第12話 雪解けて霙となる

日向のことは、最初はただの馬鹿女かと思ったが、話してみたら本当にいい奴だった。所謂善人ってやつだ。


彼女の事をなんて呼べばいいか分からなかった。自分のことをファーストネームで呼ぶ人間を見たことがなかったからだ。

奇妙だが、なにか理由があるに違いない。彼女が俺のことを幸仁君と呼ぶように俺は彼女の事を日向と呼んだ。


彼女は様々なことを話してくれた。


学校のこと。

高橋とやらに憧れてること。

実は孤独なこと。


だから俺も様々なことを話した。


家出したこと。

ゴミを漁って生き延びてきたこと。

俺も孤独なこと。


彼女の話は聴くだけでも興味深いことが多かった。学校はそんなに面白い場所なのか。彼女自身は大変だというが、色々な背景を持つ人間が一堂に会して同じ課題を行うというのは少し興味深い。

ただ、人間関係が面倒なことはどこの社会でも同様なようだ。


家でのことは分からない。別に聞いちゃいけない訳ではないだろうが、彼女自身も話そうとしなかった。だから聞かないことにした。それよりも彼女の楽しい話をずっと聞いていたかったから。


彼女の頭の悪そうな印象は変わっていない。正直語彙力も高いとは言えないし、とても賢いとは言えないが、ただの馬鹿では。気遣いだとかや察しの良さだとか。この上ない知性を感じる。



ただ、話してみると何も知らないようだ。計算も遅い。学校で学問を修めているのではないのか?学校では様々な教師が生徒たちにそれぞれ専門分野について教鞭をとるようだが、実際のところ大した専門性はないらしい。学問というよりも運動、人間関係など幅広い意味で学ぶ場所のようだ。


彼女は俺の人生の中で未知の要素を沢山持っている人間だった。


なんて奴だ。


気がついたら日は暮れていた。彼女は家に帰らなければならない時間のようだ。

本当はもう少し彼女と話していたかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る