第18話 旅立ちへのカウントダウン(2)

 ニィナに警告しようかとも迷った。

 野盗はおそらく奴隷商に雇われた連中で、ニィナのことを狙っている。

 けれど、そのことを知っているのは俺だけ。


 前に狙われた時に俺が勝手に体を操って退治してしまったからだ。

 だからニィナはきっと気付かない。


 というより、俺がニィナに知ってほしくないと思っている。


 ――こうして、ニィナの体を操って偵察に行くくらいには。


「『夜は冷えるなー』」


 深夜。

 みんな寝静まり、人の気配が薄れる時間帯に街を抜け出し、森の中を歩いていた。

 《隠匿》を使って姿を隠し、《外敵察知》を頼りにアジトを突き止めるべく進んでいく。


 とりあえず、明日に討伐しに行くことは止められない。

 なら夜中にこっそりとアジトに突撃して、数を減らしてしまおうと思ったのだ。


「『うんうん、我ながらいい作戦』」


 さて、どうしてくれようか。

 魔術で燃やしてもいいし、《念力》で捻り潰してもい。


 幸い、前と違って俺には手札が多く揃っている。

 ニィナを付け狙う輩に容赦なんてあるわけがない。



 ――と、そうこうしているうちにアジトが近くなってきていることを感じる。


 見張りの野盗が木の上に潜んでおり、《隠匿》がなければとっくに見つかっていただろう。


 弓を持っており、いつでも射撃できるように矢もつがえている。


 このままバレないように潜入してもいいけれど、こういうのを残しておくと後々面倒になりそうだなーと思い、俺は右手を掲げて、


「『よ――っと』」


 《念力》を発動させ、口を塞いで首を締め上げる。

 潰すことには変わりないけれど、どうせなら手間はかからないほうがいい。

 そのまま倒れて木の上から落ちないように支えつつ、ゴキリと首の骨が折れた。


 ゆっくりと木の幹にもたれさせて、何事もなかったかのように偽装しておく。


 ふぅ、と一息ついて周囲を軽く探るも、見張りが殺されたことがバレていないようでとても静かなもので……《念力》の使い勝手の良さを確認する。


 《念力》が自分の手足以上に動かしやすくて助かった。

 手足よりも可動範囲が広いし、何より相手には見えないところがいい。


 ……だからこそ、あの老人の祭司に見破られたことが恐ろしくてたまらないのだけども。

 まあ、今はきちんと対策もしているし、大丈夫だと思いたい。


「『さて……』」


 いつまでもここでじっと考え事をしているわけにはいかない。

 一人殺ってしまったからには、ここからは速攻でアジトを殲滅することにしよう。


 何より、あんまり夜更かしするとニィナの体に良くないからね。



***



 そんな感じで《念力》で目につく見張りの野盗たちを殺して周り……ついにアジトにたどり着いた。

 とりあえず見つからないように茂みに隠れて様子を伺うことに。


 水場の近くにテントを張り、火を囲っている野盗たち。


 夜も深く横になり眠っている者が多いが、それでも起きて火の管理をしている者もいる。


 警戒はしているけれど、見張りが倒されたことはバレていないらしい。


 つまり……


「『“■ ■炎よ”――!』」


 襲い放題というわけである。


「うわっ!? 急に火が!?」


 《魔術》を使い続けたおかげか、詠唱を省略できるようになり……そして、できることの幅が広がった。

 前は対象を燃やすことしかできなかったけれど、今は炎そのものをある程度なら操作できる。


「『行け!』」


 焚き火を大きく燃え上がらせ近くにいるものへと鞭のように伸ばす。


「ぎゃああああ!!」

「て、敵襲ー! 起きろ、てめぇら!」


 炎の鞭で縛り上げ、そのまま火に焼かれる野盗の悲鳴と共に野盗たちは一気に警戒体制へと移行する。


「ちくしょう、見張りは何やって――うわっ、く、来るなぁ!」


 愚痴を吐く野盗は迫る炎から逃げようと背を向けるけれど、何かに躓いたのか地面に倒れ炎の鞭に捕まる。


 逃げようとする者の足を《念力》で捕まえつつ、《魔術》で炎の鞭を操るのは、ちょっと大変だ。


 同時に複数の力を使うのは初めてだから、何人かは逃してしまったけれど……まあ、数は減らせたし、混乱状態に持ち込めたからいっか。


「『よっと』」


 俺は茂みから出ると、腰にかけてあった棍棒を手に取り……


「『さーて、やるぞー』」


 混乱している野盗のアジトに突撃するのだった。

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