻目に「その男なら しっとるぞい。ワシの飲み仲間じゃー。ハッハッハッ」とどこか誇らしげに笑うホプキンスに羨望のまなざしを注ぐイーヴ。

 イーブは「会わせてもらえませんか?」と尋ねる。

 ホプキンスは「一つ先に聞かせてくれんか?お前さんはどこまで知っとる?」

 イーブは知ってる限りの事をすべて話すことにした。

 全て聞き終えたホプキンスは、「まさかお前さんのような若い、それも女の子がのぉー」と話すと「これは私の宿命だと感じて  ます。お願いします。私に情報とブラムさんに会わせて」と念押しした。

時はお昼を過ぎていた。

 レオナは二人の会話がひと段落したのを見計らったかのように「お昼ご飯にしましょう。イーヴさんも是非食べてくださいね」と言ってくれた。

「ホッホッ、続きはどうやら飯の後じゃの。ホッホッ」といい、3人は食事を取りながらTVを見ていると、昨晩のリチャードの事件がまだ放送されていた。

 全てを聞いていたホプキンスは「リチャード・スミスか。どれ、ワシの後輩に一つ頼んでみるとしよう。もしかしたら面会できるかもしれん。じゃが…」というと「あまり期待はせんどいてな。」と付け加えた。


 食事を終えるとイーブは再びソファーに座り、「ブランさんっておいくつぐらいの人なんです?」と質問すると「わしと同い年位でのお、70近いはずじゃ」と返ってきて驚いた。

 リチャードを思い「ほんとに彼って顔が広いのね。まして年上の人たちとも上手に付き合えるなんて。心から尊敬するわ。」そ う心の中で呟いて一筋、涙がこぼれてきた。

 ホプキンスはそれには触れず、「ちょっと電話をかけてくるでの」そう言って奥の部屋へと消えていった。


 10分程経ってホプキンスが戻ってきた。

 イーヴに声を掛け、「夜遅くになってしまうが奴もお前さんに会いたがっておったわ。どうするね?お前さんさえよければ今夜は家に泊まっていけばいい。」

 願ってもない申し出にイーブは甘えることにした。

「それでは、お言葉に甘えて泊まらせてください。」

 ホプキンスは「奴が来るまで時間がかなりあるが…休んでおくとよい。話は揃ってからのほうがよいじゃろホッホッ」

 そういうと2階の小部屋に案内され、「好きに使ってくれ」とホプキンスは下の階へと戻っていった。

 少ししてレオナがノックして入ってくるとベッドメイキングを施して「ごゆっくり」とにこやかに去っていった。

 イーブはちょっと疲れた頭をスッキリさせる為、少しの間眠ることにした。


「ハッ」と目が覚めたのは、下の階から大きな笑い声が響いてきた時だった。

 窓の外を見るともう真っ暗な状態で「あらやだ、随分眠ってしまったのね」と小声で呟いた。

 そっと部屋をでて階段を下りていくとホプキンスの向かいに顔は見えないけれど、緑色の制服のような恰好をした人がいることを知った。

 階段の途中で立ち止まっているイーヴを見つけたレオナが「あらイーヴ、おきたのね。こっちへいらっしゃい」とにっこり笑って手招きしてくれた。

 イーブは「ごめんなさい。私、随分長いこと眠ってしまったようで」と申し訳なさそうに答えて「初めまして…イーヴです」と挨拶をした。

 緑色の制服を着た恰幅の良い男は一見すると若くも見える顔立ちをしていて髪は茶色に少し白髪が混じり青い瞳をしていた。

 イーブを見て「ブラムだ。よろしく。リチャードの件は私もとても残念に思ってる。いや、君を攻めてるわけではないよ。僕が  彼の立場なら同じことをしていたさ。」と優し気に語った。

 イーブは泣きそうになりつつもこらえて「ありがとう」とだけ言っておいた。

 ホプキンスは「二人とも掛けて掛けて」そういってイーヴはブラムの隣に腰を下ろした。

「お仕事帰りですか?」イーブは思った事を尋ねてみた。

 ブラムはにっこりと「ええ、この制服は勤め先の仕事服なんだ。遊園地なんだがね」と口元を緩ませて答えてくれた。

「オスカー・ドリーム・ランド、ですね?実は私、今日あなたに会いに行く予定でルミーネから来たのです。そしたらホプキンス さんと偶然出会えて、それがあなたを引き寄せてくれた。これってただの偶然?いえ、私はこの出会い運命だと思ったわ。きっと 神様が引き合わせてくれて…ああ、涙がでそう」イーブは嬉しそうにホプキンスとブランを交互に見て飛び切りの笑顔で「リチャードがここにいたら…」と頬を染めて語った。

 ブラムは「まさかホープが間に入ってくるなんて夢にも思わなかったさ。ハハッ」

ホプキンスは「さて、イーヴ。よかったらワシもお前さんの話を聞かせてもらいたいんじゃが、どうかね?」イーブは「もちろんよ」と答え、AAAを追っていると話し出した。

 「アバン・アダム・アプリシャスこの男の悪事を突き止めて、世間に知らしめて二度と悪事を働けないように壊滅させることが 私の・・・理想ね。」ブラムが口を挟み「奴はね、プリシェス島という無人島を保有している。そこにさらった子供を集めて…」 ここでブラムは言葉を濁した。

「くっ、あまりにも酷すぎて口に出すのもおぞましい」

 イーブは「知っているわ。彼率いるAAAは悪魔への生贄に誘拐した子供達を生きたまま生贄にしたり、性的虐待などで最大で最恐の恐怖を与えて…アドレノクロムという物質を目から針を刺して脳から抽出するの。信じがたいことに抽出を終えた子供の…血はワインで飲み、肉までも食べてしまう。もう悪魔以外なんでもない。悪魔そのもの。人間が人間を食べるって…うっうっ」イーブは熱く語り最後は呻き声をあげて涙を流していた。

 沈黙を貫いていたホプキンスが口を開いた。

「実はの、ワシは以前刑事じゃったとまでは言ったよの。その誘拐について秘密捜査をしていた刑事じゃったんじゃ。その捜査過 程でこのブラムに出会い、情報を交換するまでの仲になった。しかしだ、ワシと当時の相方テッドという男がおっての…」しばら く間があり「テッドは真面目で賢い奴じゃった。」ホプキンスは目を潤ませながらも「AAAの幹部に捕まってしまっての…その 時…じゃ、ワシに連絡をくれてテッドを返して欲しければ、ワシらが得た情報全て持って来いと、あのオスカー・ドリーム・ラン ドに…クッ。証拠全てをかき集めてワシはテッドの待つドリーム・ランドへと行ったんじゃ。それなのに…不覚じゃった。奴らと 取引したワシもワシじゃが、クッ、奴らが約束を守る訳がないことぐらい…冷静になればわかる事じゃった。行ったらテッドは愚 かテッドの妻と子供2人一家揃って処刑されておったわ。」衝撃的な展開にイーブは涙しながらも聞き入る。

「ワシが何故生きているかというとな、その集めていた証拠全てを渡し命と引き換えに、定期的に警察に入ってくる情報をすべて 流すという役目を負ったからなんじゃ。ワシは奴らに魂を売ったんじゃ。すまぬ、グフッ。テッド、テッド…」ホプキンスはその 場で泣き崩れてしまい、レオナが慌てて駆け寄って、「あなた、あなた、自分を責めてはいけません。テッドの死はつらいけれ ど、あなたが生きていてくれなきゃ、テッドの死がほんと、ただの無駄死にですよ。」そう言って背中をさするレオナがイーブと ブラムに向かって「実は私、こう見えても元IMA1のエージェントなのよ。ふっふっ」2人は驚きを隠せなかった。

 IMA1とは 通称:アイエムエーワン (Impossible・Mission・Agency・One) この国の諜報 部隊で特に秘密工作が得意ということだけしか、調べても出てこない、滅多に表舞台に出てこないのだ。

