第16話 心の底から伝わる確かな信頼

「……まあ、こんなところかな」


 “マイルーム”で俺の強化も終わり、体感一時間は経ったと思う。

 それくらい経てばさすがに風呂も終わっていると思いたい。

 それくらい悩みに悩んだ。


 ニィナの力になるのに必要そうなものを吟味していたら、それくらい経ってしまった。


 まあ、何はともあれこれでもっとニィナの力になることができる。


「《隠匿》……うん、まあ、不必要に疑われることを避けるためには必要なことだけども」


 WPを消費することで、情報などを遮断することができる『知識』。

 これで俺の存在や《念力》を使ってバレるなんてことは避けられるはず。

 魔術で消費するWPを使うのは勿体ない気がするけど、ニィナのレベルが上がったお陰でAPもWPも増えているから問題ない。


 ないんだけど……


「不可視の攻撃に、情報を隠す力……どんどん能力が犯罪じみてるなあ」


 まあいいや、ニィナのためだし。


 そろそろ戻ろう。

 あんまり長い間、目を離していると不安になる。


 薄目でモニターに画面を出して、問題なさそうなことを確認してから俺はニィナに“憑依”するのだった。





『ただいまー』

「あ、おかえりなさい神様」


 ニィナは風呂上りで濡れた髪のまま街の通りを歩いていた。

 ちゃんと乾かさないと風邪とか引くのではないかと心配になるけれど、よく考えれば俺がそうならないようにと加護を寝る前に使いまくっていたから、大丈夫かと口に出す前に気付く。


 ニィナの目で夕暮れに照らされた街並みを眺める。

 背の低いニィナの視点だとすべてのものが大きく見えて、彼女がまだ小さい存在なのだと改めて思う。


『今日の夜ご飯は何だろうな』

「……なんでも。おいしければいいよ」


 そう答えるニィナは至って真面目な感情だった。

 まともな食事というだけで、嬉しいのだとニィナは心の底から思っている。


『……そっか』


 彼女が思う幸せの基準はとても低く、誰もが当たり前に享受しているもので……それがいつか、普通に願えればいいと哀れに同情してしまう。


「あ、でも……」

『ん? どうした』

「神様がくれるハンバーガー、食べたい……かも」

『……ははっ』


 ちょっと恥ずかしそうに、それでも後ろめたい感情は一つも感じさせないかわいいおねだりをしてきた。


 ニィナは誰かに物を頼むときはいつも不安そうなのに、俺にだけはそう思っていない。心が読めるからこそ分かる嬉しい事実。


 ……それは、確かな俺への信頼だった。


『いいよ。帰ったら、あとで食べよう』

「! うんっ」


 とても嬉しそうに返事をするニィナに俺は、先ほど同情してしまった自分が恥ずかしくなる。


 普通のことを当たり前に願う――そんなことは、意外と早く叶うかもしれないと、ニィナのおねだりを聴きながら嬉しく思うのだった。

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