第14話 すれ違う常識
「あ、ありがとう。俺はアレク……このパーティーのリーダーをしてる……ます」
「敬語なんていらねえよ。俺はカヴェル、同じくリーダーだ」
「は、はい!」
「……で、お前らは何で森狼に手を出したんだ? 危険なのは教わったはずだが」
「それは――」
ひとまずあらかた片付いて、周囲に魔物がいなくなった。
カヴェル以外のパーティーメンバーは魔物から魔石と呼ばれる体内器官を回収しながら、様子を見守っている。
『魔物って、魔石を抜くと解けて消えるんだっけ?』
「うん……講習だと、そう教わった」
すぐには消えないらしいけど、魔石を抜いてしばらくすると、魔力に分解されて世界に還元されるらしい。
その前に解体して、処置を施せば素材としても利用できるのだとか。
はぇー、便利だなー。
とか思いながら、魔物の血とか臓物の感触に耐え続ける。
生温い……。
「終わった」
全部でだいたい、30匹ほど。
両手が血まみれなのが気になるので、こっそり《浄化の加護》で綺麗にする。
魔物を全部解体し終えるころにはカヴェルとアレクの話し合い……もとい、お説教は終了しており、このまま一緒に行動することになった。
というより、新人でパーティーを組んだほうが経験になると、少し距離を置いて見守るというスタンスに切り替えたようで、現在はアレクたちのパーティーと行動を共にしている。
同じ新人同士、交流を持っておくのも勉強だとカヴェルは言うけれど……それは難しい。
「あんた、強いんだな」
「…………別に」
話しかけてくるアレクに素っ気ないニィナだけれど、これは仕方ないと思う。
もともと、人に対して不信気味で、カヴェルと違って仲良くなる理由もない。
「俺なんて何もできなかったのに……お前はすごいなぁ。俺もそれくらい動けるようになりたいぜ」
「わたし、神官なんだけど」
「関係ねえよ。すごいもんはすごいんだよ」
ちなみに、神官はパーティーに二人も必要ないと棍棒を手に持って、前衛の真似事をしている。
……まあ、できなくはないけどさぁ。
そんな感じで、何度も話しかけられては簡素な返事をするということを繰り返していると、魔物を狩人が見つけてきた。
「……どうするアレク? はぐれた猪の魔物っぽかったけど」
「やる。このままで引き下がれねーよ」
アレクは狩人の言葉に頷いて、少し考え込む。
「……まず、俺とこいつで猪に近づくから弓で援護。魔術は温存する」
というわけで、再び魔物と戦うことになる。
簡潔に作戦を共有して、狩人の案内で魔物に近づいていく。
「いた。あそこ」
「おう、じゃあ行くぞ。作戦通りに――って、おい!」
「…………なに」
「何じゃねえよ。一緒に行くんだよ」
「じゃあ、早く」
待ちきれない、といった様子でニィナはそわそわと魔物から目を離さない。
さっきの戦闘もそうだったけど、戦うのが楽しいのだろう。
獣人の本能なのか、それとも本人の好みなのか。
「――もう、待てない」
どちらにしろ、足踏み揃えて戦うということをニィナは選ばなかった。
足りないステータスを《
「やっ!」
迷わず頭を狙い、一撃で仕留めた。
遅れてやってきたアレクたちが呆然とニィナのことを見ている。
「なんで、一人で突っ込んだんだ?」
「なんでって……逃がす前に仕留めないと」
そう言いながら解体ナイフを取り出して、猪の体から魔石を取り出す。
手を血まみれにしながら、淡々と魔石を取り出し、懐にしまう。
「そうじゃないだろ……同じパーティーなんだから、連携しないと」
「連携って、なに? わたし一人で出来ることだったんだよ」
ニィナは意味が分からないと、心の底から思っている。
実際、俺もそう思う。
あそこで二人でゆっくり近づいていたら、気付かれて逃げられていた可能性が高い。
なら、軽くて素早いニィナが一気に近づいて仕留めるほうが理にかなっている。
むしろ、アレクが声をかけて留まった時点で仮の仲間に配慮していると思う。
何より、ニィナには協力するという概念が存在しない。
さっきの森狼の時も、カヴェルたちが処理できなかったものを相手にしているだけで連携しているとはいえない。
常に一人で、何とかしないといけなかったニィナにとって、何者にも頼り切ることをしないようにするのは当たり前のことだった。
誰も味方してくれなかった村では、少なくともそうしないと生きていけない。
――そんな異なる常識を持ったニィナに、アレクは何かを察したのか、一歩、心の距離が遠ざかるのを感じる。
「……ねえ、わたしは何か間違っているの?」
ニィナはアレクという個人をまるで見ていない。
ただ、それだけの話。
「まあ、その辺にしようや」
「カヴェルさん……」
剣呑になりかけた空気をカヴェルが近づいてきて、たしなめられる。
ポン、とアレクの肩に手を置いて、優しく語り掛けた。
「アレク、お前はパーティーのリーダーとして間違ったことは言ってねえよ。ただ、仲間になった相手に自分の常識を押し付けるのはよくねえな」
「っ! けど!」
「落ち着け。型に嵌った考え方をするなってだけだ。ニィナに非がないとは言わねえよ」
「……っ」
「仲間はうまく使うもんだ。固まった常識で相手を測って、こうするべきだと思考を放棄したら……パーティーは崩壊するぞ」
「…………はい」
さて、とカヴェルはニィナのほうに振り返る。
「ニィナ。確かにお前ひとりで何とかなるなら、それは最適解だな」
「うん」
「実際、アレクの指示は適切とは言えないな。あの場面なら、全員に指示を出すまでもなく、前衛で近づいて倒すべきだ」
「……うん」
「だが、そう考えられるほどの経験値をこいつらは持っていないし、お互いを理解しきれていない。お前がアレクを信用していないようにな」
「そうなの?」
不思議そうにニィナは首を傾げる。
……そっか。人を信じられない自分が他とは違うことを自覚しているから、それ以外の人は人を信じられるものだと思っているのか。
そこまでは、心が分かる俺でも分からない。
疑問にすら思わないことだったから。
「そうさ。お前ほどじゃないが、人ってのは簡単に人を信じられない。時間や共通の体験が必要になる」
「そうなんだ」
「ああ。……だからまあ、パーティーを組むときは自分に何ができて、相手は何ができるのかをよく知れ。別に仲良くなる必要はない」
「……そっか」
するとニィナの心にほんの少しの申し訳なさと後悔が湧いていた。
「ごめん」
「いや……俺も、悪かった」
ニィナは素直にアレクに謝り、アレクもまたニィナに謝るのだった。
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