 なもんだからイーブはAAAとのつながりを強く疑う機関でもあった。

「まさか、あなたはAAAの一員なの?」イーブはつい口走ってしまった。

 イーブの頭をさらによぎったのは、(監視役??)最大に警戒しだしたイーブを他所にレオナは「残念ながらIMA1もAAA の一部になりつつあるわ。でも中には私みたいに反旗を翻したものが数名いるのも事実。まあ、この世の中…どこへ行ってもAA A関係者の目が光ってるのよ。特に学校は危ないわよ。フフッ」不適な笑みを浮かべて、ホプキンスに寄り添っているこのレオナ という女性、イーヴは(怖い)と恐怖を感じた。

 ホプキンスが正気を取り戻すと「ワシはレオナに何度助けられたか…この場所もレオナが用意してくれた安全な場所じゃ。安心して使ってくれ。」

「ドリーム・ランドに足を運ばなくて良かった。」そう口を開いたのはブラムだった。

「あそこは君の敵だらけさ、そんなところで顔をさらしたら、まして美人なんだ。目立って目立ってしょうがない。なにか犯罪に 巻き込まれていたかと思うと。本当にホプキンスよくやったぞ」

「こんな素敵な巡りあわせ、夢のようで」とイーヴは言いかけて大きなあくびをした。

「今日はもう遅い。二人とも寝ていくがいい。イーヴ、明日ワシの後輩を尋ねてみることにしよう。リチャードに会えることを願って。」そうホプキンスは言って奥の部屋へと消えていった。

 ブラムも2階の部屋へと案内され、「イーヴ、決して一人で無茶してはいけないよ。私でよければいつでも相談にのるから」と声を掛け、イーヴの隣の部屋へと消えていった。

 イーヴは嬉しくて一人暗い部屋で泣いた。

 チュンチュンッ…小鳥の鳴き声で眠りから覚めたイーヴの頭はスッキリ冴えていた。

 下へ降りるとホプキンスとレオナがすでに起きていて、朝食の支度をしているところだった。

「おはようございます」イーヴは2人に声を掛け、ソファに座った。

 レオナが「よく眠れたかしら フッフ」とにっこり笑って、「もうすぐ朝食ですから」と言うと「何から何までお世話になります。 私にも手伝わせてください。」と申し出るも、「お客様にそんなことさせません。」ときっぱり。

「ブラムさんは?」と尋ねると、ホプキンスが「奴は朝早くにでていったわい」とブラムさんが居ない事を知った。

 朝食を済ましたところで、ホプキンスは「ちょっとだけならリチャードに会わせてくれるそうじゃホッホッ」と誇らしげにイーヴに 伝えると、嬉しさあまりホプキンスに「ありがとうっ」と抱き着いた。

「ほんとうに、ほんとうに感謝しかないわ」と満面の笑みを見せた。

 ホプキンスは照れ臭そうに「ホッホッ、また戻ることになるんじゃが、ノアン警察署のボーンズ副所長を尋ねてくれ。彼には話をし といた。あまり無茶せんでな。またいつでも遊びにきておくれ。ホッホッ」ホプキンスはどこか悲しそうに話すと、レオナに駅まで送 るように伝えた。

 青い車に乗り込んだイーヴは窓から顔を出してホプキンスに「何から何までありがとう。また会う日を楽しみにしてます。」

 そういって車は駅へ向かい発車した。

 レオナは「あなたのような正義感の強い子、IMA1に誘いたいくらい フッフッ。」不適な笑みだった。

 イーヴの嫌な予感が働いた。

「あの、ちょっとお店によりたいのですが」そう言うと急に何もないところでレオナは車を止めた。

「えっ」当たりを見渡すイーヴは心臓がドキドキしてきたのを必死に堪えていた。

 レオナは振り向くと銀色の小さな銃でイーヴの額を撃った。


 20分程山の中を走ったレオナは車を止め、荷台に積んであったスコップで穴を掘り、死体をそこに埋めた。

 車に戻って鞄から携帯を取り出すと、「処理完了。」と誰かに伝えた。

 それだけ言ったレオナは車に戻ると時間を見て、ゆっくり自宅方向へと戻った。



【プリシェス島】

「ダビー、いいガキがいるぜ。例の物持って来い」そう言ったのはモニターを見つめていた色白で背の低いバッツと呼ばれている 男だった。

 灼熱の太陽が彼のサングラスに反射して光る。

 髪がゴワゴワでひげを蓄えた太った体のダビーは言われるがまま、倉庫から針の長い注射器を一本取ってきた。

「ヘヘッ、俺に任せろ」ダビーはそう言って地下3階の部屋へ向かって階段を降りていった。

 たどり着くまでにいくつ扉があっただろうか。

 その都度バッツが鍵を解除して2人は地下へと進む。

 地下3階の部屋の前にたどり着くとバッツは「行って来い」とだけ言い、ダビーの背中をポンと叩いた。

 重い扉を開くとツーンと血なまぐさい香りが鼻をつく。

 ダビーの口からは涎が垂れて来た。

 部屋の中央付近へとのそのそ歩く大男の影にそこら中から子供たちの呻き声が聴こえてくる。

 目の前には恐怖に慄く男の子が涙目でこっちを見ていた。

 ダビーは何の躊躇いもなく、その男の子の左目に針を突き刺した。

「グヘヘッ、ほらっ泣き叫べクックッ」それだけ言って深く刺した注射器で何かを吸い上げる。

 血の混じった液体がミルミルタンクに注入される。

 気を失った男の子は恐怖と痛みで顔がひしゃげていた。

「兄貴、とれたぜ。」そう大声で声を掛けるとサングラスを外したバッツが部屋の中央へと歩いてきて、「ふんっ、また喰うの か?だからお前はデブなんだッ クックックッ」とダビーから注射器を受け取る。

「ハァハァハァ」呼吸が荒くなってきたダビーを見下ろして「早くしろっ。」その言葉を待っていたかの如く「ウギャーッ、(ズ ブッ、ニュルニュル)グフッ」針を刺した反対の目玉を手で引きずり出しポケットから小さなナイフを取り出すと目玉をそぎ落としていく。

 血に溢れる男の子の右目から視神経が飛び出しているのを「ウエーッ、気持ちわりーな。この豚がっ」そう言われたダビーは誉め言葉のように受け取っていた。

 次の瞬間、なんの躊躇いもなく(ジュルッ、ムシャッムシャッ)目を大きく見開いて「ンーーーーー」と口に入れた目玉をしゃぶり奇声をあげた。

 この部屋の至る所に転がっている子供たちの呻き声が聞こえてこない程に。

 地上の建物に戻った2人は早速、抽出した液体を保存する作業に取り掛かる。

 バッツがダビーにあれこれ指示を飛ばすが、ダビーは「ンー」だの「ムフー」だのと言葉にならない声で応える。

 目玉をしゃぶっているからだ。

 ダビーの口元は涎と血の混じったとても汚らしい液体で光っていた。

 バッツの胸の中の携帯が鳴った。

 電話の相手は手短にメッセージを伝えると一方的に切った。

「チッ、」バッツがそう吐き捨てる時は、またガキが船で運ばれてくる連絡だということはダビーは知っている。

「早く飲み込め、このボケ野郎。いつまでしゃぶってる気だ。次の船がもうじきつくぞ。」そうダビーに伝えると机の上の白い電 話の受話器を取り「掃除しておけっ」と怒鳴った。

 電話は地下1階にある部屋に繋がっていて、そこには20名ほどが指示を待つが如く待機している。

 その中には元医者や化学者などもおり、連れてこられた子供達の処理を担当していた。

 どこからか連れ去られてきた子供は手足を拘束した状態で健康診断を受ける。

 健全なのを確認したのち識別されて保管される。

 先ほど地下3階の部屋に閉じ込められていた子供達は比較的年齢がいっている臓器を主に抜き取りのちのち奴隷として扱う予定の子供達だった。

 さらに年齢の低い子供は地下4階の檻の中へ閉じ込め、人身売買や性奴隷として販売目的なものを管理している。

 地下5階…ここはまさにスーパーリッチ(大富豪)共が集まってパーティーを行う聖域となっていて、この島を仕切るバッツで すら入ることの許されないエリアとなっている。

 このプリシェス島はまさにあのアバン・アダム・アプリシャス様の所有島なのだ。

 だがバッツはアプリシャスにしてみれば体のいいチンピラでしかなく、AAAの会員ではない。

 なぜこんなチンピラが島を任せられているかって、そりゃウーゲンビリアというマフィアにいた頃、ちょとそこのボスが麻薬の 密売にちょっかいを掛けて来た男とトラブルになり、その男がなんとAAAのアプリシャスの遠い親戚とは知らずに麻薬売買の客  だったその会員を拉致してバラバラにして海に捨ててしまった。

