第6話 寒空には雪が降る
寒い。
心が、なんて文学的なことを言うつもりはない。物理的にだ。
腹も減った。とにかく飯が食いたい。死んでしまいそうだ。
家を出てからどれくらいが経っただろう。
予想はしていたが、だれも助けてくれない。未成年だから仕事にも就けない。
今まではゴミ箱を漁ってなんとか過ごしてきたが、そろそろ限界になってきた。
自分が思っているよりも人間は他人に厳しい。
自分と遠い人間に関しては特にだ。だんだんと遠ざかって行っていずれ見えなくなる。
俺のことを大多数の人間は見てはくれない。いやむしろ見えていないんだろう。
見ないように。決して見ないように。あの人たちは関係ない。別の世界の住人だ。いや、彼らは人ではない。そう教えられてきたから。直接的に言われたわけじゃあないが、社会がそうしてきた。自分たちまで傷つかないように。そして、次は私たちの番だと言わんばかりに。
声をかけられるとしたら、ヤンキーか縄張りを注意してくるホームレスだけだ。
警察にも見つかりかけたが、捕まるわけにはいかない。奴らは俺が未成年というだけで、家に送り返すだろう。
事情も知らないくせに。
あの家に帰るのなら死んだほうがマシだ。
この国の人間は本当の意味で困ることを知らない。困難に陥る前に自力でなんとかできるからだ。親や友人に助けてもらったり、事前に保険に掛けていたりする。
だから何かあっても何とかなる。
人は生まれながらにして何かを持っている。
安全な環境だったり、金だったり、家柄だったり。
では、何も持っていない者はどうすればよいのか。
生まれながらに失っている者はどうすればよいのか。
意識が遠のいてきた。
寒い。
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