第13話 新人はやらかすもの
技能講習から翌日。
今日は、カヴェルたちについていき魔物を倒しに森に来ていた。
技能講習も終わり、ようやく冒険者見習いとして活動できる! ……と、じっとしているのがストレスだったのか、やる気に満ちているニィナ。
耳をピンと張って、わずかな気配も見逃さないように神経を研ぎ澄ましている。
「おいおい、そんなに緊張してると転ぶぞ?」
そんなニィナを見てカヴェルが肩の力を抜くように声をかけた。
「うん。……でも」
やる気になっているところに水を差されて、ニィナはカヴェルのことを不服そうに見つめる。
「まあ気持ちは分かるぜ。だけど、お前は神官だ。神官は仲間の傷を癒すのが仕事だ。そのお前が緊張してたら、仲間は安心できないぜ?」
「……うん」
「よし! んじゃ、クルトが戻ってきたら奥に進むぞ」
狩人であるクルトが偵察から戻ってきた。
「……この先に森狼がいるけど、どうするよリーダー?」
「今日は新人もいるからな。……もうちょい手頃なのを狙おう」
「了解」
冒険者という職業は思っていたよりも、魔物と戦わない。
なぜなら目的の魔物以外はあまり狙わないから。
こう、物語だと戦闘狂よろしくと、積極的に魔物を狩って報酬をもらうみたいなイメージだったから驚いた。
というより、魔物だって生きているんだから、生活に害を及ぼさない限り、狙わないのが基本らしい。
「んじゃ、また行ってくるよ……っと」
そういってクルトは森の奥に消えていく。
いったい何をどうやって魔物を探しているのか分からないけど、みんなが頼りにしていることは分かる。
一応、俺も《外敵察知》で気配を探ることはできるけど、明確にこちらを狙っていないと反応しないという欠点があるのだ。
《生命感知》とか《魔力感知》みたいなものもあったんだけど、ポイントが高いんじゃ……。
まあ、意識しなくても狙われていれば位置が分かるって、いい所もあるんだけど。
「――リーダー!!」
そんなことを考えていたら、慌てた様子でクルトが戻ってきた。
息を切らしながら、カヴェルを呼ぶ。
何だろう、と肩の力が抜けて自然体になっていたニィナに再び緊張が走る。
「どうした?」
「新人が森狼に手ぇ出しやがった!」
「なんだと!?」
いつも落ち着いていたリーダーの大声が森に響く。
それだけで余程の事態だと分かる。
「すぐに向かうぞ!」
***
「うわぁ――!!」
新人冒険者のアレクはピンチに陥っていた。
技能講習を終えて、同じ新人を集めて即席パーティーを組み、森に挑む。
剣士、狩人、神官、魔術士の四人パーティー。
理想とするメンバーで幸先がいいと、仲間たちと喜んだ。
冒険者になる時期が重なることはまれであるため、こうしてパーティーを組めるのは運がいい。
これなら多少、危険な相手にもできるとリーダーになったアレクは調子づいた。
実際、きちんと講習を受けて卒業した冒険者は余程の相手ではない限り、初陣で失敗するということはほぼない。
……そう、余程のことがない限り。
「お、お前ら! 逃げろ!」
アレクはせめて仲間だけはと、剣を構えて「グルル」と唸る森狼を相手にする。
新人とはいえ、即席だけども、パーティーのリーダーには仲間を守らなくちゃいけない。
その義務がある。
「くそ、くそ、くそぉ……!」
うまく行くと思っていた。
『剣士ギルド』でも成績は優秀だったし、田舎にいたころは襲ってきた魔物を撃退したことだってあったのに。
だから、ここら辺で一番厄介な『森狼』っていう魔物だって相手にできると思っていた。
……でも、現実は、背後から神官がやられて、索敵に出ていた狩人は怪我をして。
魔術士は森狼に囲まれて、魔術を使う余裕がない。
神官が自分と狩人の傷を泣きながら癒している。
「か、かかてこぉい!」
震えて上ずった声で、森狼に立ち向かう。
鍛えた足で地面を蹴り、一気に近づくと頭をかち割る。
森狼は単体では、そんなに脅威にならない。
新人のへなちょこな剣でも倒せる。
……だが。
「グラァ!」
「くっ!」
隙だらけの背後を狙い他の森狼が飛び掛ってきた。
幸い、革鎧に守られたが、それでもバランスを崩されてしまう。
――森狼はその名の通り、森に生息する狼の魔物である。
その特性は、数を活かした物量攻め。
仲間意識が強く、群れ同士で連携し、敵対する者の戦い方を学習、共有する。
そうしていつしか森狼は傷を癒す神官から倒すことを覚え、偵察にくる狩人を待ち伏せするようになり、崩れた連携の隙をついて囲って戦うことを学んだ。
だから新人は安易に手を出すべきではないと、先輩冒険者たちは語る。
「――オラァ!」
圧し掛かられ、今にも喉を食い破ろうとする森狼を蹴飛ばし、そのまま首を切断するカヴェル。
倒れているアレクを一瞥すると、そのまま森狼たちに剣を向けた。
「ちっ、数が多いなあ!」
単身で突っ込んでいき、一撃で仕留めていく。
アレクはただ、茫然とすることしかできなかった。
「――ふっ!」
森の奥から時折、矢が飛んできてカヴェルの死角にいた森狼の足止めをしている。
クルトが潜伏し、弓で援護していた。
「……ふん」
気が付けば、退路にいた森狼たちも焼け焦げて倒れており、その中心には身の丈ほどの大きな杖を持ったミルカがいた。
「大丈夫ですか? ――《
ズタボロだった狩人の傷を癒すミスティ。
神官の傷も同時に癒し、あっという間に全快している。
……そして。
「――《
見習い神官服を着たニィナが光を纏いながら、駆けつけてきた。
***
『気を付けろよ? 危なくなったら交代してもいいから』
「うん。でも、大丈夫」
自身にバフをかけながら、森狼に突っ込んでいくニィナに俺は胸がドキドキしっぱなしだった。
なにせ、ニィナが戦闘するのはこれが初だからだ。
しかもその相手が散々、危ないって言われてる森狼。
心配するなというが無理だ。
「やっ!」
ニィナは手に持った棍棒を振り回して森狼たちをボコしていく。
剣とか弓を扱ったことがないため、適当に扱っても丈夫な棍棒がニィナに向いているとカヴェルに言われて用意したものだ。
《
なんていうか……戦えてうれしそう?
――とまあ、異様にやる気になっているニィナの頑張りもあって、十分くらいでその場にいた森狼を全滅させることができたのだった。
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