 それがバレてAAAに狙われていると悟ったウーゲンビリアのボス・サンデスが賞金掛けられたもんだから、当時側近だった俺 様がサンデスの首を切り落としてその首を持ってこの島に来たんだ。

 まさかここにご本人がいるとは露もしらず、俺の名前と口座番号の入った名刺を生首の口に咥えさせて、置いて帰ろうとしたと ころを、AAAの精鋭部隊に取っ掴まってボコボコにされてここに来た理由を吐かされて、でも、現物を見た奴らがアプリシャス に話を通してくれたら、アプリシャスに「お前は俺の手足になれるかっ」て聞かれ、俺は「もちろんだ」と忠誠を誓った。

 そしたらこれは儀式だといわれて、まだ10歳にもなってない女子供とヤるようにいわれ、言われるがまま俺はその幼女をヤッたんだ。

 その後その幼女は解体されて、血をワインで割ったもんを飲まされた。

 肉も焼いて食ったし、脳ミソなんて生で食した。

「お前は俺に忠誠を誓った。」

 それだけ言って俺はそれからずっとこの島で働いている。

 いつか口封じで殺されるんじゃないかとは思うが、マフィアにいた頃よりは生き生きとしてるって自分で思える。

「あれから…4年は経つかな。クソッ」バッツは誰にも聞こえない声でそう呟くとまた胸にいれてあった携帯が鳴った。


 2隻の船が島に着いた。

 1隻はコンテナが一つ積まれている。

 もう1隻から覆面をしたガタイのいい男たちが20名ほど降りてくる。

 コンテナの荷台を開けて、出てくる出てくる。

 幼い男女の子供達がゾロゾロ目隠しされて紐で数珠繋ぎになった状態で出て来た。

「ゆっくり歩け、ゆっくりだっ」と大声で叫ぶ一人の覆面男に続いて100は下らない子供たちがコンテナから出て来た。

 どこにこれだけのガキが居たのかいつも不思議に思う。

 今日はやたらと女のガキが多いとバッツは思った。

 上陸したばかりの子供たちはいったん地下2階へと集められる。

 洗浄といって天井と地面で縛り付けて全裸にして立たせた状態の子供をまず洗う。

 汗や排泄物で汚れている体を綺麗にしてあげる。

 洗浄を仕切るのもバッツの仕事だ。

 一度とは言え、ヤったことのあるガキの良さを知ったバッツは女子供をジロジロ見ては不適な笑みを浮かべている。

 色白の女子供の前でバッツは我慢出来なくなり楽しんだ。

 実に洗浄だけで5時間はかかっただろう。

 ここではドクと呼ばれている元医者が彼らの健康状態を一人一人検診する。

 その後は識別されて各部屋へと連れていかれエサと呼ばれる食事を与えて幽閉しておく。

 時が来るまで。

 もはやどこの国の刑務所よりも酷い、捕まれば逃げることは愚か人生が終わったも同然の地獄とはまさに言ったもんだ。

「俺たちも飯を食おう。」バッツは一度地上へと戻りダビーを見つけて「飯にするぞ」と伝えた。

 ダビーはまだ口をもごもごして目玉をしゃぶっているのは容易に分かった。

 が(ゴクッ)と大きく喉を鳴らして「グヘヘッ、美味かったぜ。腹ペコだっ」と臭い息を吐いた。


 この島にはなぜか警察も軍すらも寄り付かない。

(よっぽどの力で押さえつけてるのか、はたまた…)思考を巡らしたところで答えなんてわからんさと思い飯と酒を頬張る。



【…】


 

「ツー こちらパールアルファ、本部応答せよ!ガガッ」

「ピピッ 本部、パールアルファどぞっ」

「ガー 任務完了、これより帰還する どうぞっ」

「ピー 本部了解。無事を祈る。以上」


 5日後…

 レウイッカ帝国グアンモータ陸軍基地 05:25 08/13/2043

 3台のジープが基地に入ってきた。

 ウィヴァー軍曹率いるナメリール大国陸軍特殊部隊 【B・A・T・T・L・E(バトル)】の中でもエリート中のエリートと言われる精鋭分隊8名が任務を終えこのグアンモータ基地へと帰還した。

 出迎えるのはボビー大佐と2人の女性少佐エリーザとミンツァの3人。

「よく戻った。」ボビー大佐が彼らに労いの言葉を掛ける。

 8名は敬礼のち「朝飯前です。大佐どの」

 そう口を開いたのはビル(射手・通信兵)。

 イッカ武装ゲリラに拉致された要人救出を任されたウィヴァー率いる分隊が作戦名「パールアルファ」を成し遂げて誇りに思うボビー大佐をよそに笑い声が響く。

「ウィヴァー軍曹、早速で悪いんだが、20:00にブリーフィングルームに来てくれ。これは君たちにしか任せられない案件だ、頼んだぞ。」

「了解!(敬礼)」

 ボビー大佐はその場を後にし、2人の女性少佐が8名を称える。

 グアンモータ基地に遠くのほうで爆発音が響く。

 ここは今激戦地区の反ゲリラ勢力の領土に建つ。

 ウィヴァー達は「美味いもん食って、飲もうぜ!」と叫んだゴディア伍長(副分隊長)を担いでバーベキュー場へと向かった。


19:20…

 

 飯食って飲んだ後別れてウィヴァー軍曹は2時間程仮眠を取り、筋トレをしていた。

 そろそろ準備するか。

 グアンモータ基地地下に設けられたエリアにブリーフィングルームはある。

 ゾロゾロとウィヴァー軍曹の元に集まってきたのはメディ(通称ドク)、ザック、ベル、ハイド、アデル、ビル、ゴディア。

「よし揃ったな。」

 ビルが「ワクワクするなー」そう叫ぶと場には笑い声が響いた。

(ガチャッ)さっと全員振り向き敬礼。

「諸君、座ってくれ。」ボビー大佐は彼らに着席を促す。

スクリーンに映し出されたのはあるマークだった。

「おいっ、マジか…」場がどよめいた。

「おい、これってまさか…AAAか?」

 ボビー大佐は「君たちも知っているとは思うが、この組織は多くの国々から誘拐・拉致してきた子供達を好き勝手している秘密 結社だ。この地球上に多くの会員が居ることなど当たり前、その中には大統領を含む政治家やスーパーリッチと呼ばれる大富豪た ちで形成されている。もはや我が国も安全は保障されていない。こんかいの任務は数々の戦場を乗り切ってきた君たち8名にしか 頼めない任務であり、元タフマック大統領からの依頼である。ついに我々が動く時が来た。AAA創立者 アバン・アダム・アプ リシャス を生きたままここへ連れ帰ってくれ。ここまでで何か質問は?」

 場の空気を読んだのかウィヴァー軍曹は「信用できるんですか?元大統領とはいえ、汚職で退陣なされてる。そんな彼とその側 近もAAAに染まってないと言い切れる保証は?情報提供者は誰ですか?」

「これはIMA1の確かな人物からの情報だ。タフマック元大統領は今、プロシェウア共和国のプッチン大統領と秘密裡に作戦を 進めて来た。大詰めである捕獲作戦を任された次第。光栄に思ってよい。他にあるか?」

 ウィヴァー軍曹は「ちょっとだけお待ちください。大佐。」

 頷く大佐を見て自分の部隊員に向かって「俺はこの国に生まれ育って、今日まで自分の思い通りに生きて来た。俺は今の自分を 誇りに思ってる。そんな俺はこの国、この軍隊に命を捧げる忠誠を誓った。だからこそ今日まで栄誉を積み重ねてこれたんだ。神 は居る。俺はこの神の名の元にこの命を捧げる。強制はしない。ついてくる奴だけ残って、後は出て行ってくれて構わない。3分 やる。じっくり自分と向き合って決めてくれ。」

(カチカチカチ…カチッ)

