第19話 雪はいつか溶けて消えてしまう。

人は俺をと呼ぶ。と。金も、家柄も、人脈も、資産も、妻も、召使も。全て。


だから皆俺のことを羨み、嫉妬し、妬む。

ある人は俺に生まれてきたらと溢し、ある人は俺を不平等の象徴だと叫ぶ。


だが、。人格も、自由も、時間も、身体も、権利も、本当の友人も、本当に愛する女性も。


俺は道具として生まれてきた。親父の道具、家の道具、五十嵐グループの道具。家を継ぐために生まれて、家を継ぐために育てられる。友人や妻も知らない間にできていて。愛し合うことを強制される。


周囲の人間は皆、俺のことをおだてる。だけどちっともうれしくない。こいつらには俺が見えていない。


俺は普通の家に生まれたかった。

生まれながらに全てを持つ男なんて冗談だ。

俺は生まれながらに何も持っていない。


俺の持っているものは、全て親父のものであり、家のものであり、五十嵐グループのものだ。


俺は生まれながらに親父に全てを奪われた。


何も持っていない者。


だ。


俺は厭になって逃げだした。


親父の暴力から逃げ出したわけじゃない。


俺に持たさせられていた全てから逃げ出したかったんだ。



家を出た俺は何も持っていない。


残ったのは少しばかりの知識と無数の背中の傷だけだ。

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