第17話 雨は雪に気づかない。
なにやら奇妙な男が、家の壁に寄りかかって座っている。
様子からして雨宿りのようだが、危険な香りを感じざるを得ない。
それにしても小汚い男だ。年齢を考慮するならば、少年といったほうが、正しいかもしれない。
だが、その少年の瞳は奪う者の目。
誰かを犠牲にしてでも生き延びようとする者の目だ。
実に野性的で、野蛮である。何か別の表現をするならば、『羅生門』における下人が近しいだろう。
現代において、最も原初の人間の姿に近しい者を挙げるとするならばこの少年である。
「……何か用か。」
彼は警戒心をむき出しにして、僕に訊ねてきた。
もはや眼力による攻撃と表現しても差し支えないだろう。
彼は僕に警戒しているのか?
僕が彼に原因を与えたのだろうか。僕はただ自分の家に帰ってきただけだ。まぁ多少様子を確認したとはいえ、別に危害を加えたわけじゃない。
不審者に対する警戒という線も考えられなくはないが、それにしては程度があまりに過剰である。
彼が何に対して攻撃を警告しているのか分からなかったが、おそらく僕ではないだろう。
面倒ごとに巻き込まれるのは御免だ。
君主危うきに近寄らず。さっさと家に入ろう。
彼はドアの前に座り込んでいたため、図らずとも私の帰宅を阻止していた。
とりあえず彼に退いてもらおう。
外でやる分には、家の前で決闘を行ってもらっても構わない。家に損害が出ない程度であれば。
「そこ。どいてくれない?」
「は?」
不意を突かれたような顔をした。
割と間抜けな表情だ。
相当交感神経が優位だったのだろう。あまりに戦闘に対する集中力が高まっていたため、声を掛けたことで、糸が切れたようにその集中が切れてしまったのか。
彼には申し訳ないことをした。僕の背後の何者かとの決闘前だというのに。
やってしまったことは仕方ない。僕はとにかく早く家に入りたいだけなのだ。
良心の呵責に苛まれるとはいえ、僕に非はない。僕は続けてこう言った。
「そこ、僕の家だから。」
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