「さあ、自分の言葉で言ってくれて構わない。」

 ベル「俺はさー、軍に入る前は街で女・麻薬・喧嘩ばかりやってて親には見捨てられてもうマフィアになるしかねーって、そん な時によ、なんであんたが現れたしらねーけどずっとずっと面倒みてくれて俺をここまで育ててくれたんだ。なー隊長、いやウィ ヴァ、死ぬときは一緒だって。」ベルは照れ臭そうに上目遣いでウィヴァー軍曹を見て「おいてくんじゃねーよ。ヘッヘッ」

 ハイド「なんかさ、AAA潰すなんて地球守るみたいでかっこいいじゃん。ついてくぜ。隊長。」

 アデル「俺たち一体いくつの戦場渡り歩いてきたんだっけっか?へへ、そのたんびに俺はいつ死んでもいいやーって思ってて、 でもそれを夢にしてるのはいつだってお前さんなんだぜ。今回もたのむわ。ふっふっ」

 ザック「命令に従います。俺は兵士ですから。(ニッコリ)」

 メディ「今まで俺が逃げ出し事ありますか?隊長死んだら俺が率いてやりますよ。」

 ビル「あー、なんでかな。いつもいつもこんな罰の悪い仕事が回ってくるんだよ。

 今度帰ってきたら一度くらい親の墓参りでもするかー。」

 ゴディア「断る理由がどこにある。ハイドの言った通りだぜ。俺たちがこの地球を、子供たちの未来を守るんだ。なあ、そうだ ろ。やってやれない事はない。やらずにいられるわけがない! Let’s Goさ!」

 一同「おおー!!!」

 ウィヴァー軍曹「お待たせしました、大佐。」

「やれやれだな、ウィヴァー軍曹、君の人望には心から尊敬する。頼んだぞ、皆。出発は明日03:20 コードネーム:X(エックス)作戦を開始する。」

「以上」

(敬礼)


 03:15 08/14/2043 グアンモータ基地

 まだ空は薄暗く月がぼんやりと浮かんでいる。

「よし、揃ったな。出発だ!」

 3台のジープに分かれ8名はここから約5,500km離れた場所、【ルミーナ】という小さな町を目指す。

 そこで第一ターゲットと落ち合うことになっていた。

 ウィヴァー軍曹が指を空にかざし、クルクルッと回すと3台のジープは砂煙をあげてグアンモータ基地を後にした…



【悪魔の夜】


 プリシェス島は今日も快晴。

 サングラスを光らせて酒を煽るバッツが目の前を通ったビキニ娘チェキーを目で追う。

「おーい、チェキー。」声を掛けてニヤニヤと見つめる。

「ハーイ」そう言ってチェキーは椅子に座るバッツの膝の上に乗る。

 バッツから酒瓶を取り上げるとゴクッと一口飲む。

「アーッ」とため息を漏らしたチェキーは猛烈にバッツの唇を奪う。

 大きな胸も押し付けながら濃厚なKissをしている時だった。

 胸ポケットの携帯が鳴りだした。

 チェキーはそんなの無視してと言わんばかり攻めてくる。

 が、バッツはチェキーを押しのけて立ち上がると、「もしもし」と電話に出た。

「ふんっ」チェキーはバッツをにらみつけてビーチのほうへと歩いて行った。

 電話の主はアプリシャス本人からだった。

「今日、全員17:00にその島を出る準備をしておけ。わかったな。」

 それだけ言って電話は切れた。

 バッツはニッコリ笑って「街に帰れる」そう漏らした。

 このお達しが入ったときはこの島で儀式が行われている時だとわかっていた。

 内容までは詳しく知らないが、普段ここにいる俺たち全員がこの島から追い出されて、その後パーティーが開かれるのは容易に想像できた。

 そのための準備作業で今日は追われる。

 地下のガキどもの洗浄も含まれていた。

「おーい、ダビー、ダビー」バッツはでかい声でダビーを呼ぶ。

「ダビー、いいか今からガキの洗浄を指示しろ。15:00までには全部おわらせておけ。わかったな。」

 そういうとバッツは他にやることがあった。「久しぶりに街に帰れる。こりゃたまんねーな。」島の至ところに隠しておいた麻 薬と金をかき集めて鞄に詰め込む。

 14:00を回って大方かたずいたのを見て、「さぁー皆さん、まちにまった日が訪れた。じっくり遊んでこいよ グヘヘッ、」上機嫌で島中を駆け回るバッツには思いがあった。

 (金もそこそこ溜まったし、そろそろこんなやべー仕事とおさらばしたいぜ。クッー。この国を出てプロシェウアに逃げ込めば奴 らも追ってはきまい。)そう心で呟いて再度忘れ物がないか確認していると、今まで見たことのない黒い船が島に向かって近づいてくる。

「なんだ、あれは???」バッツは地下へ行き、皆にその事を告げると全員で地上へあがった。

 黒い船は少し沖合いで停泊していて、「見たことないぞ、あんな船」とざわつき始めた。

 バッツは慌てて胸ポケットから携帯を取り出し、連絡係を呼び出した。

「掛けてくるなと言っておいたはずだが」

 バッツは慌てて「今目の前に見たことない黒い船が停泊してるんですが、問題ないですか?」

 電話の相手が「ん、いつからだ。」と切り返してきたので、

「5分前位です」そう言うと「マニュアルに従え。連絡を待つ」そういって電話は切れた。

 バッツは4人程捕まえて一緒に来いと、ゴムボートを発車させた。

 わかっている。この島に無断で近づいたものは射殺していいことになっているから、バッツ達が乗り込んだボートには銃が積んであった。

 波は穏やかで相手はこっちがゴムボートで近づいているのはわかっているだろうなと判断していた。

 黒い船は近づいて行くとクルーザーである事が分かった。

 船上には20代くらいの男女が3組マリファナを吸いながらイチャついてる。

 バッツはこちらに気づいていなかったカップル達に向けて銃を乱射した。

「何?」女たちがキャーキャー言って騒ぎだしたのを望遠鏡で確認するとボートをクルーザーに着けて2人をクルーザーに送り込 み、恐怖でキョトンとしている若者を地面に伏せさせた。

「他にあと何人だ。何人いるんだ?」船上に怒号が飛び交う。

「僕達6人です。本当です。」後から乗船した2人が船内を捜索し終わると「何しに来た?」と尋ねる。

 6人は何も答えない。

 バッツはこの沈黙が気に入らなかった。

 パンッ!

 一発を一人の男に喰らわせた。

「ギャーッ、キャー」

 女たちがパニック状態になり叫びだす。

 別の男に銃口を向け、「答えろ」というと、男は泣きながら、「知らない、本当にわかりません。きっと潮で流されて今ここに 居るんだと…」言葉を詰まらせた男にバッツは「気の毒にな」と浴びせ、周りの仲間に顎で合図した。

 銃声が響き渡ったのはほんの5秒くらい。

 しかし、戦闘でもしてたかのように長い時間経過したかのように思えた。

 バッツは「もう一度船内を徹底的に調べろ」と指示し、4人は散った。

 バッツは何か気配を感じていたのだが、4人が戻ってきて首を横に振ると帰るぞと合図した。


 島に戻るとすぐさま電話で報告し、黒い船は今日帰るときに乗って帰れとの事だった。

 下手に失踪させると面倒な事になりかねない、まあここまで捜査が及ぶとも思わないが、念のため遠くに始末しろとの事だった。

 事を理解した2人の男がその黒い船で一足先に帰っていった。

 もうじき迎えの来る17:00になろうとしていた。


 翌日…

 バッツ達ご一行は送迎船でカルパッツ島に着いていた。

「じゃー、またな。」そうは言ったものの3日間の休暇でしかない。

 連絡係に「いつものホテルに向かう」と告げたものの、今日実行しなきゃ2度とチャンスは訪れないかもしれない…そう自分自身を追い込む。

 バッツはホテルについてチェックインを済ますと、こっそりと駐車場へと回り込み一台の車の前で「お手のもんさ」そう言って  ちょちょいとエンジンを掛けた。

 ホテル敷地を出る際、勢い余って連絡係の乗る車を追い越したのを尻目に「おっとっと。気付かれるなよ」そう呟いてアクセルを更に踏み込んだ。


 15:00 08/15/2043 

 ゴオーーー。

 周りを漁船で囲った一台の中型のクルーザーに乗ったアプリシャスは側近のボディーガード達にエスコートされて島に上陸した。

「ふっふっふっ」不適な笑みを浮べて地下へと入っていく姿を一台のビデオカメラがとらえていた。

 続々とAAA幹部が集まってくる。

 現職大統領であるボッシュルト・ハーバー、彼はナメリール大国から大女優リーガルド・ベッヘ、キャーメル・ジュウィア、ベッキリー・マントスとこの国の3大女優を引き連れて上陸した。

 スーパーリッチ達も各々の船で上陸してくる。

 最後に来たのはプロシェウア国副大統領オーウェン・ザフロキーだ。

 総勢120名のAAA幹部がこぞってプリシェス島で顔を合わせる。

 島の周りには厳戒態勢で監視船が浮かび上空をヘリが警戒飛行する。


「諸君、最高の夜を!」

 アプリシャスが乾杯の音頭を取るとグラスに注がれた赤いワイン達が踊る。

 地上で乾杯したのちこの悪魔崇拝者たちは目の色を変えだして狂いだすのだ。


 焚火の炎とワインとアドレノクロムで悪魔に酔いしれた大人達は次々と服を脱ぎ捨て地下5階へと降りていく。

「あーッ、早く喰わせろっ!ギャギャー」


 …

「クックックッ、奴隷ども金を運んで来い ヒャーッヒャーッヒャーッ」

 …




 バッツは途中で車を乗り換えていた。

「ここまでは順調ってかー。はぁ、先は長いぜ」

 ラジオから流れる音楽に身を揺らしながら、西へ西へと進んでいた。

 もう車など一台もすれ違わない森の中を走る一本道…チラッとバックミラーに影が映ったのをバッツは見逃さなかった。

「しまった。油断してた。」

 背後からヘッドライトを消した車が迫ってくる。

「チクショー」バッツはとっさにハンドルを右に切り森の中を走りだす。

 後ろから2台分のヘッドライトの灯りが照らしたころ、バッツは車を捨て鞄を抱えて走り出していた。

「クソー、クソー、クソー」

 荒い呼吸に混じった声は閑静な森の中に消えてゆく。

 木にぶつかりながらもとにかく走り続けた。

「ハァハァハァ、チキショー、安易だった。クソー、死んでたまるか。」

 その時だった、足が取られ体が宙に浮いた。

 そのまま下へと落下するバッツは冷たい水の中へと潜り込む。

「グフッ、ガブッ」

 水を飲んでしまったバッツは気を失った…。


 5分は経っただろうか?

 懐中電灯を照らす男たちが崖の手前で立ち止まる。

 男たちはとても冷静だった。

「ふむ、落ちたか。よし、下流へ行くぞ。犬を連れてこい」一人の男がそういうとクスクスと笑い声が響いた。



 10:10 08/16/2043 

 ウィヴァー軍曹一行はルミーナの町についた。

「よし、別れよう」

 そういうと3チームに分かれて移動した。

 Aチーム ウィヴァー軍曹とベル

 Bチーム ゴディア伍長とメディとザック

 Cチーム ビルとハイドとアデル


 Aチームはターゲットと接触を図る為、移動

 Bチームは付近エリアの安全場所の確保

 CチームはAチームを接触ポイントまで送り次の合流地点へと向かう。


 11:00にターゲットと落ち合う手はずになっている。

 Aチームは20分早く現地に到着した為、身を潜めていた。

「15分間ここにいて一台も車は通らないな」ベルがそういうと、ウィヴァーは「待て、何か来るぞ」

 二人はかがみ込みそっと様子を窺う。

 青い車に乗ってやってきたのは女だった。

 ベルに「油断するなよ」とジェスチャーで(裏に回れ)と指示を出す

 ベルとの距離を見計らって、ウィヴァーは木陰から身を晒し銃を握って近づいて行く。

 女はまだこちらに気づいていない。

 「手を挙げろ!」そう声を掛けると女は「あらやだ、女性に銃を向けて声を掛ける男なんて初めてよ。ウィーヴァー軍曹さん ウフッ」ニッコリと笑って手を挙げた女は「もう一人いるんでしょ?出てらっしゃい」と大声で問いかける。

 ベルは参りましたと言わんばかりの罰の悪そうな顔で走り寄ってきた。

「軍曹!銃を下ろして。お願いだから」そう言って「IMA1のレオナよ」と名乗った。

「さすがは諜報機関の工作員か。だが申し訳ないが、少し調べさせてもらう。銃は?」

「あるわよ」と言って鞄から銀色の小型のリボルバーを取り出しプラプラさせた。

 ベルがその銃と鞄を取り上げた。

「他には?」 「ないわ」

 ウィーヴァーは「失礼」と言って、ボディタッチで調べる。 「クリア」

 ベルも「クリア」そう言い合うとレオナは「お堅いわね、軍人さんは」と吐き捨てた。

 すぐにニコッとして「車に乗って頂戴。」

 ベルは「どこへ移動する気だ?ここでいいだろ」と彼女に詰め寄る。

 レオナは「駄目よ。家は安全だから車に乗って。情報が欲しいんでしょ?」

 ウィーヴァーとベルは仕方なく彼女の車へと乗り込んだ。

 30分程走っただろうか。

「着いたわ」 そういうとそそくさと車を降りて赤い屋根の小綺麗な家に入っていった。

 ウィーヴァーは頭を左右に振ると「裏へ回れ、待機しててくれ」とベルに伝え一人家の中へと入っていった。

「驚いたな。なんだいこのフクロウの置物は。一体いくつあるんだ?」

 独り言ともとれるぼやきを吐き、レオナは飲み物を持ってきて、「プルタブは閉じてるわ。さあ、どうぞ。」

 と缶コーヒーを手渡す。

 「あら、もう一人は?」と尋ねられて、「外で待ってる。情報をくれ。」そうぶっきらぼうに答えた。

 呆れた様子のレオナは2枚の資料を手渡す。「これ見て何かわかる?」

 「嘘だろっ」ウィーヴァーは「これが本当なら俺たちは何しにここまできたんだ。」

 怒り気味に声を荒げて尋ねる。

 「残念ながら事実よ」レオナは冷静に答えた。

 資料に載っていたのはタフマック元大統領とプロシェウア国のプッチン大統領とアプリシャスの3人が食事をしている写真だった。


 その頃ベルは裏庭に回っていた。

 そう遠くない方で犬が吠えている。

 その吠え方が尋常でなかったのをベルは見逃さなかった。

 ベルは犬の泣くほうへ走っていった。

 庭から500m程いった雑木林で野良犬だろうか、地面を少し掘ってワンワン吠えていた。

 犬を追いやると人の手らしきものが確認できる。

 ベルは「まずい」と呟き急いでウィーヴァーの居る小屋へと戻っていく。


 ウィーヴァーは資料とレオナを交互に見ても驚きは隠せなかった。

「こんなことがっ」言葉を失ったウィーヴァーに「この後どうするの?」とレオナは迫る。

 ウィーヴァーは首を振るしかなかった。

 色々な思考がウィーヴァーの頭の中を巡っていく。

 だが、何か引っかかるものがあると頭の片隅に置いておいた。

 ベルが玄関をノックして建物に入ってきた。

「特に異常はない。そっちは?」ウィーヴァーは信じられないという仕草で首を左右に振って資料をベルに見せる。

「こんなバカな、それじゃ一体俺たちは何しにここへ来たんだ。」

 ベルもウィーヴァーと同じ気持ちなのだろうか?

 レオナはベルの額の汗を見逃していなかった。

「ベル、あなたどこにいたの?汗なんか掻いて」

 ベルはレオナを見ないで「外は、熱い」そうとだけ答えた。

「ウィーヴァー、この後のプランは?もしよければ、ここ使ってもいいのよ フッフ」

 レオナの提案を丁重に断った2人は、連絡先を聞いてこの建物を出ることにした。

 レオナに【ルミーナ】の駅まで送ってもらった二人は電車に乗り込み合流地点を目指す。

 ベルは電車の中を見渡して、他に誰もいないのを確認すると「レオナって女、どれ位信用してる?」ウィーヴァーに尋ね「裏庭 から500mくらいのところに死体が埋まってた。手から判断して老人、それも男の死体だと思う。胡散臭くないか?あの女。」

 ウィーヴァーは「あの家に置いてあったフクロウの置物が気になる。一旦仕切りなおして、あの家を徹底的に調べたい。」

 そう言って、交代で仮眠をとった。

 電車に揺られてから4時間くらい経過して合流地点のある【ノアン】という駅に着いた。

 「ルミーナよりは栄えてるな」ベルはそう言うと北へ20分程歩いていると仲間のジープを見つけて「ふっー、やっとか」と呟いた。

 ベージュ色をした4階建てのアパートの4階の1部屋にノックをせずに入っていった。


 「遅かったな。収穫は?」

 ニッコリ微笑むゴディアの声にリビングに集まってくる仲間たち。

「ふっー、散々だ。」そう口を開いたのはウィヴァーだった。

 ウィーヴァーとベルは今日あったことを仲間たちに詳しく説明した。

 話を聞いたアデルは「そもそもこの作戦、アプリシャス一人を捕まえたところで何が変わるんだ。AAAの遺伝子があの男一人で断たれるとは到底思わないが、今回の情報源、俺たちが徹底的に調べるしかなさそうだな。」

「レオナは頭の切れる女だ、簡単にはいかないぜ」ウィーヴァーはそう言って一つのプランをみんなに伝えた。


 明け方 08/17/2043 

 バッツは顔を突っつかれていることに気が付き目を開く

「うっうっ、ここはどこだ?」

 そう言って上半身起き上がるとずぶ濡れで下半身はまだ水に浸かっていることに気付き、慌てて立ち上がる。

「チキショー、そうだ、俺は奴らに追われて崖から落ちたんだ。川か。どれくらい下って来たんだ。クソッ、鞄が無いクソッ。」

 一人ぼやいて辺りを見渡してみても森と川しか映らない。バッツは森へ入っていくことにした。

「靴も片方ないっ」そう言って履いてるほうの靴を脱ぎ捨てびしょ濡れの靴下を脱ぎ裸足で森の中へと走り出した。

「イテッ、イテッ」慣れるまでは痛いのはわかっていた。

 だから我慢して走る。でも痛い。

 バッツは暗い森の中を川沿いに急いだ。


06:30 08/16/2043 


 

 交代で仮眠していたウィーヴァーは起床するとリビングに行き、朝食を摂る。

 TVをつけると他愛もないニュースに目をやり、イッカ武装ゲリラがまた奇襲攻撃を仕掛けているとの情報を聞いて、背後から「やつらの掃討作戦もおもしろそうだったな」とゴディア伍長が声を掛けて来た。

 続けて「なぁウィーヴァー、今回の作戦は何か心に引っかかる物が多い気がしてならない。確証はないけどな。すまん、弱音を吐いた」そう言ってゴディアも朝食を摂る。

 ウィーヴァーも同じ気持ちだった。

 資料に書かれていた情報が正しければ、俺たちはAAAの指示に従う体のいい兵士でしかないということだ。

 次のターゲットはタフマック元大統領との面会だったから尚更だった。

 ウィーヴァーはみんな起きて来たのを見て、「レオナを泳がせておくのはあまりいい気がしない。ちょっとプランを変更して、 俺はレオナに張り付く。ゴディア達はタフマック元大統領と接触してくれ。くれぐれも慎重に。頼んだぞ。」

 そう言って、レオナに連絡を取った。

 レオナには「次のターゲットに会う際、一緒に来てほしい。君にとっても有益な情報源だ」と伝えた。

 レオナは了承した。


 11:20 08/16/2043 

 ウィーヴァーとベルとハイドは【ルミーナ】のレオナの家の西約5km地点までジープで移動。

 ウィーバーを途中下車させて別れた。

 ベルとハイドに家宅捜索を任せ、ウィーヴァーは一人レオナと落ち合うポイントへと電車で向かう。

 待ち合わせは【ルミーナ】駅に13:00だった。

 レオナの家の方角へと移動する2人は背後に2台黒い車が付いてくるのを知り、急遽別ルートを行くことに。

 そのうちの1台はついてくる。

 嫌な予感がした。

 暫く走っていくと目の前に踏切がありカンカン鳴り響く音。

 到達する前に踏切は閉まってしまった。

 他に道はなく、仕方なく踏切の10m程手前で停止する。

 後ろの車はゆっくり後ろに止まると後部座席から覆面をした黒ずくめの者が左右に分かれて飛び出してきた。

 一体どれほどの時間が経っただろうか?

 マシンガンを連射されてベルたちの乗った車は穴だらけになっていた。

 反撃の隙を与えない手際の良さ、ベルはIMA1の工作員だなと感づいた。

 マシンガンを構えた覆面者が2人を車から降ろした。

 さらに黒い車から2人降りてきて素早くボディーチェックを済ますと、背の低い覆面者が「1人で十分だ」といい、乾いた銃声が耳元で一発響いた。

 ベルは「ハイドッ」と声を出したのだが、脳天を撃たれた仲間が今目の前で殺されたことを悟った。

 そして背の低い覆面者が女ということも分かった。

 すぐさま縛り上げられたベルは目隠しをされ、黒い車に乗せられた。

 急旋回して黒い車は走ってゆく。

 ベルは首に何か注射され意識を失った。


 アパートに残されたゴディア、ビル、メディ、ザック、アデルの5人は10:30にアパートを出発していた。

 メディとザックを後方に配置し、残る3人でタフマック元大統領と接触を図ることに。

 接触場所はカルパッツ島にあるオルキータという小さな町を指定されていた。

 オルンダ港についた5人はフェリーのチケットを購入する。

「ここから10時間程は船の上だな。」アデルはぼやいた。

 ザックが「ちっ、出港は20:00だぜ。どうする?とりあえず飯だな」

 そう言ってレストランを探した。


 ウィーバーはレオナの車に乗っていた。

「私を誘うなんて…ウフフ」

 レオナは言葉を止めウィーヴァーの顔を見る。

 ウィーヴァーも満更じゃなさそうな顔でレオナを見つめる。

 レオナが車を脇に止めると、2人は一気に燃え上がった。


 ウィーバーは車の外にでて煙草に火をつけた。

 油断した。

 銃が抜かれていることに気付いた時にはレオナはこっちに銃を向けていた。

「地面に伏せなさい」レオナの指示に従う。

 後ろ手に手錠をされたウィーヴァーは立ち上がると車のトランクに押し込まれた。

 3時間程走っただろうか?

 車は止まり、近くにもう一台車が止まる音が聞こえる。

 暫くしてレオナが若そうな女と話している。

 内容は聞き取れない。

 いきなりトランクが開くと眩しさあまり目を閉じる。

 見たことない若い黒服の女が「ハエ共がブンブン嗅ぎまわってるようね」と嘲笑った。

 若い女は顎をしゃくると覆面者達がウィーヴァーを担ぎ上げ建物内へと運ぶ。

 柱にがっしりと縛り付けられ目隠しをされたウィーヴァーに「IMA1の恐ろしさを教えてあげるわ。軍曹 フフッ もう一匹も ここに連れてきて」と指示を出す。

 レオナは「マギー、あなたって子は」とだけ言うと背を向けて部屋から出て行った。


19:40 08/16/2043 


 

「やれやれ、もうすぐ出航だな。長旅だゆっくり休もう。ウィーヴァー達は今頃よろしくヤッてる頃か?チキショー。そのレオナって女俺にも回してくんねーかな」

「冗談はよせ。メディ。奴らだって任務だ。」

「かてーな相変わらず、ゴディは。楽しくいこーぜなあ、アデル」

「お前と一緒にされたくないな。まあかといってゴディアみたいなのも御免だ!アハハッ」

19:55


 

「おい、見てくれ、なんだあれは?」

「黒ずくめの黒い車が1,2,3…8台も駆け込み乗船?」

「なんかおかしくないか?」

 ゴディア「全員銃は持ってるな?よし、ビル地下2階、メディ地下1階、ザックは3階へアデルは2階を頼む。別れよう。無茶はするな Let's Go!」

(ボーーーーー。ゴォォー)


「マギー・アンドレワ、恐ろしい女ね。20歳にしてIMA1の幹部になるなんて。私なんて20歳の頃、普通の大学生よ。」

「あらレオナ、あなたほど優秀な人材はいないってもっぱらの噂よ。どこでどう鍛えてるのか知りたいわ。」

 レオナとマギーは向かい合った席で紅茶を飲んでいた。

「軍曹だけど、私にくれないかしら。とても遊び甲斐がありそう。もう一人の男をあなたにあげるわ」

「駄目よ。マギー、あれは私の獲物。私の手で拷問するわ。」

「フンッ、そう。なら仕方ない。まあせいぜい頑張ってと言っておくわ」

 レオナも「フンッ 強がりね。そのメッキじゃすぐはがれるわよ。オホホッ」

 2人は地下へと戻ると早速捕まえた捕虜を拷問にかかる。

 ウィーヴァーとベルは別々の部屋で全裸の状態で特殊な椅子に括られていた。

 そう椅子とは言ったもので、手を横一文字に縛り椅子に座ったような恰好で股を大きく開いて足先と地面が縛られている格好だ。

 マギーとレオナはほぼ同時に拷問しだした。

 何のためらいもなく男の股間を木の棒で殴りつける。

 むしろ嬉しそうに男の弱点を痛めつける。

 容赦ない攻撃は1分は続いた。

 ウィーバーもベルも顔面紅潮、悶え苦しむ。

 マギーもレオナも2人が気絶しないよう上手く手を止める。

 インターバル1分。これを5R続けた。

 これで落ちない男はいないと2人は知っていた。

 気絶寸前の2人は水を掛けられてから尋ねられる。

「どこでタフマックと接触するのかしら?軍曹」

 レオナはウィーバーの表情を一切見逃さない。

 ウィーバーは答えなかった。

 それが何を意味するのかを分かったうえで。

 レオナは嬉しそうに「あら、そう」とだけ言って棒を振る。


 隣の部屋ではベルも同じく5Rを終え、悶え苦しんでいた。

「あぐっ、ありえねー。こんなの… うっうっ」半泣きで「なんでも言う。頼むからもうやめてくれ ぐぅっ」

 マギーは「精鋭部隊も聞いてあきれるわね。今までこの刑に処した男どもに比べて一番早く落ちたわよ ふふっ アソコも小さ いと肝っ玉もちっちゃいのね。 おーほっほっほっー」落ちた男の尊厳をも奪い手中に収めたマギーはベルの股間を優しく擦りな がら、「さぁ、言ってごらんなさい」と耳元でささやいた。


 レオナは「あら、随分タフね。逝っちゃったわ」と言って、頭を下げたウィーヴァーに止めを刺そうとナイフを取りに行くと、 マギーが部屋に入ってきた。

「落ちたわよ。こっちの獲物はあっさり喋ってくれて手ごたえなかったわ ふふっ。」そう言ってウィーヴァーに目をやると、「相当なタフだったのね。この男。あー私の手で逝かせてあげたかったわ クックックッ」


 ベルから聴取した情報を元に接触ポイントへと移動を開始するマギー。



11:45 


 

 フェリーの中は静かだった。

「状況は。」ゴディアは無線を使って仲間に連絡する。

 ビル「今のところ異状なし」

 メディ「こっちも異状ない」

 ザック「こっちは静かすぎるくらいだ」

 アデル「異状なし」


00:00 08/17/2043 


 

 ドォーーーーーン

 ゴディア「なんだ、この揺れは?…下からだ」

 ビル「ガー 地下2階船尾で爆発、爆発だ。」

 ゴディア「全員地下2階だ。急げ!」

「ラジャ」

 海水がなだれこむ。

 ゴォーーーーッ

「爆発以外動きはない。何かおかしい。」

「ベル、大丈夫か?」メディが駆け寄る。

 ゴディアも合流「奴らもう居ないのか?」

 ビル「クソッ 車に爆弾積んで乗船しやがったんだ。人影がまったくない」

 アデル「来る途中不審者らしきものは見なかった。嵌められたのか?」

 ゴディア「ツー ザック、応答しろ。今どこだ … 返事がない ザック、応答しろ」

 首を横に振るベル。

「2手に分かれよう。メディとアデルは3階の様子を見てきてくれ。俺とベルは操舵室へ向かう。連絡はコマめに。 Go Go!」


3階…

 

「船長これはどういうことだ?」

「悪いな軍人さん。この船はもうじき沈む。我々に従ってくれ。」

 銃を持った船員たちがザックを取り囲む。

「その無線機をよこせ。銃も奪え。抵抗はするなよ軍人さん」

 ザックは手を後ろ手に拘束され一室へと入れられた。

「ツー 3階に到着。ザックは今のところ見当たらない。どうぞ」

「こっちはもうすぐ操舵室だ。…ついたぞ。ん、誰もいない。(船長、船長ー)おかしい。一旦3階で合流しよう。」

 船員「大丈夫ですかー。早く非難してください。こっちです。ボートへ。さぁ、急いで。」

 2人の船員が大声を放つ。

 メディとアデルは「俺たちは大丈夫です。それより被害状況は?」

 さらに船員達が3人程集まってきた。

 後ろに隠れた船員がメディの腹に一発銃を撃つ。

 メディは「うっ、くそっ」体をくの字にのけぞらせ、アデルが銃を手に取る。

 船員達は一斉に射撃を開始し束の間銃撃戦が始まる。

 身を低くしてアデルの反撃に3人の船員が床に倒れる。


「銃声だ」ゴディアはビルに急ごうと合図を送る。


 アデルは脳天を撃ち抜かれた。

 船員はあたりを見回してその場を出ようと入り口に向かうと銃を持ったゴディアとビルに射殺された。

「クソーッ アデル、アデル。」ゴディアは頭から血を流すアデルに駆け寄り「チキショーッ」と叫んだ。

 ベルはメディの元へ行き傷の手当てを開始する。

「うっうっ、奴らいきなりだったから…」「それ以上喋るなメディ」

「うっうっ、(痙攣がはじまる)」

「メディー、メディー。しっかりしろーメディー。目を閉じるな。メディー」


 ゴディアは「脱出ルートを確保してくれ。俺はザックを捜索する。生きてるかわからんが…無事を祈る。」そういって銃を握りしめて部屋を後にした。


01:23


 

 船体は傾いて30分は持たないだろうと思た。

 3階を5分で探し回ったゴディアは2階へ降りる階段のところに船員を見つけ背後から近づきナイフで首を掻ききる。

(船員にしては身が細い。からだは締まってるが肉体労働者とは思えない体つきだ)

 ゴディアはそう思って「こいつらは、船員じゃない。工作員か…IMA1…」その時だった2階の1室から船員がザックを抱えて出て来た。

 ゴディアは銃で1人撃ち、ザックを抱えている男の足を狙って撃った。

 ザックが床に落ちる。

 猿ぐつわをされてモゴモゴ言っているザックの縄を解き、「事態は深刻だ」とだけ伝え、男の傷口にナイフを刺して情報を吐かせる。

 男はIMA1の工作員と認め、タフマック元大統領の暗殺計画を吐露した。

 ゴディアは「レオナって女を知ってるかと尋ねた」

「あいつはAAAのアプリシャスの娘だ」と答えた。

 そう言って最後の力を振り絞って反撃に出ようとした男にザックが一撃を加え、ゴディアは射殺した。

「とんだシナリオだな…ウィーヴァー達が危ない」

「まずは脱出だ」ゴディアはザックに言い「船長が俺を拉致した。まだそこらへんにいるかもしれない。気をつけろ」と二人は動き出した。


 2階デッキで運よくビルを見つけ、状況を聞く。

 船体はさらに傾きもうじき沈没するのは目に見えていた。

 ビルに脱出ルートを尋ねるゴディアは首を振るビルを見て「飛び込め。幸運を祈る。」そう言ってビル、ザックの順に肩をたたき、最後に自ら海へと飛び込んだ。


 船から離れるように3人まとまって浮遊していた木材にしがみつく。

 それから何分たっだろうか、船は大きく爆発した。



【タフマック元大統領】


 

08:13 08/17/2043 


 

 1台の小型飛行機がカルパッツ島に着陸した。

 そこから黒服の男たちがゾロゾロ出てきて最後にマギーは降りて来た。

「フフッ ついにこの日が来たのね。誰も私たちには逆らえない。それを今から照明してあげるわ。 はっはっはっ」

「ポイントに先回りして皆を配置せよ。失敗は許されない。わかったわね。」

 大男の一人が「ラジャッ」と敬礼し黒服の男たちは消えていった。


 その頃、とあるモーテルの一室にひしめき合うように身を潜める男が居た。

 屈強な男達に囲われて佇むその男の名はゲーキン・アルフレッド・タフマック。

 元ナメリール大国大統領とは言え、鍛え上げられた体は逞しくまるで彫刻のような筋肉に包まれている。

 今まで一度たりとも物怖じしないその精神は大統領時代絶大な人気を誇っていたのだが、汚職が原因で現役を退いたのは周知の沙汰。

 しかし、これは無実でAAAに逆らったが故の出来事だということはあまり知られていない。

 この国の諜報機関IMA1にまんまと嵌められた。

 暗殺されなかったのが不幸中の幸いでタフマックは体制を整えて秘密裡にAAA壊滅作戦を指揮していた。

 ボビー大佐の持つ最重要国家機密の情報を確実にタフマックの元へ運べる兵が現れたら作戦を実行してくれとの約束を実現すべ く、ボビー大佐はウィーヴァー達に託した。

 が、今グアンモータ陸軍基地にてボビー大佐は軍法会議にかけられていた。

 ボビーはもはや逃れることの出来ない死刑が待っていると悟っていた。

 全ては仕組まれた出来レースだった。

 弁護士の居ない尋問が10時間続き、ボビーは認めた。

「お前たち(AAA)に未来はない。観念するんだな。」

「何を言っているんだ大佐、気でも狂ったか?我々はナメリール大国陸軍だぞ。ふはははははぁー」

 そう言って裁判長を務める男は「ボビー大佐を死刑に処する。即実行であることを付け加える。これにて結審。」

 ボビー大佐は二人の大男に腕を掴まれて退廷していった。

 結審から10分もたたず、ボビー大佐は5人の憲兵隊によって射殺された。


「行こう」そう口をひらいたのはタフマックだった。

 側近の男達がゾロゾロと部屋から出ていく。

 あまり目立たたないように、泥で汚れた車に乗り込み、情報を得る為に待ち合わせ場所へと移動する。



10:30 08/17/2043 


 

 マギーの部隊は工作兵を配備完了。

 目標と落ち合うホテルの部屋をスナイパーが覗き見る。

「11:11。この時間を絶対逃すんじゃないよ。」

 ターゲットに接触する工作員に念を押す。


10:55


 

 タフマック一行がホテルに入った。

 チェックインを済ました一行は側近が先に部屋へと入り入念にチェックをする。

 はたからではタフマック元大統領とは到底わからない恰好で部屋へと入る。

「窓際には近づかないで」と一人が言われ壁際の椅子に腰を掛ける。

11:09


 

 息を潜めるタフマック一行はマギー達の存在に気付いている気配はない。

 じっと時計を見つめるタフマック。

(カチッ)11:11

 ドアをノックする音が響く。

 タフマックは頷きドアを開ける。

 そこに立っていたのはウィーヴァー軍曹とレオナだった。


 マギーの送った工作員はドアが開くと同時に爆発が起き、吹っ飛んできた扉に押しつぶされていた。

 マギーは一瞬何が起きたかわからなかった。

「状況ー」と叫び工作員達があたふためいていると四方八方を取り囲まれていることに気が付いた。

「マギー・アンドレワ、両手を挙げて投降しなさい。」

 声の主はエリーザ少佐だった。

 特殊部隊を引き連れてのこの茶番劇を面白くないと思ったマギーは手を空に翳し指を振った。

 マギー率いる工作員部隊と特殊部隊との間で激しい銃撃戦が始まった。


「ナメリール大国陸軍のウィーヴァー軍曹です!タフマック元大統領閣下…なんとお呼びすればいいですか?」

 タフマックはニッコリ微笑み「タフマックでよい。よく来てくれた、ミスター・ウィーヴァー感謝する」

 ウィーヴァーを迎えたタフマックは「そちらのお嬢さんは?誰じゃ」

 タフマック側近達に緊張が走る。

 ウィーヴァは「彼女は…」と言いかけてレオナが「レオナ・アダム・アプリシャス IMA1の工作員でアバン・アダム・アプ リシャスの実の娘です。」

 タフマックは「ほう、これは驚いた。とんだ大物が現れたもんだ」そう言ってどういういきさつなのかウィーヴァーの顔をじっと見つめる。

 ウィーヴァーは暫く沈黙して重い口を開いた。

「レオナを逮捕し、証言台に立たせます。父親アプリシャスの悪事を今まで集めた証拠とともにAAAを壊滅に導く。彼女はその為の重要な鍵です。」

「自主するということかね?実の娘が…父親を売ってまで身を捧げる意味は?」

 レオナは「私もこれまで散々悪事を働いて来ました。国の為とはいえ、AAAの思い描くシナリオではこの世界は破滅でしかない。その実態が実の父親だなんて悪夢でしかない。私は自死も覚悟しました。でもそれじゃ何も変わりはしない。私はIMA1の 手足となってその裏で多くの証拠を集めました。でもそれだけじゃ足りない事に気付いていた…ただ死ぬくらいならこの私自身が 証人となってこの闇を暴きます。AAAの歴史にピリオドを打てるのは私とタフマック元大統領あなたです。」

「ふむ、君の言いたいことはよくわかった。だがしかし… ミスター・ウィーヴァー、本当にこれでいいのかね?彼女は極刑は免れない。不名誉を背負って死んでいくのは目に見えているぞ。」

「私もレオナに尋ねましたが、彼女の覚悟は変わりません。ならばいっそ、彼女の意思を汲んであげるのがせめてもの救いではないでしょうか?」

 レオナはこれまで集めた証拠をタフマックに手渡す。

「私を逮捕してください。正義の名の元に フフ」

「ボス!ミンツァ少佐から連絡が入りました。特殊部隊がIMA1工作員を制圧し、マギー・アンドレアを生け捕りにしたと。」

「よくやってくれた。諸君レオナを保護してくれ。城へ戻る。ミスター・ウィーヴァー、君も来てくれ。」

 タフマック一行は飛行場へと急ぐ。


17:30 08/17/2043 


 

 夕日に照らされて、軍輸送機が1台空港に止まっている。

 そのまわりを武装した兵士が取り囲む、物々しい光景がレオナには美しかった。


18:00 08/17/2043 


 

「ボス!準備完了。出発します。」

 タフマックは頷き、証拠資料に目を通す。

 一人の側近がタフマックに耳打ちする。

 顔色を悪くしたタフマックがウィーヴァーに近づき、「すまない、私の力が及ばず…ボビー大佐が軍法会議にかけられ先ほど…処刑された。」

 そっとウィーヴァーの肩を叩くとその場から離れる。

「そんな…ボビー大佐が…うっうっ…」ウィーヴァーは泣き崩れる。


20:15 08/17/2043 


 

 機長からアナウンスが流れる。

「まもなくプリシェス島上空です。ん、今日はやけに島が明るいぞ…見えますか?」

 機長は島上空を旋回してみんなが見れるように配慮してくれた。

 突如レーダーに異変が映る(ピコーン、ピコーン…)「どうした副操縦士!」

 副操縦士「突如レーダーに反応あり、背後に戦闘機が2台、ロックオンされてます。」

 機長「メーデー、メーデー…」

「なんということだ!ジーザス!!!」


(シューーーー、ドッカーーーーーン)





【地上では】


 

 アプリシャス「諸君、あれが我が国を裏切った男の最後の姿です」

 女優のキャーメル・ジュウィア「わぁー、綺麗 グフフッ 今日という日に相応しい花火ね あーはっはっ…」

「我々に歯向かうものは誰であろうと容赦せん!!!」

「あーはっはっ…」 「あーはっはっ…」 「あーはっはっ…」 「あーはっはっ…」











 …次にこの世界を救おうとするのは、キミかもしれない…












 この地球を救えるのは君かもしれない…

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闇ヲ喰ラウ・・・ @takeda44

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